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霊山にて相見える6


「ああああああア」

「本来なら殺すべきでしょうが、ご主人様の命令です……最初は殺さないように努めましょう」


 ルナがそう言って指を鳴らせばルナの周りにあった氷の塊が世良に向かって飛んでいく。そして同時にまた世良の周りの水が凍って動きを封じようとしている。


「凍って」

「すげぇ」


 雨は止んでいるのに、その降った水が凍ってそれが吹き荒れる。さらに動きを止めた世良の真下の地面が盛り上がり、世良の体を貫く。いや、ちょっとやりすぎじゃない?


「四肢をもがれても生きていたのですから腹を貫かれるぐらい何も問題ないでしょう。さらに今はサラ様の回復もある。死ぬことはありません」


 僕の思考を読んだのかそんなことを言ってくる。小沼山の方を見たら頷いていたしあれでも問題ないのだろう。まあ死ぬことがないのなら、それでいいのかな? ルナに言った命令は殺さないで終わらせること。それを守っているのならこれ以上僕が何か言う必要は全くないな。


「あなたの戦闘能力の高さはわかっています。しかし……」


 ルナは世良に向けて風の塊を、氷の塊を飛ばしている。一つ一つはたいした威力ではないのだろうが、あまりにも数が多すぎる。僕の目でもしっかりと視認できるぐらいの数がある。風を視認ってすごいことだけどね。まあ、とにかく数が多いことで世良はルナに全く近寄ることができないみたいだ。


「あなたの能力は近接戦闘に特化している。だから、対策は容易い(・・・・・・)

「うううううウ」

「飛んだ……!」


 世良はその場から高く飛んだ。確かに飛べばルナの攻撃をある程度は防ぐことができる。まあ、今の間だけだろうけど。そしてそのまま落下するエネルギーも加えてルナに殴りかかる。


「その程度、私が予測してないとでも?」


 ルナを守るように地面から土の壁が生まれた。世良の一撃で壊れてしまったけれどルナの体にダメージを与えることができなかった。


「再構築」


 砕かれた土の壁が再度一つになった。つまり、砕いてから移動する時間のなかった世良はその土たちに巻き込まれて身動きが取れなくなってしまっていた。凍っていた時と同じように動こうとしているが、今回は動けないみたいだ。


「これで、おしまいです」


 そしてルナは持っていた薬を世良の口に押し込んだ。いや、薬とかって水がないと無理だよね? 僕が子供なだけ? 世良ってもう水なしで錠剤を飲めるぐらい大人だった?


「ご主人様、どうしたのですか?」

「いや、世良に水を含ませてやってほしい」

「わかりました」


 そのまま降っていた水が宙に浮いてそしてそのままちょっとした塊になる。そして、


「うげっ」

「いいけど容赦ないな……」


 水を無理やり押し込まれて苦しそうにている。今度は呼吸困難になってしまうのじゃないか? でもそんな僕の考えは杞憂だったようですぐに世良の喉が動いてゆっくりと薬を飲み込んだようだった。そしてすぐに世良は意識を失ったように動かなくなった。


「世良用に調合してもらった特別な睡眠薬だ。すぐに開放しても起きることはない」

「そっか。ルナ、もう大丈夫」

「かしこまりました」


 次の瞬間に、世良を捕まえていた土の壁が崩れた。そして支えを失った世良は地面に崩れ落ちる。それを僕と小沼山が慌てて支える。


「すまん、助かった」

「僕だって世良のクラスメートだからね」


 そんなことを言い合いながら世良を少し離れたところに横たわらせる。サラちゃんの能力が発動しているのか体が少しだけ発光している。四肢が切断されたとかそんなことはないからすぐに回復するだろう。


「ルナ、助かったよ。ありがとう」

「いえ、私はご主人様の命令に従っただけです」

「そ、そっか」


 ルナに感謝の言葉を伝えるも冷たくあしらわれてしまう。まあ別にいいか。それよりも僕は今、小沼山と話がしたいからね。


「それで……」

「今回は世良を救ってくれた借りがある……お前は甘いよ。あの子なら間違い無く俺も世良も殺せただろうに」

「それは僕が望んだ展開じゃないからね」

「そうかよ」


 そう言いながらも小沼山はすぐに立ち上がる。そして世良の方に近づいて行って世良の頬をたたく。ちょっ、また暴走したら……


「さっきも言ったが、今回のことは一つ、借りにしとく……それに今回は引くとしよう」

「できることならお前とはもう戦いたくないのだけど」

「それは無理だ」

「そっか」

「それから世良は一度眠ったら次に起きた時に暴走は止まっている……といっても俺はこれ以上ここに居座る気はない。だから帰る」

「そっか、またな」

「……はっ、最後まで甘いやつだ」


 そう言い残して、小沼山は去っていった。肩に世良を乗せた状態で。そのままゆっくりとこの霊山を下っていった。


「甘い、か」


 小沼山がそういった意味はわかっている。またな。再会を意味する言葉を言うということは、それはつまりまた再会するということを僕が望んているということを意味する。また出会ってしまえばきっと、殺し合うことが決まっているというのに。僕が望んでいなくとも小沼山たちはきっと僕を殺そうとしてくるだろう。この杖を渡せばなんとかなるだろうが、それこそ僕の本意じゃないからね。


「なんだったのかしら?」

「……さあ。あ、サラちゃん世良に能力を使ってくれてありがとう。おかげであいつも予想以上にダメージを負うことがなくすんだよ」

「いえ……」


 ユキに聞かれたけれどそれには答えることができない。それよりもすっかり忘れていたけれどサラちゃんにお礼をいう。本当に助かった。彼女がいなければ、もっとひどいことになっていたかもしれない。


「それにしてもお姉ちゃんすごいね! さすがは吸血鬼だ」

「いえ」


 そしてルナがシンくんから羨望の視線を受けている。いや、シンくんだけじゃなくてサラちゃんからもだ。うん、確かにルナは格好良かったけど……なんか釈然としない気がするのはなぜだろうか。


「そういえばさっきアカリの指を咥えていたけどあれって」

「ただのエネルギー採取です」

「血を飲むと能力が回復するのか?」

「はい。特にご主人様の血は美味しいですので他よりもはるかに力が出たように思います」

「そうなんだ」


 美味しさと力の発揮具合って相関性があるのだろうか。気になるけどルナが言っているし間違いないのだろうな。


「アカリさん、大丈夫ですか? さっきその杖をかなり使っていたようですけど」

「え? あー」

『さすがに限界ね。さっきまでちょっと手伝ってあげてたけどこれ以上の引き伸ばしはあんたの寿命を本当に削ってしまうだろし……まあ、お疲れ』

「ごめん、無理みたいだ」

「アカリさん!?」


 カナデの心配そうな声を聞きながら、僕はゆっくりと意識を手放していった。それにしても、ユラム……お前には言いたいことが山ほどあるんだ。



『何を言いたいのかはわかっているわよ……でも、それはここで、じゃないわ。霊山を超えたとことにある村、そこで私と話すことができるのだから』

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