日々を繰り返す少女の憂鬱8
ブクマ、評価、ありがとうございます。
「ヒヨリ……」
「小娘、なぜ避けなかった」
「これは私の覚悟をみるものでしょう? 私は別に死ぬことが怖いわけじゃない」
「……」
ヒヨリはやっぱり、ここで死ぬつもりだったのかもしれない。だからケルベロスの質問に対しても臆することなく視線を逸らすことなく答えている。
「むう……」
そしてその怯むことのない視線を受けたケルベロスは何事か考えたかと思うと、ゆっくりと口を開けてヒヨリの腕を解放した。
「え?」
「どういうことだ?」
「ふぅ、神の使いや吸血鬼が予想以上にやるものだから見失っていたがそうだな。これは小娘の覚悟をみるものだった」
「じゃあ」
「認めよう。小娘よ。お前に主人からの伝言を伝える」
よくわからないけど、ヒヨリはケルベロスのいう覚悟を見せることに成功したみたいだ。何が必要だったのだろうか。死を恐れぬ覚悟なのかな? ケルベロスはゆっくりと開けた空間の中心に向かっていく。そういえば衝撃で吹き飛んだ影響でかなり隅っこに追いやられていたもんな。僕たちもついていく。ケルベロスからはもう敵意は感じられなかったしまあそもそも僕はもう限界だしね。
「では、伝えよう。小娘よ、冥界にこないか?」
「は?」
そして改まってケルベロスが吐き出した言葉は、ヒヨリに冥界にこないかというものだった。ちょっと待て。それってつまり、ヒヨリに死ねっていうことなのか? それを聞いて僕が何かいう前にユキが反応した。
「何考えているのよ! ヒヨリを殺すつもり?」
「まあ、待て。そういうことではない」
そしてケルベロスは語り始める。
「別に命をもらうわけではない。ただ、冥界に来て、主人の仕事を手伝ってもらいたいだけだ」
「仕事ってどんなこと?」
「ああ、要は荒ぶる死者の魂を静めることだ。最近は暴走する魂が多くてな……原因はわかっているが、わかっているが故に我らは手を出せぬのだ」
「どういうことだ?」
基本的には黙って聞いておこうと思ったが、気になることがあったのでさすがに聞くことにした。今回みたいにケルベロスが現世にやってくることができるのならばそれも解決すればいいのに。しかしケルベロスは僕の方を見て、はっきり言った。
「それは無理だ。原因が、この世界のモノではない以上、我らがどうこうすることはできぬ……せめてもの情けの意味合いもある」
「それって」
「アカリの故郷の人間が関係しているというの?」
「そういうことだ」
もしかして……死者を操る能力とかか? もしくは死者を操る能力とか。そういうのは割と定番な能力だったりするからユラムに望んでいたとしてもおかしくはない。
「話を戻すが、小娘よ。お前はどうする?」
「もし、私がそれを受けたら、どうなるのよ」
「……まあ、これは一種の取引だ。お前がこの誘いを受けるのなら、村の人を襲うことをやめよう」
「それは……」
取引の体を取っているけれど、ヒヨリはきっとこれを承諾するだろうな。正直戦ってケルベロスには勝ち目がないし。今後ずっとここの村を守るってこともできない。僕にだってやるべきことはある……いや、それは最悪僕だけ別行動とかすればまだなんとかなるかな。
「ユキ、ごめんなさい」
「……わかったわよ」
ヒヨリがユキに向かってただただ謝罪する。それを聞いたユキは心の底から諦めたようにただ一言だけ呟いた。ヒヨリは本当に申し訳なさそうにしているけど……うん、そうだね。
「ヒヨリがしたいことをしたらいいよ。僕にはそれを止める資格がない……そもそもこの旅立って僕がしたいからしているわけだし」
「アカリもごめんなさい。そんなになるまで戦ってくれたのに」
