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エルフの里

エルフの里、本編開始です。


「それで、エルフの里までどれくらいなの?」

「そろそろ着くはずだよ」


 ユラムと会話をした村、レリシアから出発して、しばらくたって、エルフの里までどれくらいかと聞いたヒヨリの質問にシンくんが答える。しばらくの間一緒に旅をしていたからなのかエルフの兄妹とも大分打ち解けることができたと思う……僕以外。


「何か目印とかあるのかな?」

「人間の里とかを見て回っていないから知らない」

「そ、そう」

「お兄ちゃん、ダメだよ。アカリさんにそんな口をきいては」

「別にいいだろ? 兄ちゃん戦闘でもルナさんより弱いし新しい宝玉を手に入れて期待したけどサラの下位互換だし」

「うぐっ」


 シンくんの容赦ない言葉に何も言い返せない。確かに僕はルナよりも遥かに弱いけれど、それにしたって対応が冷たすぎないかと思う。サラちゃんの方は大分親しくなることができたのだけど。


「お兄ちゃん! 確かに私の回復能力があればアカリさんは必要ないしアカリさんが能力を使うたびに倒れそうになっていていかにも頼りないって感じだけど」

「サラちゃんサラちゃん、トドメ刺さないで」

「え?」

『あははは、無垢って怖いわね』


 慌ててユキが止めに入ろうとしたけどサラちゃんの無垢な言葉に僕は思いっきりダメージを受けてしまう。多分この後にフォローの言葉が続くのだろうけどその言葉を聞く前に僕のライフが0になってしまった。


「で、でもアカリさんなんかすごいのは間違いないし」

「なんかってなんだよ」

「え? えっと……」


 それでもなおフォローをしようと頑張って言葉を紡いでいる。ただ、端から聞いていても曖昧だなって思ってしまう。


「神様の使いってすごいよね」

「それだけじゃん」

「ふ、二人ともそれくらいにしましょう。アカリさんはアカリさんです」

「あはは」


 兄妹の仲良しな会話を聞きながら苦笑するしかない。僕自身、僕はすごいとは思っていない。ユラムがいなかったら立ち直ることができなかったし……うん、やっぱり僕はこの能力で良かったと思う。と、そんなことを思っていたらユキが僕のそばにいつの間にかきていた。


「どうしたの?」

「シンくんはああ言っているけど……私はアカリのこと本当にすごい人だと思っているからね。私を助けてくれたのはアカリで間違いないんだから」

「あ、ありがと……」


 そんなことを言われて少しだけドキっとした。心臓に悪いことこの上ない。女の子にこういう事を言われて平気な世の中の男性って凄いよな。


『相変わらずヘタレねぇ』

「悪かったな」

「え?」

「ああ、ユキに言ったんじゃないよ」


 そう言いながら僕は持っている神杖を指差す。それで伝わったのか納得した表情をしてくれた。てかヘタレって……何も言い返せない。女の子とこうして話す事ができるのって本当僕がこの世界に転移したからだよね。地球ではせいぜい栞ぐらいとしか話した事なかったし。あとはまあ市ヶ谷さんかな。


『はいはい、全く。これだから童貞は』


 さすがにひどくないか!? 偏見が過ぎると思うのだけど。そんなたわいの無いことをユラムと話していたら突然ルナが立ち止まった。


「どうしたの? ルナ」

「ご主人様、近くで戦闘が行われているみたいです」

「え?」

「……向こうで人間とエルフが戦っているみたいです」

「そんな!」


 ルナに引き続いてカナデも同じようなことを言っている。そしてそのカナデの言葉を聞いたサラちゃんは小さめの悲鳴をあげるとそのまま向こうへと走り出してしまった。


「ちょっ、サラちゃん!? ルナ! 後を追うよ。ヒヨリ、みんなをお願い」

「かしこまりました」

「わかったわ。私たちはここで待っておくわ」


 ヒヨリのその言葉を背に受けながら、僕とルナは走り出す。サラちゃんが先走って行ったからそれがちょっと心配だ。でも、すぐに目の前から騒音が聞こえてきた。どうやらそこまで距離が離れていたわけではなかったみたいだ。


