霊山にて相見える
「ここが、霊山」
「はい、私たちの里はこの山を越えた先にあります」
僕たちは今、グリンドル山の麓までやってきた。間近で見るととても大きな山だなぁ。大きさで言えば富士山よりも大きいかもしれない。
「そしてここに生息する生き物たちは人間に非常に敏感です」
「人間にってことはエルフは違うの?」
「はい、私たちは自然と共に生きる種族、そのおかげかここの生き物たちも迂闊には襲ってきません」
「なるほどね」
でも僕たちは襲われてしまうと。カナデがいるから少しは配慮されたりしないのだろうか。彼女に対して生き物が襲っている姿を見たことがないし。そんなことを考えながらカナデの方を見ると、ちょっと残念そうに笑ってた。
「山の生き物たちの声が……聞こえないんですよ」
「それは、厳しいね」
つまりカナデの援護が受けられないということか。それでも進まないといけないのでサラちゃんたちの案内で僕たちは山登りを開始する。霊山といってもある程度の道が整備されているみたいで僕たちはゆっくりと進むことができた。
「それにしても何もいないね」
「この山に入る人間は多くないわ。だからあんまり情報がないの」
「ま、ほとんどここを通る必要がないからね」
登りながらついこぼれた僕の言葉にユキとヒヨリが反応する。それにしても山登りとか久しぶりすぎて予想以上にきついな。
「どうしたの兄ちゃん、もう疲れちゃった?」
「ははは、大丈夫……だと思う」
「辛そう……サラ、そろそろ休む?」
『子供に気を遣われてるわよ』
悲しい。とても虚しい気分なんだけど。僕これでも大分体力とかついたのだと思うのだけどさ。まだまだだったみたいだ。ただ、山なだけあって空気が非常に美味しい。それだけが救いだな。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ごめん、ルナ。ありがとう」
「いえ……!、気をつけてください」
突然ルナが僕たちに警告を発した。何事かと身構えたら突然脇道の草木が揺れて……そして、そこから何かが飛び出してきた。
「これは……」
「なるほどね。だからカナデの能力に反応しなかったのね」
「生きた、骨?」
そう、僕たちの前に現れたのは骨だった。よくゲームとかで見かける骸骨そのものだった。それが僕たちに襲ってきた。その数はおおよそ10。戦えない数ではない。
「いくよ、ルナ。ヒヨリはみんなを守って」
「ええ、私は能力による戦闘じゃないから守ることができるわ」
頼もしい言葉を背に僕は骸骨たちに向けて突っ込む。突っ込むのはいいのだけどこいつらってどうやって殺せばいいんだ? もともと死んでしまっているものをもう一度殺すってどうやればいいんだよ。
『こいつらの対処方法は簡単よ。燃やせば再生しないわ』
それってことは要は普通に攻撃したら再生してしまうってことだよね。手近な一体の脇腹の骨にめがけて全力で杖を振り抜く。鈍い音がして骨が砕けた。そしてその当てた骨がどこかに飛んで行ったけど……それでもなお動き続けている。
「足を狙ってください。それで機動力を削ぎます」
ルナが指を鳴らすと強い風が吹いて骸骨たちの太もも辺りの骨をことごとく切っていく。確かに骨を折られた骸骨はほふく前進しかすることができずにかなり動きが制限されている。これなら対処できるな。
「それができれば苦労しないのだけどね」
「では、私が戦いますのでサポートをお願いします」
僕はせいぜい杖を振り回すことぐらいしかできない。こいつらにはなんとなくだけど幻術は効かなそうだしな。いや、逆に相性がいいのか? そこら辺よくわからないけどこれも経験の違いなのだろうな。ルナは慣れた動きで骸骨たちの機動力を削いで行っている。……なんで捕まってしまったのだろうな。
「とりゃああああ」
「はっ」
攻撃していたら少し甘い時があって、逆に僕の肩とかを思いっきり殴られてしまった。骨のくせしてかなりの火力があるみたいだ。結構痛みが来る。でも所詮ただ殴られただけみたいなのでまあ大丈夫だろうけど。
「大丈夫ですか?」
「少し打っただけだよ『落雷』」
僕が崩れてしまったことでカナデたちの方に数体の骸骨が向かってしまった。すぐに追いかけたいけど目の前の敵を先になんとかしておかないとどうしようもない。だから雷を落として骸骨たちを麻痺らせようとしたんだけど……動きがまったく止まる感じがしないな。
「骸骨は基本的に痛覚をほぼ感じてません。ですが、まあ、すこし動きが止まったのは助かります」
そしてルナが指を鳴らした時、すべての骸骨は地に伏せっていた。どうやらこれですべての骸骨の骨を砕くことに成功したみたいだ。
「これで、終わりです」
風が集まったと思ったら、そこから発火した。またたく間に炎が燃え広がって行って、そして骸骨がすべて燃えた。自然発火を起こさせたということだろうか。でも、それって普通に起きることなのかな?
『乾いた風を利用したのでしょうね。あんたも使えるようになるわ。「粉塵爆発」、聞いたことがあるでしょう?』
まあ、それはそうだけどさ。実際のところそれが起きたところを見たことはないんだよね。アニメの中の世界でしょ、それって。
「カナデたちのところに向かおう」
「わかりました」
そして二人でカナデたちのところに戻る。向こうにいった骸骨のことが不安だったけれど、僕たちが戻ってきた時にはすでに片付いていた。
「お、おつかれ」
「あ、アカリ。片付いたの?」
「うん、それにしてもよく倒せたね」
「まあ、こちらにはエルフがいたからね」
そういうものなのか。そんなことを思っていたらサラちゃんが僕の方を見て声を上げた。
「アカリ様、怪我をしているじゃないですか」
「え? まあ、これくらいなら大丈夫だよ」
少なくとも能力の使いすぎによるダメージよりかは遥かにマシだよ。だって体のふらつきとかまったくと言ってもいいほど感じないからね。
「ダメです。しゃがんでください」
「え? うん」
強く言われたので僕は言われた通りにしゃがむ。するとサラちゃんは僕の肩に手を置いて、なにかぶつくさつぶやいた。すると、途端に僕の体が淡く光った。
「あれ、ちゃんと回復効果が発揮されてる」
「サラちゃんって回復系の能力だったんだ」
栞と似たような感じなのだろうか。
『タイプが異なるけどね』
そうなのか。栞って確かほとんどの傷を速攻で回復させたり、神の力の反動でさえも回復することができていたよな。まあ、彼女の能力が異常すぎるだけなのかもしれないけど。
「はい、私の能力としては傷をゆっくりと回復させていきます。一度かけたら全快になるまでずっと効果が続くので効率はいいです」
「へえ、そうなんだ」
サラちゃんが自分の能力について説明してくれた。なるほどね。確かにタイプが違う。でも、一回発動したらかけ直す必要がないっていうのはかなり便利だよね。そしてうん、僕が一度倒れていた時に能力を使用してくれたのは嬉しいな。
「ありがとう。それから、僕が僕の能力で倒れた時は能力を使わなくてもいいよ……普通の回復は効果がないんだ」
「そんな縛りがあるんですね」
「兄ちゃん貧弱だなー」
「ははは」
ねえ、ユラム、少しぐらい譲歩してくれない? 僕このままだとちょっと戦っただけですぐに倒れてしまうのだけど。
『諦めなさい。ホイホイ使われたら強すぎるじゃないの。これぐらいデメリットがあった方が都合がいいの』
それに純粋に叩ける力を伸ばせばいいと。それを言われたら何も言い返せない。うん、というわけで僕たちは山登りを再開した。




