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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
33/111

30.混戦


「竹岡康平。アパートへの放火。被害は死傷者二名。……死刑」

「ぐえっ」

「白間健。振込み詐欺・横領。被害総額四千万以上。……死刑」

「ぶっ」

「川島大。殺人。通り魔として四名を殺害。……どう考えても死刑」

「ごぉっ」

 モノクロームは次々と混乱に乗じて逃げ出した囚人達を狩っていた。

「大量、大量。こんなに悪を裁けるとはな。……何が起こってるかは知らんが、利用できるならさせてもらう」

 騒ぎの刑務所の方向を遠目で見る。マキビシが何故ここまで早く情報を嗅ぎつけたのかは気になるところだった。

 がさがさと草木の影から聞こえて来る。囚人か、それとも警官か。前者だとありがたい。一匹でも多く罪人を減らしたいところなんだ。

 しかし、姿を現したのは、大罪を犯した一人の囚人だった。

「! お前は……」

 そのスキンヘッドの囚人は両手を真っ赤に染め、“武器のようなもの”を”二本”持っていた。

「大物じゃねえか……なあ、新宿の大量殺人鬼さんよォ!!」

「今日は、やけに活気づいてるな……今、別に乗り気じゃあないんだけどなぁ」


「いでぇっ! 骨が折れてやがるっ……!!」

 カイアスは苦痛に悶えていた。

「もちろん殺しはしません。あなたにはちゃんと罪を償ってもらう」

 自分を追っていた警察側の人間。心境の変化、と言うよりは目の前のテロリストの方が単に優先順位が高いだけか。にしてもこの状況では助かったと言う他ない。

「感謝するよ。あなたが来なかったらどうなってたか」

「助けはしましたが、あんたも見逃すつもりはないっすよ。一時、休戦ってだけです」

 燦護は冷静に彈と会話する。息も整い、余裕があるように見えた。

 カイアスが再びグロックを撃つ。しかし、ジンゴメンのスーツにはただのハンドガンの威力では心許なかった。

「はあっ、はぁっ! くそっ! 腕の力も入らねえ……!」

 苛立ちを隠せず語気が強まるカイアス。ハンドガン以上の銃を扱うには体の怪我が重すぎた。

「さあ、神妙にお縄につきやがって下さい」

 燦護はスーツの腰から収納されていた特殊手錠を取り出す。

「あ、あの!」

 彈と燦護は突然現れた、頭から血を流した少年に驚く。

「こ、ども……!?」

 ナイフを隠し持ちながら燦護に近づき奇襲を図ろうとする下々森北斗。

「なんでこんなところに……?」

 不思議に思うも、子供相手に気が緩み今にも倒れそうな北斗を抱えようとする。燦護の首元を刺突する寸前、彈の左手がその凶行を止める。

「それ、お前の血じゃないな」

「!」

 抵抗しようとする北斗に彈は思い切り頭突きを浴びせる。

「い゛っ!」北斗が後ろに尻をつく。

「あんな猿芝居に騙されるなんて、子供とは言え人が良すぎるんじゃないか?」

 脚を引きずりながら燦護の横に立つ彈。

「あ、ありがとうございます……」

 北斗は頭を押さえ、カイアスの元へ駆け寄る。

「いったい……」

「手前ェなんで出てきやがった! 出てきたところで何の役にも立たねえだろうがよ!」

 しゅんとする北斗。

「ちっ、絶対絶命、か……」

 ふとカイアスが耳を澄ますと、工場の外から銃声や騒がしい音が聞こえた。

(俺がいないのに銃声? 警官の生き残りでもいたか? いや、にしても、俺と北斗がここにいる状況で発砲?)

