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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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24.常人・超人、奇人・変人


「流石に厄介だなっ」

 三人のジンゴメンと交戦中の彈。世間に公表されていなかった彼らが認知されるのにそう時間は掛からなかった。

 組織ではあれど個々を二、三人体制で散らせて行動させる方法と相まって、広範囲に渡る数多の事件を次々と解決している。故に、こうしてラプトルと鉢合わせることも増えてきた。

 警察の強大な部隊というジンゴメンに引けを取らないラプトルの現場への到着の速さ。強力な支援者がいるのは明らかだった。

 単体でもかなりの強さ、二人や三人となると確実に負ける、いや、勝つことは難しい。そう確信していた彈は戦いながらも逃げの一手に専念していた。亜莉紗からの指示に従い、的確な逃走経路で相手を翻弄する。

「ちょこまかとっ……!」

 ほぼ全ての数値において人を超えた出力を持つジンゴメン。本来ならたった一人の人間に遅れをとることはなかった。

 だが、卓越した戦闘技術・耳の通信機の先の人物の連携・くぐり抜けてきた死線の数・彈の精神力の強さ、そして最高の師を持つというステータス。複数の要因がジンゴメンを手こずらせていた。

 障害物をものともせず跳び回る彈。一人が思い切り足を踏み込み、とてつも無いスピードで彈の足を掴もうとする。しかし、彈は即座に空中で身を丸め攻撃を回避。壁を蹴り上げ、三角跳びのように器用に走り去る。待機していた別のジンゴメンが彈に襲いかかろうとしたその瞬間、もう一人の仲間がぶつかり、もたつく。

 彈は逃走に成功した。

「いたた……あんた、何やってんの」

「す、すみません! 鑑さんのサポートに回ろうとしたんですけど……」

「別にいらないわよ。今日はたまたま三人だったからって私は連携とかそういうの気にしないタイプだから。そういうのはアイツと勝手にやってて」

 後方のもう一人を指さす。

「鑑、言い方キツイぞ。燦護、お前は相手だけじゃなく周りもちゃんと見ろ。仲間を手助けするって気概はいいが、それで逃げられたら元も子もない」

「うっ……お二人とも手厳しいっすね……でも俺、もっと頑張ります!」

 結果として、三人のジンゴメンはラプトルを取り逃してしまった。


 直に春になればラプトルが活動を始めてから一年になる。

 一過性のブームのようなものが終わり、世の中にも定着しつつあるラプトル。犯罪者が勢いを増した時期に現れた救世主と言う声もあるほどの存在。

 そして、同じく自警活動を行う私刑人、モノクローム。彼のまだ認知度は然程高くはない。悪人を処刑するというショッキングな事件性から、少しでも詳細が明るみに出ないよう情報の操作が行われているからだ。それでも現代のネットワークは凄まじく、ネット社会で生きている過半数は認識しているだろう。

 ヒーローなどと言うふざけた存在を野放しには出来ないと立ち上がったジンゴメンも、犯罪を取り締まりはせど、彼ら二人を捕まえることが出来ずにいる現状に歯痒い想いをしていた。


 活動を終え、自宅に着く彈。息を切らし体は疲労困憊にあった。

 置いてあったレジ袋を取り、ソファに座る。中から箱、そしてチーズケーキを取り出す。半分ほどを切り分け、口いっぱいに運ぶ。疲れが一瞬で取れるような、そう形容できるほど幸せに満ちた味。この一品を食べているときだけは、他のいろんな柵を忘れられた。


