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エルフの里2

ブクマありがとうございます。

これからも頑張ります。


「ルナ! 援護は任せた! できるだけ殺さないようにしてくれ」

「戦力差がどれくらいか分かりませんが、できる限り善処します」


 ルナに一言声をかけて僕は坂上の方に突っ込んだ……突っ込もうとした。だがすぐに首根っこを誰かに掴まれてそのまま後ろの方に投げられる。不意打ちだったためにそのままなすすべなく飛ばされてしまう。


「ご主人様!」

「アカリさん」

「人間の餓鬼はすっこんでろ……これは我々のエルフの問題だ」

「え? 湊こないの? ……わかったよ。先にエルフから相手してやるよ」


 体を宙に投げられたけれど、急に風が吹いて安全に着地することができた。ルナが能力で風を起こしてくれたのだろう。そして慌てて坂上の方を見たら、エルフのうちの一人が……おそらく僕を放り投げた人だろう、が坂上の方に向かっている。そして残りの二人は後ろから援護する感じだ。うん、なんとなくだけどエルフって弓矢のイメージだよね。


「アカリさん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫……それよりも、止めないと」

「無駄ですよ……人間がエルフに敵うはずがありません。それも私たちの方が多いのなら」

「そうなのかな」


 でも、もし坂上が本当に殺されるようなことになるのなら、結界を張って守ろう。僕が間に入るのはかなり難しいみたいだけど、結界で間に入ることは多分できる。


「ルナ、僕が結界を張ったらその周囲に風を展開してほしい」

「かしこまりました……ですが、ご主人様の予想していることにはならないと思いますよ」

「え?」


 ルナに指示を出したけれど、ルナの言葉が引っかかって聞き返してしまう。僕の予想と同じことにならない? ルナはサラちゃんの方を少し哀れむように見ている。


「えっと……ルナさん?」

「可哀想ですね。相手との戦力差を計ることができないなんて」

「どういうこと?」

「うわあああああああ」


 ルナの方を向いて言葉の真意を聞こうとしたら前方から男の叫び声が聞こえてきた。なので慌てて前を向くと坂上の前に先ほど突っ込んでいったエルフの男がうずくまっているようだった。そして坂上の手には切り落としたであろうその男の右腕があった。


「なっ」

「向かってくるからどんだけかと思ったら大したことないなぁ」

「ふ、ふざけんな」

「あーはいはい。その程度の弓矢で俺の体を傷つけることができねえよ」


 後ろで見ていたエルフが慌てて矢を構えてそのまま射るも坂上の体に当たったら金属のような音がして、弾かれてしまう。放たれた矢はかなり固いものに当たったように折れ曲がっている。


「人の筋肉ってあんなに固いのか?」

「かなり鍛えている人間ならあれと似たようなことはできるはずです……しかし彼の場合は彼の能力によるものだと思われます」

「さっきも僕の結界をすぐに打ち破ったからね」


 ルナからの冷静な言葉を聞いて先ほどの結界を打ち砕いたことを思い出す。あんだけの力ならそりゃ確かに矢ぐらいなら平気だろうな。


「ぐわああああ」

「手足の一本ぐらい平気だろうよ。別に死んだわけじゃないんだし」

「ふ、ふざけるな」

「離れろ! たかが人間のくせに」


 腕を一本もがれているエルフを庇うように後ろの二人が矢を放って牽制する。しかしそれらの攻撃にたいして坂上は一切意に返していない。それどころかエルフたちの反応を楽しむように見ている。


「お前、まさかもう戦意喪失したんじゃないだろうなぁ?」

「だ、黙れ」

「おらよっ」

「があああああああ」

「……止めないとっ」


 坂上はもう一つの無事な方の腕を持ち上げて、肩の部分から切断(・・)した。それも、自分の腕で。何か刃物を使ったわけでもなく握りつぶしたり引きちぎったわけでもなく、切断されている。少し離れていたので見えなかったけれどあれ、自分の手を当てていただけだよな。


