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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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26.潜む者


 上下水色のジャケットセットアップを着た長髪の女。

「あれだけ働かせたんだ。少しボーナスでもやったらどうだ?」

 会話の相手は武器商人の忍。

「……そうだな。“あやつら”にはお主が適当に褒美を与えてやってくれ」

 雑な扱いだ。マキビシは、興味のあるもの以外には全くといっていいほど関心を示さない。

「今、お熱のモノクロームとやら。そいつは今後も使えそうなのか?」

「む。……停滞はせど、活動自体を辞めることは無いであろうな。それに、奴の格闘術は稀有なものだ。ラプトルとは決着がつかずとも、他に負けるような事はまずないだろう」

 買ってはいるのか。基本、目の前の男に情というものはない。女は、そこまで長い付き合いではなくともそれを知っていた。

「……ダニエル・シェーンウッド」

 女の発言にマキビシの動きが一瞬止まる。

「やたら執着しているようだが、そこまでの男なのか?」

「……お主は拙者と協力関係を結んでいるだけ。こちらの世界に詳しいわけでは無かったな。……奴は天才だ。今でこそ居場所は分からず、個人で仕事をしており、客も選んでいるということだが、以前はその能力を買われて多くの人員とともに機械や武器、設備を作っていた。奴は確実に“質”の良いものを作った。高度な技術はもちろん、自分の技量以上のものを考える為、人員さえ揃えれば誰もが欲しがるようなものを生み出すのだ。だが、奴自身の“中身”は常人だった。破壊や殺しに使われる技術に耐えられなかったのだ。現在、数多の企業や組織、団体が使っている道具はシェーンウッドに起因するものが大半。……今奴は、同じく行方知らずで変わり者の殺し屋、レッドスプレーと共に仕事をしていると聞いたこともあるが、真相はわからぬ」

「へえ……」

 わりかし納得のいく説明ではあった。

「まあ、お前ら”人間”は武器が何より大切だからな」

 女の、まるで自分がその域を逸脱しているかのような口ぶり。

「当たり前だ。おぬしも目の当たりにすれば分かる」

「はっ」

 女は高笑いで部屋を出て行った。


 学校が始まるも智樹達は誠といつも通りに接していた。

 力が白日の下に晒され、学校に迷惑をかけた誠の心労は計り知れなかったが、みんなに助けられた。想い人である光子からも、ペスティサイドの事件のときに助けられたことの礼を言われた。

 学校には常に警察が常駐することになり、誠の家の付近にもボディーガードのような形でspが点在している。下校時が最も危険だということで友人との下校は禁止になった。しかし、本人の申し出により登下校に常に警察が側にいることはなかった。

 今日も誠は智樹達と別れ、一人で帰っていた。

 帰り道が静かさにはもう慣れた。あれから特に襲われるようなこともなかった。

「今日は……数学だったっけな」

 学生らしく課題のことを考えている。

 公園を横切った。ぶつぶつと声が聞こえた。

「んだこれ。詰まってんのか?」

 自動販売機に男の影。

 何気なく横目で見て通り過ぎようとする誠。男は自販機を容赦なく蹴る。がんっと大きな音に誠は足を止める。がらがらと金属音が聞こえてきた。

「お〜。大量、大量」

 声をかけようとは思っていなかったが、気になったのか自然と男を覗く。そこには見たことのある男がいた。全身にびっしりと入った模様がそれを確信させた。

 というより、上着を羽織っている以外そのままだった。下も顔もあの時見たままで、隠すような気を感じられない。

 男とふと目が合う。

「……あ?」

「あっいや……」

 あの時の姿は印象強く残っていた。じろりとこちらを見ている。

「……! お前っミスターポルターガイスト!」

 あまりにも唐突に、へんてこな名前で呼ばれてしまった。

「———いや、誰ですか」


「こんなとこで会うとはな」

 それはこっちの台詞だった。警察に追われているであろう人物が変装の一つもせず、街をぶらり歩いているなど。

「こっちこいよ。おら、いっぱい出たんだ、どれでも取れよ」

 こんっと自販機を足で叩き示す。自分は殺されるんだろうか。誠は死を覚悟した。


「まだちいと寒ぃな……」

 そう言って立ったままホットのジュースを飲んでいる。

(何でこんな状況になった!?)

