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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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43.紫色の左


 御門悠乃が遠くから左目を紫色に光らせ、彈達を視ていた。


「うぅ……」

 智樹が未だにこちらに敵意を向けているのがわかる。

「ん、二人とも下がってて」

「ラプトルっ! 友達なんですっ、あまり傷つけないで……」

「わかってるよ」

 さっきの蹴り、まともに入った。かなり痛いはずだけど、痛みを感じてないのか。なら、危険ではあるけど、意識を飛ばすしかないな。

 じりじりと詰め寄る彈。智樹は警戒しつつも彈に襲いかかる。

「うあぁっ!」

 彈はその攻撃をいとも簡単に避け、カウンターのハイキックを合わせる。当たるか当たらないかギリギリのところで威力を殺し、顎先を軽く蹴り抜く。

 脳を揺らされ、意識を断絶。智樹はからくり人形の糸が切れたように膝から崩れ落ちる。すかさず彈は体と頭を抱え、ゆっくりと刺激しないよう地面に横たわせた。

「智樹っ!」

 彈は倒れた智樹の瞼を開け、“光”の様子を見る。

「……うん、光ってない。多分大丈夫」


「はあっ!? あんな正確に気絶させることなんて出来んの!? チッ、“あいつ”が認めただけはあるってこと……?」

 ならより大きな壁にぶつかった時どうするのか、男として試させてもらうわよ。その上で……判断する。

 あそこにはあと二人いる。あの女の子にしようかしら。


 ほっと胸を撫で下ろす誠と光子。

「彼に最近何か変なところは……?」


 帰り道を送って欲しいと言い出した光子。こんなこともあった後だ、彈もすぐに了承した。一先ずは智樹の体をしばらく安静にしなければならない。失神したばかりの人体は非常にデリケートだ。

 三人は誠が教えた近くの公園に来ていた。智樹をベンチに寝かせている。

「何もなかったと思うんだけどなあ」

 光子は全く心当たりの無いことに未だ戸惑っている。

「実は、気がかりなことなら確かにありました」

 誠は真偽のほどは分からない、話半分で聞いてほしいと前置いた。

「……御門悠乃って知ってます?」

「えっと……誰だっけ?」

 メディア関係の情報にすっかり疎くなってしまった彈は光子に助けを求める。

「確かあ、モデルよね? 最近やたら人気の」

「です。俺、智樹に誘われてその人のイベントに行ったんですよ」

 光子が何とも言えない表情で誠を見ている。

「べ、別に好きなわけじゃ無いですよっ!?」

「何も言ってないじゃん」

「それで、続きは?」彈が答えを急く。

「あ、えと……それでサイン会に当たったからって智樹にお願いされて付き添ったんですけど、その時、彼女は俺の顔に見覚えがあって」

 退屈そうに聞いている光子とは裏腹に彈は真剣な表情だ。

「智樹は他人の空似なんて言ってたけど今は分かります。御門悠乃は俺の事を知っています。それがどういう意味か分かりますよね?」

「……」

 誠は彈に耳の通信機を尋ねる。

「それ、お仲間がいるんですよね? 御門悠乃について調べたり、とかお願い出来ませんか」

 彈は少し微笑み、親指を立てる。

「ああ、亜莉紗? 聞いてたとおりだ。分かる?」

 亜莉紗は話と同時進行で御門悠乃の事を調べていた。

「”表”の記事が多すぎて中々プライベートなところにありつけないわね……でもまあ、さっきの話、その男の子はその後何かされたの?」

 彈は亜莉紗に聞かれたことをそのまま伝える。

「……そういえば、俺が智樹の手を取ってその場から離れたとき、少しだけ様子がおかしかったような」

 予めその時に何かの能力を仕掛けていたってことか?

 厄介。人を操り人形にする力?

 何かトリガーがある筈。話を聞いている限り、体が接触した形跡は無い。つまり遠距離から発動させることの出来る力。無条件はあり得ない。もしくは拡張者やカイアス・エヴォルソンのように出来ない範囲、制限があるか。じゃなければ直接拡張者にかけていた筈だ。

「……!」亜莉紗は彈に誠へある事を聞くよう伝える。

「美波野君。その、伊勢君を連れて会場を離れるとき、伊勢君はどんな体勢だった?」

 誠は彈に聞かれたことをしばらく考える。

「……御門悠乃との別れを惜しんでか、最後まで彼女の方を向き、感謝の言葉を述べていました」

 亜莉紗は一つの仮説を立てる。

「坊や、彼女は超人。恐らくそれは間違いないわ。幼少期の彼女はちらほらと事件やいざこざを起こしてる。そこで、その”人を操る”力。発動の条件は恐らく、視線の一致、もしくは会話。いや、それかその両方」

「……なるほど。二人とも。確証は無いが、彼女の力の条件は目。もしくは声、だ」

 人を操る力。それが本当ならかなり手強い。

 今回のように人を気絶させることは、決して簡単ではない。体の自由を奪うには気絶・失神させることが一番だが、人を昏倒させることは容易ではない。ましてや体の方に危険が伴う。後遺症が出る可能性だってある。