 電子音が聞こえた後、工場後方の壁が爆破される。

「!?」

 爆発に気を取られているのも束の間、窓が割れ、敵の仲間と見知った顔が飛び込んでくる。

「お、お前!?」

「どうした? やけに手こずってるじゃないか」

 トンファーを装備しているのを初めて見た。本気の戦闘をしていたのか。それもその筈、ぞろぞろと敵の仲間、すなわちジンゴメンが大量に出てきた。先程自分が瓦礫に埋めたはずの人数と一致していた。

 全員生きていたか。

 パラサイトキラーの他にも多くの由眼家の部下が銃や刃物、バットやバールといった凶器を持って、彼らと戦闘を繰り広げていたのだ。

「あれだけ勝手な真似をしてこの体たらくとはな」

 返す言葉もなかった。

「ちっ……いいのかよ、ご主人様の元を離れてよ」

「俺とて本意ではない。だが、その主人の(めい)でもあるからな」

「へっ、ご苦労なことで」

 ジンゴメンの仲間達も燦護の近くに寄る。

「皆さん、随分早く気が付いたんですね」

「通信が少しの間回復してな。胎田さんが俺らのスーツに装備された強制覚醒システムを使ったんだ。まあ平たく言やあ、機械的気付けだな」

「そんな機能が」

「生真面目なお前がどういった風の吹き回しだ? とりあえずは、あの凶悪犯を優先って感じか?」

 奏屋が燦護に問いかける。

「……」

「そいつだって正義の味方気取りかも知れないが、人を必要以上に痛めつける蛮人だぞ。それでも、手を貸すのか?」

 燦護は彈を横目で見てから、両方に向かって語りかける。

「……貸します! あなたは犯罪に手を染めてはいるけど、人の道を外れてはいない! ……そう思うから」

 奏屋は少し笑い、燦護の背中を叩く。

「よしっ! なら今は目の前に集中だな!」

「はいっ!」

 彈は後ろのポケットからスカーフを取り出し脹脛を強く圧迫しながら巻き付ける。痛みを堪えながら立つ。

「さて。続きを始めようか」

 パラサイトキラーが両手のトンファーを構える。

「燦護、あいつ強いぞ。と……ラプトル、あんたも気をつけろ」

 彈は自分が脚を負傷していると言えどもこちらは三人。それに強化スーツを着ている警察が二人もいる。何を心配しているのか理解出来なかった。だが、すぐにその答えは出た。

 ジンゴメン二人の連撃を一人で相手している。

 特注であろう一対のトンファーを体術と巧みに組み合わせながら戦っている。受け・攻めの出来るトンファーならではの戦い方。持ち手を守るナックルの部分は硬く覆われており、そのまま殴るとしても使える。本体の棍棒部分は肘先より少し長く、遠心力を利用しての回転攻撃も充分な威力を誇った。小指側の棒が可動式になっているのだ。棒の先には電極が付いており、強力なスタンバトンになっている。

 彈も負けじと参加し、三対一の構図が完成した。

「手負いとは言え、ラプトルもこんなものかっ!」

 三人を相手するなど尋常ではない。右目に付いた特殊なレンズも恐らく戦闘を大幅に向上させる役割があることは容易にわかった。

「はっ!」

 パラサイトキラーの蹴りに奏屋が倒れる。

「ぐっ……! まじか」

 手も足も出なかった。数の利など関係ないような圧倒的差。

 しかし、周りの状況はそうではなかった。ジンゴメンがパラサイトキラーの仲間である由眼家の部下達を押している。

「……急にしては数を用意したつもりだったんだがな」

 カイアスの手を取り、立たせる。

「いででっ! もう少し優しく扱えよっ」

「うるさい。……退くぞ」

 パラサイトキラーは彈達に向かってスモーク彈を放り投げる。

「逃がすと、思ってるのか! そんなもの……」

 燦護を含むジンゴメンは皆、追撃を試みるが、一瞬にして視界のほぼ全てが覆われ、不鮮明になる。

「!?」

「逃走手段というものは最も力を入れるべき点だ」

 パラサイトキラーの捨て台詞を最後に、カイアスを始めとした凶悪犯達を取り逃してしまった。暗視も効かず、ジンゴメンは全員がその場に立ち尽くすこととなった。


「俺達にだけあの煙の見えない眼鏡か。便利なもんだな」

 カイアスは大型のワゴンに揺られ刑務所を後にする。

 ほんの一瞬、道路傍の車に目が止まった。中には目当ての女と男二人が乗っていた。片方の男にはどこか見覚えがあった。

「……どうした? 反省でもしてるのか?」

 パラサイトキラーが問いかけるも、カイアスの返事は心ここに在らずといった具合だった。


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