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少女と鬼さん  作者: 鈴蘭
少女と鬼さん
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5話 事件の足音

時計屋に訪れた日の翌日、ジュリアは狐の双子の金狐と銀狐と共に夜叉の家の近くで遊んでいた。


「ジュリアちゃんの好きな物は?」


「おにぎり!!やしゃ!!」


聞こえてきた言葉に夜叉少し微笑んだ。


金狐が質問していると同時にジュリアもまた言葉を学べているのだ。


「じゃあ、嫌いなものは?」


「う?」


「例えば……これ!」


金狐が持ち上げたのは玄関前に置いてあった新鮮なピーマンと人参だった。


「ジュリア!!きらい!!」


「やっぱり!私と同じ!!」


やっぱりか、と今度は苦笑を漏らした。


昨日の夜ご飯に出したピーマンと人参が入った和え物をジュリアは酷く嫌った。

好き嫌いはあまり良くないとはいえ夜叉にも苦手なものはある手前あまり強くは言えなかったのだ。


そのあとはひたすら遊んでいた。

金狐の身振り手振りと簡単な言葉によって少しずつ遊びの内容を理解していたジュリアだった。

遊びというものは子供を成長させるのだな、と夜叉は縁側で茶を啜っていた。


銀狐は相変わらず表情を変えないがジュリアのことを見ると時々眉間にシワを寄せていた。

見た目は子供なのに大人顔負けの雰囲気があった。


そんな雰囲気の中、1人の大声が響いた。


「おい!!夜叉!!ちょっと街の方まで

 来てくれ!!妖が血を吐いて倒れた!!」


上半身は人間そのものだが下半身が馬の妖が猛スピードで夜叉の前まで走ってきたのだ。

ジュリア達は妖に驚き端へ避難していた。


「血を?!分かった!!すぐに行く!」


「あ!ジュリアちゃんのことは任せてくださいー!」


「すまない!!」


そう言い残し、夜叉は街へと姿を消していった。

少しした後、取り残された金狐達は次は何をして遊ぼうかと話し合っていた。


そこで、今まで口を噤んでいた銀狐が口を開いた。


「…かくれんぼしよう。

 僕とジュリアで一緒に隠れるから…。」


「じゃあ私が鬼だね!!分かった!!

 いーい?ジュリアは隠れるんだよ?」


「う!!」


金狐はさっそく数を数え始めた。


「いーち!にーい!さーん!……」


そして銀狐はジュリアの手を掴み積み上げられた木材や樽を階段にし柵を越えて家の裏の雑木林へと入っていった。


「…、しばらく静かにしてて…。」



「………。」


「あぅ!!うぅう!!!」


ジュリア達はかれこれ20分は雑木林を歩き続けていた。この雑木林はかなり広く、人が迷い込んだら一生出られないと言っても過言ではないくらいだった。


銀狐の掴み方は夜叉や金狐とは異なり爪が時々食い込み痛みを伴った。しかし銀狐は歩みを止めず途中からはジュリアをほぼ引きずる形で雑木林の間を縫っていった。ジュリアは何とかその手を振りほどこうと暴れたが銀狐の手の力は見た目に合わずとても強かった。


「うう!!!きらい!きらい!!

