霊山にて相見える10
この章もひとまずこれで終了です(長編はまだ続いています)
「おかえりなさいませ……かなり顔色が良くなっていますね」
「え? そうかな」
ユラムとの話を終えて、僕は青色の宝玉を手にとって洞窟から出た。するとそこにいたルナからそんなことを言われた。そんなに言われるほど顔色が変わったのだろうか。
「はい。世良と戦った後はかなり思いつめていましたが今は大分スッキリとした顔になっています」
「そう……か」
ユラムと話をして僕はやるべきことを決めた。ユラムの願いを聞いた。殺すためじゃなくて誰も死なせないように強くなる。ユキをた助ける時にそう決意したけれど、もう一度再認識しよう。世良たちを助けたい。その気持ちを持っている。
「ルナ、決めたよ。世良たちを助ける。絶対に殺さない……そのために、ルナ、これからも協力してほしい」
「何度も言っていると思いますが私はご主人様の奴隷です。ご主人様についていきます」
「ありがと。でも、そうだな、ルナは奴隷じゃなくて、ただの仲間として協力してくれる時がくるといいな」
「……やっぱり不思議な人ですね。ご主人様は」
「ん?」
「なんでもありません」
さっきルナは何を言いかけたのだろうか。よく聞き取れなかったんだよね。まあなんでもないというのならそれを尊重しよう。ただ、ルナからの視線がよくわからないけど。
『奴隷じゃなくて仲間っていうのがおかしいだけのことよ』
ああ、よくある世界が異なることによる認識の違いっていうやつか。これは今後きちんと話しておく必要があるのだけど今はまだいいか。それにユラムと話をして少し落ち着いたけれどもそれでもまだ落ち着かないところがあるし。さっさと宿に戻ることにするか。
「宿に戻ろうか」
「はい、場所はこちらです」
「わかるの?」
「先ほど確認しておきました」
まじかよ。すごい有能なのだけど。僕がしてほしいことを全部先取りでしておいてくれているとか。前も思ったけれどなんで奴隷商に捕まってしまったのだろう。その辺りこととかを聞けたらいいな。
「向こうに見えるのがユキ様たちが泊まっている宿です」
「そっか」
『アカリ、それよりも宝玉を取ったことを伝えなくていいの?』
あ、そうだった。確かに宝玉を手に入れる許可は得たけれど本当にもらったということは伝えていないな。こういうのは早い方がいいんだっけ。
「ルナ、ルナは先に戻っていて。僕は村長さんに宝玉のことを伝えてくる」
「はい……どうやら四つ目の宝玉も手に入れたみたいですね」
「うん」
ルナにそう告げると僕は村長のところへと向かった。先に村長の方に行った方が効率が良かったのかもしれないがそんなことがわからないくらいに混乱していたということにしよう。後先考えずに行動したわけでは……決してない。
「あの、すみません」
「ああ、どうなさいました?」
「宝玉の件なのですが」
「創造神様は許可されたのですね」
「ええ、もちろん」
「そうですか……わかりました。その宝玉ですが、差し上げます」
「ありがとうございます」
説明したところ簡単に納得してくれた。証拠を示せとか言われたらどうしようもなかったけれど納得してくれてよかった。それじゃあユキたちのところに合流するとしようか。そういえば、この宝玉の能力ってどんな感じなの?
『これは「節制」の宝玉。要は自分のエネルギーを他者に分け与えることで他者を回復させることができる回復系の能力よ』
なるほどね。ゲームの世界のこととかを引き合いに出すわけじゃないけれど、相手の戦力が強くなっていったら回復系の能力者って重要になってくるよね。
「それでは、僕はこれで、失礼します」
「はい……あ、もしよろしければ能力を実際に見せていただくことはできないでしょうか? 私どもはそれにどんな力が秘められているのかわかっていないのです」
「え?」
いや、実際に見せろって言われても使うたびにかなり消耗してしまうのだけど。でもお世話になるぐらいだし少しぐらいは協力してあげたい。
「えっと……あの、何をすればいいのですか?」
「そもそも何ができるのですか?」
「あー……誰かを回復させることができます」
「では、私に使うことはできますか?」
「え?」
『そこそこの年齢だし疲労が溜まっているのでしょう』
なるほどね。まあ年上は敬いなさいっていうのはよく聞く話だし、ちゃんと孝行しないとね。
「わかりました。『節制』」
「節制……それが能力発動の鍵なのですね」
「ん?」
『違うわよね』
単に能力を使うときに口に出すみたいな感じで言っているだけな話だしね。能力を言わないで使用している人もいるし、まあ趣味なのかな。
『そうね。まああんたの場合は能力と名前を連動させておいた方が効果が強いしこれでいいわよ』
ユラムからもお墨付きをもらったところで僕は能力を村長に向けて使う。青い光が村長を包んだと思ったっら村長は驚いたような顔をして、
「驚きました。腰の痛みがなくなりました」
「これでどうです……か?」
そして気がついたら僕はかなり疲れを感じていた。これが相手にエネルギーを渡したということなのだろうな。そして僕はもう一度村長たちに告げる。
「いいですよね? これで僕は宿に戻ります」
「いつまでいらっしゃるおつもりでしょうか?」
「多分明日にはここを出ます」
「……わかりました」
かなり名残惜しそうな感じだけど僕にも目的がある。そのためにはもうすぐにここから出なければいけないのだ。シンくんもかなり苛立っていたし。ま、でもこうして新しい宝玉も手に入れることができたわけだしここに寄った甲斐はあったのだろう。
「あ、アカリお疲れ様。神様と話せた?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
ルナに教えてもらった宿に入ればユキたちがいて、簡単に労ってくれた。ふと、奥の方を見ればシンくんとサラちゃんは眠っているようだ。
「二人とも山越えで疲れが溜まっていたみたい。ここに来てすぐに眠っちゃった」
「まだ、子供だもんな」
僕の視線を受けてヒヨリが教えてくれる。正直僕もきつい……まあこれまでそこそこ旅をしてきたからということと、世良たちのことで一杯一杯だったから余計なことは考える余裕がなくて結果的になんとかなっているけどね。
「アカリも休んだら? 精神的にかなりきついでしょ」
「ははは、ありがと」
「必要なら氷でも用意いたしますよ」
「それはシンくんたちに使ってくれ」
ユキたちに気遣われる。そしてルナがどこからともなく氷の塊を出してくる。本当こういう機転を利かせた使い方がうまいよな。僕もあんな風に自由自在に使うことができるようになりたいな。
『まあ、頑張りなさい。運がいいことに似たような能力を持っているんだから』
「ふう、悪いけど僕寝るよ」
「わかったわ。アカリ最近休めてなかったから休んでおきなさい。ここなら安心できるわ」
「うん、そうだと思う」
そして僕もまた、用意してくれたであろう布団を敷いて眠った。久しぶりに安心して寝ることができたかもしれない。そして起きたらエルフの里に向かおう。多分だけどそこには僕のクラスメートはいないだろうし。




