エルフの里10
ブクマありがとうございます
これからも頑張ります。
「それは……脅しか?」
「いいえ、取引です。宝玉を渡せば命まではとりません。約束は守ります」
そう言っているのは七草。でも、言っている内容はどう考えても脅しに他ならない。僕は神杖につけれられている宝玉のチラッと見る。これを渡せば坂上たちは引いてくれるのだろうか。
「しかし……」
「おや、何か問題でも?」
「貴様らが約束を守るとは思えない」
「約束は守るはずです……だよな。七草」
「ああ、それはもちろん」
「なぜ貴様があいつらのことを信用できる?」
本来なら口を挟まないほうがいいのだけどつい、口を挟んでしまった。そして案の定、理由を聞かれたけどそんなもの一つしかない。
「あいつらは、僕の同郷の人間です」
「貴様、邪神教の人間と親しいのか。まさか貴様ら手を組んで」
「なんで俺たちが湊なんかと手をくまないといけないだよ」
「それに、手を組んでいたとして、サラちゃんたちを騙していたということになりますよ」
「ぐぬぬ……」
僕がこいつらの仲間であるということは決してない。かつて、仲間であっただけだ。だから、こいつらがまだ、善の心を持っているのだと信じている。それだけだ。
「さて、と。どうしますか?」
「俺はどっちでもいいけどなー」
「坂上は黙っていて」
坂上が言いかけた言葉を七草が遮る。まあ、このままだと坂上がエルフを殺したのが自分だとか言い出しそうだもんね。
「おや、あなたはいいの? あの時は平気でエルフを殺していたのに」
「結局言われたじゃねえか。湊は黙っていてくれていたのによ」
「お前らのために隠していたわけじゃねえよ」
ユラムは怒るかもしれないが、僕としては正直宝玉を渡してもいいとさえ思っていた。確かにあいつらに宝玉が集まるのは色々とまずい。でも、それで回避できる戦いがあるのなら、それもいいのかもしれないと。ただまあ様子見の段階だけどね。
『あなたの選択なら怒れないわよ。その代わり、もちろん後で必ず取り戻すのよね?』
まあ、それはね。でも、結局ルナに言われちゃった。多分だけど、ルナは僕が言わないのを見て悩んだのだけど、おそらくは僕の戦力が減ることを危惧してくれたのだろう。だからああして嫌な役目をやってくれた。
「まったく、ルナが言わなくても僕が言おうと思っていたのに。キングさん。坂上は躊躇なくエルフを殺しています」
「はぁ、相変わらず手が出るの早いね、坂上」
「別にいいじゃん。七草のやり方は性に合わないんだよ。せっかく俺がわざわざエルフを一人殺して戦争の流れを作ったのによ」
「貴様、今なんて言った」
一人殺して、あの時エルフは三人いた。それはともかく戦争への流れを作ったという言葉、それが意味することは、キングさんが逸り気味に聞いているけど、僕も頭の中で同じようなことを考えている。坂上は楽しそうに笑っている。
「あ? 最近一人見張りを殺されているだろう? それも俺が殺したんだよ。人間の手にかかって殺されたとなれば人間に対して怒りがわく。そしてその混乱に乗じて宝玉を盗もうと思ったんだけどよ。ま、本音を言えば嗅ぎ回っているのがバレタっていうのもあるがな」
「坂上……お前」
「いいじゃねえか。どうせ俺が火種を蒔かなくてもどうせそのうち戦争にはなるだろうよ。ちょっとしたことですぐに爆発したしさ……それに、俺に怒りをぶつけてもどうするっていうんだ?」
「お前を……止める! 何度でも、何度でも」
どうするのか。それを聞かれて僕は決めたことを叫ぶ。ああ、お前らを絶対に止めてやる。これ以上殺人を、罪を犯させることはしたくない。
「お前のそんな態度がむかつくんだよ! 橘、七草! 俺があいつを殺す」
「敵を前にしてやすやすと挑発に乗るとはね……どうする?」
「あいつ俺の名前を平気で呼びやがって」
ハヤテの体が光り輝いたかと思ったら、そこから橘が出てきた。橘隼人。あいつが……ハヤテだったのか。
「七草! 準備はできているんだよな? それから坂上、お前はあの吸血鬼をやれ。あいつなら殺してもかまわない」
「ちぇっ、わかったよ」
「いいよー交渉は決裂っと」
橘の言葉を聞いた瞬間、七草は手に持っていた白い紙を引きちぎった。するとすぐに、どこからか断末魔の叫び声が聞こえてきた。
「え?」
「貴様ぁ、何をした」
「殺しただけですよ……結局、全員殺せばそれでいっか。そこでこの里に伝わる宝玉を探そう」
「ちょっ、それは」
「おらぁ」
こいつら、まさかエルフの宝玉をすでに僕が手に入れていることを知らないのか? そういえばこの里に入る前に出会ったけど、その時に神杖にはめられた宝玉の数と今の数は変化がない。だからそう勘違いしてしまったのか。過ちを訂正しようにも僕たちのところに坂上が殴りかかってきたために、訂正できない。
「ルナ、お願い。援護する! キングさんは」
「許せない」
「俺が相手になってやるよ」
キングさんは僕の言葉を聞かずして、七草のほうに走って行ってしまった。まあ目の前で仲間を殺されたっぽいのだからそれも当然か。でも、そんなことできるのか? タイミングよく誰かが叫び声を上げたとかそういうのじゃないのか?
