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第十一話 アトリアの長い剣

 庭の草木に身を隠しながら敵を探す。辺りは暗く今は夜八時を回った所ぐらいだ。風呂から上がって体を洗ったというのに服に葉っぱやら土やらが付きすぎてもう一度お風呂に入らねばと、杞憂してしまう。


「いたわよ」


 アイリスの知らせに三人は頷き、目付きを変える。作戦は簡単だ。ハルトとフィーリアが極大魔法を敵の中核に打ち込み混乱している所を一気に叩く、と言う物。もちろん発案者はこの俺、カシワハルトだ。


 体の中に凄まじいパワーが編み込まれている事を意識する。ハルトの大胆さとフィーリアの精密が組み合わされば本気で魔法界では敵無しだとフィーリアは語る。アイリスのお墨付きだ。


 ここは庭で草や木がたくさん生い茂っているため火属性魔法の類は一切使えない。水属性も量が多過ぎると津波が起きていまうために使えない。だからこそ選んだ属性は、風と月である。フィーリア曰く昔ハルトがオリジナルで作った魔法で、


『魔法の名前はルナテックフォグバーストなのよ。ルナテックフォグは月属性で昼間にやった黒い霧の魔法なのよ。そしてバーストは風系統の魔法で空気を圧縮して爆発させる魔法なのよ』


 との事らしい。あの黒い霧は結構重量があるらしくそれを勢いよく爆散させる事で爆破威力を高めているとも補足がついた。

 意識下でマナの動きを感じ心の中でデタラメ詠唱する。そして敵陣の中央に手を伸ばして、


「ルナテックフォグバースト!」


 敵陣の中に突然黒くて丸い玉が出現する。その瞬間ギュルルと音を鳴らしながら玉が内側に向かって急激に小さくなる。否、圧縮され見えなくなると瞬間とてつもなく低いトーン轟音と共に全方向に勢いよく爆発する。地面は抉れ、草木は消滅し、爆発の光は空高く昇った。


 さらに爆発範囲は凄まじく、敵の五十人全員吹き飛ばしてもなお余裕があるレベルだ。

 敵は黒き月の狂気に為す術なく飲み込まれていく。爆発の中心にいた人は間違いなく骨すら残っていない事だろう。そして爆発は数秒にして続いた。


「まじかよ、なんてったって、どうしたらこんな威力になるんだよ」


 魔法を打ち込んでから既に十秒以上が経っているのにも関わらず、爆発の衝撃波は来続ける。衝撃波はとても強いもので少し気を抜いたら後ろに吹き飛んでいきそうだ。

 その非現実的な光景にハルトとアトリアはずっと呆けた顔のままだった。


 しかしフィーリアとアイリスはこの威力を知っていたようで「このくらい楽勝なのよ」だったり「まあ、だいたいこのくらいのね」とコクコク頷きながらとんでも現象を前に欠伸まで起こす始末だ。


 爆発が落ち着きその場に居た全員が完封勝利を確信した次の瞬間。全身に悪寒が走る。その謎の恐怖に身を任せ目の前にファイヤーボール的なものを打ち込む。するとその火はなぜか突然空中で止まり、矢を燃やしていた。さっきの爆発でまだ生きている人がいる事を表す。


「おいおいまじかよ、あの爆発まだ生きている奴がいんのかよ」


「警戒を! どこから来るか分かりません!」


 一度爆発させたため隠れる必要が無くなった。そしてアイリスとアトリア、そしてハルトが物陰から飛び出す。フィーリアだけは狙われるとまずいので未だ隠れているがバレる事はまず無いだろう。


 先手を取られ、混乱している敵の懐にアトリアの刃が滑り込む。胸元までは入り込んだ刀身は急に方向を変え急所の首を刈り取る。


 すると攻撃した隙を狙い左側から短刀がアトリアの首を突くまでのその刹那、右手に持っていた刀を左手に持ち替え、左足は強く地面を蹴りつけ右に逃げながら左手に持つ刀で振り切る。


 途端前に三人の男が立ちはだかる。しかし彼女にとってそれは止まる要素にならない。真ん中の奴が持つ鬼包丁が首元に向かって薙ぎ払われる攻撃を体を伏せることで避ける。しかしただ避けたわけでない。

