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遺跡での戦い5

ブクマありがとうございます。

本日2話目となっております。ご注意ください。

おそらくですが、しばらくの間1日2話更新になります。


「落ちたって、どういうことだ?」


 何が起きたのか全くわからない。いきなりいなくなった理由が知りたい。そんな僕にカナデはゆっくりと教えてくれる。


「床が崩れて落ちたんです……ユキさんは私たちを突き飛ばして助けてくれたんです」

「そんな……」


 落とし穴。ユキが落ちたのはそういう罠で間違いないのだろう。どこから落ちたのかよくわからないけどもう塞がってしまったのか確認することができない。いや、それでも飛び込んだとしても危険すぎるから厳しいけど。


「アカリさん」

「ユキを助ける。下に向かおう」

「そうですね。急げば間に合います……ユキ様を救いましょう」


 カナデが聞いてきたけど、すぐに方針を決めて僕たちは先にするむ。でもここにはサラちゃんもいるからそれを気にしないで走るわけにはいかない。それでもできる限り急ぎ足で僕は階段を降りて行った。ルナたちも同様についてきてくれる。


「お姉ちゃん大丈夫かな」

「大丈夫! だから急ぐんだよ」

「そうですね……ただ、私が一緒じゃないので」

「……」


 僕たちが、今も、これまでもここで発生した魔物たちに襲われていないものカナデがこうして一緒にいてくれるからだ。てか今更だけど僕が聞いたカナデの能力ってただ話を聞けるだけじゃなかったの? もはや、別物なんだけど。動物と魔物は違うんだけど。


『何を言っているの? 全部同じ生き物じゃない。言葉を話すし。()から見たら人間も全て同じよ』


 そういうものなのか。だから今までの動物たちと同じようにここの魔物たちも全部カナデに協力してくれる、と。そういうことなら、納得できる。


『だって、あなたたち、旅の途中で何かに襲われることなかったでしょ?』


 山賊ぐらいだったものね。それに言われてみれば、確かに魔物も普通にそこらへんの道にいたとしてもおかしくはないよね。


「カナデ、大丈夫か?」

「はい、なんとか、大丈夫です」


 さっきから辺りにいる魔物の数が増えてきている。それらの声を全て聞くとなれば精神的にかなり厳しいだろうな。人間だって大勢の人間の言葉を同時に、いや、そもそも動物たちの鳴き声でいっぱいだとうるさくて耳を塞ぎたくなるもんね。


「カナデ様、無理をなさらぬよう。いつでも殺せますので」

「ルナほどじゃないけど……僕も準備しておくよ」


 ここだと使える能力が限られているから……そうだな、竜巻でも発生させるのが一番確実だろうと思う。逆に言えばそれくらいしか使えないとも言えるけど。僕とルナの言葉を聞いてカナデは優しく微笑む。


「ありがとうございます。ですが、大丈夫です。先ほど、ユキさんには助けられましたから」


 だから、助けたい。その気持ちは非常によくわかる。そして、しばらく走っていると、昨日、ゴブリンキングたちと戦ったところ以上に開けた空間に出た。


「これは」

「あれは」


 そして僕たちが入ってきたところの正面に、巨大な石像が置いてあった。日本で言うところの阿修羅みたいな感じの頭が三つあって手が6つの。いや、どうして石像があるのかって突っ込みたいのだけど、その真下に水色の玉が置かれたあった。間違いない、新しい宝玉だ。


「早く取ってユキ様を探しましょう」

「そうだけど……ルナ、戦闘の準備をしておいて」

『まあ、でしょうね』


 ユラムからのお墨付きをもらったので間違いないだろう。てか、こういう時のお約束だもんね。僕は宝玉を手に取ろうとした。


『汝、我が試練を望むか』

「やっぱり来た! サラちゃん、カナデ、栞、下がってて『雷』」


 三つ頭の石像が急に動き始めると、そのまま僕のところに向かって手を叩きつけてきた。それを粉砕するために雷を発動させる。落雷と同じだけど落が頭についていないからなのか、神杖から電気が迸って石像に直撃する。


