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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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36.リベンジ


 警察と由眼家の部下達の銃撃戦が続いていた。ジンゴメン達は切り込み役として、高い身体能力と硬い装甲を活かしながら攻め込んでいく。

「おらあっ!」

 山下の投げ技が炸裂する。

「背中借りますよっ」

 その流れで山下の背を飛び越え鑑が蹴りを入れる。

「ぐえっ」

 ジンゴメンがこれだけの人数揃うと、いくら武装していようと相手になるものは少なかった。


 由眼家は部下と警察が交戦している監視カメラの映像をゆっくりと眺めていた。

「カイアス……問題児だとは分かっていたが、ここまで余計なことをしてくれるとは。アイギャレットに文句を言わなければな」

 右手に握られたウォッカの入ったグラスに罅が入る。


「また会いましたね」彈が言う。

 高い階層になるにつれて警備には完全武装の腕利きを充てていたはずだが。パラサイトキラーは彈の足元を見る。

「傷の治りが随分と早いんだな」

「おかげさまで」

(あれから一週間も立っていない。余程有能な医者でも居るのか。いや、おそらく本人の回復力も異常だ。ヒーローと言われているくらいだからな)

 膠着状態の二人は互いに一斉に走り出す。

 パラサイトキラーの飛び後ろ蹴りをスライディングで避ける彈。振り返りながらお互いの拳を繰り出す。拳が当たる前に初動を止める。前腕、肘、膝を狙い、二人の手捌きがどんどん勢いを増していく。

 彈はパラサイトキラーの一瞬の重心移動を見逃さなかった。つま先を踏みつけ、前方によろけたところに膝をぶつける。

「ぐっ……」

 反撃の拳を繰り出すも、彈は避けながらカウンターを合わせる。吹き飛びながら後転で受け身をとるパラサイトキラー。立ち上がったのも束の間、視界が歪み、膝をつく。

「お前……こんなに強かったか?」

 彈は息こそ上がっていたが、以前とは違い、互角以上に戦えていた。

「あの時は脚に加え体力もかなり消耗していた。今回は違う」

 それが虚勢ではないことは結果を見ても明らかだった。

「見誤っていたわけではないのだがな……」

 そう言ってパラサイトキラーは腰のトンファーを構えた。


 カイアスは天井から僅かな埃が落ちてくるのを察知する。

「……?」

 由眼家やパラサイトキラーに隠れて拷問をするために防音設備の整った部屋を選んでしまっていた。それが仇となった。この騒ぎに気づきようがなかったのだ。

「この映像を見れば……くくっ、絶望した顔、悲哀の顔が早く見てえなあ」

 北斗が斉藤を解体する様子を撮影しているカイアス。彈に見せる姿はとびきり凄惨なものにしたいと、残虐性で名を知られていた下々森北斗を見つけ出し、脱獄、そして解体の欲求を満たす獲物を一体提供するという約束で交渉し、拷問を依頼した。


 近くに倒れる部下の一人が持っていたバールを手に応戦する彈。

「やっぱそれを持ってからが本気ってわけか……!」

 金属音が鳴り響く。パラサイトキラーの猛攻は止まることを知らなかった。彈の脇腹にトンファーを回転させ打ちつけ、反対のもう一つのナックルガードで顎を殴り上げる。ガラ空きになった腹部にトンファー先の電極を当て、電流を流す。

「ぐっ、ああああああ!!」

 力を振り絞りバールを振るも、パラサイトキラーの顔を掠める。

「驚いた。一瞬で失神するレベルの電圧だぞ。そのスーツか? にしてもすごいな」

 格闘術だけでなく武器術もいけるのか、と耐久力だけでない彈にパラサイトキラーは感心した。

「そりゃどうも……」

 まずい。

 実のところかなり効いている。人生で初めて受けるタイプの刺激。気を保っているので精一杯だ。あれ以上、威力を上げる事もできるのか? 相手はモノクロームと同等、もしくはそれ以上かも。いや、それでも俺の道を遮るなら排除するだけだ。

「くそっ。こんなとき、レッドなら……」

 彈が小さく呟いたその言葉をパラサイトキラーは聞き逃さなかった。

「……レッド? それは、レッドスプレーのことか?」

 彈はパラサイトキラーの方を見る。

「はっ。お前も“伝説のレッドスプレーさん”に憧れてるクチか? いや、ヒーローなのにそれはおかしくないか?」

「……やっぱり有名人だから知ってるのか?」彈が訊く。

 少し相手の表情の変化が気になった。

「なに、少し古い仲というだけだ」

(レッドの知り合い!?)

 もしかすると、話の通じる相手かもしれない。

 思い返せば、これだけの実力があったのに警察を“殺す”ような気配はなかった。それに、仲間の奴らと違い、銃やナイフといった明らかに殺傷能力の高い武器を持ってもいない。

「れ、レッドの友人なら、ここを通して下さい! 知り合いの刑事が囚われてるんです! ここにいる、カイアス・エヴォルソンに」

 彈は事情を説明し、必死に訴える。

「……」

「あなたは無駄な殺しはしない、違いますか!?」

 パラサイトキラーは構えを解き、両手を下げる。臨戦体勢を解く。

「これは仕事だ。俺の雇い主はこのビルの所有者。外部からの侵入者は何人(なんぴと)たりともそのままにしてはおけん」

「そんな……」

「俺は護衛、まあ用心棒のようなものだ。この仕事は信用が第一。それを反故にするような真似は絶対に出来ない。そうやって生きてきた。……ふう。レッド、あいつは今どこで何をしている?」

