日々を繰り返す少女の憂鬱6
本日二話目の投稿となります。ご注意ください
「そろそろ着くのか?」
「はい、鳥たちが教えてくれます……この先は危険だって」
僕たちはユラムに言われたようにヒヨリの村を避けて森の方に入っていった。しばらく歩いているとカナデが警告を発する。どうやら付近の生き物からこの先が危険であると教えてもらったみたいだ。
「そう」
「ヒヨリ……」
カナデの言葉を聞いてヒヨリが前方を向く。その視線はかなり鋭く、これから起こることを覚悟しているように見えた。
「覚悟はできてるわ」
「戦いになると予測されます。ユキ様、サラ様、カナデ様は私の後ろに隠れていてください」
「わかったわ」
相変わらずルナは頼りになるな。でも、戦いになるっていうのは間違いなさそうだし僕も警戒しておこうか。でも、冥界の使いってどんな姿をしているのだろうか。死神の鎌とか持っているのかな。
「見えてきました」
しばらく歩いていると、急に開けたところに出た。どうやら冥界の使いがいるところにやってきたみたいだ。僕たちはあたりを警戒しながら進んで行く。多分ここで間違いないのだろうけど、いったいどこにいるのだろうか。
「ご主人様!」
ルナが警告を発する。何が起きたのかなんてわかりきっている。開けた空間の真ん中が突然燃え始めた。そしてそこから三つの頭を持つ犬が現れた。
「け、ケルベロス」
三つの頭を持つ地獄の番犬、そうか、そういえばそんな有名な奴がいたな。そして現れた犬は僕の方を見ると、面白そうに話しかけてきた。
「ほう、我の名を知っているか」
「ゆ、有名ですので」
「ご主人様? ケルベロスというのは」
「うん、地獄の番犬だよ」
地獄の番犬といったけれど、見た目は巨大な黒い犬っていう感じだ。ただ、かなり大きくて多分だけど僕ぐらいだったら一口で食べることができるだろうな。そんな犬が急に現れた。
「然り、我は冥界の王に仕えしケルベロス。今はサザンの村の魂を回収するために現世にきておる」
「あなたが……」
「ん? そうか、貴様が神に近しい能力を持った人間か」
ケルベロスは僕たちの顔を順番に見て、そしてヒヨリを見ると納得がいったように呟いた。さすがというべきか、能力がわかるみたいだ。
「そうよ。私が能力を使用したせいで、死を回避した人たちがいる」
「そうだな。それで? 貴様は我に何の用だ? ただ来た、というわけではあるまい」
「ええ、そうよ……どうすれば私の村を襲うのをやめるの?」
「まあ、規定の人数分の魂を手に入れれば、やめることになっておる。ただし一度に殺さないように言われているがな」
一度に殺さないようにってことは……今いる村の人数だけだと足りないっていうことなのか? でもそれだけじゃないきがする。そして、ヒヨリはその言葉を聞いて、ただ、淡々と告げる。
「なら、私の命も数に入れることはできる?」
「それはまあ可能だが……いや、貴様が来た時に伝えておいて欲しい言葉があると言っていたな」
「なに?」
「……」
ケルベロスは言葉を告げずに、黙ったままだ。そして急に口を開けると、そこから火を噴いた。
「危ない! 『忠義』」
なんとか間に合ったので良かったけど、それでも結構危なかった。頭のうちの一つが僕の方を向いた。
「なるほど、創造神様の使いの者か」
「急にどうしたんだよ」
「主人の言葉を伝える前に、その資格があるか試させて欲しい」
「……わかったわよ。アカリ手を出さないでね」
なるほどね。どんな言葉を伝えるように言われているのかは知らないけど、これ以上悪くなることなんて絶対にないだろうことはわかる。そしてヒヨリに言われたから杖を下ろして下がろうとした。