「何をするつもりですか?」

「作戦変更。坂上じゃなくてあのエルフの人に結界を張る」

「それはダメです」


 だが、ボーっとしていてもいいわけじゃない。今にもしかも、目の前で死にそうになっている存在がいるのだから、止めなければいけない。だから杖を構えたのだけど、ルナに止められてしまう。


「どうして……『忠義』! え?」

『ごめん、悪いけど今だけ能力を封じさせてもらったわ』


 止められけど、それを無視して結界を貼ろうとしたら今度はユラムに強制的に止められてしまった。いや、そもそも封じるとかそういうことできるのかよ。


『基本的にはアカリの自由にさせたいわよ……でも今はダメ。本当に申し訳ないのだけどね。理由は後で話すわ』

「ははっ、さっきはあんなに粋がっていたのに両腕をもがれたぐらいで泣きわめきやがってな……」

「うっ、うぐっ、た、頼む、見逃してくれ」

「あ? あー嫌だな」


 そして目の前でも変化があった。ついに命乞いをはじめたエルフに対して坂上は躊躇うことなくその手をエルフの男の頭において、そして、そのまま握りつぶした(・・・・・・)


「え?」

「あっ」


 目の前の光景が信じられない。それほどまでに衝撃的な光景だった。頭を握りつぶされてそのまま血飛沫が舞う。当然近くにいた坂上にかなり返り血がかかったが、それを一切気にした様子がない。


「ひっ、ひいいいい」

「こ、このやろう。俺の能力で潰してやる!」

「なら最初からそうしろよ。その程度の精神攻撃じゃ俺を崩せないぜ?」

『確かにそこまで強い能力じゃないわね』


 いや、ユラムもさすがに冷たくないか? 坂上の言葉から推測するに精神系の能力を発動させたってことだろうか。まあ、それはともかく、坂上の言葉も一理ある。さっきまで自分達の優位性を確信していて舐めていて能力を使わなかったのに今更ってね。


「でも、殺されるのを黙って見てるわけには」

「いいえ、行ってはいけません、サラ様、あなたもです。行けば殺されてしまいます」

「み、みんな」


 止めようと坂上の方に行こうとしたらルナに後ろから羽交い締めされてしまう。くそっ、僕よりもルナの方が力が強いのか一切振り解くことができない。サラちゃんの方を見てみれば目の前の光景に対して驚きのあまり腰が抜けてしまっていた。うん、衝撃的な光景で良かった点があるとすればこれぐらいかな。サラちゃんも行こうとしたらルナは僕とサラちゃん二人を止めようとしなければならないことになりかねないからね。


「あ? 湊お前何してんだ? ま、俺に突っかかってこないのなら、それはそれでいい。そこで見てな」


 その言葉とともに坂上は後衛にいたエルフに近づくと、そのまま両手それぞれでエルフの腹を同時に貫いた。


「がっ」

「ぐふっ」

「二枚抜き! ってな」


 そしてすぐに手を引き抜く。またしても上がる血飛沫。ただし一人じゃなくて二人分だからか先ほどよりもたくさん吹き出ている。


「さて、と。次はお前だな」

「もう、大丈夫です」

「大丈夫って……どういうことだよ」


 さすがに僕たちの方に向かってきてたから解放してくれたけど……さすがにこれには理由を教えてくれないと困る。


『あとで説明してあげるから……今はあいつの攻撃を凌ぎなさい』

「ルナ! 後で教えてくれよ。今は止めることを優先してくれ」

「……申し訳ありません。多分殺さないようにすれば、代わりに殺されてしまいます」

「なら……生き残ること優先……あいつは他者を躊躇いなく殺せる……だから躊躇してはダメだ」


 最後はルナにではなく、自分自身に告げるように言葉を吐く。クラスメートを殺さないように決意したっていうのに……この世界は、僕にクラスメートを殺させようとするのか。


『一応教えてあげるわ。あなたが本気でやれば、これ以上誰も死なないわよ』


 その言葉、信じるぞ。僕は迷いを断ち切るように叫ぶ。


「坂上! お前を止めてやる(・・・・・)

「できるものなら、やってみろよ」

「ああ、わかってるよ『落雷』」


 杖を掲げて天高く叫ぶ。そして坂上に向かって雷が落ちた。

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