霊山にて相見える7
「起きましたか、ご主人様」
「あ……ルナ、僕、どれくらい寝てた?」
目が覚めたらやっぱりルナの顔があった。今回は膝枕はされていなかったようだけど、それでも目を覚ましたら一番最初に見るのはやっぱりルナなんだと思った。そして、どれくらい寝ていたのか訪ねた僕にルナは答えてくれる。
「そうですね、時間にして、半日、といったところでしょうか。もう夜が明けました」
「そ、そっか」
「ここで野営することになりましたが……ご主人様の体のことを伝えたところ、サラ様もシン様も納得されました」
「ごめんね」
「ご主人様が謝られることではありません」
謝られることではないって言われても、僕のせいでこうして一日潰してしまったのは間違いない。結局僕のエゴで僕は自分自身をこうして痛めつけてしまったわけだし。それは本当に彼女たちに謝罪しなければいけないよね。
「あ、アカリ起きた?」
「ユキ」
「シンくんを中心にルナちゃんが運んでくれたのよ……あ、ここは中腹にある山小屋ね」
『昔の人が山を越えるために造ったのよ』
確かにここの山を越えるのはなかなか骨が折れそうだしこういう山小屋が建てられていても何もおかしくはない。それが結果的に僕にこうした休息所を与えてくれたというわけだし本当に助かった。
「そっか……」
「起きて大丈夫?」
「うん、多分大丈夫なはず。起きて平気だし」
ユキに心配されたけれど僕は寝かされているところから立ち上がる。ユキが入ってきたことで外の様子がなんとなくわかる。もうすっかり朝日が昇っているな。
「特に疲れもないし、すぐに動けるよ」
「そう、ならいいわ。カナデとヒヨリが食事の準備をしているし、食べましょ」
ユキに誘われるように僕は外に出た。すると、言われたように二人が準備をしていた。といっても焚き火で魚とかを焼いているだけだけど。……火とかどうやって準備したんだよ。
「ルナさんが能力で起こしてくれました」
「まじかよ」
できないことなんてないんじゃないか? そんなことを思いながらルナの方を見る。僕の視線を受けたルナはすました顔で淡々と返してくる。
「自然発火です……能力は使いようですので」
『あんたもできなくはないわよ。粉塵爆発とか火山の噴火とかで火を起こすぐらいね』
そうだけどさ……火山の噴火とかしてしまったら山火事とかに広がってしまうんじゃないか? そうなってしまうのは僕としては不本意極まりないのだけど。……あ、能力の使いようとか言われたら思い出したんだけど、ユラム、世良の能力についてお前と話したいことがある。
『わかってるわ……でも今はやめて。山を越えた先にある村、そこで話しましょう』
「何かあるのか?」
「アカリ?」
『……ええ、私を最も信仰している村があるわ。そこでなら……かなり話せるはず』
「お前を最も信仰している村ねぇ」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
心の声が漏れてしまっていたのかユキたちに心配された。でも、単にユラムと会話しているだけだし問題はない。あ、でもここを越えたら山があることぐらいは伝えてもいいのかもしれない。
「サラちゃん、この山を越えたら村があるんだっけ?」
「え? はい、そうですけど」
「それがどうしたの?」
「できればその村に寄りたいんだ」
「えーこれ以上寄り道とか嫌なんだけど。兄ちゃんのせいでもう大分時間を無駄にしたし」
僕が村に行きたいと主張したらシンくんに否定的なことを言われてしまう。まあ確かに今日にはもうこの山を越えていたかもしれないと考えると仕方がないのかもしれない。でも、
「ごめん、こればっかりは譲れないんだ」
「世良さん、でしたっけ、あの同郷の人と何か関係があるのですか?」
僕が反論したことで空気が悪くなることを懸念したのだろう。カナデが僕たちの間に割って入った。その言葉は全く間違っていない。
「うん、聞かなければならないことがある」
