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際限なき裁きの爪  作者: チビ大熊猫
第2章.飛翔
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17.勢力図


 ラプトル……恋敵は色んな意味で強敵だな。そんなことを思っていた。


「なにぃ!? 告白までしただとお!!」

 昼休み、体育館裏で昼食をとっている中、智樹の声が響く。

「相変わらず声が……」

「俺達が早く帰っていなければ……! それにしても、恋のライバルがあのラプトルとはな〜勝ち目があるのかないのか分からんな」

 ごもっとも。

「まあでも正体が分かるわけじゃないんだし、芸能人を好きみたいなモンじゃないか?」大聖が提案する。

「他にはなんかないのか?」

 誠が顔を赤らめながら言った。

「実は、昨日から一緒に帰り始めたんだ」

「!」

 三人は流石に予想外だったようだ。

「お前、意外とこの中で一番積極的なのかもな……」


 猛烈アタックの甲斐もあり「なにかあったら俺が守るから!」という名目の元、共に帰宅することとなった。

「み、深鈴先輩って、何か趣味とかあります?」

「趣味かー。うーん、これといってないけどなー。今だったら、ニュースで画質の悪いラプトル様を見ること、くらいかな」

 中々に仲を深める糸口が見つからないと悩む誠。

「……映画とか! ……ショッピングとか! ……は?」

「……じゃあさ!」

 光子はにこやかに言った。

「行こっか。デート」

 突拍子もない言葉に驚く。

「聞きにくそうにしてるから言うけど……私、友達いないんだ。ついこの前までいじめられてたし」

 あっけらかんと話す光子。

「だからさ、こうやって誰かと喋るの結構楽しいんだよね」

 それを聞いた誠は笑顔で話す彼女の顔をまともに見れなかった。


「ごめんごめん! 待った?」

 待ち合わせ場所に少し遅れてやってきた彼女はとても愛らしい格好をしていた。

「い、イメージ変わりますね」

 誠は思わず生唾を飲み込んだ。

「可愛い? まあ学校一のイケメンに告白されるくらいだから、そこそこ顔は良い方なのよね、私」

 わざとらしく髪をかき上げる。

「これならラプトル様も足を止めて一目惚れするかな?」

「あ、あはは……」

 愛想笑いで応える誠。


「じゃん! どお?」

 最初は洋服店に行った。何着も洋服を試着した。そのどれもが彼女に似合っていた。

 次に映画。対して興味のなかった恋愛映画も、一緒に観る人が居ればこんなに変わるのかと驚いた。

 そして、最後はファミレスで食事を取った。

「いや〜満腹満腹! 久々にはしゃいだな〜」

 確かに学校で見かける姿ではなかった。彼女がいつから人との関わりが減ったのかは分からない。詮索するつもりもない。けれど、彼女がこんなに明るい人間だとクラスメイトは知らないんじゃないんだろうか。

「今日は楽しかったよ。ありがとう、付き合ってくれて」


 駅で別れることとなった。

「明日も一緒に帰りたいです。これから……毎日でも」

「あ、うん、分かった分かった。話に付き合うだけなら」

 笑われ、軽く流されてしまった。

 事件の事も聞いたしラプトルが常にいるわけじゃない。せめて自分がいれば何かあったときに対処できる。もちろん下心がないというわけではないが。


 東京、某所。

「いやはや行動が早いな、カイアス・エヴォルソン。それと」

 カイアスが説明をする。

「ああ、こいつはトーマス・グリット。元総合格闘家の男だ。安心しろ、手綱はしっかり握ってある。今は暴れやしねえよ……“今はな”」

 背後には到底、人とは思えないサイズの筋量を搭載した化け物が息を荒らして佇んでいた。語学に堪能なカイアスと相反し、その男は英語を使うどころか言葉を介すかもわからないようであった。

「改造を施してる。だがちといじり過ぎてな。一年も持たない短命の身だ。でもまあ渾身の成功作、馬力は相当のモンだぞ。今回の拡張者捕獲はこいついれば充分だろうさ」

 由眼家が苦言を呈する。

「最近は厄介なのが増えてな……聞いてるとは思うが自警団気取りの野郎が何人かいやがる。それに頭のおかしい奴もな。うちのも連れて行った方が良いと思うぞ?」脇に立つパラサイトキラーを指差し言う。

