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エルフの里5

ブクマありがとうございます。


「う……うう」

「気がついた?」

「あの、えっと」


 起きたサラちゃんに僕は簡単に説明する。サラちゃんがショックを受けていた時、キングさんが現れて僕たちはエルフの里に連れて行かれたということを。そしてここはエルフの地下独房というところらしい。そこにルナとシンくん以外が全て放り込まれている。シンくんは説明のために連れて行かれたのだろうけどなぜルナもなのかわからない。ちなみにだけど神杖も没収された。まあ里の宝があるからしょうがないよね。そしてここにたどり着いた時、サラちゃんは精神が限界だったのか気を失ってしまった。まだ子供だから疲れが溜まっていたのだろう。


「お兄ちゃんは?」

「キングさんに連れて行かれたよ……まだそこまで時間は経っていないな」

「そうですか」

「ユキ、これからどんな感じになりそう?」

「うーん、わからないわ。一応死ぬような未来はない、はず」

「カナデも何か情報ある?」

「そうですね。私たちの処遇について会議をしている、といった感じです」

「なるほどね。二人ともありがとう」


 死ぬ未来がない可能性があるというだけで気持ち的には大分楽になる。そして今僕たちをどうするか話し合っているという感じかな。ただ、状況的には最悪と言ってもいいのかもしれない。


『まああなたはすぐにここから出ることになるでしょうよ』

「どうしてだ?」

「アカリ? またなにか言っていたの?」

「うん、ちょっとね」


 ユラム。それどういうことだよ。つい零してしまったつぶやきにヒヨリが反応してしまったので適当にごまかす。ただ、出るだけで逃げれるかといえばそれはきっと違うのだろうね。まあ、もちろんユキたちを放って一人で逃げるだなんてしたくないのだけどね。


「ヒヨリ、万一の時は」

「ユキが死んだ時のみ、ね」

「どうして? 一応今の状況も最悪じゃないの? 気になっていたけどどうしてヒヨリ能力を使うの躊躇うの?」

「ヒヨリさんの能力を使えば事態は好転するのですか?」

「ごめん、私はあんまり使うのは嫌なんだ。どうしても使うのはユキが死んだ時のみ。それだけは譲れない」

「えっと……」

「まあ、ヒヨリにも考えがあるのだろう。それに能力の使用はその人の自由だし、ね?今は争うのはやめておこうよ」


 不穏な空気が流れ出したので慌てて止める。ただ、その原因を作ったのも僕だけどそれは反省するしかない。ただ、ヒヨリの能力を使えば万事解決するのになかなか使わないのも謎……まあユラム曰く代わりに別の人間が死ぬ、らしいのだけどね。それはともかく、実行したくない気持ちもわかるんだよね。僕も少なからず体験しているし、何もできなかった時の絶望感はひどすぎてつらくなる。そんなどうしようもない感情を抱きながら僕は壁に背中を預ける。土の感じを感じながらこれからのことを考える。まずはどうやってここから逃げようってことなんだけどね。


「おい」

「ん?」

「あの我らの宝が埋め込まれた杖の持ち主は誰だ」

「僕だな」


 突然外から僕たちに呼びかける声が聞こえてきて外の方を見てみればエルフが数人鉄格子のところにいるのが見えた。


『我らのって……あれは私のものなんだけどー』


 ユラムが何か言っているけどそんなものでしょ。長い間伝わっているせいで本来の伝承を失ってしまうとかさ。そんなこといくらでもあるでしょうに。でも、本当にお前が言った通りになったな。神様だから当然と言えば当然なのかもしれないけど。


「アカリ、大丈夫?」

「まあ、多分問題ないよ」


 ヒヨリが心配そうに言ってきたのでそう告げる。正直あんまり自信ないけどこれ以上みんなを不安にさせるわけにはいかないし。だから虚勢を張りながら僕はエルフの男たちについていった。ちなみに牢屋から出る時にちゃんと腕を縛られた。まあ罪人扱いを受けているのだからそれも当然か。


