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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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37.檄


「警察まで来てたから、こんなに外が騒がしいのか……この部屋を選んだのは間違いだったか? にしても、こんなに速く見つかるとは思わなかった。せっかくのサプライズビデオが台無しだ。あ、この部分まででも送り届けてやるぜ? ラプトル。お前と、あとそこの警察ちゃんにもな」

 燦護は一目散に斉藤に駆け寄る。作業をしていた北斗は突き飛ばされ、そのままカイアスの後ろに隠れる。

「あら、無視か」

 状況を理解し切れていない様子の彈。

「まだ、途中なのに……どうしてくれるんだよっ」北斗がカイアスに詰め寄る。

 両手の中にハンドガン、コルトガバメントを出し、彈と燦護に銃口を向ける。

「斉藤さん……脈は弱まってるがまだ息はある。『こちら常良! 拉致監禁されていた斉藤文重刑事を発見! 負傷が激しく下肢を欠損しています。このままでは失血死も免れません、いち早く救護班の手配をお願いします!』」

 燦護は通信機能を使って救護を要請。同じくして彈の通信機にも亜莉紗からの呼びかけが入る。

「坊や! しっかりして! とりあえずやることは前と一緒、そこの警察さんと協力してカイアス・エヴォルソンを退けることよ!」

 彈は体に力が入りづらくなっていることにようやく気がついた。

 そんな彈の体を燦護が押し倒す。大きな音の後、彈の後ろの壁には弾痕が残っていた。

「ちっ。余計な真似すんなよな、モブがよぉ!」

「……常良だ。俺は、特殊犯災対処精鋭部隊ジンゴメン隊員、常良燦護だ!」

「訊いてねえよ」

 カイアスの銃弾を避けながら近づき、腹部に蹴りをいれる。鋸を振りかぶる北斗の手を裏拳で振り払う。

「うわっ」

 燦護は息を整え、再度カイアスの方を向く。すると、眼前に現れるはカイアスが投げた手榴弾。

「なっ……!!」

(やはり銃だけでなく何でも出せるのか……!?)

 即座の判断力で、空中で手榴弾を全身で抱えるように包み込む。

 爆音。そして衝撃。

 周りへの爆発の被害は最小限に抑えられた。だが、燦護のスーツ及び本人へのダメージは甚大だった。

「くっ……」

 煙とともに倒れ込む。

「はははっ。そういやお前にも借りがあったな……服の下くらい多少の対策はしてんだよ! これでスカッとしたぜ。っと、こうしちゃいられねえ、お仲間が来る前にっ」

 カイアスは放心状態の彈の元へ行く。

「おい。期待以上の驚愕っぷりだぜ」

「ラ……プトル……何、して、る……。あんたなら、そいつを、やれるはずだ……!」

 しぶといな、と燦護の方に目をやるカイアス。

「俺のせいで……俺と関わりさえしなければ……」

 カイアスの表情を見ればやはりただの腹いせだということは容易に分かった。カイアスが彈の耳から通信機を取り、地面に落とす。そして自らの銃でそれを撃ち抜いた。


「っっ……! ああもうっ! やられたっ。『ダニエル。また新しいの頼むかも』……坊や、大丈夫かしら……ねえ?」

 亜莉紗は近くに擦り寄ってきた愛夏の頬を撫でた。


 カイアスは彈の髪の毛を掴み引き寄せる。

「なんだ? その腑抜けた面は。もっと全力で足掻いてみせろ。それを俺が全力でねじ伏せてこそ意味がある……!」

 彈の力の抜けた様に呆れたカイアスは銃の底で殴る。

「おらァッ!」

「俺はっ、関係のっ、無い斉藤さんをっ、傷つけてしまったっ……!」

 何度もラプトルの顔を殴る。強く振りかぶったカイアスにより、マスクも外れてしまった。

「……そりゃそうだ、ただの人間だよな。ただの人間様が、ヒーローやってるってのはそういうことだろお!?」

 カイアスの殴打を否応なく受け入れる彈。

 勇希、レッド、そして斉藤さん。自分に優しくしてくれる人はみんな傷ついてしまう。

 何もしていなくても苦しみ、行動を起こしても苦しむ。どうすればいい? こんなに悲しいのならもういっそ死んでしまった方が楽なのか?