「ええ。必ず。ご遺族のお体からDNAを採取しています。一度も捕まえられず、前科の無い雲隠れのプロでも絶対に見つけ出してさしあげますよ」

 胎田は誰かと電話をしているようだった。扉をノックする音が聞こえる。

「おっと、失礼。ではこれで。……どうぞ」

「失礼します」

 ジンゴメンが一人、館端俠也。部隊の中でも特に胎田に買われている人物。

「館端君。どうしたんだい?」

「奏屋達がまたもラプトルを取り逃したようです。たるんでいる訳では無いと思うのですが……」

「なんだ、そんなことか。別に大丈夫だよ。ラプトルは正直なところ、国民に嫌われてはいないから、捕獲にそんなに躍起にならなくてもいい」

 館端は申し訳なさそうに頭を下げる。

「それよりも世論の批判の的はモノクローム。彼は非支持者の方が多い。捕まえるのは彼を優先する方向で構わないよ」

 胎田に対し、敬礼をする。

「時任のところへ行くんだろ? この茶菓子でも持っていくといい」

 そう言って、館端へ未開封の羊羹の箱を手渡した。


 刑務官の男が乱雑に扉を蹴り、中の者に対し声をかける。

「おら、面会だ」

 鍵を開け、ゆっくりと重い扉を開けた。面会。刑事の男は何度も見ている顔だ。よく飽きないなと周りからも言われている。

「少し間が空いたようだが、懲りないな。年末年始ゆっくりと休んでいたのか?」にやにやと話しかける。

 斉藤は面倒なジジイだ、と思いきり顔に出しながら返答する。ポーカーフェイスとは真逆の性分だ。

「そんなんじゃねえよ。それより今日も聞かせてもらうぞ。少しでも情報が欲しい」

 真宮寺に会社のこと、ソードのこと、そして裏の世界のこと。あらかたのことは訊いてきた。

「あんたが言ってた拡張者。あの青年はすでに警察の監視下にある」

「なっ……」

「それにあんたが一番警戒していたアメリカ最大のギャング、インプレグネブル・ゴッズも僅かだが姿が見えてきた」淡々と新しい情報を話す斉藤。

 “外”のことが分からないというのはこんなにも不便なのか。真宮寺は驚きつつも、嬉々とした表情でさらなる情報を求めた。

「まあ、ここに来れない間に色々あってな……おいおい、そうがっつくな。情報はタダじゃねえんだぞ?」

「ふんっ。ソードのやつに訊けばいいじゃろ」

「あっちは、変わらずずっとダンマリだ」

 ソードは逮捕されて以降、現在まで黙秘を続けている。初めは全治四ヶ月の怪我を負っていた為、入院をしていたが治って以降も彼の態度が変わることはなかった。

「拷問なりすればいい。まあ、それで口を割るような男とは思えんがな。で、今日の質問は?」

 よしきた。斉藤はここまで、一回の面会に一つの疑問をぶつけてきた。

「今日はひとまず整理させて欲しい。お前らが警戒していた一人、レッドスプレーの居なくなった今、勢力はどうなっているか? また注目すべき殺し屋や用心棒は?」

 ガラス越しに真宮寺の太々しく腕を組む姿が窺える。

「わしらが居なくなり、今は甘い蜜を啜るやつも多いじゃろうな。ふむ……まずは個人で言うならば、血の鎧の男。前にも話したが一番化け物に近い存在。銃弾や刃物は通用しない。人の力で手に負えるとは到底思えん。まだわしの分かっていることはこのくらいじゃ。

次に拡張者。奴の力の詳細は把握しているのか?」

 ごく自然にこちらに探りを入れてくる。

「ああ。本人の口からも把握してる」

 次の言葉を待つ真宮寺。

「あ? おら、次の説明」

 口を滑らせるような人間ではないか。舌打ちをし、説明を続ける。

「奴は遠隔での攻撃が出来るじゃろ? それも細かい動きが。暗殺等にも使えるじゃろうし、強力な力だ。年端もいかぬからといって油断は出来ん。

暗殺と言えば、ジェリーフィッシュ。此奴はただの人間だが、ある男に大金を積み、専用の装備を作らせた、金持ちのボンボンじゃと。まだ幼いと聞いたことがある。学生ながら気に入らない知り合いや大人を殺しているらしい。頭の弱いガキなんだろう。

そして、このジェリーに装備を提供した男が、武器商人であり用心棒も兼業しているマキビシという男。此奴は一応個人で動いてはいるが、提供する装備を作るための人員を数多く抱えている。具体的な数は分からん、ただ、どいつも一流の作業員らしい。もちろん本人もな。

最近日本に目を向けていると聞いたことがあるのが中国のギャングのような組織を点々としている用心棒の(ロン)。通称、壊し屋の龍。格闘術に優れており、中国拳法の達人じゃ。通り名の通り、人体を再起不能にまで破壊することが有名で、場合によっては殺人も厭わない。

最後に、一度拡張者を助けたということで知られた男が一人。こいつが最も謎じゃな。なんでも素手で銃弾を受け止めたと。スピードも頑丈さも血の鎧の男に唯一匹敵するかもな。……まあざっくりとこんなもんか」

 やはりモノクロームや、警察でさえここ最近掴んだビーターといった人間のことは知り得ないか。

 改めて聞くとその問題の多さに眩暈がする。初めて聞く名前もいくつかあった。

「ふーっ。おい、水をくれ」

 深く深呼吸をし、喉の渇きを訴える。斉藤も上げてやって下さい、と刑務官に伝えた。一杯の水を補給した後、残りの説明を始める。

「組織なんぞ数えるほどしかおらんわ。

日本で言うなら、由眼家吉質。麻薬王なんぞ呼ばれているヤクの売人の元締めだ。自身の力のみで成り上がり、瞬く間にネットワークを広げた。今では数千人の人間を雇っており他の団体も迂闊に手を出せん。特に右腕にはレッドスプレーとも旧友の仲で名高い、パラサイトキラーというと男がいてな。つい五、六年前に終身契約を交わしておる。

後は小さいのがちらほらと。鬼鷲会もわしらが潰したしな。

まあ、一番はインプレグネブル・ゴッズ。これじゃろう。ボス猿の名前すら分からんが、人員も、抱える兵器等の戦力も、世界各国に支部を広げるという規模も、一番の勢力だろう。拡張者のような超常的な力を持っているやつもいると言う。裏社会の実権を握っているのは紛れもなく奴らじゃ」

 あえてラプトルの名は出さず、か。とはいえこれまでの真宮寺から得てきた情報とも擦り合わせるいい機会だった。一つ一つしらみ潰しに調べるしかないな。

 (あいつ)は……まあいいか。


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