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霊山にて相見える9


『ふう、あなたがここに来るのは久しぶり……と言ってもまあそこまで時間は経っていないけどね』

「素直に二回目っていいなよ」

『ちょっと場を和ませようとしたからに決まってるじゃない』


 目の前にいる美少女は、そういって笑った。言われなくても僕の顔はかなり強張っていることは間違いないのだろう。だって、目の前のこの美少女は、僕が今生きている世界の想像新なのだから。そしてここは白い空間。僕がこの世界に来て初めて目にした光景。でも、今回は前回と違って僕は言いたいことが山のようにある。


『さて、と。時間は特に気にする必要はないのだけど、それでも早いところ済ませちゃいましょうか。アカリ、あなたの言いたいことはなにかしら?』

「この世界に僕らを喚んだ理由は僕たちにクラスメイト同士で殺し合わせるためなのか?」


 ユラムに遠慮しなくていいと言われたので遠慮しないで僕は一番気になっていることを聞く。世良の能力を、あいつの能力のデメリットを見て思う。あいつは戦えば戦うほど自分自身が苦しむ能力だった。それだけが全てじゃないけど今の現状を見れば僕や神崎といった王宮に召喚された人たちと、それから桜花たち邪神教に召喚された人、そして小沼山みたいに魔王候補として召喚された人……他にもいるかもしれないが、こうして敵対する立場になっている以上、避けては通れないことがある。


「僕たちが喚ばれたのは互いに殺しあうためなのか? こうして互いに衝突しあって、殺し合って……僕は、彼らと殺し合いたいわけじゃない」

『ええ、わかっているわ。あなたが世良のことで傷ついたのはわかる。彼が傷つきながらもなお自分と戦っている現実に耐えられなくなったのでしょう?』

「そうだよ……僕はどうすればいいんだ!」


 僕はユラムに叫んでいた。だってどうしようもないから。じゃあ僕が素直にこの宝玉を差し出せばよかったのではないのかという考えも確かにある。でも、それはできない。僕の目的のためには、力が必要なんだ。


『そこは少し違うけどね。別に宝玉が無くたって、あなたには力があるわよ……ってこんな気休めを聞きたいわけじゃないわよね』

「このまま行けば、いつかきっと、僕はクラスメイトの誰かを殺してしまうのではないのか、そう思うんだ」


 ルナが言っていたことは間違っていない。人間は成長する生き物だ。そして僕たちはこの世界とは異なる文化のことを知っている。だから知識の量では明らかなアドバンテージを持っているためにクラスメイトの成長速度はかなり高いと思う。小沼山や桜花がいつまでも同じだとは思えない。だからいつか、本気で殺し合わなければいけないときが来るのかもしれない。


「そうなったときに、僕は平気でいられるとは思えない」

『赤の他人しか殺す覚悟ができなかったというわけね』

「それが、限界だった」

『そう』


 ユラムは僕の言葉に考え込むようにしている。できることなら殺すことはしたくないけど、それは甘い考えなのかもしれないと痛感させられた。でも、僕が殺すことができるのは、殺してもなんとかできるのは結局僕が知らない赤の他人だけだ。浅ましいと思うけれども、これが僕だ。


『別にそれくらいいいわよ。あなたが生きてきた世界はとても平和だった。それこそ人を殺すことを考える必要がないくらいに。そしてあなたの世界は残酷だった。自分さえよければそれでいいと思える存在が大勢いて』

「でも、それで僕は立ち止まるかもしれない」

『それもいいわよ。立ち止まってもまた歩き出せば。誰かを殺すことに悩んで立ち止まることは間違っていない。それは、神たる私が保証するわ』

「……」


 少しだけ、ずれてしまった気がする。でも、それでも、僕の目から流れる涙はとどまることを知らない。ずっと辛かった。戦いに身を置いているときは考えないようにしていた。誰かを助けることに集中しようとしていた。でも、ダメだ。こうして落ち着いて言葉にしてしまったらもう、僕は自分の心情を吐露することしかできない。


『さて、と。これ以上はあなたの精神が持たないだろうから先に進むわ……あなたたちをこの世界に喚んだのは、あなたあの能力を与えたのは、あの子たちを救って欲しいからよ』

「え?」


 頭がパニックになっていても、ユラムの言葉は僕の頭に届いた。でも、その内容には驚くしかない。あの子たちって……世良たちのことだろうか。彼らを救うため? 救うために僕は喚ばれた?


『まあまさかあなたがここまで成長するというか関わるとは思ってもみなかったのだけどねー。面白かったもの。あなたたちの中で何も望まなかった(・・・・・・・・)のはあなただけだったし』


 何も望まなかった。それはつまり、答えることをしなかったということだろう。あのとき、この世界で何がしたいのか考えていなくて答えられなかったのは僕だけだと。ああ、だからユラムはこんな能力を僕に与えたのか。僕が進むことができるように。


『そ、何も望まないなんて面白いから成長をできる限り監視できるようにしたんだけどねー。いや、まさかこんなにも成長するとはね。ま、とにかく話を戻すわよ。王宮に召喚されなかった人はそれなりにいる。そしてその人たちはみんなある目的のために喚ばれた。そのためにかなり過酷な生き方を強いられた。それこそ価値観が揺らぐぐらいに』

「そんな……」

『平和な世界で育ったあなたたちが殺すことを躊躇わないまでになるなんてよっぽどのことでしょう?』

「それは……そうだけど」


 でも、どんなことをしたらそんなことになってしまうのだろうか。どんな現実を目の当たりにしたのだろう。それを知ってどうなるのかわからないが、それでも知りたいと思う。


『うーん、まあもうとっくに人を殺しているわね。てか最初に殺したはずだしー。王宮が召喚した人の中ではまだあなたしか殺していないのにね……それもなかった現実(・・・・・・)のだけど』

「うそ……だろ」


 でも、今の言葉で少しだけ安堵した自分もいる。まだ神崎や栞などは人を殺していないのだとわかったから。それだけで大分救われた気分になる。


『さて、それじゃあ喚ばれた理由だけど簡単よ。邪神の依り代になるってだけ』

「邪神の依り代……」

『そう、彼らは死ぬためにこの世界に喚ばれたの……だからお願い。あの子たちを殺すためではなくて、生かすために戦って欲しいの……あいつの被害者をこれ以上増やすなんてできない』

「……」


 ユラムの言葉はもはや懇願だった。意外だった。彼女は、この世界の神だ。望めば、いや、一言啓示を行えばすぐに従ってくれる存在など、山ほどいるだろう。なのに、僕に頼んだ。


『私が世界に介入したくないのは知っているでしょう? これが精一杯の行為。あなたに私の力の一部を与えることでしか……私は異世界の者共にたいしての償いができない』

「償い?」

『そうよ、あいつ、邪神がしてしまったことに対しての償いよ』

「……」

『あなたの疑問に全て答えたとは思っていないわ。それでも、これだけは伝えたかった。解決したとは思ってもいないけど、それでも……』

「僕は、世良たちを助けたい。それは何も変わらない。そして邪神があいつらの命を奪おうとしているというのなら……僕は、邪神を許さない」

『そう……今はこれでいいわ。宝玉が7つ集まった時、また話をしましょう』


 その言葉を聞いた瞬間、あたりの白い空間がまた輝き始め、そして、そのまばゆい光に目が眩んで、閉じてしまい、再度、開いたその時には、僕はあの、洞窟の中に帰ってきていた。

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