 悪人は無限に湧いてくる。モノクロームのようにやはり殺すしかないのか。だがこんなところでレッドの想いに背くのか。血だらけの斉藤を朧げな視界で見る。

「ラプトル……! 斉藤さんは、あんたを信用したから手を貸した! あんたを頼ったから協力をしたんだ! ここに来たのだって、きっと流さんから聞いたんじゃないのか!? あんたがここで折れてしまえば、全部無駄になる……!!」

「!」

 悲痛な一人の警察の声は、静かに彈の心へと届いた。

 殴り続けていたカイアスの手首を掴み、その動きを止める。

(ん、なんて力だ……)

「ぐっ……動かねえ。いいねえ、そうこなくちゃあな!」

 カイアスが銃を構えるより速く、彈は両手でカイアスの両耳を叩き、鼓膜を破らん勢いで三半規管を攻撃。

「っっ!」

 隙の出来たカイアスの後頭部を両手で掴み、顔面に思い切り膝蹴りを入れる。

「んぐっ……!」


 時任と胎田はトレーラーの中で指示を出していた。

「いいか。奏屋、鑑、沢渡はいち早く燦護の元へ行け。救護班を守りながら道を切り開くんだ。山下、明石、能登、鈴木はそのまま敵を制圧しつつ前進。館端他残りの隊員は現在地のさらなる捜査及び残党の殲滅。以上。すぐに取り掛かれ!」

 時任はそう言って通信を切る。

「常良……? 常良! 応答しろっ。何があった?」

 時任の呼びかけに応じない燦護。

「……」

 渋い表情の時任を、カメラを監視している胎田が横目で見る。

「……やはり俺も行こう」時任は上の隊服を脱ごうとする。

「駄目だ」

 しかし、その手を胎田に止められてしまう。

「何故だっ。あちらにはカイアス・エヴォルソンもいるんだぞ」

「あんなビルの高所にいてミサイルを撃ったりはしないよ。それに、まだ君の装備は完成していないと言ったろう」

「それなら、隊員用のスーツを使えば良い」

「そういう話ではない。指揮系統だって乱れる。僕には到底無理だし、君が兼任するとしても俯瞰の目が必要になってくる。とにかく、君を行かせるわけにはいかない」

「……」

 時任はその拳を強く握りしめ、燦護に向かって再び何度も通信を試みた。


 今は思考を巡らせるな。体を動かせ。

 顔を覆いながらカイアスが距離を取りショットガンを放つ。しかし当たるわけもなく、視界の外から彈に追撃される。

「常良さんっ、大丈夫ですかっ?」

「なん、とか……。スーツはもう使いものにならないですけどね……」

 防弾チョッキ? 鉄板入りプロテクター? よくわからないがジンゴメンの対策といっても軽装な服の下だけ。顔や腕など露出している部分を狙えば問題無い。

 カイアスは痛みのあまり地面に伏せる。北斗が残りの工具を手に、彈を睨みつけた。

「また、あんなところでずっと過ごすなんて嫌だ……なんで、なんでおもちゃで遊ぶのは許されるのに、人で遊んだらいけないのか分からないよ!」

 彈は哀れんだ表情で北斗を見つめる。

「理由が必要? 僕だって最初は怒ったからめちゃくちゃにした。けど、その次のときは取り返しがつかない事をしたのは学んだ。死んじゃうから駄目? それもいっぱいあそこで勉強した! だから死んじゃわないように工夫してる!」