「ご主人様!」

「ルナ、助かった」


 そして風が吹いて、僕は石像から離された。ルナが風を使って距離をとらせてくれたのだろう。


「ご主人様こそ、大丈夫ですか?」

「平気。それよりも、全力で行こう」


 ルナに声をかけて、僕は立ち上がり、石像を見据える。ユキと離れ離れになってしまっている以上、早いところ合流したい。そのためにはさっさとこいつを倒さなければいけない。


「ここまで温存できましたから、全力で潰します」


 ルナの言葉とともに風が集まって、頭のうちの一つを消し飛ばした。


「ルナ、助かった」

「いえ、手早く終わらせましょう」


 ルナが頭を一つ吹き飛ばしてくれたおかげか石像の動きが少しだけ遅くなった。これくらいの速度なら、僕の能力での攻撃を当てることができる。


「いくよ『かみな』」

『ちょっと待って』

「ん?」


 また雷を飛ばそうとしたらユラムに止められた。


『「分別」の力もいいけど、「忠義」の力を使うのもいいと思うわ』

「忠義の力?」


 忠義ってあれだよね。結界を張ることができるっていうやつ。でも、それを使ったところで相手の攻撃を防ぐことぐらいしかできないと思うのだけど。


『まあ、伝えてなかったからね。イメージしなさい。結界を張るということは何かから守ると同時に閉じ込めるという風に捉えることもできるわ』

「捉える」


 確かに言われてみれば結界を貼ったとして、その後結界を維持し続ければその囲っている相手は結局外側と同じように結界を破らなければ移動することができない。結界を使って相手を閉じ込める。それも立派な戦い方だろう。それをもう少しだけ拡張させて相手の一部だけを覆うことで動きを抑えることが可能だ。ここに来てからのカナデやユキを見て思う。どんな能力も使いようだって。


『それを使って腕の動きを止めなさい。そうすればルナが終わらせてくれるわ』

「そうだよね」


 僕がユラムから声をかけられて止まってしまった間、ずっとルナが戦っていた。石像の腕がどんどんルナに迫っていて、先ほどみたいに頭を吹き飛ばしたみたいな強力な攻撃をするには少し集中する必要があるみたいで思うように戦えてないみたい。なら、それを手助けしないとね。


「ルナ、僕が石像の動きを止めるから、それに合わせて『忠義』」

「!、ありがとうございます」


 狙うは石像の腕の……肘あたりの部分。全部で6つある腕全てに結界を同時に貼る。そして、そのまま結界を同じ場所に(・・・・・・・・)維持する。移動しないように気をつけないと。


 そして、ユラムが言っていたように結界が貼られていることで石像は動きを止めた。そして、石像が動きを止めたことで、ルナがしっかりと集中させる時間を作ることができた。


「これで、終わりです」

「僕も手伝うよ『竜巻』」


 石像の足元から風の渦を発生させる。そして一方のルナも風の渦を作り出している。いや、それだけでなく、同時に水の渦も発生させている。さらによくよく見れば若干電撃が走っているようにも見えるのだけど……


「ご主人様のおかげでしっかりと集中することができました」

「うん、そうだね」


 僕が一つ、ルナが二つの渦を発生させたことで石像の体はバラバラに砕け散ってしまった。これで、試練は終わったとみていいのだろうな。僕は先ほどの宝玉が置かれていた場所に近づいていく。


『それは「勤勉」の宝玉ね。いわゆる模倣の能力を持っているわ』

「模倣」

『ま、と言っても当人に比べれば相当劣化だけどね。さらに使えるのは近くにいる、言ってしまえば戦っている相手のみってことね』


 そういうものか。でも、これで相手の能力を推測したりとかできると思えば相当便利な能力だよな。使うにあたってユラムが解説してくれれば、の話だけど。


『あんまり私を当てにしないの』


 わかったよ。まあ、それでも相手に合わせて使えば混乱させたりすることができるし、結構便利な能力だと思うけどね。


「ご主人様? どうかされましたか?」

「え? あー、ごめん、この宝玉の説明を受けてた……ユキを探そう」

「はい」


 またしてもユラムとの会話に熱中してしまっていたのでルナに咎められてしまった。ユキの命が危険だっていうのにさすがに不謹慎すぎた。カナデたちの方に戻ると、不思議そうな顔をした栞がいた。


