エルフの里8
「ルナ! いける?」
「大丈夫です」
ルナが風を起こして鉄格子を切り裂いた。そして切り裂いたことによって空いたので僕たちは牢屋から脱出する。見張りはさっき僕の『純潔』で眠らせておいた。
「カナデ、シンくんの居場所と神杖の場所はわかる?」
「はい、確認してます……どちらから先に行きますか?」
「シンくんの方かな。正直他の能力は無くてもそこまで影響ないし」
『結界とか必要じゃないの?』
それはコスパが悪すぎる。それにルナの見立てだとルナに勝てるような奴はほぼほぼいないみたいだからね。確かに援護ができればいいけれど、それだと『純潔』の使い方をうまい感じにすればいけるはず。相手の脳内をちょっとだけ混乱させるとかできるだろ?
『まあ、可能よ、それにそっちの方が楽ね。あんたの体力的にも』
そういうわけで、僕たちはシンくんのところへと向かう。まずは地下に監禁されていたので地上に出る。
「あれはっ」
「囚人が脱走しました!」
「やはり、いましたね」
「ルナを主軸で僕がサポート。それで引き受ける。ヒヨリはみんなの護衛をお願い」
「わかったわ」
そして地上に出れば予想していたようにエルフたちが待ち伏せというか警戒していた。その数はおよそ10。あんまり数を割くわけにはいかないのでこれくらいの人数が精一杯なのだろう。
「ガウガウッ」
「ん?」
「犬、ですね」
そしてよくよく見れば犬がいた。大分時間が経ってしまったのか夜になっていたので気がつかなかった。でも、そうなるときついな。あんな機動力のあるのがたくさんいるなんて。
「犬は私に任せてください……私たちは敵意はありません」
「カナデ……! 頼む、ルナ!」
「はい。できるだけ殺さないようにします」
ルナが風を巻き起こしてエルフたちを吹き飛ばす。そして僕もエルフの一人に近づいて、持っている武器を奪う。これで少しは援護がやりやすくなったはずだ。
「おい! どうして犬たちが攻撃しない……!」
「全員動きが止まってるだと……?」
「ふぅ、みんな理解してくれました……そして協力してくれるみたいです」
エルフたちが慌てていると思ったら犬たちがおかしな行動を取っていたんだな。というかカナデの能力って生き物の声を聞くことができるってだけの能力だよね。なんか強化されてないか?
『まあ、使いようによっては変化することもあるわね……あの子の場合、前も言ったけど本当に優しい性格だから生き物と心を通わせられやすいのよね』
でも、おかげでかなり助かっている。本来僕たちを攻撃するために連れてこられた犬たち……おおよそ20匹はカナデの味方になった。だからカナデを攻撃しようとするエルフに向かって攻撃している。
「ばかなっ、どうして急に」
「あいつに操られたのか!?」
「今のうちに、向かいましょう、シンくんはあそこの家です」
「わかりました」
動揺しているエルフを全て無視して僕たちは進んでいく。カナデが教えてくれた家の扉が吹き飛んだ。うん、ルナの能力だろうね。そしてそのまま僕たちは家の中へと入っていく。
「お兄ちゃん!」
「サラ! どうして……」
「動かないで縄を解くから」
シンくんは体を縄でぐるぐる巻きにされて縛られていた。ルナが近づいて行ってそしてすぐに縄を切断したみたいだ。やっぱり風って万能だよね。
「どうして……」
「お兄ちゃん」
「シンくん、今、この状況でエルフをまとめている人は誰? その人のところに向かうよ」
「えっと……キングさんと、それから今まとめているのはおそらくアバルトさんかな」
「おっけー」
まだ縛られて混乱しているシンくんにさりげなく誰が今のエルフの代表か聞き出した。なるほどね。まあ名前がわかっているだけで大分ありがたい。
「アカリさんの杖はここの隣に保管されています」
「了解」
カナデの案内に従って僕たちは隣の家へと移動した。ふと周りを見ればエルフたちは犬たちの反乱をまだ収めることができていないみたいだ。まあ今まで育てていたりしていたから愛着などもあるのだろう。その好機を逃すことなく僕たちは隣の家に入る。
「き、君たちは」
「眠ってもらうよ! 『純潔』」
「うっ」
中に入ったらエルフが一人いて僕に襲いかかってきたのだが、すぐに『純潔』の能力で眠らせた。そして奥の方を見てみたらそこに神杖が置かれてあった。
「よしっ」
「私の荷物もあったわ……これで多少は戦えるわ」
「助かる……でも、シンくん、サラちゃん、ユキ、カナデの護衛をお願い」
「ま、それが妥当よね」
でも、ヒヨリが武器を持つことができたっていうのはありがたいよね。そして僕も神杖に宝玉を嵌め込む。よしっ。なくても影響はないとは思っていてもやっぱり色々選択肢を選ぶことができる方がありがたいよね。
「あとはその……アバルトさんのところに行くだけだよね」
「はい、もう場所はわかっています」
「連れて行かれたからね」