 彈が一歩、また一歩と北斗に近付いていく。

「来るな! 傷付けることがいけない? それだって大人の人に散々言われたよ……でもしょうがないよ! 抑えられなくなってるんだもん! お前だって人を傷付けてるじゃないかあ!」

 近づいてきた彈に工具を投げつける。だが、そのどれもが躱されてしまう。最後のプライヤとレンチも簡単にキャッチされ、地面に落とされた金属音だけが聞こえる。残ったカッターを手に果敢に立ち向かう北斗。幾度となく腕を振り続ける。

「辛いだろうけど、ごめんね」

 瞬く間にカッターを掴み、北斗の腹部に拳を入れる。

「うっ……」

 力なく倒れる北斗。同時にカイアスが立ち上がるのが見えた。

「またか……またお前に負けるのか……。人は、相手を理解し対話することを美徳とする節があるにもかかわらず、異常者はその適応外ってか? 随分非道いじゃないかっ!!」

 北斗とカイアスが協力関係を結んでいたのは確かだろうが、それほどお互いを知っていたとも深い関係だったとも思えない。カイアスのその言葉には何の重みもなく、彈にはただ薄っぺらい紙のように思えた。

「黙れ」

 彈が凄む。カイアスは機関銃を出現させる。

「俺は生まれたときからこの力があった。つまり、最初から選ばれた存在だったんだよ! ……スラムじゃあなあ、この力は便利に働いたぜえ? 俺に逆らう奴も次第に消えていった。けど、周りは違う。どんなに努力しても地位は変わらないし、力も手に入らない。権力も財力も暴力・武力といった力もな。どいつもこいつも仲良くなった次の日には死んでいったよ。そういった毎日だった。……俺はガキが嫌いだ。ジジイやババアが嫌いだ。自分が幼いから、弱いからと世界に甘やかされているのが当たり前だと思っている。人様は皆平等じゃなけりゃなあ!?」

 息も絶え絶え、カイアスが正気でないのは一目でわかる。初めから正気ではなかったのかもしれない。

 機関銃を彈に向けて放つ。彈は斉藤と燦護、そして北斗に当たらない場所に位置どる。

 前とは違いハンドガンなどでは無い。当然全てを避けることなど不可能。遮蔽物は少なく被弾は免れなかった。新しいスーツに替えてきたものの、彈の体は血だらけになる。それでも、カイアスは殺し切らないように加減しているようだった。

 すると、足音が聞こえてくる。

 第二陣の奏屋ら救護班が到着した瞬間だった。

「これは……!?」

 奏屋は聞いていた斉藤だけでなく、ボロボロの燦護、倒れている青年、そしてラプトルとカイアス。そんな状況に足を止める。

「話は後!」

 鑑が躊躇なくカイアスに突撃、機関銃をものともせず連撃を浴びせる。

「ぐはっ! くっ……!」

 斉藤の元、そして燦護の元へ救護班が駆け寄る。

「ひどい……急いで運び出すぞ!」

 そう言って二人を担架に乗せる。彈は警察に見られないよう、どさくさに紛れて落ちていたマスクを拾い、再び着ける。

 カイアスを取り囲むように彈、奏屋、鑑、沢渡が立っていた。

「観念しろ。仲間を二人もやられてるんだ、俺はお前を殺したいくらいだが、拳骨だけで勘弁してやる」奏屋が睨みを効かせる。

 全員が捕らえようとしたその時、壁から小型のナイフが射出され、奏屋の頭部のマスクを傷つける。彈の頬にも一本の切り傷が出来た。

 間髪を入れず、何本もの矢がカイアスを守るように飛んでくる。部屋中に放送される男の声。

「カイアス、上がってこい」

 その声の主が麻薬王であることは想像に難く無い。

「……俺は人と逆のことだけをしていたい! 全人類の積極的反面教師だッッ!!」

 捨て台詞を最後に、カイアスは北斗を残して上の階へと逃げ果せた。


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