「やめてください! 今人間と争う必要はないのです」

「しかしあいつは我々の村を襲うと言っている……今ここで潰しておかないと」

「そうだよ、餓鬼……俺はエルフを殺したくてウズウズしてるんだ」


 そこにいたのは少年が一人と、それから男が三人ほど。サラちゃんが男の方に話しかけている感じから見るにおそらく男たちがエルフなのだろう。そしてそれと戦っている少年は不穏なことを言っていて……


「ご主人様?」

「おまっ、坂上!」

「あ? おー湊か。お前もこの世界に来てたんだな」


 まさかの知り合いだった。いや、ユラムと話してからクラスメートと出会うのが早すぎる気もしないでもないけれど。そこにいたのは坂上ミナキ。僕のクラスメートの一人。世良と一緒になって佐倉をいじめていた。まあいじめてたけれどそれを見て見ぬふりをしていた僕もまた同罪って……今はそんなことどうでもいいよね。


「ご主人様の知り合いですか?」

「ああ」

「へえ、お前その子にご主人様とか呼ばせてるのかよ」

「私はご主人様の奴隷ですので」

「所構わず言うのやめてほしいな」


 ルナの言葉を聞いて坂上は僕の方を馬鹿にするように笑う。ルナもルナで相変わらず僕の奴隷って言いまくっているし。言っていない僕も悪いけれどここはあとで注意しておこうかな。特に僕たち(日本人)は奴隷に対して良い思いを持っていないからね。


「奴隷、ねえ。お前にそんな趣味があったとはな」

「今はいいだろ。それよりも、なにしてる……エルフを殺すって」

「あ? ああそうだよ。この近くにエルフたちの里があるんだろ? 俺はそこでエルフたちを大量に殺すつもりなんだ……お前、もしかして邪魔する気なのか?」

「当たり前だろ」


 そう言いながらも僕は杖を前に掲げる。坂上にどんな思惑があってのことかは知らないが、クラスメートがエルフを殺そうとしているのなら、それを止めない筋合いはない。


「おい! 俺たちのことを無視するな」

「アカリさんが気を引いているうちに逃げてください」

「ふざけるな! 里から逃げた貴様に指図される謂れはない」

「私は逃げたわけでは」

「へえ、お前もエルフだったのか……なら遠慮することはないな!」

「『忠義』!」


 僕と坂上が言い合っている横で、サラちゃんとエルフの男たちがまだ言い争っていた。なるほどね。エルフ側からの視点で見たらサラちゃんは逃げたようなものなのか。確かに今この神杖にはめられている『分別』はもともとエルフの里にあったものらしいし。そしてエルフであることに気づいた坂上はサラちゃんに向けて拳を振り下ろそうとした。だから慌てて結界でそれを止める。


「あ、ありがとうございます」

「サラちゃんは下がってて」

「邪魔すんじゃねえぞ!」

「きゃあああああああああ」


 再度坂上が拳を振り下ろしたら、結界にヒビが入った。いや、あれって世良の反動込みの攻撃でさえまともに破ることができなかった結界なのに。


『いや、反動有りの方が威力高いとかさすがにゲーム脳すぎるわよ。まあ、あの子の能力もまたかなり厄介よね』


 そういうものなのか。でも、どんな能力なのかわかっているのなら教えてほしいけどそれは自分で見つければいいか。ただ、結界を壊すことができるのは戦闘系だけだろうと予測してみる……小沼山みたいに僕に何かしたわけじゃないし。


「さてと……混沌としてきたが全員を殺せばなにも問題ないよね。かかってきな」

「ふざけんな……僕はお前を止める」


 傲慢なことを言っている坂上に対し、僕は宣言する。僕はもう、覚悟を決めたんだ。お前たちを誰一人、殺させはしないと。

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