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第十話 お前には戦う義務がある

「なんだって!」


 アトリアがカツアゲをしていたチンピラ共が大軍連れてやって来た。なんて言い出すものだからハルトは大きく仰け反るように驚く。さらにもうこの家特定したというのか。日本というネット社会なら原因はすぐに分かるがそんなものが一切無い異世界でこんなにも家の特定が早いとは、恐るべし。そしてアトリアの言葉は続く、


「そう、さっきの人達だと思う。でも人がいっぱいなの、えと、何人ぐらいだっただろう」


 とアトリアが両手を出し指を折りながら数える。その行動にハルトは指で数えられるぐらいの人か、と勝手に安堵していたが想像や勘というのはなかなかに外れるのだ。


「五十人、くらいかな」


「は?」


「ごめんなさい!」


「いやいや、アトリアに対して怒ってるんじゃなくて。ちょっとーびっくりしただけさ、大丈夫」


 アトリアが歯をガタガタ言わせながら土下座する勢いで謝ってくるものだからハルトはアトリアの背中を擦りながら宥める。そして五秒ぐらいしてアトリアが「ほんと?」と手を祈りの形にしながら上目遣いで聞いてきたので「ああ、本当さ」と答えた。




「それ本当なの!?」


 その後、アイリスとフィーリアにも同じ事を話すと案の定驚かれた。アイリスは目を見開き、声を大きくして驚く。フィーリアは少し目をカッと開いたが、やがて表情は白く青ざめていく。あのフィーリアがあそこまで苦い顔をする物なんだなとフィーリアの人間味に興味が湧く。


「フィーリアが戦いに強いのは分かるがアイリスやアトリアはどのくらいかな強いのか?」


「私は魔法を少し。でも実践向きかって言われたら厳しいかも」


「私は魔法については分かりかねますが剣術を少しやっていました。ので足は引っ張らないと思います」


 アイリスは魔法。そしてアトリアは以外にも剣術を修めているらしい。剣術なんて女の子なのにすごいなーと、感心しているとアトリアが「でも今剣の持ち合わせが無くて」と言っていた。


「え? それやばいじゃん」


「ええ、やばいんです」


 ここで新事実! アトリア戦力外通告のお知らせ! なんて頭の中でバカげたことを考えていると、ずっと人差し指の上に顎乗せ、考える素振りを見せていたフィーリアが「あっ」と言いながら手と顔を離す。それに吸い込まれるように全員の意識が一瞬でフィーリアに向く。


「ハルトが昔、これくしょんだー! とか言って買ってた真剣があるのよ。ハルト、それを使うのはどうかしら?」


「おお! それは良いな! アトリアもそれでいいよな」


「私はいいですけど…… 悪いですよ、ハルトさんの私物を使うなんて、剣なんて刃こぼれしたり最悪折れたりするんですよ」


 アトリアの顔が言葉が出れば出るほど暗くなる。心配そうで不安そうな顔でハルトに訴えてくる。ハルトは思う。この子に暗い顔をさせてはならないと。だからハルトは満面の作り笑顔で、


「大丈夫大丈夫! 俺剣術なんて出来ないし、どうせ持っていても使わないだけだし。折っても割っても構わんぜ!」


「で、でも、そんな」


 アトリアの顔から不安の色が消え心配の色がより一層濃くなる。あれこれ失敗したか? と一瞬悪い想像が頭をよぎるがまぁ不安にならないだけマシかとすぐに安堵する。


「じゃあフィーリア、その剣持ってきてくれ!」


「おーけー、なのよ」


 とフィーリアはハルトの要求に一瞬ニヤリと笑うと、そそくさとこの場を離れ、階段をスキップ踏むように登って行く。見てる側としてはとてもヒヤヒヤする感じになるがそんな事を知る由もないフィーリアはハルトとの共同部屋に向かった。




「お待たせしたのよ!」


 と未だにニヤついているフィーリアが普通に歩いてた帰ってきた。そして右手に持っていたのはまさかの長剣である。いや厳密には日本刀の太刀のような形をしていたため刀と言うべきか。

 黒色の鞘に金色の鍔と言う高級感満載の一振りだ。この長さはフィーリアも持ってくるのはさぞ大変だっただろう。

 長さは九十センチから百センチぐらいだろうか、ただなんにしろ百五十センチにも満たないアトリアの小さな体ではとても扱えそうにない代物だった。それを見たハルトとアトリアは思わず、


「長いな」


「長いですね」


 ハルトとアトリアの意見は見事一致した。否、恐らく誰がどう見ても長いということだろう。なんせアトリアのお腹のしたら辺まで来る長剣なのだ。フィーリアがアトリアに対して「持ってみるかしら?」と問うと、アトリアは小さく頷きフィーリアから刀を受け取る。


