第八話 異世界のカツアゲは黙認される
言われた通りに三回目のお使いに出たその帰り道の事である。
予想どうり甲高い悲鳴が小さく聞こえたので、フィーリアに助けに行く旨の話をする。
「なあ、フィーリア。あっちの路地の方から悲鳴が聞こえなかったか?」
ハルトはフィーリアと手を繋いでる左手をクイッと呼ぶ様に引き付け、右手の人差し指で薄暗い路地を指さしながら言う。
「そうかしら? フィラは何も聞こえなかったのよ?」
「なんか気味悪いし見に行かねぇか?」
「まぁ、ハルトがそう言うのなら行ってもいいのよ」
フィーリアは困惑しながら、この提案には乗ってくれた。それに対しハルトは苦笑しながら「あんがとよ」と軽く答え、ハルトとフィーリアの行き先が路地へと向かうのだった。
昼間だと言うのに日はあまり差さず、薄汚れた感じも目立つ裏路地らしき道だ。道は荒れ果てゴミが投げるてられ酷い有り様だ。そんな所を臭い匂いをかき分けながら歩き続ける。すると路地に入ってから数分後フィーリアが、
「ハルト! 本当に悲鳴だなんて声聞こえたのかしら? どれだけ歩いても人の気配すらないのよ!」
「んー、聞き間違えってことは無いんだろうけど、道を間違えたか?」
などと考察していると、突然すごい鈍く鋭い打撃音がした。相当な威力で打たない限りはあんな音が出るわけが無い。それらを瞬時に察したハルトとフィーリアは一瞬だけ顔を合わせ、音のした方へ走り出す。
迷路のような道を迷いなく突き進む。突き当りらしき所まで来ると、そこにはバットや鬼包丁などの凶器を持った体格がかなり厳つい三人の男と、見える肌が全て痣だらけで汚れた少女が恐怖で塗られたような顔でペタン座りしていた。
「お前ら、何やってんだ」
ハルトは傲慢に見下すような、低く罵る声で問いかける。男三人衆はすぐに振り向き一瞬目を見開いた。驚いた顔をしながらもすぐに顔つきは戻り、ハルトの問いに答える。
「ハンっ! おめーらにはカンケーねぇーだろうがよ。それともおめーらはこのガキの兄妹か愉快なお友達とでもゆーのかよ、まぁあ、こいつに限ってそんなことはねぇーっな! ガッハッハー」
バットを持ち真ん中に居た男が嘲笑うように返して来た。この返しにフィーリアは目に静かな怒りを滲み出しながら、
「なんなのかしら? このクソガキ。きっしょすぎったらありゃしないしないのよ」
「きっしょの使い方絶対間違ってるだろ」
ハルトとフィーリアのやり取りに真ん中の男が「ふん」っと鼻で笑い、フィーリアに顔を寄せながら、
「おいおい、虚勢なんて張るもんじゃぁあねぇぜ。マセガキ。いつまで可愛い可愛い頭と体がくっついているか分からないぜぇー」
「あら心配してくれるのかしら? でもその心配は無用なのよ。フィラはこう可愛らしい容姿をしているけど、実際のところはめちゃくちゃ強くて気高き精霊だからお前ごときが倒せる相手じゃないのよ」
フィーリアの精霊という言葉に男三人衆は表情が一瞬にして氷ったように固まった。固まった表情はその状態から顔は黒色に染まる。
精霊はそれだけ強くてある意味恐れられてい存在なのかと考察していると、右側にたっていた男が「まさか、けん、いやそんな訳ないか」と聞こえるか聞こえないかぐらいの声で発する。
「おいおいでも子供の精霊だろ。生きてても二十年ぐらいか、そんなチビに何ができるってんだ?」
左にたっていた男が嘲笑いながら適当すぎる考察をする。実際のところは三百歳を超えている年寄りである。ロリババである。
なんて考えているとフィーリアがハルトの右足を踏んできた。どうやら大体俺の考えはわかるようだ。いやはや、フィーリアの前では下手なことは考えられないと今一度実感することになった。
「まぁ、こんな所で突っかかってたってなんの結果も生まない。ここは軽く勝負と行こうじゃないか」