 ジュリア、銀狐きらい!!!」


既に金狐のいる場所からは遠く離れており

声も届かない状況だった。


「…昨日からずっと思ってた。

 なんで人間なんかが金狐に馴れ馴れしく

 しているんだろう、って。」


銀狐は歩きながら淡々と告げた。しかし、その言葉には確かな怒りが含まれていた。

が、ジュリアはそれに気づくことは無かった。

銀狐とジュリアの周りは歩いているうちに木々がより一層濃くなっていた。


「きらい!!」


「…ほんっと。

 金狐の優しさにつけこんで卑しいんだよ。」


すると、銀狐は川の前で止まった。だいぶ林の奥深くに来てしまったことをジュリアは悟ることは出来なかった。


「いっぺん頭冷やしてこい…。この人間風情が。」


そう吐き捨て銀狐はジュリアを川に突き落とした。



その頃、夜叉は街で倒れていた1つ目の男性が病院へと運ばれるのを見送った後とある女性に声をかけられいた。


それは1つ目族が経営する酒場のステージでよく歌っている女性だった。真っ赤なルージュと大きな1つ目を縁どる濃いまつ毛の魅力が様々な妖を虜にしていた。


その女性は顔に手を当て困ったように問いかけた。


「夜叉さん、うちの店にいた人が倒れたのは

 今回で3回目です。

 流石におかしいですよね……。」


「あぁ、何か事件性があるようにも思えるな…。」


「1回目はうちの店の厨房の女性作業員、

 2回目は客として訪れていた時計屋の兎さん、

 今回は食事を運んでいたウェイターが……。」


「しかも全員回復の見込みがない状態だと

 思うと……。」


そう、どの妖も外傷もなくただ苦しみ続けているだけだった。

夜叉は酒場の中をちらりと伺った。

ウェイターが倒したテーブルの花を差し替える女性や汚れたテーブルクロスを運ぶ男性など店内は慌ただしい様子だった。


「毒……とかだったとしても盛ることの

 出来る厨房の人間が倒れているんです

 よ……。厨房は3人で切り盛りしていて

 そのうちの1人は皿洗い担当でもう1人は

 食材を切る担当ですし……。」


「倒れた奴は?」


「調理して皿に盛るという役割だったんです。

 うちの店は見た目より味を第一に考えているの

 で飾り付けはそこまで凝ってません。

 お客様もどちらかというと演奏や歌を聞きに来

 ているので作るのもおつまみ系が多いですね。」


妖は基本、食事を娯楽として捉えているためかそこまで頻繁に物を食べたりしない。よって飲食店の入りは人間界よりも少ない。厨房も3人で十分なのだろう。


毒の線で行くとウェイターが倒れたという事がおかしな話になる。ウェイターは食事を口にしていないのだ。


「ウェイターは何をしていたんだ?」


「あの子は仲のいいお客様がいらっしゃったので

 お話していたそうなんです。明るい時間帯だっ

 たのであまり人もいませんでしたから…。

 そしたら急に口から血を吐いて倒れてしまっ

 て……。もちろん食事を頂いたりなどはしてい

 ませんでした。」


悩めば悩むほどおかしな話だ。とりあえずこの件は患者の様子を見ながら進めるということになった。


そうして夜叉が街を後にしようとしたその時だった。


「夜叉様っ……!あの……ごめんなさいっ……

 その、ジュリアちゃんが……」


夜叉は泣いている金狐の言葉を聞き顔を真っ青にさせた。



夜叉は走って家へと戻ってきた。

しかしそこにジュリアの姿は無く、代わりに傷だらけの銀狐が術の解けた狐の姿で横たわっていた。


「何があったんだ!銀狐!!

 ジュリアは……?!一体……?!」


「銀狐!!夜叉様連れてきたよ!」


「金狐……夜叉様……。」


狐の姿の銀狐は目だけでこちらの事を確認した。


「知らない妖に襲われて……。ジュリアも

 連れて……いかれてしまいました……。

 申し訳ありません………。」


夜叉は銀狐の前に膝を着いた。


「どこでだ?!どこで連れていかれたんだ?!」


夜叉は食い気味に聞いた。

それに対し銀狐は家の裏の雑木林を指さした。


あの、とても入り組んだ雑木林を見て夜叉は冷や汗を垂らした。


「み、見た目は?!どんな感じだった?!」


「急に襲われたので、よく……」


それを聞いて夜叉は銀狐の前から立ち上がった。


「や、夜叉様?!」


「ジュリアを探してくる!!

 金狐はお前達の師と先生を呼んできてくれ!」


「分かりました!!銀狐!待っててね!!」


夜叉は木々が入り組む雑木林の中へと走っていったのだった。

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