 アトリアが両手で下から支えるように持った瞬間、アトリアの姿勢がグッと前に倒れる。それだけ重いのだろう。

 昔、本で読んだことがある。この手の剣は見た目や数字で見るよりもずっと重いらしく、実際には四キロぐらい程度の物なのだが危険な物、真剣を持っていると言う若干の恐怖と緊張で人間の体感的には十キロをゆうに超えるらしい。


「失礼します」


 と小さくアトリアが呟き、両手でおもむろに黒色の鞘から刀身を引き抜く。甲高い音と共に現れた刀身は煌びやかな合金鋼で深い銀色の光を放っている。否、本来は見えるはずのない大気中のマナが刀身に反射してまるであたかも刀が光っているように見えるのだ。その輝きにその場いた人は皆言葉を失ってしまう。

「これはぁ」と、アトリアが緊張で額から冷や汗が一粒滴る。するとハルトに向かって半泣きしながらすごい気迫で、


「こんなの使えません! 丁重に、てーちょーにお断りさせていただきます!」


 丁寧に勢いよくハルトに刀を押し付けるように飛んできた。あまりの気迫にハルトは思わず右足を一歩後ろに引いてしまう。アトリアはその気迫のまま言葉を続ける。


「お願いします! 他に剣があるならそちらを! 無いのであれば私の身柄と交換と言う名目で交渉してきますので! この刀だけは扱えません! どうかご勘弁を!」


 アトリアが涙と鼻水で顔をぐじゃぐじゃにしながら懇願してきた。ハルトは「えぇ」と言いながら困惑する顔つきを見せる。だがハルト自身答えは決まっている。


「前者ならともかく、後者の交換はダメだ! フィーリア他に剣は無いのか?」


「生憎とハルトの持っている剣はそれの一本だけなのよ」


「じぁ、いいです。気を負うことは無いです。今までありがとうございまた」


 アトリアが下を向き失望した様な顔で後ろを向き、どこかに行こうとした瞬間ハルトがアトリアの肩をつかみながら言う。


「そんな顔した状態で帰らせるわけないだろ」


「え?」


 ハルトの言葉を聞きアトリアは困惑した顔で振り返る。ハルト自身何故ここまでこの子に拘るのかは分からない。心にあるのは助けると言う一心しかない。ハルトはさっき一度返された刀を持ちアトリアに託す。


「お前はこの刀で敵を倒してくれればいい。俺は苦手な魔法を使って奴らを追っ払う。俺達に頼って欲しい。だから、握ってくれるか、アトリア」


「ああ、えぇ」


 アトリアは目に薄ら涙を浮かせながら頬を赤くして、そっと刀を握りハルトは達に頼った。




「それにしてもそんな長い刀扱えるか? アトリア」


「えぇ、恐らく問題ないと思います。幸いな事に私は長剣しか振った事がないので。流石にここまで長い剣は無いですけど」


 長剣が得意なら尚のことアトリアの戦力に期待ができる。魔法を得意するアイリス、ハルト、フィーリアが全体攻撃で倒し切れなかった奴をアトリアが倒していくと言う戦法が最も良いんじゃないだろうか、と戦術を立てているとフィーリアが突然口を開き、


「あそうそう、ハルト。フィラは今回の戦いでは戦力にならないのよ」


「は?」「え?」「へ?」


 フィーリアが出した突然の戦力外通告に全員が五秒くらい呆けた顔になる。一方その頃当の本人フィーリアと言うと「当然なのよ」とすまし顔で髪の毛をコネコネいじっている。この中で最も最高戦力になりうる人材だ。そんなフィーリアが何故戦えないと抜かすのだろうか。


「ど、どういうことだよ! フィーリア! 戦力にならないなんて、おかしいだろ!」


「はぁー、当然なのよ、昼間にマナを使いすぎてもう残量がほぼないのよ。ほら、あんな長い時間ハルトに強化魔法使った筈なのよ。だからこその戦力外宣言なのよ」


「そんな、まさか」


 フィーリアの言っている事には納得だった。しかし、フィーリアが使い物にならないとなると、残ったのはまともに魔法が扱えないハルトと自らが弱いと明言したアイリス。そしてどの程度強いのか分からないアトリアが残る事になる。しかしどうしたもんか、こんな心配だらけの面子だけで五十人相手にまともに戦えるだろうか。


「ハルト、フィラが全く役に立たないわけじゃないのよ」


「え?」


「フィラが言っているのは戦力にならないっているだけであってハルトの魔法に軽い手解きを入れるぐらいならできるのよ」


「つまりはフィーリアは俺が使う魔法のサポートなら出来ると」


「そう言う事なのよ」


 全く使い物になるわけじゃないとの事なのでほっと一安心する。そして窓から暗くなった夜空を見上げ今日は一段と落ち着かない日なるのだなと実感するのだった。

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