エルフの里4
「そういえばさっきどうして止めたんだ?」
ハヤテたちの姿が完全に見えなくなってから、僕はルナに聞いた。内容は当然、エルフたちを助けようとしたら止められたことだ。どうして止められたのかいまだにわからない。
「話しますが……サラ様を先に介護しましょう」
「え? あっ、そうだね」
しかしルナの言葉で僕は自分の優先順位をはっきりとさせる。向こうを見ればまだエルフたちの死体の姿がある。あんなグロテスクな姿を見てサラちゃんはかなりショックを受けてしまっていた。それのケアをしなければいけない。
「さ、サラちゃん?」
「ひっ、あっ、アカリさん……」
「怖かったね……」
『大丈夫は絶対に言ってはダメよ。この子は仲間が死んだことに一番のショックを受けているんだから』
わかっているよ。命の危険よりもそちらの方が大きいってことはそれだけサラちゃんが心優しい性格であるということを示しているに他ならない。サラちゃんの頭を優しく撫でながら僕は彼女の話を聞く。
「わ、私、何もできなかったです。仲間が殺されていったのに」
「うん、うん」
「冷たいようですが、あの時ご主人様が助けに向かっていたら……おそらくですが、全員殺されていました」
「え?」
『ルナの言葉は正しいわ。今の状態を見たらわかるけどこれ以上能力を使用していたらあなたの体は壊れていた。ハヤテたちが来るまでに間に合わなかったでしょうね』
ルナ、そしてユラムの言葉を聞いて僕は別にショックを受ける。彼女たちが言っていることはつまりあのままだと僕が死んでいたということだ。それだけ坂上の力が強いということでもあるけど……何よりショックだったのは、
ルナが気づくことができた、力量の差を僕は気がつくことができなかった。ということだ。また、サラちゃんも同様にルナの言葉にまたしてもショックを受けているようだった。
「そんな」
「ですので、生き残ることができてよしとしましょう」
「うん、命あっての物種という言葉があってね……辛いけど、辛いのはわかるけど。人間とエルフが本格的な戦争になれば、もっと大勢の死者が出てしまう。それを防ぐために、僕たちに助けを求めたんだよね」
「はいっ、でも、私、知らなかった。エルフが死んでいくのがあそこまで怖いだなんて」
先程の光景は誰だってトラウマになってしまうだろう。僕は過去に人間の惨殺死体を見たことがあるし、それからこれはサラちゃんに一切言えないけれど殺されたのがエルフで殺したのが坂上だからサラちゃんよりもショックが軽いのだろう。ただ、それでもサラちゃんが今感じている恐怖とかがわかるから、僕はしばらくの間頭を撫で続けていた。
「あ、いた! みんな、大丈夫?」
「サラ! どうしたんだ」
「お、お兄ちゃん……」
すぐにユキたちが僕たちの元に駆け寄ってきた。あまりに僕たちが遅いものだから何事かと探しに来てくれたらしい。そしてサラちゃんは僕から離れてシンくんの方に抱きつきにいった。やっぱりこういう時に肉親は頼りになるのだろうな。ユキたちは泣きじゃくっているサラちゃんの姿と、それからエルフの死体を見て、何があったのか少しだけ理解したようだった。
「これ……アカリさんが?」
「いや、僕じゃない。僕の故郷の人が……あのハヤテがいた」
「ハヤテさんが……」
「あのエルフを殺したのはかなり力の強い人間。ハヤテとは別人です」
この惨状をみてカナデが確認を込めて聞いてきた。だから誰がきたのか簡単に説明するためにハヤテの名前を出したらみんな一斉にこれが邪神教絡みのことだろうと理解してくれた。昌栄の街で桜花たちと戦った後にハヤテのことは全員に伝えてあるからね。ついでに言えばルナが細かい部分を補足してくれたのも非常にありがたい。
「まさかこんなところまで来ていたとはね」
「うーん、邪神教ってここまで活発的だったかしら」
「おそらくご主人様の同郷の人間が属したことで変化したのだろうと思われます」
『器が手に入ったというのもあると思うわ』
みんなの言葉を聞きながら僕はこれからのことを考える。おそらくだけど坂上はエルフの里の方に向かうだろう。ハヤテたちが同様に向かうのかといえばわからないけれどそれでも一緒に行動する可能性は高い。
