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霊山にて相見える3


「ちっ、大丈夫か、世良」

「あア、問題なイ」

「大丈夫そうに見えないんだけどな」


 でも、何も変わりがない。僕の幻術が効いていないのだろうか。二人とも普通に立っている。イメージがしっかりしていないから失敗しただけなのかな。


『小沼山の方は精神系みたいだし効きにくいのかもね』


 精神系か……ていうか今更だけど能力の種類ってどれくらいあるんだ? 戦闘系と精神系と……それからこういうファンタジーでおなじみの特殊系はありそうだな。


「ご主人様! 集中してください」

「ご、ごめん」


 ルナから叱咤が飛んでくる。慌てて意識を目の前に戻せば世良が僕に向かって突っ込んでくるところだった。前もこんなことあったなと思いながら杖を構えるも世良の拳を捉えることができずに腹に一撃受けてしまう。


「くそっ」


 杖の下を通っていたのでそのまま杖を下に横の状態のままで落とす。逆ならば杖が折れるかもしれないけれどこちらの武器は壊れない武器だ。鉄の物質を上から叩きつけられた……これって鉄でいいんだよね?


『神の物質とでも思っておきなさい。それは万物であり、万物でない』


 よくわからない。それでも固いものを腕に叩きつけられたら痛いよね。世良もその痛みで怯んだのか少しだけ後ろに下がる。僕も腹を殴られたから痛みで倒れそうになる。


「ご主人様は下がっていてください」

「なんでお前らは俺の能力が効かないんだよ」


 ルナと小沼山の声が聞こえて来る。それと同時に世良の体が突然宙に浮いて吹き飛んでいく。ルナが風を操ったのだろうな。そして小沼山……お前の能力がわからないからなんとも言えない。ごめん。


「アカリ様、大丈夫ですか?」


 その言葉とともに僕の体がまたしても輝き出す。サラちゃんが僕に能力を使用してくれたのか。


「お前は……すっこんでろよ」

「きゃああ」

「へえ、こいつには効くんだな」


 小沼山がサラちゃんの方を一瞥したらサラちゃんがその場で固まってしまった。いや、その表情を見るに恐怖の表情をしている。顔がかなり青くなってブルブルと震えている。ちょっ、さすがに放っておけない。


「サラちゃん」

「サラは私が見る! だからアカリはあいつらの対応をして」

「う、うん」

「そんなこと、させるかよ!」


 サラちゃんに駆け寄ろうしたらすぐにヒヨリが駆け寄ってきてれた。でもまた、小沼山が能力を発動したみたいだ。いや、対象はヒヨリだけじゃない。なぜだかわからないが、ユキも、カナデも、シンくんまでもがその場にうずくまっている。ヒヨリも少しだけ苦しそうだ。


「なんなの……これ」

『広範囲の精神攻撃ね……また厄介な能力だこと』

「精神攻撃」

「だが、お前には効かないみたいだけどな、湊」

「知るかよ、ルナ! 世良の方を頼む」

「かしこまりました」


 ルナに世良のことを任せると僕は小沼山の方へと向う。あいつの攻撃が精神攻撃だというのなら、僕に対して物理的な攻撃はしてこないはず。神杖小沼山めがけて振り下ろす。


「くそっ、なんでお前には効かないだよ」

「さあね!」


 最初の攻撃は避けられてしまったけどそれを見越して次の攻撃として足で蹴ったらきれいな形で当たった。少しだけ間が空いてしまったので僕が詰め寄るより先に小沼山は後ろに飛び退いてしまった。ていうか、僕の蹴りが当たってもユキたちの症状が回復していないのだけど。


「あああああア」

「心無い攻撃など、相手にもならない」


 ルナの方を見てみれば世良の攻撃をすべて避けていた。そして風をとばして世良を切り刻んでいる。いや、殺さないよね? あ、そういえば伝えていなかった。


「ルナ、できることなら殺さないでおいてくれ」

「かしこまりました」

「何を甘いことを」

「ご主人様の故郷は本当に平和だったのですか?」

「そうだよ」


 まあ今の小沼山たちの様子を見たら疑いたくなる気持ちはわかる。でもこれが真実なのでしょうがない。信じてくれとしか言えないからね。


「こいつの普段をみればどんだけ平和ボケしているかがわかるだろ」

「確かにご主人様は危機管理が杜撰ですが」

「ねえ、少しはフォローしてよ」


 二人とも僕のことをフォローしているようで攻撃してきているんだけど、もう少し敬意を払って欲しいよ。その恨みを込めて小沼山を思いっきり杖で叩く。


「最初っから今みたいに殴ってこいよ」

「うるせえ」


 でも怒りに身を任せてしまったからか余裕で躱されてしまった。さっきからちょいちょい僕の攻撃を見極めていたりしているのだけどこいつも僕と同じく最低限の戦闘訓練はしている感じなのかな。


「それでも……動きを止める」

「できるもんならやってみろよ」

「行くよ、『雷』」


 小沼山に向けて雷を落とす。もちろんある程度加減して、だ。そもそもの威力で叩き込んでしまったら感電死してしまうだろうし。僕の放った雷は小沼山に命中した。


「くそっ」


 小沼山はすぐに自分の手を地面につけた。なるほどね、避雷針というか自分の体に流れる電流を地面に流したのか。でも、もともとの電流が大きいので完全には逃がしきることができず、ダメージを受けてたみたいだ。


「なるほどね、麻痺らせることで動きを制限するか……でも、まだ動けるぞ」

「甘かった……ぐはっ」

「あ? なんでお前がダメージを受けてるんだよ」


 これで、三回目、結構体に負担が出てきたな。『純潔』が一回だからあと一回か二回ぐらい使えるはず。でも、血を吐いてしまったからこれ以上はヒヨリに何か言われそうだな。


「はぁ、動きが制限されているのが一人と、それから私より弱い人、この程度私一人で大丈夫です」

「ごめん」

「は? 舐められたものだな……世良、能力の制限を解除しろ」

「ああああアア」


 小沼山が言った瞬間に世良が雄叫びをあげる。そして次の瞬間にルナに向けて血走った目を向けた。あの、第二形態みたいな感じにならないでもらえるかな。そう思った瞬間だった。一瞬の隙にルナに接近して、そしてそのままルナを吹き飛ばした。


「ルナ! くっ『忠義』」

「ああア よけるナ」

「くそっ」


 そしてなんか嫌な予感がしたので慌てて結界を張ったら今度は僕に向かって突っ込んできた。結構が間に合ったので直撃することはなかったが、それでもある程度、吹き飛んでしまう。


「なんで急に力が増えたんだ……?」

「世良、できる限り早く決着をつけろよ。いくらここが能力の影響を受けにくいとはいえ、お前を蝕むのだから」

「おい、それどういうことだよ」

「お前には関係ないことだ」


 自分自身を蝕むって僕のこの杖と同じような感じなのだろうか。でも、そんな感じしないんだよね。なんか凶暴化した感じの方が近い。もしかして攻撃力が増加する代わりに自分の寿命を削っていくとかそういう感じの能力なのだろうか。


「湊……ころス」

「まだ、死ぬわけには、いかないんだよ『竜巻』……うぐっ」


 最後、意識を飛ばしかけながらも世良を吹き飛ばす。結局、こうなるのか。他の手段を取れない自分が恨めしい。結局僕は、彼らと話し合うために、彼らと本気で戦うことになる。


「世良! お前が命をかけるというのなら、僕だって、そのつもりだ!」


 杖を掲げながら、僕は、世良と小沼山にそう宣言する。

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