遺跡での戦い
本日二話目の投稿になります
「あ、見えてきたわ」
「あれが……サングイネの街」
ヒヨリが冥界に行ってから、いや、行ってだと逝ってみたいな風に考えてしまうからやめておこう。勤めを果たしに行った……うん、これだ。それから僕たちはサングイネの街にあるという地下遺跡に向かっていた。そこに5つ目……橘が一つ持っていると考えたら6つ目の宝玉があるみたいだ。だから、そこを目指している。
「さて、と。もう攻略に行く? それとも今日はもう休む?」
「休もっか。今日はもう疲れちゃったし」
ユキからの質問に対して僕はそう答える。こういう時ヒヨリがいたらさりげなく休むことを提案してくれていたけど……まあ、彼女も彼女で頑張っているし泣き言は無しだ。
「そうですね。いい宿があればいいのですけど」
「そうだね」
カナデの言葉を聞きながら僕たちは街へと入っていく。街の様子といえばかなり栄えているみたいだった。ただ栄華の街や昌栄の街と比べると武器屋とか薬屋とかが多い感じだ。商売が盛んなのだろうか。
「いえ、商売なら昌栄の街の方が盛んですね。ここは武器と言った所謂ダンジョン攻略に必要な者が栄えているって感じです」
「そうなのか」
ルナの説明を聞いて納得した。地下遺跡があってそこには様々な人間に悪意をなす生き物が存在しているらしい。際限なく湧き出ているからそこでギルドへの討伐依頼が後を絶たないとか。定期的に倒しに行かないと出てきてしまうみたいだからね。そういう背景があってここではこういうお店が増えたのだろう。需要があるから供給が栄える。自然なことだ。
「ふーん」
「アカリも何か武器とか買うの?」
「いや、いいよ」
ユラムの杖があるからこれ以上は何もいらないからね。絶対に破壊されないしオプションで色々な能力を使用可能とかズルにもほどがある。こんな素晴らしい武器を持っているのに別のを欲しがるとかさすがにね。ヒヨリからナイフももらっているし。
『ええ、悪いけど私の杖よりも優れた武器なんて絶対に存在しないわよ』
そうですよね。いや、別に疑っているわけではないんですよ。脳内でユラムと会話しながら宿屋を探していく。ただ、どういう宿屋がいいのか全くわからないんだよね。
『そこのがいいんじゃないかしら』
「ん?」
「アカリ?」
「そこの宿屋が良いってさ」
「神様が言っているのなら間違い無いですね。じゃ、行こう!」
ユラムとそれからサラちゃんに先導される形で僕たちは近場の宿屋に入った。外から見た感じではそこまで特筆すべきところがなかったのだけど、どこにユラムは良い点を見出したのだろうか。とりあえず中に入ってカウンターの女性に声をかける。
「すみません、宿を取りたいのですが」
「申し訳ございません、今は王都の勇者様で部屋は埋まっていまして……他のお客様は利用できなくなっております」
「……ん?」
今、この女性はなんて言ったんだ? 僕の聞き間違えじゃなければ王都の勇者様って聞こえたんだけど。おい、それってもしかして、
「王都の勇者様ってことは、アカリの知り合いの人たちじゃない?」
「お兄ちゃんの知り合い?」
後ろから聞こえてくるけど、まあ、間違いなくそうだよね。てか、ユラムから言われた宿に入ったら王都の勇者がいるとか間違いなく確信犯だろうな。
『あら、泊まっている人のことを忘れていたわ』
「確信犯じゃねえか」
「えっと?」
「あ、す、すみません」
あまりにもテンプレートな回答が返ってきたのでつい、口から本音が出てきてしまった。それを受けて目の前の受付の女性から不思議そうな視線が飛んでくる。あの、本当にすみません。悪いのはこの世界の神様です。
『ちょっと!』
「と、とにかく今は他のお客様は泊めるなと言われていますので」
「あれ? 湊?」
再度女性が僕たちに断りの言葉を言おうとした時に横から僕に声をかける人がいた。声を聞いただけでわかる。てかお前と会うのは宿が多いな、おい。今回は逆だけど。
「神崎……久しぶりだな」
「おう! あーリンさん。こいつは俺の知り合いだから泊めても大丈夫だよ」
「ですが」
「何かあれば俺が責任取るから」
