邪神サイド5
昼間に投稿してみます
休日なので。
もちろん夜にも投稿します
「珍しいわね。あなたたちがいて失敗するなんて」
「うるせぇよ」
帰って早々どうして俺は日暮から皮肉を言われなくちゃいけないんだよ。まあ俺が失敗したのが悪いと言われれば何も言えないがな。
「しかも坂上くんが意識不明の重体に陥るだなんて、湊くんはそこまで強くなってたの?」
「いや、どちらかといえばあの吸血鬼の少女がやばすぎる」
戦ってみてわかった。今の俺には勝つことができない。能力がある世界だからこそ、存在する相性の問題。ゲームかよって言いたくなるが能力自体が不思議な力であるしそういうものがあるとしてもおかしくない。
「俺との相性は最悪……しかも遠距離型なのに近距離もそこそこ戦える。まあそもそも接近できるのは湊の意向で俺たちを殺さないように手加減しているからだろうし」
「そう、なら本気で戦われたら」
「無理だな。悔しいけど」
認めるのは癪だ。こちらとしても湊を本気で殺そうとしたわけではない。だが、それを差し引いても見事にやられたという印象しかない。
「複数の能力使用……それがどんだけ稀有なことか湊は一切理解していないみたいだったな」
「まあ今、この世界で能力を複数持っているのって湊くんとあなたぐらいでしょ? というかなんで宝玉を使わなかったのよ」
「使えなかったんだよ」
この能力は使いどころがそうとう難しい。受けたダメージを倍にして返すっていう話だけど実際どう使えばいいのかわからない。これは完全に俺の落ち度だったが一度実験しておいたほうがよかったのかもしれない。そう話せば日暮から驚いたような言葉が飛んできた。
「あなたにしては珍しい落ち度ね」
「こんなの今まで必要なかったからな。それに手に入れてから忙しかったというのもある」
「そうね。なら少し休む? 麻木くんと結華ちゃんが動いてくれるから休んでいていいわよ」
「何かあったのか?」
確か朝日は日暮の仕事の手伝いで、そして麻木のやつは桜花と一緒に他のクラスの奴らの情報を……ってそういえば一つ、湊から聞き出した情報があったな。俺の質問に対して答えようとする日暮を止めて代わりに手に入れた情報を伝える。
「湊から聞いたんだんが、この世界には全員いるみたいだ」
「全員? ああ、つまり私たちのクラス全て、ってことね」
「ああ」
「そう、わかったわ。あとは誰がどの陣営にいるか把握しないとね」
「どういう意味だ?」
どの陣営って……俺たち邪神教に召喚された人とそれから湊たち王宮に召喚された人しかいないだろうに。まさか湊たちが王宮の奴らから別れて動いているということなのか? そう考える俺の前に、日暮は驚くべき事実を伝えてくる。
「大きく分類すると、私たちは三つのグループに属しているの。私たちと、湊くんたち王宮の人たちと、それから小沼山くんたちこの世界の魔王候補として喚ばれた人たちよ」
「魔王?」
邪神がいるから今更と言われても仕方がないが魔王なんてもはやファンタジー溢れるようなやつがいるなんてな。てか、俺たちを喚び出して候補にするとかここの人間は一体どんなことを考えているんだよ。
「そうよ。はるか昔に人間たちを襲い、世界を征服しようと企んだ一人の少女がいたらしいわ。それを人々は『魔王』と読んだそうよ」
「へえ、そういうのはいたのか」
「その少女は倒されてから、幾度となく新しい魔王が生まれたわ。まあ、今では割と軽くなっていて単に人間社会に溶け込むことができなかった人たちが集まって今の政権を奪おうって側面が強いみたいだけど」
「要は与党と野党みたいな感じか」
「簡単にいえばそうなるわね」
ものすごい簡単な説明だけど言いたいことはわかった。くだらない派遣争いがかなり巨大になった感じか。まあそれでも王宮側にとって脅威であることは間違っていないわけだし戦いが起きているとみていいだろう。でも、日暮はどうしてそれを知ったのだろうか。いや、小沼山?
「ええ、たまたま小沼山くんに出会ったのよ。私が邪神教の人間だと説明したら向こうも教えてくれたわ。自分たちに魔王になってくれって言われたって」
「へえ」
「そして今の人間社会の仕組みを壊すように言われたそうよ。具体的には『奴隷の解放』」
「無茶な話だ」
「ええ、そうね」
日暮から聞いた限りにはなるが、それでもその話には無理があるようにしか思えない。それでも賛同する人がそれなりにいるのだろうが、目標が悲しすぎる。
「うまくいくと思っているのか?」
「話を聞く限りでは本気でなんとかしようと思っているみたいよ……ただ、そのために大勢の人間で殺し合いをしているらしいけど」
「強いやつじゃなければ人の上には立てないってことだろうな。しかも武力で今の世界を変えようとしているってことだし」
「そうなるわね。そのせいか少し壊れていたわよ……私たちも人のことを言えないけど」
「人を殺せば誰だってそうなる」
殺人。言葉にしてみれば単なる二文字にすぎないし。行為にしたってただただ相手に向かってナイフを振り下ろすとかその程度の話だ。ただ、それでも生き物の命を奪うということにはなにも変わりがないし、相手は自分と同じ人間であるから悩む。そしてそれを乗り越えた時、二回目以降はだんだんなにも感じなくなっていく。俺の言葉に日暮も肯定の意を示した。
「そうね。それで、話を戻すけど6つ目の宝玉が見つかったわ」
「へえ? 場所は」
「サングイネの地下遺跡よ」
「サングイネ……王都の近くか」
「ええ、そして、王都の近くであるがゆえに、そこには黒目黒髪の少年少女たちが訓練に入り浸っているらしいわよ。おそらくだけど」
「神崎たちがいる、ってことか」
さすがに湊と神崎たちが異なる組織にいるとは考え難い。神崎たちが魔王側にいるとしたらあんな風ではいられない。さすがに誰かを殺したかどうかはなんとなくわかる。あいつらはまだ誰も殺してない。湊にしたってあの宝玉の力を使いこなしているし、悪の側である可能性は低い。……殺人といえば、
「湊は人を殺したことがあるよな?」
「ええ、間違いないわね……ただ、そこまで回数は多くなさそうっていうのが印象よ」
だからと言って、なにがどう、というわけではない。ただ、そうだな。湊たちも今どうせ地下遺跡に向かっているだろう。それを考えたら、
「俺もいく」
「あら? いいの?」
「問題ないから俺に話したんだろ?」
「まあ、そうだけど」
なら、別にいいだろ。俺はそう言って、日暮に背を向ける。行くのはいいが、そのためには肩の傷を癒さなければいけないな。
「結華ちゃんには私が連絡しておいてあげるわ。だからすぐに傷を治しなさい」
「わかってるよ」
俺はそう吐き捨てて、自分の部屋へと戻っていった。朝日の他に、誰がいるのだろうな。