だから迷うことはない。てかエルフの人たちってこういう対策をあんまり練っていないのかな? 見た感じかなりパニックになっているようだけど。
『ま、そもそも責められ慣れてないっていうのもあるわね。人間と不可侵の条約も結んでいるし』
なるほどね。なら今みたいに慌てていたとしても何もおかしくないってことだね。それは僕にしてもありがたい。そして記憶があるので迷うことなく僕たちはエルフの偉い人が集まってそうなところにたどり着くことができた。
「なっ、貴様ら、どうして」
「普通に鉄格子を壊してきました……ルナが」
「ここまでにいたエルフたちは」
「だいたいルナが倒してくれました。それからカナデも能力で助けてくれました」
「ぐぬぬ……」
中にはキングさんとそれから最初に見た偉い人……アバルトさんがいて、そして僕に尋ねてきた。そしてそれに対して答えるのだけど……うん、僕予想以上に何もしてない。カナデさんが覚醒したおかげで僕の出番が減ったんだって明るく考えることにしよう。仲間が心強いのはいいことで間違いがないからね。
「それで、私たちに何を望む」
「お願いがあってきました。人間との戦争を止めてください」
「へぇ」
そしてアバルトさんは僕に何をしにきたのか聞いてきた。……ああ、そっか。僕の役目はここからなのかもしれない。だからあんまり活躍の場がなかったと考えよう。そして僕はアバルトさんの目をしっかりと見て、自分の要求を伝える。
「我々を先に殺したのは貴様ら人間だぞ」
「だから復讐するのですか」
「この怒りをどうすればいい。忘れろ、そう言いたいのか」
「忘れろ、なんて言いません。しかし、それで全面戦争をしていいのですか? どちらかが滅びるまで……いえ、はっきり言いましょう。人間に滅ぼされるまで戦うつもりですか?」
「我々が負けるというのか!」
「ご主人様……言葉選びをもう少し慎重に。正しい言葉だけを伝えればいいというものではありません」
「ルナさんも同じですよ」
後ろでサラちゃんが嘆いているけど、もうしょうがない。覆水盆に返らず、だ。でも、ちゃんと伝えなければいけない。
「僕たちにいいようにやられているじゃないですか……現実をしっかりと見てください」
「くそっ……サラよ。この者たちと過ごしていたのだろう? 実際に見て、どちらが強いと思う?」
「わ、私たちの……完敗です」
「そうか……」
サラちゃんの言葉を聞いて考え込んでいる。ていうか色々考えたけど、ゴリ押しでいけそうな気がするんだけど。
『予想以上にエルフが弱かった、というところね。あなたたちの相性が良かったということもあるのだけど』
「ついでに言えば、今この里は危機に瀕しています」
「どういう意味だ」
「宝玉を狙っている者たち……邪神教の人間がこの近くにいます」
「それを我々に言ってどうする? まさかその者たちが同胞を殺したとでもいうつもりか?」
「まだ確証がないのでなんとも言えません。ですが、復讐だけで物事を進めるのはよくないです」
くそっ、ここで僕の社会経験の無さというのが露呈してしまう。こういう時にもう少し相手にしっかりと考えを伝えることができればいいのだけど。
「……復讐か」
「今ならまだ死者を一人も出すことなく過ごすことができます。エルフ殺しの件は正式に人間の王様に伝えてください。王宮に僕の知り合いもいます。手助けをすることはできます」
「一人も殺してない、だと?」
僕の不殺という言葉に少し驚いたような表情をしている。そして横の方を向いた。一人のエルフが前に出て言葉を告げる。
「は、はい。牢屋の見張り番からこのあたりの護衛まで……眠っている者を初めに意識を失っていたり怪我をしている者が多数ですが、誰一人として死者は確認できていません。それに、大体の者は飼っている犬に足止めを受けてしまっています」
「バカなっ本当にお前らは誰も殺すことなく私と交渉をしに来たのか……」
告げられる言葉を聞いて、僕たちへの評価をかなり変えたみたいだ。まあ、みんなを殺さないように戦争を止めるためにこうして動いているのにそのためにたくさん殺しましたっていうのでは面目が立たないからね。
「……」
「もう一度言います。今なら死者を出すことなく動く道があるんです」
「……わかった。お前の要求を飲もう。我々は人間への戦争を一時中止しよう」
「よかった……」
「ふぅ」
後ろでサラちゃんがホッとしたように息を吐いている。考えてみれば彼女は祖父を殺されているんだよな。これもきちんと話し合わなければいけない。この罪はきちんと償わせないといけない。でも、今はただ、戦争回避を喜ぶことにしようか。
そんな風に僕も安心した時だった。急に外が騒がしくなったと思うと、一人のエルフが駆け込んできた。
「報告します……! 人間がここに攻めてきました」
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