 誠は鷸水薊瞰と二人、公園のベンチに居た。

「おい、なんか聞きたいことあんだろ? うじうじした顔しやがって。……話せ」

 誠は二つ返事で答える。

「はいっ! ってか、どこから触れればいいのか……」

「?」

「この辺りに住んでるんですか?」

 最初にする質問がようやく口から出てきた。

「いや、ぶらぶらしてただけ」

「警察とかに追われてるんじゃ……?」

「そんなん返り討ちにするだけだしな。来るものは拒まず、だ」

 やっぱり、少し普通を装って話していても目の前のの男は人殺しだ。

「あの……なんで俺は殺さないんですか?」

 聞いてしまった。放っておいても仕方がなかった。

「……はっ、今は気分じゃねえだけだよ。自分が売る喧嘩はヤリたいときにヤラなきゃつまんねえからな」

 一先ず自分の身の安全は保証されたのか。

「喧嘩って……。警察から軽くは聞いてます。人を殺してるんですよね?」

「知るか」

 恐ろしい人物というのは何もその“強さ”だけじゃない、この男のあまりあるテキトーさ。このテキトーさが、持ち得た力を非常に危険極まりないものへと昇華させている。

「お前だって、次会えば“喰い”にかかるぜ」

 思わず生唾を飲み込む。

「何故、そんな乱暴なことばかりするんです?」

「……楽しいからだ。ゲームと一緒、クリアできるかどうかの難しさでこそ燃えるってモンだろ? だけどゲームオーバーにはなりたくねえ。まあ、そういうこった」

 全く分からない。分かりたくもない。人を傷つける感触というのは、決して気持ちの良いものではない。

 根本的にこの男とは、合わない。

「あなたがとっても強いことは分かりました。向かってくる刃に目を向けないくらいには。でも……次会って俺を殺す気なら、ただでは殺されないことを覚悟しておいて下さい」

「……言うねえ。ははっ」

 軽蔑の眼差しを向けながら、誠は公園を後にした。

「ありゃ今後が楽しみだ」


 彈はスーパーに買い物に来ていた。

 一日の運動量を補い、そして体を作る為、たくさんの食料を買う必要があった。毎度、僅かな収入源の大半は食費に注ぎ込んでいる。陳列棚を見ていると一つの鶏肉を取る手が重なる。

 譲ろうと手を引き相手の顔を見ると、そこにはhavre de paixの店長がいた。

「あっ……どうも」

「あら、こんなところで奇遇ですね」


 カゴにある程度商品を入れ終わり精算をする。大きなレジ袋を下げ、店を出た。

「この辺りに住まわれてるんですね」

「ええ。ごめんなさいね、荷物持ってもらって」

「いえ、いつも美味しいスイーツを作ってくださってる、ささやかなお礼です」

「あら、私が作ったもの食べたことあったかしら」

 失言だったようだ。

「あっ」

「ふふっ。いいのよ。あの子が初めて上手く作れるようになって商品として出したのが、あのレアチーズケーキなのよ。あなたがリピーターでとっても喜んでるわ」

 なるほど、思い入れのある一品というわけか。道理で美味しいわけだ、彈は深く納得する。

 すると、帰り道の道中こちらに駆け寄ってくる姿。

「おばあちゃん! って、え!? なんで一緒に……?」

「たまたまスーパーで一緒になったのよ」

 お孫さんだ。祖母が心配で駆けてきたようだった。

「買い出しはあたしが行くって言ってるじゃん! 無理しないで」

 仲睦まじい光景。

「ごめんなさい、荷物持ってもらって……」

「大丈夫ですよ。もう家も近いみたいですし」

 常連さんに悪いことをしたと申し訳なさそうな顔をする。お店だけではない。やはりこの二人がいるだけで落ち着いた空間になる。

 故に、彈は気づかなかった。

 人通りが少ないこの帰り道、二人の男が接近していることを。

 娘の後ろから男の両手が現れ、強く首元を引き寄せる。

「んっ!?」

 彈は即座に反応したが遅かった。娘を引き剥がされる。一人の男は娘の方に鋏を向け、もう一人はこちらに包丁を向けていた。

「あ、あ……ま、孫を離しておくれ……!」

 まずった。完全に警戒が足りなかった。彈は自らの意識が張れていなかったことを深く反省する。と共に、怒りが沸々と込み上げてくるのを感じた。

「か、金を出せ! ババアもお前もだ!」


 全く、何故こんなにも大切な人を脅かし、安住の地を壊すんだ“お前ら”は……!


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