「か、かしこまりました。では……二部屋でよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
この女性の名前はリンさんというらしい。そして神崎の鶴の一声で僕たちは泊まることができるようになった。責任は自分がとりますって言葉一度は言ってみたいな。格好良いし、男が障害で一度は言ってみたい言葉ランキングの上位にランクインしているだろうな。
「悪い、神崎。先に部屋に荷物を置いていって良いか?」
「ああ、構わないぞ。でも、すぐに降りてこいよな」
「わかったよ」
こうして口利きしてくれた以上、何かしらの説明をする義務が僕にはあるよな。こいつとサガハタの村で別れてからの僕の行動を聞きたいに決まっているだろうし。
「さて、と。部屋に行くわけだけど……僕とサラちゃん、それからルナな」
「え?」
「わかりました!」
もう部屋割りで揉めるのは嫌なのでさっさと決めておく。一番の理想は僕とサラちゃんとヒヨリだったけど、妥協案でルナだ。まあカナデも問題ないだろうけどユキと一緒特に二人っきりの場合はまずい。てか、倫理観がなくなってきたな。
『旅をしているとねー。ある程度効率を考えるようになるのよねー』
それはわかる。今までの僕だったら女子と同じ部屋で泊まるとか考えられないけどもう慣れた。まあ何か間違いが起きたらやばいのでできる限り安全な二人を選んだのだけどね。
「お兄ちゃんと一緒だね!」
「ん? お兄ちゃん?」
「あーそのことは後で話すから! な!」
すっかり忘れていたけどそんな呼ばせ方をしていたらクラスメートから変な目で見られてしまう可能性があったね。まあ、まだ聞かれてたのが神崎だけだから大丈夫だと思うけど。こいつはなんだかんだで口硬いし。
そして僕たちは指定された部屋に向かう。神崎たちがいる、つまり王宮が選んだという宿というだけあって部屋の中とかもかなり立派だ。そういえば全く説明を聞かなかったけど……まあその辺りは神崎に後で聞けばいいか。
「ふかふかだー」
「これからどうしますか?」
部屋に入った瞬間、サラちゃんがベッドに飛び込んだ。うん、こういう年相応の振る舞いを見せられるとなんだか和むな。そしてルナからこれからのことを聞かれたな。うん、夜のご飯が出るか出ないかの違いだけでも大きく変わるからな……。
「とにかく神崎と話して色々と聞いてくるよ。その間は……まあ自由にしてていいけど」
「では、ご同行いたします」
「了解。サラちゃんは休んでおく?」
「うーん、私もお兄ちゃんと同行する! お兄ちゃんの故郷の人をみてみたい」
「わかったよ」
結局、二人とも僕と一緒にくるみたいだ。正直ルナは来るだろうなと思ったけどまさかサラちゃんも一緒だとは思わなかった。そんなに神崎のことが気になったのかな。あ、イケメンだからか。二人の意見を聞いてから部屋を出ようとしたら部屋の扉が開いて、ユキたちが入ってきた。
「アカリ? 私とカナデは夕飯の準備のために買い出しに行ってくるわ……ここ料理は自分たちで作るみたい。ルナやサラちゃんはどうする?」
「僕と一緒に来るみたい……あー護衛とかいる?」
「平気よ。市ヶ谷さんという人が一緒に来てくれるみたいだから」
「ああ、なるほどね」
「サラちゃんは街を見たいのかと思ったけどアカリと一緒がいいのね」
「うん!」
ユキの言葉に元気よくうなづくサラちゃん。いやぁ、本当に和むなぁ。てか市ヶ谷さん……いつの間にユキと仲良くなったんだよ。まあ市ヶ谷さんなら安心だな。
「それじゃあ、また後でカナデも」
「ええ」
「はい」
僕たちは下に降りてユキとカナデと別れた。そして待っていた神崎のほうに行く。
「待たせたな、神崎」
「おう、あー、二人も一緒か?」
「そうだな。僕一人のほうが良かった?」
「いや、ただそれだと俺の部屋のほうがいいな。来てくれるか?」
「わかったよ」
そして僕たちは神崎について行って神崎の部屋に行った。そこにいたのは、
「あら? 久しぶりね、湊くん」
「白園?」
僕たちのクラスの委員長、白園深雪の姿だった。
ブクマ、評価、していただけると嬉しいです。
感想などもいただけると嬉しいです。