「どうしてその子、湊くんのことをご主人様なんて呼んでいるの?」

「あー、ルナはもともと奴隷だったんだ。それで色々あって僕が買ったんだよ。だからそう呼ばれてる」

「へえ、そうなんだ」


 放っておいてもルナが勝手に言うだろうから僕は正直に答える。戦闘中につい、従来の呼び方をしてしまうのはもうしょうがない。それに今回は若干非常事態だし、僕はとがめる気はない。そう思っていたらルナが思い出したかのように、


「そういえばアカリ様、というようにと言われていましたね。すみません」

「まあ、緊急事態だから気にしないで。それよりもユキを優先しよう」

「はい、そうですね」

「湊くんが奴隷ねぇ」

「やっぱりおかしいか?」


 栞がこの話題に食いついてきたので意外に思いながらも会話を続ける。僕だって若干慣れてきたけれど最初は違和感があったもんな。


「うーん、まさかとは思うけど、この子が奴隷なのをいいことにエッチなことをしてるんじゃないよね?」

「なんでみんなそういう方向に持っていきたがるの!?」

「ご主人様は今の所私に手を出しておりませんので」


 今のところってどういうこと? もしかして僕近い未来ルナを襲うことがあるっていうことなの? 思わず声に出したかったけれど、さすがにそんなことはデリカシーに欠けすぎている、と思ったので自重した。それに、ルナは普通に美人だし、全部ことが落ちついて僕が恋愛とかを考える余裕が出た時にふらっと落ちる可能性もなくはないからね。


『変態』


 なんか著しく不服なんだけど。でも、やるべきことは見失っていないから、恋愛とかそういう娯楽系のことは終わってから。橘たちを救ってからだ。


「それで、ユキ様の居場所はどうやって探しましょうか」

「それとなく聞いてみたけど、知らないようです」

『まあ基本的に見つけた人間を片っぱしから襲うのが普通だからね』


 だからユキを見つけていたらユキを襲っていると。ということは逆説的に考えればユキのことを知っている魔物がいないと言うことはユキを襲っていないと考えることができる。つまり。まだユキが生きている可能性が潰えていないということだ。


「まだ、希望はある。諦めずに探そう」

「この場所は魔物たちも入ってこないみたいだから……悔しいけど私とこの子はここで待機?」

「いや、栞はカナデと行動してくれ。そしてサラちゃんは僕と一緒だ」

「え?」

「どうして?」


 栞がおずおずと足手まといになることを危惧して待機することを言ってくれたけど、僕はそれを否定する。


「見つけてもユキが怪我をしていた時に何もできないのではまずいからね」


 だからサラちゃんや栞にも動いてもらいたい。でも彼女たちは一人で移動させるのはさすがに厳しい。だからまだまともに戦える僕と絶対に安全なカナデと一緒に行動してもらう。ルナを一人にさせることはちょっと抵抗があるけど、一番一人で動いても平気だし、大丈夫だろう。僕はそう説明した。


「わかりました……では、少しして見つからなかったらここに戻るということですね」

「ああ、大丈夫か?」

「おそらく迷うことはないと思われます」

「おっけー」


 そしてカナデの方を見れば彼女もうなづいてくれた。うん、カナデなら絶対に迷うことはないし、僕もユラムがいるから迷う可能性は低い。正確には迷ってもなんとかなるっていう方が正しいけど。


『そうねぇ。万一の時は教えるけど……その必要はないみたいね』

「うん?」

「どうしたの? って、あ!」

「アカリ!」


 ユラムの言葉に不思議そうにしたら、栞が何かに気がついたようだった。僕が後ろを向くと同時に、ユキが僕に飛びかかってきた。え? あ、よかった。でも


「やっぱりお前も来ていたのだな、湊」


 どうして、橘たちが一緒にいるんだ?

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