「いや、全員で構わぬ。貴様一人では、おそらく不可能であろう。神の使い、エルフ、吸血鬼、すべての力を使って我を認めさせてみろ」
「……」
「ま、どのみち協力するつもりだったんだ。ルナ、準備はいい?」
「はい、いつでも大丈夫です」
「カナデ、ユキ、お前らも手伝ってくれよ?」
「ええ、なんかヤバそうな時は教えるわ」
「周囲の生き物にも協力を要請します」
「サラちゃん」
「はい! 怪我をした時は任せてください」
全員に声をかける。みんな勢いよく返してくれた。やっぱりみんなヒヨリのことを考えていたのだろう。だから、こうしてすぐに答えてくれる。
「みんな……ありがとう」
「アカリ! ケルベロスが吐く物質だけど右が氷、左が雷、中央が炎よ」
「む? なるほど、戦いの未来を見たのか」
「助かる」
相手が一体の時のみこういう戦いができるんだな。こんなことを知られたら怒られるかもしれないけどユキは正直戦闘面では当てにしていなかった。
『まあ相手の情報を知ることができるって普通はとんでもなく有利なことなのだけどね』
まあ僕の場合、最後の手段としてユラムに聞くことができるからね。それはともかく、準備はできた。そしてそれはケルベロス側も分かったのだろう。僕たちの方を向いて、ただ一言。
「それじゃあ、始めようか」
「ルナ! 動きを止めるよ『豪雨』」
「はい!」
まずは雨を降らす。動きを止めることができれば大分楽になるからね。すぐにルナが降っている雨を凍らせてくれた。特にケルベロスの足元を中心に凍らせてくれたので相当動きずらいはずだ。
「こんなもの、我の力の前では意味ないわ」
前足の方に力を込めて、そのまま立ち上がる。せっかく凍らせてくれてもすぐに打ち砕かれた。だが、いい時間稼ぎにはなったはずだ。
「はああ」
ケルベロスに近づいていたヒヨリが左の頭を狙ってナイフを斬りつける。氷から逃れた瞬間を狙ったので避けることができない。そのまま目が潰されたように見えたが、口が開いたかと思うと、そのままナイフを噛み砕いた。
「嘘でしょ」
「我らの頭は全部独立して動いておる……簡単に死角を取れると思うなよ」
「ちっ『突風』」
そのまま左の頭はヒヨリの腕を噛みちぎろうとした。だから風を吹かせてケルベロスとの間を開ける。
「いえ、ここは死角なはずです」
ルナの言葉とともに、ケルベロスの体が宙に浮く。腹を狙って地面を盛り上げたみたいだ。地面から攻撃が来ると思っていなかったのか攻撃が直撃した。
「なるほど、自然使いか」
しかし体勢を崩すことはできなかった。そして犬の口がすべて開いて僕の方を向く。なんとなくだけどやばいのがくるよな。
「さすがに数が多すぎる……だから数を減らそう」
「『忠義』!」
それぞれの口からユキが言ったみたいに炎、雷、氷のブレスが飛んでくる。それをなんとか結界を張ることで防ぐ。……ん? もしかして僕もうこれで一杯一杯?
『まあ……そうなるわね』
「私の試練なら、私を狙いなさいよ」
ヒヨリがまた近づいて、今度はすべての視線が僕の方に向いていたのでそのまま右の頭の右目に突き刺した。
「ぎゃああああああ」
「助かります、ヒヨリ様」
また風が吹いて、今度はケルベロスを吹き飛ばした。そして今度は空中に浮いたことで全身に水が付着し、それが全部凍った。
「ふむ、ここまで凍らせることができるか……」
しかし真ん中の口が開いてそこから炎が吹き出し氷が溶け出した。
「全身を凍らせることは厳しそうです」
「みたいだね。でも、大丈夫。少しずつでもダメージを与えておこう」
「ははは、試してみるがいい」
それにしても……こいつの言っていた認めさせる条件ってなんだ?
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