 アトリアの持つ刀の長さを利用して三人の足首を搦めとり、行動不能になった男達の背後に周り込み、腰の当たり、否、腹部と言う急所を三人まとめて一撃で仕留める。


 アトリアその圧倒的な戦闘能力に俺とアイリスは思わず見とれてしまう。彼女の太刀筋は恐ろしいほど真っ直ぐで先程まで泣きながら「この剣だけは使えません!」と懇願してきた人とは思えない。

 剣術の才能、身体能力の高さ、戦闘経験の高さは戦い初心者の俺でも分かるほどに高く人々を圧倒していた。



「私達も負けていられないわね! やっ、そいやー」


 気の抜けた詠唱と共に放たれる魔法は決して気の抜けてはいない。アイリスの魔法は地面から木の根のようなものを生やし敵の動きを封じる。もちろんそれで終わりではない。

 氷の礫的な物を勢いよく放ち胸元に到達した氷の礫は恐ろしい殺傷能力を持ち、敵の心臓を貫く。


 可愛い顔して怖いことするなと、少しギャップに驚きながらもその驚きを力に変え魔法の詠唱に入る。何時もよりマナを編むのがが楽に感じる。これは決してハルトが覚醒した訳ではなく純粋にフィーリアがサポートしているからだ。



「あれ、アイリスは?」


 一瞬目の保養のためにアイリスの顔でも眺めようかとアイリスのいた方向に目線をやると先程までいたはずのアトリアが居なくなっていた。「まさか、捕らえられた?」と悪い推測が頭をよぎる。そして地面蹴り、アイリスを探しに行くのだった。



 今だアトリア無双は続く。


 五人来ようが十人来ようがなんのその。目の前に五人肉弾戦が得意そうなやつが同時にやってくる。


 アトリアは先手をとり、少し早めに刀を振る。相手には上体を仰け反らることで避けられたがそれでいい。

 アトリアは地面を蹴り上げ、相手の身体の重心が後ろに行ったことを見計らって一気に間合いを詰め振りあがった刀をそのまま首元に薙ぎ払い、二振りで決着をつける。



その後、走り続けたがアイリスは見つからず結局アトリアと合流していた。


「あと三人! 数は凄かったけど力はそうでも無いな、アトリア!」


「ええ! ハルトさん。こんな事に付き合ってもらってどうもありがとうございました!」


「ほう、もうお別れの挨拶はできたかな?」


 突如背後から聞こえる謎の声に二人は振り返る。するとガタイのいい男に首根っこを捕まれ人質になっているフィーリアの姿があった。あそこに隠れていればバレることがないと信じていたためこの状況に冷や汗が一滴また一滴と滴る。


「おっと、それ以上近付くとこの子の首にこれが刺さっちゃうぞ〜」


 すると男は胸ポケットからバタフライナイフの様な物を取り出す。そしてそのバタフライナイフを指先で煽るように回し始める。この男地味に上手いのが癪に障る。だがアトリアはこんな時にも冷静の姿勢を見せる。


「残念ですがあなたのそれは失敗しましたね」


「なに?」


 アトリアが一歩前に出て男を指さししながら「まだ分からないですか?」と問い話を続ける。


「あなたは私達に攻撃する手段を持たない。なぜならフィーリアさんを人質に取っているから、だからその行動は意味をなさない。お分かり?」


 男はアトリアの話を聞けば聞くほどニタニタと嗤う。なんだあの男、笑える状態じゃないでしょうに、自分が不利の立場分かっていいるのか、と野暮な事を考えていると男がついに吹き出し、アトリアの理論を笑い飛ばす。