 パラサイトキラーの質問に言葉を詰まらせる彈。彼がレッドと親しい仲だったのなら知る権利はある。

「あたしは知らないわよっ」亜莉紗は面識が無いようだった。いや、ただ素っ気ないだけかもしれない。

 沈黙の末、弾が口を開く。

「レッドは……死んだよ」



「辞める?」

 パラサイトキラーが聞き返す。

「前々から言ってたろ? 出来れば殺しはしたくないって。言い訳にはしたくないが、育った環境が環境だっただけに大人になるまでは特に“仕事”に疑問を持たなかったからな。とっくに感覚がおかしくなっちまってたんだ。……命の価値は平等だ。けど、やっぱり人一人よりは、二人の方が命の質量は重い。一日でも早く辞めれるならそれに越したことはねえよ」

 レッドの決心は固く、パラサイトキラーもそれを止めるようなことはなかった。

「殺しをしないお前には関係の無い話か。ははっ」

「……なら何故、今までは辞めなかった?」

「俺もこの世界に生きてるからよ。急にそんなこと言い出したら消されるか、そうでなくても狙われるだろ? まあ、ようやく俺の名前にも箔がついてきたからな。今、手を出す奴はいないだろう。俺、強いし」

 今までも殺しをしているときのレッドは辛そうな眼をしていた。

 それを知っていた。

「なるほど……まあ、もし面倒があるようなら、その時は喜んで手を貸してやるよ」

「ほんとか!? キラー!」

「ああ、俺とお前の仲だ……五百万でいいぞ」

 レッドはパラサイトキラーの背中を叩く。

「おい。ったく、現金な奴だな」

「破格だろう」



 パラサイトキラーの瞳が微かに動いたように見えた。

「俺は、彼に戦い方を教わった」

「……そうか」

 あいつ、自分が稼業から身を引く代わりに後釜としての抑止力を育てたというわけか。それほど、買っていた、見込みのある人間ということなのか。

「なんにせよ、俺は俺の役割を全うするだけだ」

 パラサイトキラーは再度、トンファーを構える。それに応じ、彈もバールを強く握る。

「くそっ、結局こうなるのかよ」

 お互いの武器が激しく火花を散らせた。

 俺とここまでやり合う奴はそうはいない。それに随分と若い。格闘だけなら負けるかもな。……あの眼。確かにあいつによく似ている。先程までの殺気に溢れた瞳ではない。レッドの知り合いと知った途端に甘さが垣間見える眼になった。やはり、若い。

 一度、背を向け、身を引く彈。追ってくるパラサイトキラーの攻撃を壁宙で避け、上空からバールを叩き込む。

「ぐっ……!」

 蹌踉めくパラサイトキラー。彈は身を屈め、懐に飛び込む。そのまま相手の顎目掛けて後ろ回し蹴りでトドメを刺す。

「見事だ———」

 パラサイトキラーは意識を失い、倒れた。

「……」

「さっ。坊や、ぼさっとしてる時間は無いわよ。それらしいところは何点か見つけたから、今から言う部屋を全部探していきなさい!」

(少し、手が緩んだように見えたのは気のせいか)

 彈は倒れたパラサイトキラーをそのままに、走り出す。

「了解。」


 切り込みを買って出た燦護と奏屋はすでに二十階まで上がってきていた。

「四十階建てだったよな? ようやく半分か」

 全員を掃討する必要があるため一つ一つの階層を地道に周る。鑑、山下、沢渡、館端といった増援も後に続く。戦闘を繰り広げる中、厳重な警備の部屋を見つけた。燦護が敵の銃を全身に受けながら突進する。

「相変わらずむちゃくちゃだな」

「硬い装甲だからってなんでも防げるわけじゃないんだぞ」

 仲間も燦護のそのがむしゃらさには慣れないようだ。そのまま扉をこじ開ける。中には一面の薬が広がっていた。

「!」

 段ボールにぎゅうぎゅうに詰められた粉の入った袋。水タバコから、恐らくシンナーの入ったような袋。ざっと数十種類もの麻薬が保管されていた。一目見ただけでは専門家でもなければ正確なところは分からないが。

「これ、額にしたらとんでもないぞ……数百億は下らないんじゃないか……!?」

「いや、それ以上だ」

 奏屋の驚きに沢渡が付け足す。

「これが、この一部屋だけならいいが……」

 懸念する様子を見せる館端。

「なんですか、これは!」SATの面々も驚きを隠せない。

「流石は麻薬王、か……」

 部屋内に隠れていた男達が襲いかかる。男達は周りを傷つけないようにか、四肢に手甲や脛当てを付け格闘で戦う。ジンゴメンの全員が、階を上がるごとに敵の強さが増しているのを感じた。

 山下が燦護の方を見る。

「ほら元気っ子。お前は切り込み隊長だろ? こんなとこで油売っててどうする」

 燦護は山下の呼びかけに行動で応じる。さらなる上を目指す燦護。


 階段を臆することなく突き進み、二十六階にきた時だった。

 入り組んだ道を進む。すると、ある部屋の前で立ち尽くす彈を見つける。

(ラプトル。何故こんなところに?)

 不審に思った燦護はゆっくりと近づく。そして彈に声をかけようとしたその時、部屋の中から声が聞こえる。

「良い……良いねえ! その顔! その顔が見たかったんだあ!」

 この声、聞き間違えるはずはない。燦護は走り、彈の側に行き、同じ方向を向き部屋を見る。

 そこには目当てのカイアス・エヴォルソン、そしてその仲間であろうあの時の子供。

 そして、全身血だらけで、太腿の半分から下を無くした斉藤文重の姿があった。

「う、うわああああああああああ!!」


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