 何より、ただ操られているだけの人を殴りたくはない。

「そんなん、防ぎようある? しかも相手は有名芸能人だし……」

 光子の意見も無理はない。今現在こちらにいるのは、戦いもまともに出来ない超人と戦いの出来るただの人間だけだ。

「目を閉じるか耳栓をするしか無いなっ」

 彈が冗談で言っているのか本気なのかは二人には分からなかった。


 遠くから目を尖らせている悠乃。

 姿は見えても声が聞き取りづらい。何をしゃべってる? こんな状況で出ていけば、あの三人は警戒するだろうけど、一人は絶対操れる。ラプトルを操れればかなりの戦力。でもそれでは意味がない。遠距離では勝ち目のない拡張者を操れれば一番。女子高生でも良いな、拡張者は手を出せないみたいだし。

 運良く誰か通ってくれればいいんだけど……この公園人通り少なすぎでしょ。

「はあ。あたしが、試してやるか……」


 なんて事はない。今日はもう解散するだけだと思っていた。

 誠は、彈の背後の人影に愕然とする。三人の手の触れる距離にいるのにもかかわらず、気配すら感じなかった。

「———よォ」

 彈は即座に振り向き戦闘態勢を取る。

「!?」

「大層な顔ぶれが二人も揃ってるじゃあねえか。なあ、ヒーロー?」

「亜莉紗っ」

「ツイてるなあ」

 彈は二人に離れるよう指示する。

「し、鷸水薊瞰……!」

 誠の言葉に彈は怪訝な表情を見せる。誠だけでなく光子も見覚えがあるようだった。

「知ってるのか?」

「はい……ビーターと呼ばれている、”殺人犯”です」

 亜莉紗から連絡が入る。ビーター。確かに聞いた名だ。記憶が確かなら、赤坂で、強化スーツを着たペスティサイドの信徒達を相手取った男の筈だ。

「坊や、そいつ、弥岳黎一の同時多発テロのときに赤坂の虐殺を止めた男よ」

 やはりか。

 なら、本当に単純な悪人なのだろうか。この子達もあの時の事情を知らないのなら怯えるのも無理はない。まあ、人殺しに変わりは無いが、それを言ってしまえば自分とて……。

「うーん……ポルターガイスト君はこの近くに住んでるから今はいいか。で……ラァプトル、遊んでくれや……」

 薊瞰の拳が飛んできた。

(しまった、以前遭ったというだけでも、ここを警戒しておくべきだった……!)

 誠の反省も、今はそんな時間などない。光子を連れて少し後方に下がる。彈は薊瞰の攻撃を避けながら徐々に智樹のベンチから離れていく。

「オラァ! もっと来いやァ!」

 大振り。いわゆるケンカ殺法。彈に当たろう道理が無かった。

 だが、その一撃一撃の危険さは充分に伝わる。幾度となく強敵と相対した彈だからこそ分かる。これは人を殺めた事のある拳。明確に“殺意”を乗せた拳だ。

 事情が変わった。

 “倒しても”、いいらしい。攻撃を避けた間を縫ってカウンターを繰り出していく。

「ぐっ……!」

 彈の拳や蹴りは決して弱いものではない。ましてや普段なら一撃で敵を昏倒させることさえ出来るもの。それをくらっても薊瞰には怯む様子が見当たらない。

 油断していたわけでは無いが、動揺していたのだろう。手首を掴まれる彈。

「掴ーまーえーたっ! お前、トンファー野郎と似てるな。強さも戦い方もっ!」

 引き剥がせない握力。薊瞰渾身の一撃が彈の腹部を貫く。

「うっ……!」

 まるでハンマーで叩かれているかのようだ。形容のし難い鈍痛に襲われる。

 トンファー野郎? こんな奴の目につけてる奴でトンファー使いなんで“あの人”くらいだろう。

 痛む暇も与えぬように蹴り、殴り、頭突きの連撃が飛んでくる。

「ラプトルっ!」「ラプトル様っ!!」

 淡い視界、耳鳴りのする中、誠と光子の声が聞こえる。ここで見っともない姿は見せられない。

 薊瞰の大振りの右を、体を仰け反らし避け、地面に片手をつき、後頭部へ蹴りを放つ。うたれた薊瞰は思わず蹌踉めく。


「何なのあいつ!? あいつのせいでメチャクチャ! 私がラプトルを試さないと意味が無いのに!」

 悠乃は憤る。考えの足りない人間ではなかったが、状況が悪かった。すでに彼女の頭にはラプトルを見極めることでいっぱいになっていた。


 薊瞰は降参せず、気絶もせず、ただ闘争を求める。彈はこんな、まるで“水を打つような”感覚は初めての経験であった。

「飽くまでヤろうぜ……善玉(ベビーフェイス)!!」


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