エルフの里11
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「ルナ!」
「私のことはお気になさらず……」
「そんなわけいるか! それで、七草、取り引きってなんだ?」
僕はすぐにルナの元に駆け寄って七草の方を見る。まあ間違いなくこの宝玉のことなのだろうけどね。そして僕の予想どうり、七草は言葉を紡ぐ。
「決まってるよ。持ってる宝玉を全てよこせ。そうすれば彼女を開放してあげるよ」
「全て、か」
「いけません……私はあくまで奴隷、だから」
『そんなことしなくても呪いは解けるわよ』
ルナが何か言っているが、それを僕は無視する。そしてユラムの言葉だけを聞く。なるほどね。それなら、確かに問題ないわけだ。ただ、その場合、種がバレてしまったらやばいけど。
「ん?」
「悪いけど、やらないよ」
「じゃあ、見捨てるんだね。さよなら」
「『純潔』!」
「坂上!」
七草が持っている白い紙をちぎる。それよりも先に僕はルナに向かって『純潔』を発動させる。さすがに内容が内容だし、あいつらに知られたくないからね。そして能力を使用した僕を警戒してか、坂上が僕の方にむかってくる。
「死ねぇ」
「ちょっ、坂上、命まで取るな……って聞いてねぇ」
「……」
そして紙を引きちぎられたからか、ルナが倒れこんでしまう。でも、僕はルナに駆け寄ることができない。いつの間にか近づいてきた坂上に殴られたからだ。
「ぐふっ」
坂上は僕の腹に一撃入れる。衝撃がくるけれど……ただ硬化しただけの攻撃、それを受けたところで死ぬことはない。威力は大きいのかもしれないが、貫通能力はそこまでない。ふらつきながらも、坂上から距離を取る。
「逃げんな!」
「なんで逃げる必要があるんだよ」
「ああ?」
頼む、もう少しだけ持ってくれ僕の体。今回はかなり能力を使用しているけど、今、ここで倒れるわけにはいかないんだ。そう、確かに逃げる必要なんて全くない。硬化したところは黒くなってしまう。確かそう言っていたよな、坂上。今は夜だから硬化している箇所がどこになるのか視認することができない。少なくとも、今の光源では不可能だ。
「だから、明かりを作ればいいんだよ『白夜』」
白夜、それは1日中太陽が沈まなくて昼になる現象。自然現象を自由自在に引き起こすことができるのなら、こういった現象だって引き起こすことができるだろう。夜空に急に日が現れて、あたりを明るく照らす。
『可能だけど、これ以上の能力使用は無理よ。こんな変化、体の負担が大き過ぎる』
そうみたいだね。僕の体がかなり悲鳴を上げているのがわかる。ちょっと能力を使いすぎた。でも、これで、充分だ。
「後は頼むよ、ルナ」
「はい、ご主人様」
「え?」
倒れていたルナが立ち上がり、坂上の後ろを取る。日が出たことによって坂上の体が照らされる。そして、それはどこが硬化して黒くなっているのかがはっきりとわかるということだ。
「予想していたけどやはり、首元がお留守なようね」
「え?」
「あっ」
「坂上!」
坂上の首に、後ろから鋭い氷柱が突き刺さる。体を硬化させていると言っても体全部を硬化するためにはかなりの集中力を要するはずだ。今の坂上は僕に対して突っ込んできているために集中力を欠いている。おまけに先ほどの『純潔』。ルナだけでなく坂上にも少しだけ発動しておいた。これで集中力を切らして少しだけ穴が空いたのだろう。
「ルナ!」
「致命傷は避けてます。すぐに治療すれば一命は取り留めるでしょう」
「そっか」
ルナからの言葉に一応安心する。坂上は首から血を吹き出しながら倒れていく。それを橘が受け止めた。でも、ここに回復系の能力を持っているものはいない。このままだと、確実に坂上は死ぬ。
「坂上! おい。しっかりしろ」
「頼む、一回だけ力を貸してくれ」
『……わかったわよ。でも、いくら私でも体の負荷を遅らせることしかできないわよ』
「わかってるよ『節制』」
「!」
坂上の体が少しだけ輝いて、首の傷が少しだけ再生した。ただ、出血が止まったという感じだ。坂上は緩やかに呼吸を続けている。
「湊……なぜこいつを助ける」
「誰も死なせない。そう決めたから」
『節制』、この能力は予想以上に便利な能力だった。傷の回復だけでなく、状態異常からの回復も行うことができるみたいだ。つまり、呪われていた状態のルナを回復させて呪いを強制的に解くこともできるということだ。
「相変わらずご主人様は甘いですね」
「ありがと、ルナ。色々と」
「いえ」
呪いは解けるけれど、それでもそのまま解除して終わりというのでは戦況があんまり変わらないと思った。だからルナには一芝居打ってもらって坂上たちを騙してもらった。『純潔』使用による効果でルナに洗脳の感覚でテレパシーを行った。ちゃんと伝わっているのか不安だったけどきちんと伝わっていたみたいだ。
「湊……てめぇ、敵に情けをかけるとはどういうつもりだ」
「確かに敵だけど……敵である前にクラスメートだ」
「ちっ」
僕の言葉に舌打ちされた。まあ、冷静に考えたのならば僕の行動は本当に異常だ。でも、これが僕の選んだ道だ。誰にも邪魔をさせない。その思いで僕は橘たちの方を向く。
「できれば、これで引いてほしいのだけど」
「はっ、俺たちの目的を果たすまで引くわけにはいかないんだよ」
「そっか……ルナ、行ける?」
「問題ありません」
「お前がこねえのかよ」
「……」
橘から飛んでくる当たり前の質問、でも、だって仕方がないよね。僕もう立っているだけで精一杯だから。ちなみにだけど、ユラム、僕の状態ってどんな感じ?
