エルフの里12
「ここは?」
「エルフの里の家の一つよ……あなたの同郷の人間に殺された人の家よ」
「ユキ」
「目が覚めたのね、アカリ」
目を覚ましたら、そこにいたのはユキだった。体を起こそうとすると、すぐにユキに止められた。
「ダメよ。動かないで」
「どれくらい……眠っていたんだ?」
「三日三晩……はぁ、ルナに感謝しなさいよ? なにをしたかはしらないけど寝たきりの状態のあんたに栄養を届けてくれたみたい」
「そ、そうなんだ」
なら、ルナにもきちんとお礼をいっておかないといけないな。というか、そのルナは今どこにいるのだろうか。首を動かしてあたりを見渡してみてみるけど、ルナの姿は見当たらなかった。
「あ、ルナはもうすぐくると思うわ」
「今なにしているんだ?」
僕があたりを見渡したからユキが教えてくれた。なので今、なにをしているのか聞いたら、教えてくれた。
「エルフの人たちと交流しているみたいよ……ああ、カナデとヒヨリも同じよ。サラちゃんとシンくんは亡くなったエルフたちの弔いをしているわ」
「どれくらい……犠牲が出たんだ?」
「数にして10みたいよ。……私たちがいなかったら、きっと全員殺されていたでしょうね」
「そっか……」
結局のところ、僕はエルフたちから犠牲を出さないで終わらせるということができなかった。せっかく彼らがサラちゃんを信じて僕に宝玉を託してくれたというのに。それもユキはわかっていたようで優しく言ってくれた。
「エルフたちは正式にその宝玉をアカリに譲るそうよ。お礼を兼ねて」
「そっか」
結局、僕の手に渡ることになったのか。ただ、これ以上この里にいる必要はなくなったな。ちょっと非情と思うかもしれないけど、それでもここから離れる必要はある。
「失礼します……ユキ様、ご主人様の様子は?」
「ええ、目を覚ましたわ、これで安心だと思う」
「そうですか……カナデ様が食事の用意ができたとおっしゃっています。ご主人様は動くことができますか?」
「今日はまだ動かさないほうがいいわね」
「わかりました。では、今日も私が」
「ええ、お願いね」
僕を前にしてどんどん話が進んで行く。どうやらカナデが食事を作ってくれていたみたいだ。ちなみに僕のパーティーでの料理の腕前は僕はまあ学校の調理実習の最低限、ユキとルナができなくて、ヒヨリとカナデがかなりできる。旅をしているヒヨリと巫女ではあるけどもともと田舎の出身のカナデができるのはまあ当然なのだろうな。
「ところで、僕に栄養を送るってどうしていたの?」
「私の血を少し飲ませていました」
「え?」
『吸血鬼の血を飲みすぎれば同じ吸血鬼になる、と言われてるのよ。だから少しだけ飲む程度ならいい感じに回復するわ』
「なんか、悪いな……ところで、血は飲まなくても良かったのか?」
そういえば吸血鬼の逸話の中に、血を飲ませて仲間を増やすっていうのがあった気がするな。つまり、彼女は僕に血を飲ませてくれていた、と。でも、それだとルナはしばらくの間血を飲んでいないということになると思うのだけど大丈夫だったのか? しかし、それは僕の杞憂だった。
「ユキ様やカナデ様にお願いしてわけていただいていました。ただ、ご主人様の意識が戻られたのでこれからはご主人様からいただこうと思います」
「そ、そっか」
なら、今日の分を今までのお礼を込めてすぐに渡したほうがいいかもしれない。だから僕はゆっくりと指をルナに向かって差し出す。
「ご主人様?」
「はい、血を飲んで」
「……あ、はい。わかりました」
そしてルナは僕の指を噛む。少し痛みがくるけれども体のほうの痛みのほうが大きいからそこまで気にならない……逆に言えばそれだけ体が痛めつけられていることに気にしたほうがいいのかもしれないけど。
「ありがとうございます」
「アカリー、お客さん来たよ? ってどうしたの? 腕出して」
「え? ああ、気にしないで。それで? お客さんって?」
「アカリさん、大丈夫ですか?」
「ああ、サラちゃん」
部屋の扉が開いて、さっき出て行ったユキが戻ってきた。何事かと思ったらサラちゃんとシンくんがここにきていたみたいだ。部屋に顔を出したサラちゃんたちを僕は迎える。
「あー二人ともベッドの上でごめんね?」
「いえ、アカリさんが今回色々と頑張ったのは知っていますから……アカリさんさんが動かなかったらもっと被害が出ていたとキングさんが言っていました」
「そういえばキングさん大丈夫?」
すっかり忘れていたけどあの人橘に蹴られてからずっと放置してしまっていたんだよな。七草もすっかり忘れていたっぽいし。まあおかげで目の前で死ぬってことを見なくて済んだと思えばいいか。
「はい、怪我をしていますが今は回復しています。敵の一人に惨敗だったと聞いています……キングさんですらあんななのに他の人が勝てるとは思えません」
