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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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38.敗北


「なんであんたが居るのかは聞かないでおく」

 奏屋は彈に向かって軽蔑の眼差しを向ける。

「敵には逃げられ、仲間は重傷。やっぱりあんたじゃ力不足だ。……ついてくるなりは好きにしろ」

 斉藤、燦護が運ばれる中、ジンゴメン達は上へ進む。後に続き、彈も行動を共にした。


 二十六階から上は警備がより強くなっていたが、奏屋達ジンゴメンとラプトルの猛攻を止めることは出来ない。

 最上階を目指す一行。“あの時”と似ている。

 彈は先頭を走る奏屋を見て、友に戦うジンゴメンの姿を見て、仲間とは心強いものなんだ。そう感じた。

 最上階である四十階に着いた。固唾を呑み、重い扉を開く。そこには由眼家吉質とカイアス・エヴォルソンが居た。

「多勢に無勢。この人数の俺ら相手に勝てるなんて思ってないよなあ?」

 奏屋が言う。

「アサルトライフルなんか構えて。そんなのは通用しない。もっとも、大砲やミサイルを生み出したところで、タネが割れてる今、俺達の脅威ではない」

 カイアスが機関銃を構える様子はない。由眼家が嘲るように奏屋に言う。

「こいつの能力は創造じゃない。“移動”だ。“自分が触れたことのある物”を手の内に出現させる力。まあ自分がギリギリ“持てる”範囲の物しか出現は出来ないがな。つまり、死ぬほど武器のストックがあるだけの男だ。これでも充分脅威だろうが、持ち物の中に核爆弾なんてものは無いから安心しろ」

「安心、ねえ……」鑑も思わず冷や汗をかく。

 由眼家の背後からガスマスクを被った二人の巨漢が現れる。一人は鉄の棍棒を、一人は三節棍をその手に握っている。どちらも只者ではない。

「彼らは他の雑兵とはわけが違うぞ?」

 由眼家は椅子から立ち上がり両手を広げる。

「さあ、やれ。壊、崩」

 開戦の合図は突然訪れた。

 二人の男の攻撃はSATの銃撃を全て弾き、腕っ節だけで壁に大きな穴を開けるほどの威力だった。明らかに殺しの世界でも指折りの達人であることは明白。その二人をサポートするようにカイアスの銃弾が飛んでくる。由眼家は一人、コニャックを注ぎ、悠々と口に運ぶ。

 棍棒の男と奏屋・鑑・沢渡。三節棍の男と彈。そしてそれを囲むように放たれるカイアスとSATの弾丸。彈は不規則な動きの攻撃を避けながらヒットアンドアウェーで相手の体力を削る。飛び交う弾丸に意識を割きながら戦うのは簡単なことではなかった。お互いが手間取ってはいるが、SATは牽制及び制圧としての銃撃。それに対し、カイアスは殺意を持った銃撃。圧倒出来る相手にも苦戦を強いられた。

 揉みくちゃになっている中、由眼家が大声で叫ぶ。

「それまで!」

 由眼家はSATの一人を人質に取っていた。ヘルメットは外され、こめかみに銃を突きつけられている。彈達の動きが止まる。同時に二人の大男もその動きを止めた。

「このままではやられるのは目に見えてるからな。正義の味方ってやつは大変だなあ? 人質一人取るだけで手を出せなくなるんだから」

 膠着状態。

「ここまで攻められて追い込まれたのは初めてだ。俺の“ブツ”は全部やるよ。あれだけあればお前らは一生楽しめるぞ?」

「ふざけるな」

 奏屋がマスク越しに怒りを露わにする。

「俺は生き延びることを一番に考えてるからな。資産に固執はしてない。……カイアス、行くぞ」

「逃げる算段でも?」

 由眼家が不敵に微笑み、カイアスの腰を指さす。

「もうそろそろだ……」

 すると、カイアスのスマホから着信が鳴る。

 こんな時に一体誰が? 今の様子だと由眼家は知っていたのか? これが秘策?

 非通知と表示されている電話に出るや否や、不安そうだったカイアスの顔が明るくなる。

「時間ぴったしだな」由眼家も満足そうにその光景を眺める。

「そういうことか。……え? 力を使う? オイオイ、声だけで大丈夫なのか? それに電波越し、“国外”だ」

 彈や奏屋達には電話の相手が誰なのか想像もつかなかった。

「ああ……うん。わかったよ。……俺らは巻き込んでくれるなよ?」

 カイアスは黙ってスマホを自らの前に差し出し、スピーカーをオンにする。警戒する彈。

「———『Be fear』———」

 その場に居る、“カイアス以外の全員”が地面に膝をつく。

「なんだっこれ……!」

 理解が追いつかない。

 彈は立ちあがろうと踏ん張るが足に力が入らない。いや、”力を入れようと思えなくなっていた”。そんな感覚に近かった。

 全員が同じ状況。心臓が圧迫されているような、胸が締め付けられているような。体中に走る寒気に抗えずにいた。

 そしてそれは、由眼家吉質も同じだった。由眼家がカイアスの方を向き、電話の相手に呼びかける。

「な、何故俺も対象にしている!? 力のコントロールも出来なくなったのか!? 馬鹿め!」

 カイアスすらも困惑している中、電話の主が答える。

「お前は知り過ぎた。関わり過ぎた。……用済みということだ」

「何だと……!?」

「カイアス」

 カイアスは一瞬、躊躇う様子を見せ、ため息を吐き、由眼家の頭を撃ち抜いた。

 落ちて転がる薬莢の音。

「仲間、だろ……?」

 奏屋の問いに答えることなくカイアスはスマートフォンを彈達の方に向ける。

「自己紹介がまだたったな。私はアイギャレット・シェルシャルル。そこの黒人の上司のようなものだ。今回はお騒がせをした。だが、仕返しのようなことは考えないで欲しい。まあ力を強めにかけたからな、する気も起きないだろうが」

 流暢な日本語で警告をする。カイアスはスピーカーを切ってスマートフォンを耳に近づける。

「屋上のヘリポートに使いを出してある。すぐに戻ってこい。そいつらはそのまま捨ておけ。お前の処遇は、こちらで決める」

 項垂れた様子で話を聞く。

「……Got it」

 カイアスはゆっくりと彈達の間を歩き扉へ向かう。

「多分、もうしばらく動けないと思うぜ」

 誰一人としてその言葉の真偽を疑う者は居なかった。


 屋上にカイアスが着くとヘリと共に一人、スーツの男が立っていた。プロペラの轟音と強風が、カイアスと男の服を靡かせる。

「これだけか?」大声でカイアスが訊たずねる。

 男は答える。

「密航の便は別に用意してあります。アイギャレットがお待ちです」

 カイアスは男と共にヘリに乗り込む。

 男は言う。

「……その前に一つ、寄りたいところが」


 結局、麻薬王・由眼家吉質は死亡。カイアス・エヴォルソンは捕らえることが出来ず、作戦は終了。

 事態は一先ずの収束を迎えた。


 都内某所。

 一つのカッターを片手に夥しい数の死体の中、返り血に染まる一人の男。そこに忍び寄る一人の影。男は振り返る。

「お久しぶりです。ボス」

 男、王前嵩久との対面はシングウジインダストリーの件以来のことであった。

「……生きてたんだね」

「せっかく檻から出てまた殺しを始めるなら、良い環境を提供しますよ?」

「へえ……丁度退屈してたんだよ」

 ソードには徐々に“あの頃”の表情が戻りだしていた。


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