「僕がそんなヘマをするとでも? 笑わせないでくれ、ちゃんと対策はしてあるさ!」


 言い終わると同時に男が手を他叩く。すると地面から突然大きい男が出てくる。普通の多いさでは無い、二メートルはゆうに越し三メートルに差し掛かっているぐらいだ。

 すると今だ笑い続けている男が「これなーんだ」と言いながら黒い円盤を見せつけるとアトリアが「それは!」と言いながら目を見開く。


「魔力機なのか」


「そうさ、魔力機なのさ。こいつの力でこの多腕野郎を隠していたのさ」


「多腕野郎ってまさか多腕族か!」


 すると背中に隠していただろう残りの腕が見える。彼の胴体から生える腕は四本だ。ハルトは一瞬こいつは人間じゃない。化け物だと思ってしまう。がこいつは亜人であって人間の類であるを思い出すと、ゾッとしていまう。


「厳密に言うと巨人族と多腕族のハーフさ、大きくて腕も人より多い。なんでこんなヤツいるか、分かる?」


「戦場に連れていけば役に立つから」


「そうさ、分かっているじゃないか」


「お前の事なんか分かりたくない! 私が知りたいのはハルトさんだけ!」


「え!?」


 アトリアの突然すぎるカミングアウトに驚きながらもその場の空気を察し、戦う体制に入る。


「今、アイリスの居場所が分からない。もしかしたら」


「え? わ、分かりました」


と小さな声で話し合う。アトリアに何を聞いても冷静沈着でこういうやつがグループに一人居るだけでグループが安定するんだけどなー、と無謀な妄想する。


 最初に動き始めたのは多腕野郎だ。アトリアの頭目掛けて叩きつけられる鬼包丁を身体を捻りながらギリギリで避け切る。

  次の瞬間、大きく隙が生まれた背中に向かって右足の蹴りが入り込む。アトリアは凄まじい感性で察知し、両足で蹴り上げベリーロールで避ける。否、頭が下になった刹那の時間、剣先で地面を突き回転の方向を多腕野郎へと変える。


 滑に着地した瞬間に両足で地面を蹴り飛ばし轟音を鳴らしながら弾丸のような速度で懐に入り込もうとするが鬼包丁がアトリアのお腹を狙って正面から振られる。それをアトリアは刀を振り下ろし、包丁の平の部分を叩き落としながら後ろに下がる。


「あなた、はぁ、やりますね」


 と息を切らしながらアトリアが話す。アトリアを追い詰めることが出来る存在はなかなかいない筈だ。そしてその数少ない人物がこの男である。無論、ハルトがこの戦いに混じれば邪魔になるのは確実であるからこそ自分の無力さが嫌になる。



 アトリアは刀を握り直し、相手に目を向け、刀を振り上げ間合いに入ると軽く屈み相手の頭に向かって刃を振るう。


 飛び上がった高さは四メートル、相手の身長よりも高く跳ね上がり位置的な優位性を取ると前転するよに全身を切り込む。

 もちろん相手の鬼包丁に防がれるが迷いなく叩き込む。その反動で体が跳ね上がると刀を左側に持っていき左側から切り込むが弾かれる。


 そしてまた跳ね上がる。その度に弾かれ跳ね上がりまた弾かれる。体はただ上下にしか動いてないが、アトリアの腕から繰り出される剣技はまるで嵐のように荒々しいがそこには自然な流れがあり、見るもの全てを釘付けにする。


 しばらくこの状態が続くと突然アトリアが両手で柄の部分を握り、体重を刀に乗せて力ずよく叩き込むと全て弾いていた鬼包丁が砕け折れる。そのまま刀を振り切る。多腕野郎は体を仰け反らせるが間に合わず思い切り胸を切られる。


 完全に切り込んだ訳では無いので死にはしなかったがそれでも相手に致命傷を与えられた事は確かだ。

 それを見逃さないアトリアは一気に踏み込み左側の腰から右側の肩まで切り込んだ。


「そんなまさか」


「どうやら勝負あったようですよ、お・ば・か・さ・ん」


「そんなそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いそんなことは無いありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないィィィィィィィィィィィィ!」


「おお、おっかね」


「おっかないですね」


 男は頭を前後に振り回しながら叫び散らす。その狂気っぷりにハルト達は一を引く素振りを見せる。


「有り得るからそうなんだんじゃないの?」


 突然聞こえる声に全員が意識を向けるとその瞬間その人は狂人の顔を思いっきり殴りつける。その正体にハルトとアトリアが見開く。その正体とは、

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