 エルフの里は今までに言ったことのあるどの村よりも自然と共存している感じがした。向こうを見れば作物を育てている感じがする。それをこんなにも身近にも感じることができるなんてね。そして僕は少しだけ大きな家の前まで連れてこられた。さすがに何回も旅をしているからわかる。ここがエルフの長の家だろう。


「ここにはいれ」

「わかったよ」


 そして僕はその家に入る。中に入ったらシンくんとそれからルナの姿があった。そして目の前にはキングさんとそれからもう一人、中年のおじさんエルフがいた。少し意外だけどね。サラちゃんからお爺様とか言われていたからもっと年寄りかと思っていたけど。


「おい、お前がこの杖の持ち主か」

「使い手、といった方が正しいです」

「そうか」


 中に入ってきた僕にキングさんが話しかけてくる。持ち主ですって答えようかと思ったけれどでもどちらかといえば使い手の方がしっくりくるから使い手ということで答えた。


「まあ使い手でも構わない。この杖から我らが宝を取ることができるか?」

「え? 取れないんですか?」


 前に一度『純潔』を取り外したことがあるのだけどそれも普通に行うことができたんだけど。なんで逆にとれないんだろう。……あ、もしかしてユラム、僕が出るかもしれないっていうのはこれ?


『ええ、そうね。あれは私の武器であるからして当然普通の人間が自由に扱うことができるとは思わないことね。私を降ろして少しだけ繋がったあなたぐらいよ』


 『純潔』の時も僕が普段使うのと別の人が使うのとでは効果が違っていたし宝玉自体も自由に取り外すことができるのも僕ぐらい……もっと正確に言うのならばユラムと会話をしたことがある人ぐらいというわけか。そしてエルフの人たちは取り外すことができなかったから持ち主である僕に白羽の矢がたったとかそんな感じなのだろうな。実際僕の言葉を聞いてキングさんは怒ったように言葉を荒げる。


「できないから聞いておるのだ! 貴様、我らが宝にどんな細工を行った」

「いや、何もしてないです」

「ふざけるな! ならばどうしてこの杖から取り戻すことができない!」


 宝玉の持ち主がユラムだからです。と言えたらどんなにいいだろうか。でも、当然そんなことを言ったらどんなことになるのかは目に見えている。逆上されてもっと悪い展開になることは明らかだ。


「わかりました。取り外せばいいのですね」

「ああ、それからこの模造品たちはなんだ? 我らが宝と非常に似ているが」

「……」

『ねえ、アカリ、今からあんたに取り憑いてもいいかしら?』


 やめてください。それされたら僕が死んでしまう気がするのですけど。もちろんユラムの怒りはわかるよ。同じ宝玉だもんね。


『まあ、半分しかわかってないわね。しょうがないことだけど』

「どうした?」

「俺たちが兄ちゃんの元に宝を届けた時にはすでに紫と黄色の玉は持っていたよ。だから模造品とかはありえないね」

「……なるほど、我々の中でこれを外に出したものはいないし、人間どもにもあると考えれば自然、か」


 一切黙っていた僕にさらに追求されようとしていたら、シンくんがフォローしてくれた。非常にありがたい。そして僕は神杖を手にとってそして『分別』の宝玉を杖から取り外した。


「これでいいですよね」

「おお、これで我らの宝が」

「おい、こいつをまた牢に連れて行け」

「あの、杖は」

「ダメだ。どんなものでも武器とみなされるものは没収する」

「……わかりました」


 ちっ、予想はしていたけどやっぱりダメだったか。ただ返す時にこっそりと『純潔』の宝玉だけは抜き取っておいた。多分これが一番逃走時に役に立つだろうと思ったからだ。そしてそれをポケットの中に忍ばせる。エルフたちが『分別』の宝玉のことだけしか頭にないのは救いだな。おかげでこっそりと抜き取れた。そして、僕はまた牢屋に放り込まれる。さて、これからどうしようか。もちろん逃げるのだけどさ。

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