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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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31.激動の一日


 ジンゴメン達は皆、マスクを脱ぐ。

 多くの犠牲者を出してしまった。初めての超人との戦い。予想以上に戦力としての規模が違いすぎる。刑務所は事実上の機能停止を余儀なくされた。ほぼ半壊していると言える。

「あんなの、どうすりゃいいってんだ……」

 山下が言葉を溢す。彈はアドレナリンが切れたのか、その場に倒れるように座り込む。

「とりあえず今は……」館端が彈を見る。「ラプトル、彼を捕まえよう。事件の後始末・処理はそれからだ」

 館端の言葉を皮切りにジンゴメンのメンバーが一斉に彈を見る。

「ちょっと! まずい状況じゃない!?」

 通信機から心配する亜莉紗の声が聞こえる。確かにこれは厳しい状況かもしれない。

 燦護は一人俯いていた。

「ちょっと待った〜!」

 一人の刑事の声が聞こえた。奥から二人の刑事と佐野愛夏がやって来る。

「斉藤刑事に流刑事っ」

 館端は思わぬ人間の登場に驚きを隠せない。先程の声は流牽政のものだった。斉藤は佐野に肩を貸し、進行方向にもう片方の手を差し伸べている。

「良かった、佐野さんも斉藤さんも無事で……」彈が言う。

「俺はぁ!?」

「あ、えっと、流……さん、でしたよね? ありがとうございます」

「初対面とはいえ、ちゃんと俺も労ってくれよ〜」

 奏屋が割って入る。

「ひとまず誰か状況を説明してくれますか?」


「……と言うと、斉藤刑事はラプトルと繋がっていたのか?」

 館端が睨みつける。

「斉藤さんはそんなんじゃないですよ! ちょっと知り合いだっただけ、ですよね……?」

「いや。通じてた、そう思ってくれて構わない」

 斉藤は悪びれる様子もなく言い放つ。周りがざわつくのは当然のことだった。

「斉藤さん!」

「こいつの”力”は社会に有効に働いている。もちろん全てを肯定してるわけじゃないが、俺はラプトルをある程度信用に値する人間だと思ってる。だから、情報を渡した。以上だ」

 名の知れ渡った斉藤文重の言葉だからこそ、その場の全員に重く響いた。

「……堕ちたものだな。凌木刑事とともにゴールデンコンビのように称されていたときが嘘のようだ。まあ、あの人も今は何をしているかわからんが」

 館端が嫌味たらしく言う。

「館端っ! 言い過ぎだぞ」

 奏屋が斉藤をかばうもジンゴメンは全員黙り込んでおり、その沈黙が何を意味するかわからない奏屋ではなかった。鑑が口を開く。

「私は特に彼に対してどうって感情はないかな。現に目的の女性は守り切れたわけでしょ。ま、被害はかなり出たし、到底釣り合いが取れるものでもないけど」

 斉藤や彈が口を開こうとする前に流が、いの一番に申し出る。

「確かに! 斉藤さんは大胆な行動に出たり、勝手に一人で行動したりと手のつけられない人です。今回だってかなりグレーなこともした……いやアウトか。……とにかく! それでも俺は斉藤さんが間違ったことをしているとは思えません! あんた達だってラプトルを心の底から憎んだことなんて無いだろう!? 仕事だから、立場上捕まえなければならない。それはわかるけど、助けられた人々が数多く存在するのも事実だ! 別にそこから目を背ける必要は無い!」

 興奮した流の肩に手を当てる斉藤。

「……落ち着け」

「それに、あんた等ジンゴメンが出てくるまで少しの間、犯罪を一手に担い、抑止力となっていたのは彼じゃないか?」

 山下が口を開く。「詭弁だな。結果や現状が全てか? 過程に重きをおき、考慮するのが俺達の本分じゃ?」

 流が反論する。

「そうかもだけど……“心のどこかではあんた等も彼のようなヒーローを頼っている”」

「おい、警察という組織に属しているという自覚があっての発言か?」

 ピリついた雰囲気が漂う。

「斉藤さんには感謝してます。情報提供も、佐野愛夏さんのことも……。俺は自分を正当化するつもりはありません。凶悪な犯罪を繰り返す屑どもは俺がこの手で殴ります、殴り倒します。

いずれ捕まって、お金や時間が解決するものなのかもしれないけど、それじゃ俺の気が済まないからです」

 淡々と正直すぎる思いを吐露する彈。

「俺はこの活動を辞める気はありません。死ぬまで続けます。だから今、捕まるわけには……いかない」

 痛みを感じさせないくらいに何もなかったかのように立ち上がる。

 するとジンゴメン全員に通信が入る。

「聞こえるか? 完全に復旧したみたいだな。とりあえず、お前らは全員戻ってこい。そこはすぐに閉鎖させる。後は捜査一課や鑑識に任せろ」

 時任からの指示だった。館端は凄惨な現場、その場にいる全員を見渡し、静かに返事をした。

「……了解」


 モノクロームとソードが激しくぶつかり合う。

 脛の武装を露出し、全力を出した脚技とソードの二本の剣技が旋風のように絡み合う。

(現地調達しか手段が無いとはいえ、まさか、“人間の骨”を使うとは)

