女騎士病と呼ばれた少女達
出落ちには……させない!!
その昔、『女騎士病』と呼ばれる奇病が国中の至る所で起きた。感染源は不明な上に一度罹ると決して治ることは無い。各地の医者が匙を投げた不治の病、その症状とは―――
「ほらアンナ。ご飯だよ」
「んほぉぉぉぉ!! んほぉぉぉぉ!!」
「……美味しいかい?」
「んほぉぉぉぉ!! んほぉぉぉぉ!!」
「そうかい、そうかい……」
「んほぉぉぉぉ!! んほぉぉぉぉ!!」
アンナは今年で十四歳になる少女だ。二年前に突然『女騎士病 N型』に罹り、自宅療養を余儀なくされている。
女騎士病に罹ると、特定の言葉しか話せなくなると言われている。日常会話は成り立たず、親しい間柄でも僅かな感情しか読み取ることが出来なくなる。他者との交流を絶ち一人で生きる事の出来ない子どもにとって、女騎士病はまさに恐ろしい病気だった……。
「アンナはどうだい?」
「今ご飯を食べてるわ……」
「あらゆる手を尽くしたが、未だに治らないのか……」
「アナタ、大人が諦めたらダメよ。きっと治せるわ」
「……そうだな。今度温泉にでも行こうか。良い気晴らしになるさ」
「そうね。たまには良いかもね」
こうして親子三人は、慰安旅行を兼ねて遠方にある湯治の湯へと出掛けていった―――
―――所変わって、こちらはとあるお金持ちのお屋敷にて……。
「ひぎぃぃぃぃ!! ひぎぃぃぃぃ!!」
「嗚呼……我が娘がよりにもよって女騎士病なんかに!」
「ひぎぃぃぃぃ!! ひぎぃぃぃぃ!!」
「しかも変な顔で何と情けない事か!」
「ひぎぃぃぃぃ!! ひぎぃぃぃぃ!!」
「仕方ない……暫くの間、何処かで隠居してもらおう」
『女騎士病 H型』に罹った一人娘のナンシーは、世間体を気にする親の都合で暫くの間湯治の湯にて療養する事となった―――
―――そして、その湯治の湯にもまた一人……。
「くっ……殺せ!! くっ……殺せ!!」
「村の医者は流行りの『女騎士病』と言っていた……」
「くっ……殺せ!! くっ……殺せ!!」
「大事な温泉宿の跡継ぎが……女騎士病だなんて!!」
「くっ……殺せ!! くっ……殺せ!!」
「一体どうしたら……!!」
温泉宿を経営する両親の間に生まれた娘マーサ。彼女もまた『女騎士病 K型』に罹った一人だ。両親は忙しい合間を縫っては彼女のケアを親身に行っていた。
「!!」
「どしたのさ、あなた?」
「少し前に、家の温泉が女騎士病に効果があるって噂を広めたんだ」
「あなた……嘘は良くないわ。現に家の娘も……」
「各地から女騎士病に罹った人達から予約が殺到しているんだ。そこでだ、同じ患者同士で情報を共有すれば何か良い方法が見付かるんじゃないか。って!」
「あなた……頭良いわね!!」
こうして、宿の主人が娘の為に広めたデタラメの噂を信じ、各地から女騎士病の人達が集まったのだった―――
「アンナ。着いたわよ」
「んほぉぉぉぉ!! んほぉぉぉぉ!!」
母親と共に温泉で疲れを流すアンナ。源泉かけ流し乳白色の肌に優しい湯質は、日々の憂さを忘れさせてくれるのだった……。
「ひぎぃぃぃぃ!! ひぎぃぃぃぃ!!」
「お嬢様! 走ってはなりません!」
―――ジャボーン!!
盛大に温泉に飛び込むナンシー。付き添いのメイドは実に気難しい顔をしていた。
「くっ……殺せ!! くっ……殺せ!!」
静かに温泉に浸かるマーサ。我が家の温泉を知り尽くした彼女にとって、他の利用客と接する機会は数少ない交流の場であった。しかしそれも今では会話が成り立たず、彼女は静かに湯に入るのみである……。
「んほぉぉぉぉ!! んほぉぉぉぉ!!」
「ひぎぃぃぃぃ!! ひぎぃぃぃぃ!!」
「くっ……殺せ!! くっ……殺せ!!」
こうして、三人の少女達は時を同じくして同じ湯に入る事となった。
――翌日――
「アンナ。そろそろ起きて」
朝のゆっくりとした時間はあっという間に過ぎ、朝ご飯が運ばれてくる。香ばしい肉の薫りでアンナはパチリと目が覚めた。
「……んほぉぉぉぉ!! ひぎぃぃぃぃ!! くっ……殺せ!!」
「!?」
「ひぎぃぃぃぃ!? んほぉぉぉぉ!! くっ……殺せ!?」
「大変! アンナの語録が増えてるわ!!」
両親は驚いた。何とアンナは昨日一緒に温泉に入った少女達の女騎士病の型を全て貰ってしまったのだ!!
「おお……! 何と可哀相なアンナ……!!」
「……待て。これはひょっとして……!!」
アンナの父親は急いで残りの二人の少女の元へと駆けた。父親の目論み通り、残りの二人も同じく語録が増えていたのだ!
「おい! 暫くアンナをココに泊めるぞ!!」
「ええっ!? ど、どう言う事かしら!?」
「くっ……殺せ? んほぉぉぉぉ!!」
各地から集まる様々な女騎士病の少女達。アンナはその全ての人と温泉に一緒に入った。
「んほぉぉぉぉ? ひぎぃぃぃぃ!!」
「絶対に……負けない!!」
「お、堕ちる~!!」
「よくもこんな辱めを!!」
「この不潔者!!」
「は、離せ痴れ者……!!」
そして順調にアンナの語録が増え始めると、それを真似してより多くの女騎士病患者が集まったのだ!!
「おほはよぅ ご罪マす……」
ついにアンナはあらゆる女騎士病の型を手に入れ、何とか言葉らしく話すことが出来るようになった!!
「アナタ……アンナが……!」
「良かった……良かった……!!」
毒を食らわば皿まで。それを体現したアンナは全国を回り、女騎士病の子ども達と一緒にお風呂に入る旅に出たという…………
読んで頂きましてありがとう御座いました!!
おほ……おほぉぉぉぉ!!
は ……は、離せ痴れ者!!
よぅ……勝てなかったよぅ……
ご ……ご、ご主人様ぁぁぁぁ♡
罪 ……罪人共が……!!
マ ……〇〇〇気持ちいいのぉぉぉぉ!!
す ……す、すまぬ……!!