霊山にて相見える4
「命をかけるってお前、その意味をわかっているのか?」
「当然」
「じゃあ、やってみろよ」
その言葉とともに小沼山は地面を強く踏みつける。風が吹いたような気がして、頭を殴られたような衝撃が走る。
「うっ」
「ルナ?」
「他人の心配をしてる場合じゃねえぞ」
ルナが少しだけ怯んだ。でもルナの心配をする余裕なく、世良が僕の方向に走ってくるのが見えた。殴られた痛みはサラちゃんの能力によってある程度回復してきてるけど自分の能力の反動は抑えきれない。てかこれ以上の使用は本当に命に関わるだろうな。
「それでも、防ぐ『忠義』」
「結界か……」
僕の周りに白い膜が生まれる。前回の時に世良はこの結界を破ることができなかったからこれでかなり優位に立てるはずだ。ただ、小沼山の能力で一度消されているからそこは注意しないといけないけどね。
「あああああア」
「ん?」
世良が放った拳、それは前回とは異なり、僕の結界を打ち砕いて僕の体へと突き刺さった。予期しない一撃だったために、僕はまたしても世良の一撃を受けてしまう。
「う……ん?」
攻撃を受けた痛みは確かに感じる。でも、その痛みが少しだけ鈍いようにも感じられる。僕の体が頑丈になったとは考えにくい。なら、どうして……。
『しっかりしなさい』
「え? ……あ、うわあああああああああ」
ユラムの声を聞いた途端に急に痛みを感じて思わず叫んでしまった。今の僕の状態って殴られてから少し遅れて叫んでいる感覚がかなり鈍い人みたいな感じになっているよね。
「こいつ、心を取り戻したのか」
「ああアアア」
「世良は間違いなく削れている……なんでこいつだけ」
「何を言っているんだ?」
「ちっ」
もう一度小沼山が地面を強く踏みつける。しかし何も起きない。後ろでユキたちのうめき声が大きくなって気がするけど僕は何も感じない。
「湊の能力……いや、神の武器を持っているからか?」
「知るかよ……世良の能力を教えろよ」
「嫌だね」
ならこちらとしても教える義理はないな。てか何もわからない以上どうしようもないし。ただ、分かることはうずくまってしまった僕に対して世良が追撃をしようとしているということだ。
「ご主人様! 気をつけてください」
「ちっ、さすが湊の従者、といったところか」
「従者ではありません、奴隷です」
「はぁ!?」
「ちょっ、ルナ、そこは従者でいいでしょ?」
ほら、小沼山からの視線が冷たいとか呆れとかを通り越して汚物を見るような視線になっているよ。すごいね、こういうのって女の子の特権かと思っていた。……性差別だ、気をつけよう。
ルナが風を起こしてくれたので世良と僕との間に少しだけ距離が開いた。助かる。でも、また雷を落としたとしても普通に防がれそうだし、何かいい手はないのか。
『ん? 地割れで相手を叩き落としたら?』
そんなこともできるの? いや、それしちゃったら本当に死んでしまわない? てかそんな地殻変動とか起こしても平気なの? あ、平気か。だってここはお前の世界だもんな。
「それでも僕が使えるのは……ルナ、水があれば凍らせることは可能?」
「はい、大丈夫です……しかし今は水が足りていないので厳しいです」
「何をするつもりだ……世良!」
なんども同じようにダメージを受けるわけにはいかない。僕は杖を地面に突き刺して叫ぶ。地割れができるんだ。これぐらい大丈夫だろう。
「『豪雨』……ルナ、頼む」
「はい」
「あ、め?」
狙い通り、突然雷雨が上空に生まれてこのあたり一面に雨を降らせた。うん、天気を自在に操ることができるようになったのは非常にありがたい。そして降った雨は成分としてはまあ水としても問題ないだろう。それをルナがまとめて凍らせた。詳しく言うのならば世良と小沼山の周囲にある雨(水)を集めて凍らせて動きを止めた。
「さあ、これで話ができるな」
「ふざけんな……これぐらいで」
「全身凍っているのに動けるわけないだろ」
「はっ、なめんな」
「ん?」
「うおおおおおおおおおおオ」
減らず口を……って思って横を見たら世良がまたしても叫び声をあげている。いやいや、さすがに氷の塊を打ち砕くだけの力はないだろ。
『え? 逆に聞きたいんだけどどうして氷の方が強いと思ってるの?』
「え?」
「があああああア」
ユラムの言葉が響いた瞬間、世良が氷の拘束を打ち破った。嘘だろ。あんなにがんじがらめになっていたら普通の人間ならまともに動くことができないはずなのに。
『それを可能にしているのがこの世界にあなたたちが持っている能力なのよ』
なるほどね……いや、忘れていたわけじゃないんだけどね。小沼山の方は動く気配が全くないし。これが能力の系統の違いなのか。
「世良、あいつらを殺してから……世良?」
「あああああああああアア」
「ちっ、時間切れか」
「おい、どういうことだ」
世良を見てみればさっきからずっと叫び声をあげている。でも、今度はもう、僕の方に向かってくることはなかった。ただ、そこにいて、叫んでいるだけだ。
「くそっ、早く抑えないといけないのに……」
「小沼山、世良はどうしたんだ」
「……」
小沼山は何も答えてくれない。何かあるはずなのに、世良があんな風にずっと叫んでいる理由が絶対にあるはずなのに、それを一切教えてくれる気配がない。
「教えてくれよ。このままじゃ、あいつ……なんかやばいことになるだろ!」
「ご主人様……ご主人様がそこまでする義理はないです……速やかに排除します」
「待って……少しだけ、待ってて」
「わかりました。しかし彼がこちらに向かってくるようでしたら、容赦なく、殺します」
「……うん」
待ってくれるだけでも本当にありがたい。ルナに動かないように伝えて僕は小沼山と向き合う。僕の対応を見て、小沼山は笑っていた。
「結局殺すのかよ」
「最後の手段で、だ。助けたい気持ちは間違いない……けど、それで殺されるのはごめんだ」
「ああ、そうだな、一つ教えてやるよ。この状態になったらあいつは死ぬまで止まらない」
「今までどうしてたんだ?」
小沼山の言葉に引っかかりを覚えたので確認する。死ぬまで止まらないといっているが、世良はかつて今と同じような状況になったことがあるのだろう。しかし世良は今も生きている。なら、以前はどうやったのか知りたい。そうすれば解決策が見つかるから。
「……お前に教える義理はない」
「お前は世良に助かってほしいんだろ? なら教えろよ」
「ぐっ」
僕の言葉を聞いて小沼山はひるむ。ああ、やっぱりこいつもクラスメートに対して愛着を持っているんだ。口では諦めたようなことをいっているけれどやっぱり、クラスメートを死なせたくないんだ。
「なあ、頼むよ。どうすればいいんだ?」
「……」
「小沼山!」
「わかったよ。あいつの能力について教えてやる……その代わり、あいつを助けろ」
「ああ、わかった」
なんども強く小沼山に迫ったら、やっと観念したのか、口を開いてくれた。
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