 ソードは近くに居た警官の死体から大腿骨を抜き取り、先を他の骨と削り合せ鉄格子にぶつけたりと加工を施し、先を鋭利に尖らせた。

 二本の人骨から成る(つるぎ)。卓越した剣術、戦闘技術。刃がぶつかり、火花を散らしながらもモノクロームの関節部を的確に狙ってくる。

「もうやめにしないか……今は気分が乗らないんだ。お前が強いのはわかった。お楽しみはまた今度な」

「何? お前は俺を知らないだろうが、俺はお前を殺す理由がある!」

 身を屈め、モノクロームの蹴りを避けるソード。

「空腹で力も出ない。お前も楽しめないぞ? それに、連戦で息も上がってる」

「俺をお前みたいなイカレ野郎と一緒にするな!」

 モノクローム渾身の蹴りで二本の骨が粉々に砕ける。

「あらら……」

 追撃に出るモノクローム。その時、二人の耳にサイレンの音が集まってくるのが聞こえた。

「タイムリミットみたいだな」

 ソードはモノクロームの横蹴りに足裏を合わせ、その反動で後ろの木の上に飛び乗る。

「何っ……!?」

「武器も無いし、ここらへんで退散させてもらうよ」

 そのまま、木々の間を飛び移り消えていった。

「くそ、また……取り逃したっ!!」

 モノクロームの声がサイレンに掻き消されていく。


 重傷を負ったカイアスは由眼家の屋敷の医務室に居た。

 苛立ちを抑えることが出来ず屋敷に戻った後も叫び暴れていた為、眠らされていたのだ。北斗は別室で管理下にあった。すでに開いていた扉をノックするパラサイトキラー。差し入れにフルーツの盛り合わせを持ってきていた。

「少しは落ち着いたか?」

「……」

 カイアスはゆっくりと数時間前のことを思い出していた。パラサイトキラーは上の空のカイアスに向かって続ける。

「アイギャレット・シェルシャルルにも今回のことは伝えた。勝手な行動の是非よりも、お前がしてやられたことに驚いてたよ。……今の仕事が一段落ついたら”こっち”に来るんだと」

「!」

「まあ来年にでもなるだろうと言っていたらしい。報復の一つでもしないと示しがつかないともな」

 カイアスは珍しく震えているように見えた。

「怯えているのか?」

「う、うるさいっ。お前はあいつのことを知らないだけだ。……この国は終わるぞ」

 パラサイトキラーが顔を顰める。

「何?」

「……出てけ。一人にしてくれ」

 やれやれとため息を吐きパラサイトキラーはカットされた林檎の一切れを口に入れ、部屋を出た。

「……」

 カイアスは佐野愛夏のことを考えた。

「くそっ。女一人捕まえられないとは……」

 車に同乗していた男の一人を思い出す。

(どこかで……!)

 思い出した。あの雪の日、ラプトルとモノクロームが小競りあっていた中で警察が介入してきた。

 その際、ラプトルの手を引き、逃走の手助けをしていた男だ。僅かな記憶だが間違いない。恐らく親しい間柄なんだろう。

「そうだ。なにもあの女で無くていいんだ……モノクロームは一旦保留。ラプトル……奴だけを絶望に陥れる。そのための礎になってくれ……」

 奴をどうしても苦しめたい、その一心がカイアスの心を支配していた。


 車がガレージに入る。

 斉藤は降りるやいなや煙草に火をつけた。、

「今日は大変でしたね……」

 流の顔にも疲れが見える。彈は改めて二人に頭を下げた。

「本当にありがとうございました」

 佐野はガレージの中を見渡し、近くの物を触って遊んでいる。

「見返りを求める。とは言わんが、お前がこれからも人を助け、悪がのさばるこの社会の抑止になってくれるなら俺はそれでいい」

 流も同じく頷く。

「流さんはなんで俺を?」

 純粋な疑問をぶつける。

「……斉藤さんの信じるものが、俺の信じるものだから」

 流は迷うことなく言い放つ。

「気持ち悪いな」斉藤が言う。

「ひどい!」

 ここまで言わせるのも斉藤の人徳があるからだろう。

「もう深夜を回ってる。今日のところはもう帰れ。また何かあればお前の方からかかってくるんだろう?」

「あはは……」

 斉藤が佐野を横目で見る。

「佐野愛夏はまた、俺達が保護する。まあ、後のことは追って伝える」

「はい。……では」

 ボロボロでふらふらながらも、彈はその場を立ち去ろうとする。

 突然、彈の腰に抱きかかる愛夏。

「ん?」

「う〜」

 離れようとしない。

 斉藤と流が引き剥がそうとするも激しく抵抗する。

「やっ!」

 三人が顔を見合わせる。

「……え?」

 彈の額に一筋の汗が流れた。


「ええええええええええ!?」

 三人の声が重なった。


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