『いいえ、あの子の能力は呪術系……可能よ』
そうですか。最初のユキにかけられていた呪いと同じようなものなんですね。でも、それだと発動条件はなんなのだろうか。あの白い紙がなんらかの鍵を担っているのは間違いないのだけど、まだ情報が少なすぎる。
「余所見すんなよ!」
「ご主人様!」
「あぶなっ」
坂上が僕に殴りかかってくる。すんでのところで風が吹いて僕の体が後ろに吹き飛ばされる。すぐに理解して風の流れに身を任せたので坂上から大分距離を取ることができた。
「相変わらず面倒な能力だぜ」
「坂上、その吸血鬼の能力は自然を操る力だ……近接戦闘ならお前のほうが強い」
「りょーかい」
「なめんな! 『忠義』」
拳で殴ろうとしているので、ルナの周りに結界を張る。ルナを殺させるわけにはいかない。しっかりと気持ちを込めることができたからか、貼られた結界は砕けることはなかった。
「へえ、以前とは違うんだな……」
「足元がおろそかね」
地面から針山が出現し、坂上を貫こうとする。でも、またしても硬化した体に防がれてしまう。また、タイミング合わせて『純潔』を仕掛けたほうがいいのかもしれない。
「いや、硬化しても氷は防ぐことができないか? 『雨』」
「あ?」
天候を操作して雨を降らせる。ついでにこれで燃えている家々の消火活動を行うことも可能だ。そして、ルナも僕が雨を降らした理由をすぐに察してくれた。
「凍ってください」
「は? あっ、辺りの水が全部凍ってきた……動きが、とれねえ」
「これで終わらせる!『落雷』」
動きが止まったので坂上に向かって雷を落とす。以前落とした時は手加減をしていたとはいえほぼほぼ無傷だった。だから全力でも平気だろう。むしろ全力で丁度いいのかもしれない。そう思って能力を発動させる。そういえば、キングさんは……?
「手間、かけさせるなよ」
「うっ…ぐっっ」
「キングさん!」
七草のほうに視線を向けると、ちょうど橘がキングさんを蹴った瞬間だった。慌てて結界を貼って追撃を防ぐ。
「ちっ、相変わらず面倒な結界だ……だが、お前の雨のおかげでこいつの動きが鈍ったから今回だけは許してやるよ」
「お前に許されたくはないんだよ」
「はっ、だがいいのか? 坂上から意識を逸らして」
「え?」
「俺を……甘く見るな」
「きゃあ」
突然聞こえてきたのはルナの叫び声。どうしたのかと思えば、雷を受けても、自分の体を拘束していた氷を全て打ち砕いて脱出していた坂上が、ルナを殴ったからだった。幸いさっき発動させた結界が残っていたので致命傷を負うことはなかったが、それでも頬を切られてしまった。
「あ、坂上。血が取れたのならこっちにきて」
「はいはい」
七草の言葉を聞いて坂上は七草のほうに進む。そして手についたルナの血を、七草が持っていた紙に垂らした。
「何をした!」
「これで……その吸血鬼は呪われたよ」
「なっ」
『どうやらあれが発動条件のようね』
「さて、湊。取引と行こうか」
呪われた。つまりはさっきみたいに簡単にルナの命は奪われてしまうということ。ルナの命を握っていることで優位を確信したのか七草は僕に向けて、取引を申し出てきた。