『え? 知らない方が身のためよ?』
はい、すみません、とにかく、ルナはまだ大丈夫みたいだから僕の代わりにしっかり戦ってほしい。向こうも坂上が倒れたので残りは橘とそれから七草。でも、七草の能力的にほぼほぼ戦力外と見ていいだろう。そりゃエルフの何人かを人質にされているような感じだけど僕がぶれない限り、ルナは戦い続けるから。
「ルナ、万一殺すときは……僕がとどめを刺す。だから、遠慮なく戦って」
「はい、かしこまりました」
「そうかよっ」
橘がルナへ向かって走りだす。そしてルナは風を飛ばす……ことをしないで、静かに地面を踏んだ。
「がっ」
「え?」
橘の前方向の地面が急にめり込み、その段差によって橘はこけてしまう。そしてその付近の土が橘の体を覆っていく。
「これぐらいでっ」
橘が力任せに体を引き上げる。のしかかっている土の重さを気にすることなく立ち上がることができるってすごい力だな。
「甘いですね」
今度こそ風を飛ばす。立ち上がった瞬間は少しだけ体が硬直してしまう。その隙を突くことで橘の体勢をかなり崩した。さらに降っている雨で濡れた服がどんどん凍っていく。
「くそっ」
さらに突風が吹いて橘の体を空中に吹き飛ばす。横からの風を中心に警戒していたために足元はおろそかになっていて、簡単に打ち上げられる。そのまま風の渦がゆっくりと縮まっていき橘の体を傷つける。
「見た感じ、あなたは硬化の能力を持っていないみたいですね」
そして高く飛ばされた後に、今度は風の流れを変えたのか地上にかなり強い勢いで叩きつけられた。見た感じそこまでの高さがあるわけじゃないけどそれでもあの勢いはきついだろうな。
「ぐふっ、くそっ」
「おや、まだ立ち上がりますか」
「ぐふっ、はぁ……はぁ……」
叩きつけられたためか、血を吐きながらも橘は立ち上がる。でも、もうこれ以上戦うことができないみたいだった。口からだけじゃない。体のあちこちから血が流れている。そんな状態の橘に七草が話しかける。
「橘! ……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。まだ、倒れるわけにはいかないからな」
「今回はなぜそこまで食い下がるんだ……前のときは引いてくれたのに」
「あの時とは違うんだよ……今回の目的は宝玉だからな」
「前回は違うのか……」
まさか、最後に奴隷たちが軒並み殺されていったのも何か原因があるのだろうか。ただ、それよりも今のこの状況をどうすれば切り抜けることができるか考えよう。
「頼む……引いてくれよ」
「まだ、俺は……ぐふっ」
下方向から風が吹いて、橘の肩を斬りつける。またしても吹き上がる血。血を失いすぎたのだろう橘はその場に膝をついてしまう。
「さて、私はあなたがこちらに近寄ってくるまでに……殺すことができます。これでも、続けますか」
「……」
そして最後にルナからの死亡宣告。実際、ルナならば殺すことは可能だろう。それほどまでにルナの実力はずば抜けている。
「それから、あなたも」
「うわああああああああ」
ルナが七草の方をちらっと見たら、七草の肩も同じように斬られている。気のせいか橘のよりも傷が深いような気がする。
「さて、これで、どうしますか?」
「よくも、よくも俺を」
「落ちつけ七草……認めるしかない。俺たちの負けだ……また時期を見てエルフたちから奪えばいいだろう」
「あーそういえば言ってなかったな。僕もこの里の宝玉を手に入れているんだ」
すごく、すごく今更だけど僕は二人に持っている宝玉のことを告げる。こいつらの目的はあくまでも宝玉だし僕が持っていると言えばこれ以上ここに侵略にくることはないだろう。
「……そうか、なら、これ以上ここにいる必要もないな。帰るか」
「覚えておけよ。湊! 吸血鬼! この借りは……必ず晴らす」
「あ、ああ」
そして橘と七草は坂上を両脇から掲げると、そのまま去っていった。ふぅ、これで、終わった、のかな。
「お疲れ様です。ご主人様」
「ああ……でも、ごめん。限界だからあとはお願い」
「はい」
『まあ、結果的に良かったんじゃないの? お疲れ様』
ルナに最後の言葉を託すと僕はそのまま……意識を失った。橘たちが見えなくなるまで保たせてくれていたのはきっとユラムのおかげだろうな。ありがとう。
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