「そ、そっか。まあ回復しているみたいならいいよ」
「それで……アカリさんはこれからどうするのですか?」
「これから? また旅を続けるかな」
「他の宝玉を集めるってことですか?」
サラちゃんの言葉を聞いて素直にうなづく。でも、目的地がどこかは決まっていないんだけどね。ユラムがある程度は教えてくれるだろうけど、それも当てにするわけにはいかないもんね。
「そうですか……」
「どうしたの?」
「あの、それでしたら、私たちも連れて行ってくれませんか?」
「え?」
「俺もかよ!?」
今の僕たちの状況を正しく伝えたところ、サラちゃんは少しだけ悩んで、そして自分たちも同行したいと告げてきた。それはシンくんと話し合って決めたことではないらしく、シンくんも驚いている。
「お兄ちゃんは来ないのですか?」
「俺は……」
「サラ様、どうして同行したいと思ったのか教えていただけないでしょうか?」
「はい」
あ、ルナ、ありがとう。僕が聞かなければいけないことを聞いてくれた。確かにそう考えた理由は気になるからね。まさか僕やユキみたいに世界を見たいとかそういうことじゃないと思うのだけど。
「私とお兄ちゃんは……今回のエルフの内乱でお爺様を喪いました」
「ああ、そっか」
それだけで何を言いたいのか大体察することができた。サラちゃんとシンくんの祖父が殺されてしまって帰るべき家族がいなくなってしまったんだな。だから、僕たちと一緒にいたいと思ったのだろうか。そんなことを思っていると、ユキがおもむろに部屋の扉を閉めた。
「これで、扉をしめたから、好きに言っていいわ。ここには告げ口するような人は誰もいないもの」
「ありがとうございます。私は……お爺様を殺した人たちとこれ以上一緒にいれる気がしません」
「サラっ」
「お兄ちゃん! 私やっぱり嫌だよ。考えたけど無理だった」
そしてサラちゃんは泣き出した。こないだは戦いが近かったりしてかなり緊迫した空気になっていたからね。だから考えないようにすることができたのだろう。そして今、その脅威が去った今、冷静に考えて無理だと判断したのだろう。
「勢いとはいえ、恐ろしいことを行動したものですね」
「憎しみって怖いよね」
ルナのこぼした呟きに僕も同調する。地球にいた時でも人間が行動を起こす大半の理由は憎しみによるものだからね。それはそうと、正直一杯一杯とはいえ祖父の件は僕も軽視していた節があるからあまり言えないんだよな……
「アカリさんたちと一緒に過ごした時間は短かったですが、楽しかったです。だからお願いです。私たちを連れて行ってください」
「ご主人様、どうしますか?」
「別にこの子たちを養うからといって懐が厳しくなるとかそんなことはないわ」
二人からの言葉を聞いて、考える。最終的にはヒヨリやカナデにも話を聞かないといけないことになるのだけど、でも、二人がこうして僕に聞いてきたのは僕に決定権を預けているからだろう。だから、しっかりと考えないといけない。
「僕としては、構わない。歓迎するよ……けど、シンくんはどう思っているの?」
「俺は……正直ここに残ってもいい」
「そっか……じゃあ、サラちゃんと別れることはどう思う?」
「それは……」
不安そうな表情でサラちゃんの方を見るシンくん。彼の気持ちもわかる。ここで妹と別れるのはキツイだろう。サラちゃんも自分の行動の意味を少し理解して悲しそうな表情をしている。
「サラちゃん、きっと、しばらくああいう日が続く。もちろん僕は、いや、僕たちが全力で守る。でも、安まる日が多いかと言われたら違う。それだけは覚悟していてね」
「はい、わかってます……でも、お兄ちゃんは」
「俺だってお前と別れたくない。でも……俺はキングさんについていきたい」
「そっか。わかったよ。シンくん、サラちゃんのことは安心してほしい。さっきも言ったけど僕たちが責任を持って守るから」
「わかってるよ……ルナさんもいるし……それにアカリさんも意外とできるんだってわかったし」
その言葉に苦笑するしかない。そういえば、この子にはそこまで格好いい姿を見せることができなかったな。だから何、と思うことはないけれど、それでも少しは前の評価と変わってくれたのかなと思うと嬉しくなるな。
「さて、話は大体まとまったみたいだし、みんなでご飯食べましょ!」
「そうですね、いこっ、お兄ちゃん」
「では、失礼します」
みんなはご飯を食べに出て行った。ふぅ、これで、全部終わりかな。
『そうね。明日になれば回復するだろうし明日、この里を出ましょう。サラのためにも出発は早くていいはずだな』
そうだな。さて、明日しっかりと出発できるように今日はもう休むとするか。おやすみなさい、ユラム。
今回でエルフの里編最終回となります。