「誰に?」
「そういえばこの先の村はもっとも神様の信仰心が深いところだと聞いています。アカリ様が神の使いというのなら、それ関連でしょうか?」
「まあ、そんなところ」
サラちゃんがフォローなのかそう言ってくれた。そしてシンくんもそれを聞いて渋々ながらも納得してくれた。エルフという自然と共に生きている種族だからこそ神様と言われたら強く出れないのかもしれない。
「まあ、それはいいんだけど……アカリ少し私と話せない?」
「え? 別にいいけど」
食事を食べてさあ出発しようかというところでユキに呼ばれた。何事かと思って彼女とまた山小屋の中に入る。中に入ったらルナの姿があった。どうやら中に何か使えるものがないか探してくれていたみたいだ。
「どうかしましたか?」
「いや、別にいいの……ルナちゃん、できることなら二人だけで会話したいのだけどいいかな? アカリの秘密に関することなの」
「……え?」
僕の秘密? ユキたちに秘密にしていることって……一つあったな。確かに隠していたけれど無理やりにでも隠そうとしたわけじゃないからね。それにところどころで気が付いていた節があるし。
「もしかしてご主人様の故郷に関わることでしょうか」
「あら? 気づいていたの?」
「……母が、言っていましたから」
ん? この様子だとルナも勘付いていたとかそんな感じなのだろうか。でも、どうして? そんな疑問に関わらず、ユキは僕に対してズバズバと一つの疑問を聞いてきた。
「アカリ、あなたこの世界の人間じゃないわよね」
「……そうだよ。隠す気はなかったんだけど、僕はこの世界の人間じゃない……神様に呼ばれて来たんだ」
「ええ、やっぱりね」
「まさかとは思っていましたがやはり、でしょうか」
そしてやっぱり、彼女たちは僕の秘密? について気が付いていたみたいだ。でも、どうして気づいたのか確認しておきたいな。もしかしたらこれ以上広まることを防ぐことができるかもしれないし。
「ねえ、二人とも。どうしてわかったの?」
「そうね。まずあなたの話で聞く故郷と世良たちの様子が違いすぎる点。それからこの世界の知識の無さ、それから珍しい黒目黒髪ってところかしらね。あとは王宮で別世界の人間の召還儀式が行われるかもしれないとお父様が言っていたからよ」
「私は母から少し聞いていたからです。遥か昔、邪神に対抗するために創造神が別世界の人間を喚んだ、と。そしてご主人様と同じ黒目黒髪で常識が一部欠如している。私のことを知らなかったのでよほどのことだと思っていました。また、ご主人様の同郷の人間も同じ黒目黒髪でしたので」
「なるほどね……でも、どうして今そんなことを聞くの?」
二人の話を聞いてどうしてわかったのかは理解できた。ただ、それだと新しい疑問が出てくる。これまでに気が付いていたのだとしたら今更確認する必要などなかったはずなのに。
「限界だと思ったからよ」
「限界?」
「ええ、同郷の人間が出てきて……おそらく邪神教に関わっていて、世界は彼らを敵として殺そうとするでしょう。今までみたいに見逃す、ということはできないわ」
「ついでに言えば、ご主人様も限界でしょう。敵を殺すよりも生かして捕らえる方が難しいことは明らかです……母曰く別世界の人間は成長速度が著しい、らしいです。もちろん希有な能力を与えられていることが多いのは事実ですが、それでも、強くなる彼らを前にして限界がくるでしょう。彼らを殺さないといけない時が」
「……」
二人が心配してくれていることはわかった。だからこそ、僕はきめないといけないのかもしれない。ただ、少しだけ時間が欲しい。
「二人の気持ちはわかったよ。ありがとう……でも、それは少しだけ待ってくれないか?」
二人にそう話して僕は山小屋から出る。……ユラム、お前と話して、決めるよ。これからの僕の生き方を。彼らを殺すか、殺さないか。
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