霊山にて相見える5
「世良の能力は戦闘系だ……いわゆる肉体強化の系統だろう」
「断定できないのか?」
「本人から聞いただけだからな」
小沼山を開放して話を聞く。話してくれた内容は想像以上に残酷なものだった。てか能力って普通よくわからないものなのだろうな。僕の場合はユラムという最強の存在がいるけど。
「だが、そんなことは正直どうでもいい。大切なのはあいつの副作用だ」
「副作用?」
なんか物騒な言葉が聞こえてきた。僕が神杖の能力を使ったら反動で吐血してしまうとかそういう感じなのだろうか。
『そんなレベルじゃないわよ』
「あいつは能力を使って他人を殴ったとき、同事に相手と……それから自分の精神を削るんだ」
「……だからあんな風に叫んでいるのか」
「そうだ。最初は普通に会話できたんだが、しばらくしたらまともなコミュニケーションご取れなくなってしまった」
『ここで一つ残酷なことを伝えるけど以前あんたを殴ったときも発動していたわ。あなたは私がいるから影響を受けにくいけどあの子は殴りながら自分の精神を削っていたの』
「そんな……」
「これが現実なんだよ。わかったか。別に世界は俺たちに甘いわけじゃない。これが現実だ」
小沼山の返答は僕のつぶやきに対して正しいわけじゃないけど……でも、間違っていない感じだ。そうだよね。何でもかんでも都合のいい世界なわけじゃない。あんな風に強大なデメリットを持った能力を持つ人がいたって何もおかしな話ではない。それに、あんまり深くは聞いていないけどヒヨリも似たようなことをいっていた。自分が能力を使ったことで本来死ななかった人が死ぬと。
「それで、どうすれば世良は止まる」
胸の中に広がるこの苦しい思いを一切無視して小沼山に尋ねる。世良の能力がわかったけれど、結局世良はこれ以上能力を使うことがまずいということしかわからない。それに、そんなリターンに合うぐらい身体能力が強化されているはずだ。結界を普通に打ち破るって考えたら相当か。
「以前のときはあいつの四肢をすべて切断した。そして動きを止めたところでこの睡眠薬を飲ませた……もちろんその後に回復させたけど」
「まじかよ」
だが、返ってきた返答はもう、どうしようもないものだった。今回も同じようにするべきだろうか。いや、そもそもそんなことができるのか? そんなことが僕の顔に出ていたのだろう。小沼山は静かに首を横に振った。
「悪いが無理だ。お前の奴隷ならまともにやりあえるだろうが、それでも世良の力は強い」
「わかってるよ。僕の結界で防いだとしても……すぐに壊されてしまうだろうし。てか睡眠薬ってどこにあるの?」
「ここにある……もしものために常に持っているんだ」
そう言って小沼山はポケットに手を入れるとそこから白い粒を見せた。あれが睡眠薬ね。催眠術を使える能力者がいたらもっと簡単だろうに残念だ。まあここはしょうがないと割り切るしかないとわかってるけどね。
『あら、違うわよ。あの子に精神系の能力は効かないわ。だって心がないのだから』
心がない。だからさっきも僕の『純潔』があんまり効かなかったのか。いや、あんまりどころか全く効いていない感じだったな。
「四肢を斬って失血死は避けたい。できるなら世良の動きを止めたい」
「さっきの氷漬けみたいな感じか……その保険になると思うからあいつらを開放してくれないか?」
「は? ……ちっ、仕方ねえな」
小沼山がその言葉を言った瞬間に、後ろで苦しそうだったユキたちがその苦しそうな声を止めた。よかった。それを見て、僕はみんなの元へと駆け寄る。
「みんな! 大丈夫か?」
「ええ、さっきまでかなり怖かったけど、今は平気よ」
「よかった」
ユキからの力強い返答に安堵する。見た感じさっきまで苦しそうだったけど今はなんてことない。小沼山の能力について解明したいところだけど今はまだその時ではないだろうな。ホッとした顔をしているとヒヨリが僕に聞いてきた。
「それで? どうするの?」
「世良を助ける……協力してくれ」
「世良って……あの叫んでる人」
「そうだ」
ヒヨリたちに簡単に事情を説明する。そしてついでにサラちゃんに頼み事をする。
「サラちゃん、世良に能力を使用してくれないかな?」
「アカリ様が言うのならいいですけど……あいつは敵ですよね?」
「でも、僕の同郷の人間だ……ヒヨリ万一の時は」
「しないわよ。私が能力を使用するのはユキのためだけ」
「……わかった」
ついでにヒヨリにも頼もうとしたらそれは断られた。彼女に命令できるわけでもないし、そもそも強制したくないし強く言えない。ヒヨリの能力の使い所はヒヨリが決める。ユキのため、というのならそれは仕方がない。
『それもあるけど、下手に彼女の能力が発動したら誰かが代わりに死ぬことになるわよ』
それは……困る。確かに世良を助けたいのは紛れもなく事実だろうけど僕にとって大切なのはユキたちの方だ。ならばここでヒヨリの能力を当てにするのは違うな。
「あああああア」
「くるぞっ」
そんなことを言っていたらついに世良が動いた。一目散に走って向かったのは……なぜか小沼山だった。
「くそっ、やっぱ俺のところに来るか」
「小沼山! 『忠義』」
「助かるっ」
小沼山を守るように結界を張る。でも、僕から少し離れているからなのかそれとも世良が制限解除しているからなのか結界は簡単に砕かれてしまった。そしてそのまま世良の拳が小沼山に入る。
「だ、大丈夫か」
「がはっ、これを使え!」
意識を失いかけているのだろう。小沼山が投げたそれは僕からかなり離れたところに飛んで行った。慌てて拾うと、それはさっき見せてもらった薬だった。小沼山の方を見たら地面に倒れてしまっている。
「ルナ! 世良の動きを止めることができる?」
「たぶんできますが……ご主人様にお願いがあります」
「何?」
「血を吸わせてください」
「あ、うん。どうぞ」
お願いがあると言われてどんなことだろうと身構えたら予想外の内容で面食らってしまった。すぐに彼女の元に駆け寄って自分の指を差しだす。ルナは僕の指を咥えると勢いよく歯を突き立てる。そしてそのまま血を吸っている。
「んっ……ぷはっ、ご馳走様です」
「う、うん」
ルナは美味しそうに僕の血を飲んでいた。そして満足そうに告げる。僕はそのまま歩こうとしたけれど、視界が暗くなってふらついてしまう。
「すみません。美味しかったのでつい、飲み過ぎてしまいました。死ぬことはないですが、貧血になると思います」
「そ、そう……じゃあ世良を捕まえたらこれを口に押し込んで」
「わかりました」
小沼山から預かった薬をルナに渡す。それにしても美味しかったから飲み過ぎたって……まあ、たぶんこれでエネルギーを補充したんだよね。なら、しっかりと働いてほしいな。
「それでは、あなたを倒します」
ルナの周りに氷の塊が発生する。降っている雨が止んだけれども降っていた水を凍らせたのだろうか。そして、そのまま世良に向かっていった。