「別に構わないよ」
「ヒヨリお姉ちゃん」
「もう少しサラちゃんとお話ししたかったな。まあそれはルナもカナデももちろんアカリもだけど」
その言葉にはただうなづくことしかできない。それなりに長い期間一緒にいたと思うけど、でも、自分の人生を振り返って見てみればそこまで長くはない。ルナはそこまで感情を出していないけどカナデは悲しそうな表情をしているし、サラちゃんに至っては半分泣きだしている。
「ヒヨリさん、楽しかったです」
「ヒヨリ様、一応申し上げますが私なら、村を滅ぼしてでも止めることができます」
「二人ともありがとう……ルナのその力はアカリのために使ってあげて。私はまだ死ぬことはないのだけどアカリはきっと死んでしまうから」
それは非常に不服なんですけど。なんでヒヨリにまで僕が死ぬとか思われているのだろうか。ヒヨリの言葉を聞いたルナは無言でうなづいた。
「さて、と」
「お別れは済んだかな?」
「ええ……さっきはああいったけど私、死ぬわけじゃないのよね?」
「ああ、それは保障しよう。冥界に行ってもらうがそれが死ぬということではない」
みんなに言葉をかけたヒヨリはそのままケルベロスの方に向かって歩いていく。もうさっき伝えたいことは済ませたし、これでお別れかな。かなり唐突になってしまったけどそれでも、僕はヒヨリと旅をして良かったと思う。しっかり者で僕たちのことをよく見てくれている優しい女の子。いつも裏で僕たちのフォローをしてくれていた。
「あ、アカリ、私がいないからってユキを襲っちゃダメだからね」
「最後までヒヨリはヒヨリだったな」
そして僕にこっそりと釘をさすことを忘れない。いや、一体僕のことをどんな風に思っているんですかね。まあ、ヒヨリがいつも通りでちょっと安心したよ。そしてさりげなくヒヨリから一本のナイフを渡された。
「でも、私が一緒に入れない分、ユキのことをお願いね。それから、これ」
「ああ、わかったよ……だから安心して行ってこい」
「では、行くとするか」
ケルベロスがそう呟いた瞬間、ケルベロスがいたところに黒い空間が現れた。そしてその空間はケルベロスと、それからヒヨリを包んで……そしてそれが消えたときにはヒヨリたちの姿も一緒に消えていた。一旦お別れだ、ヒヨリ。そして、このナイフ、しっかり受け取ったよ。
「行っちゃったね」
「別れってやっぱり唐突ですね」
「そうだね……でもしんみりするのは違うよ」
しんみりとした口調でユキが呟いてそしてサラちゃんが悲しそうに呟いたのでさすがに訂正する。別れ、と言ってもまちがいないのだろうけど、僕は違うと思う。一時的な別れ、というのなら間違っていないけどね。
「ヒヨリとはまた会えるさ……ヒヨリなら、きっとやり遂げてくれる。そしてこの世界に戻ってきたら僕が神様の力でもなんでも使って必ず見つけ出すから」
明るい口調を心がけながら僕はみんなにそう伝える。まあ大見得切っちゃったけどいいよね? ユラム。
『はあ、まあそんなに身構えないでも近いうちに会えるわよ……それに、ヒヨリはかくごを持って進んでいった。だから別れだなんて言ったら怒られるわよ』
どういうことだ? そんなにすぐにヒヨリは帰ってくるということのなのだろうか。まさか僕がすぐに死んでしまうから冥界で会えるよっていうブラックジョークなことはなさそうだし。
「神様が言っていたよ。すぐに会えるって」
「そうなのですか!」
「アカリ、それ、本当?」
「ああ、そう言っているよ……だから心配しないで。僕たちも進もう?」
「ええ、そうね」
「はい、そうですね」
僕はみんなに声をかけて歩き始める。目指すは5つ目の宝玉。さあ、気を引き締めて頑張ろうか。