「うーん、いれば心強いのは確かだがそいつじゃ多分トーマスが暴走したとき、止められないぞ? 下手すりゃ死ぬ」

「心配するな。こいつはちょっとやそっとじゃくたばんねえよ」

 パラサイトキラーは黙って聞いていた。

「まあどっちだっていい。俺の今回の仕事は他の奴らの視察+ダニエル・シェーンウッドに関する情報の収集だ。そっちはあんたに任せるよ」

 念の為、使い捨てのならず者なんかも雇っておくか。由眼家はスマートフォンを手に取った。


 斉藤と流はある訓練室に来ていた。

 目の前では約五十名の男達が汗水を垂らし組手に励んでいる。通常の見知った組手ではない。今の警察の状況を変えようとという気持ちの現れか、鬼気迫るものがあった。

「見学といえども、軽い気持ちで来る場所じゃなかったかもな……」思わず斉藤が言葉を漏らす。

 二人は奥に進んだ。

 その先には研究施設が広がっていた。頭が痛くなるような情報量の機器、そして最新の装備がずらりと並んでいる。

 そこに目を引くものが一つ。“従来の紺の服に黒のプロテクターという格好”とはかけ離れていた。黒一色のそのアーマーはいかにもといった重厚感を漂わせる。

 二人が眺めていると声が掛かる。

 「斉藤さんに流さん。どうですか、一通りジンゴメンを見た感想は」

 特殊犯災対処精鋭部隊、”ジンゴメン”。

 法に縛られ、且つ“組織”である警察は神出鬼没で対応できるヒーローに比べ遅れをとっている。

 この現状を打破する為、より強大な戦力を持って対処するという考えの元生まれた、SATとSITを掛け合わせさらに、中でも精鋭の者だけが入れる部隊を作った。それが、ジンゴメン。

 先のペスティサイドの事件から押収された信徒らが使用していた強化スーツを改良し新たな武装とした。

「いやあ、圧巻ですな」斉藤が返す。

 話しかけてきた男はこの部隊の研究開発最高責任者、胎田宗近。ボロボロのスーツを治し、足りない分は造り、他にも研究の全てにおいてを任されている優秀な科学者。とても暴力的な物を造るようには見えない優男だ。

 遅れて入ってきた無愛想で堅物そうなガタイの良い男は、ジンゴメン技術顧問の時任右衛だ。胎田と双璧を成すジンゴメンの要であり責任者。

「失礼、私が招待しておきながら。時任です。どうも」

 斉藤は凌木とともに一時期はゴールデンコンビだとさえ言われていた名刑事。時間の経過により畏敬の念も薄れていっていたが、新宿の一件で、ソードに決死の覚悟で最後まで抵抗した斉藤を讃える声もまた増えていっていた。

「斉藤刑事ほどのベテランなら尚更、彼らの有用さがわかるのではないか?」

 当たり前だ。これだけの充実した装備に選りすぐりの兵隊。大抵の犯罪は取り締まれるだろう。ソードのような異常者でもおそらく彼らからは逃れられない。

「大したモンだ。これならヒーローどもに遅れをとる心配はなさそうだ。それどころか犯罪者が可哀想なくらいだ」

 胎田が強化スーツの方を見ながら二人に語りかける。「僕が一から考え造ったものではありませんが、この技術が正義の為使われるということが楽しみでなりません」

 思い立ったように書類を取り出し斉藤の前に広げる。

「このスーツを着れば人を超えた怪力はもちろん、オリンピックの全種目で金メダルを狙えるほどの身体能力を得られる! それに以前の使用者であるペスティサイドの信徒達は主婦やサラリーマンといったような烏合の衆であったが、我らジンゴメンは戦闘のエキスパート! その大きな力をもうすぐ見れると思うと……」胎田はひたすらに恍惚としていた。

 これだからマッドサイエンティストってやつは分からん。斉藤は時任にのみ視線を向ける。

「実用の目処はいつくらいなんだ?」

「あと一月もしない内に活動を始める。まあ世間にこれといった公表をするつもりはないがな」

 斉藤は感心した素振りを見せたが内心未だ拭えぬ不安を抱えていた。

 反対に流は嬉々として新部隊の誕生を喜んでいた。


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