タイムスリップは失敗する
人生は後悔の連鎖で出来ていると、僕は思ってる。取り返したい過去や、取り返しのつかない過去。それぞれ消したくても消せない、忌まわしき後悔。
けれど、運が回ってきたのか僕は目を覚ますと、眼前に広がるのは過去の世界だった。
何故それが過去なのかも説明ができる。
そこに居たのは、後悔の一つである死んだ彼女がいた。
ベットの上で規律良く吐く彼女の呼吸は、生気をを感じてこれは夢ではないと確信した。
しかし、なんなのだろうか。一つの違和感を体が感じる。
一緒に被っている毛布は質量を感じず、周りも見たことの無い真っ白な空間。そして、また不思議なのがこの光景は自分の記憶の中には存在していないのだ。
確かに、僕は彼女と同棲していた。しかし、ダブルベッドで一緒に寝ていた覚えはない。
「起きたんだ」
僕が困惑している中、目を閉じたままの彼女がポツリと声を落とした。
「ここはどこ?」
僕は、何も考えずに思ったことを口に出した。
「何をおかしなことを言っているの?ここは、私とあなたの部屋じゃない」
クスクスと笑う彼女は、冷たい笑み落とし、そしてその声も温度のない冷ややかなものだった。
「……でも、僕は知らない」
「そうね。貴方は知らない。だって貴方の部屋じゃないもの。けど、あなたの部屋よ」
すると、僕はその意味のわからない言葉がだんだんと分かってきてしまう。
だから……。
「僕は元気そうかい?」
「さぁ、けど元気では無いわね。私の中で今こうして貴方と話せているのが不思議なぐらい」
「彼とは上手く行きそう?」
「よく分からないわ。未来から来た貴方の方がよく知っているんじゃないの?」
「まぁね」
「一つだけいい?」
すると、今まで淡白だった彼女の声が、糸を張るような緊張した声で言った。
「なんだい?」
「もう一度、貴方に会える?」
泣きそうな彼女の目は、今にも水滴がこぼれそうだった。
僕は、一度吸った息を吐き出して、感情を抑えて答えた。
「さぁね」
はぐらかしたと同時に目の前が暗転した。
これで、彼女は救われるだろうか。
意識不明の僕が目を覚ました時に会いに行く時も、落ち着いて信号を渡ってくれるだろうか。
僕はただ、目まぐるしく点滅する景色を目の前にして、そっと僕の意思が伝わるように、祈り続けた。
僕の思惑が失敗しないようにと。