「苦しいな」
「……そうですね」
僕の零してしまったつぶやきにルナが反応した。僕の言いたいことをわかったのだろう。ルナとユラムが下した判断。それをもっと深く考えるのならば僕たちは坂上に勝てないということになる。さらにそこにハヤテとそれからまだどんな能力なのかわかっていないけど七草も加わることで僕たちの負けがかなり濃厚になってしまう。僕たちがこれ以上急に強くなるなんてそんな美味しい展開はないと思ってもいいだろうし。
「シンくん、サラちゃんの様子はどうかな?」
「かなりショックを受けてる。まともに動けそうにない」
「ここで野宿も考えた方がいいですね」
「いや、逃げた方がいいと思う?」
「どうして?」
カナデが質問してみたらどうやらまだショックが抜けきっていないみたいだ。その様子をみてルナがここでの野宿を提案したのだけどユキがすぐに否定する。 ただ、ちょっと疑問系なのは不思議だけど。
「シンくん……一応聞くけどあなたたちってエルフたちから逃げているのよね?」
「え? あ、うん」
「それだとこの状況を見つかるのはまずいわ。事実は違っていても私たちがエルフを殺したみたいに思われるし」
「もうすぐここに来るのか?」
「ええ」
確かにこの状況はまずい。坂上たちのことをつ伝えるにしても証拠がないからなんとも言えない。絶対に僕たちの言葉が真実だとわかる仕組みを整えていないとキツいな。濡れ衣を着せられる。だから僕たちはすぐに移動しようとした。
「サラちゃんの負担にならないように動こう」
「ご主人様は大丈夫ですか?」
「……動くだけなら問題ない」
ルナが心配してくれたけど大丈夫だ。使用回数的にギリギリだけど『純潔』はそこまで体力を消耗しないから動くことだけならできる。杖を支えにしてサラちゃんのところに向かう。
「シンくんとユキでサラちゃんのサポートをお願い。ルナとヒヨリで警戒を、そしてカナデは生き物の声を聞いてくれ」
「ええ、わかったわ」
「それはする必要がない」
『遅かったわね……いや、向こうが早かった』
あたりに風が吹いて……そして、僕たちの目の前に一人の男性が現れた、タイミングや風貌からしておそらくエルフの里の住民だろう。
「一応礼儀として言おう。久しぶりだな、シン、サラ」
「キングさん」
「まさか一族の宝を持ち出しただけでなく同族殺しまでするとはな」
「待ってください。僕たちはこのエルフたちを殺していません」
突然現れた男、シンくんがキングさんと呼んでいたから知り合いなのだろう、の言葉についてさすがに否定する。信じてくれるとは思ってもいないけど、それでも主張することに意味はあるはずだ。
「ほお? ならば誰が殺した」
『言わないとかなり面倒なことになるわよ』
「……僕の……」
「ん?」
「同郷の人間だ」
本当は言いたくない。でも、ここでユラムが口出しをしてくるということはきっとかなりやばいのだろう。だから僕は告げる。クラスメートを売るようなことはできればしたくなかったけど、もう、仕方がない。
「はっ、同郷の人間か。宝玉を盗んだだけでなくまさか自分の同郷の者を身代わりにするとはな。まさしく見下げたやつよ」
「……訂正を要求します。さすがにそれはご主人様への侮辱です」
「あ? お前のその目とその髪……吸血鬼か。ご主人様ってことはこいつの奴隷か。いいんだよ庇わなくたって」
予想通り、キングさんは僕の言葉を全て否定する。しかし、ルナが反撃してくれたのは予想外だった。
「いえ、私はご主人様という理由だけで庇うようなことはしません」
「へえ? ほんとお前は奴隷をよく躾けているんだな」
「なんでそうなる……」
「ま、でもそれは、」
「きゃああああああ」
「ユキ!」
横からユキの悲鳴が聞こえたのでそちらの方を見たら、ユキ、カナデ、ヒヨリの3人が何者かに……まあ、エルフだろう、に捕まってしまっていた。いつの間にやら僕たちは囲まれてしまっていたらしい。
「独房で聞いてやるよ。お前の下らない言い訳をな」