真ん中にいた男が宣戦布告して来た。それに対しフィーリアは「ふん。望む所なのよ」と軽い感じに返す。ハルトは事態の早すぎる展開に目を白黒させながらも、今からこの男たちと戦うのだなという塩梅に自分の身体に信じ込ませる。
初手、先手を取ったのは右に立っていた奴である。鬼包丁を持っていた男がフィーリアを目掛けて間合い無しに振り切られるその刹那、ハルトがフィーリアを抱き寄せ避ける。
奇襲とも思えるその攻撃に失敗したのにも関わらず男はニタニタと嗤う。
疑問に思った次の瞬間。真ん中の男が持っていたバットをハルトの頭を目掛けて薙ぎ払う。火事場の馬鹿力と言うやつだろか、その攻撃に瞬時に理解し反射的にフィーリアに覆い被さるように避ける。
その時理解した。こいつらは戦い慣れている。ただのチンピラとはどこか違う気がする。いや実際のところはチンピラなんて出会ったこと無いからわからないけど。なんて悠長に考えていると左にいた男が何かブツブツ言葉を発している。
不審に思ったが直ぐにその意味は発覚することになる。フィーリアから焦ったように(まずいかしら、地面から火属性魔法なのよ! フィラ達は嵌められたのよ!)とコンタクトが飛んできた。
まずいまずいまずいまずい! ハルトはさっきの攻撃を避けるためにフィーリアに覆い被さるように両手両足を地面につけている。相手の戦術に弄ばれていたと言うのか、少し前上体を下げて避けた自分を呪う。地面に伏せるような体制を取っている状況で地面からの攻撃となれば直撃は免れない。
それでも時間は非情でハルト達が命の危機でも時は進む。
地面が赤く熱気を孕んだ瞬間フィーリアが「セーフティデフェンス」と唱える。そして地面から吹き上げる炎にハルト達は為す術なく塵に化すのだった。
そして、ハルトとフィーリアがいた場所は灼熱の業火に包まれ空高く黒い煙が立ち上がっていた。
「ハンっ! 俺たちに刃向かうからこうなるんだよ。クソガキ野郎共」
「いやー、精霊と聞いたから一時はどうなるかと思ったけど、大層なんてことない。ただのマセガキでしたね。ハハッ」
「その安心はまだ早いんじゃないかい?」
謎の声の主に男たちは直ぐに嫌な想像が頭をよぎる。そして男達三人は燃え上がった火の方へ目と意識を向ける。突如高く上がった火が一瞬で掻き消えた。
「いやーさすがはフィーリアだわな、あの時は俺も死んだなって思ったわ、すんげー」
「フィラにかかればこんなの御茶の子さいさいなのよ」
「御茶の子さいさいって、フィーリア明日でも老年科行こっか」
「ろうねんか? 何なのかしらそれ、分からないのよ。でもなんか病院っぽくて嫌なのよ。病院に行ったら間違いなくお注射で腕がチクリって痛むかしら」
「フィーリアは糖尿病でも無いから注射は無いんじゃないかな? てかお注射チクリって可愛いなおい」
「楽しくご歓談のところ悪いんだけどさぁ、君達さぁ、さっき死んだんじゃなかったの? ああいう場面だったらさぁ、死んでるのが礼儀ってなもんじゃないの?」
右の男が一歩前に出ながら睨めつける様な目で話しかけてくる。その内容は意味のわからないもので、死んでるのが礼儀ってどんなだよって思っていたらフィーリアがドヤ顔をしながら
「生憎とお前の礼儀は弁えない主義なのよ。フィラのとんでも魔法に腰を抜かすがいいのよ!」
と言いながらフィーリアは両手の指先で円を作った。その瞬間手の内側から噴き出すように黒いモヤのような物がかかり、フィーリアはそのモヤを押し出すような手振りを見せると、三人の男達に黒い霧が襲いかかる。
「ハルト! 今のうちにあの女子を連れて逃げるのよ!」
途端、ハルトの内なる力的な物が発動する。否、これはフィーリアの身体強化魔法だ。右手に繋いでるフィーリアを引き連れ、ハルト達は黒い霧の中に飛び込む。
以外にも黒い霧の中は見通しがよく、直ぐに少女の位置が分かった。ハルトは空いてる左手で少女の右首を掴み、地面を思っいきリ踏み込み、蹴りあげるのだった。




