エルフとの邂逅 後編
ブクマありがとうございます。
これからも頑張ります。
「実は、僕たちエルフと呼ばれる種族なんです」
「え?」
「エルフ?」
「なんであんたそんなにテンション高いのよ」
「あはは」
ついテンションを上げてしまったらヒヨリたちに白い目で見られてしまった。でも、しょうがないよね。ファンタジーで定番のエルフ。多分だけど吸血鬼と双璧をなすんじゃないか? 僕の勝手な偏見に過ぎないのかもしれないけど。
そんな僕を無視して子供達は自分のことの話を続ける。でも、改めてエルフだとわかってもあんまり特徴とかはないんだね。耳が長いって聞いたことあるけどそこまで長くないし。
「私の名前はサラ、そしてこちらの兄がシンです」
「そっか、私はユキ。よろしくね」
「はい、よろしくおねがいします」
ユキを皮切りに僕たちも自己紹介を行う。ルナのときにちょっとだけ彼女たちが目を見開いたけど……そんなに吸血鬼っていうのが珍しいのかな。
「それで、二人ともエルフって話だけど髪の毛や耳はどうしてるの?」
「今はお爺様の能力によって隠しています」
「そう……」
そう言いながらユキは僕の方に目配せをしてきた。ああ、ユラムに聞いて欲しいってことだよね。ユラム、実際のところどうなの? てかやっぱりエルフには身体的特徴があるんだね。
『そうねぇ、まあ亜麻色の髪の毛とそれからさっきあんたが想像した長い耳、あとは緑の目ぐらいかしら。それと、この子達がエルフかどうかだけど、教えないわ。あなたが決めなさい』
まじかよ。うーん、一番簡単なのは僕の『純潔』を使って問いただすのが確実なのだけど、それをする気は起きないな。こんな子供を拷問するなんてね。
「うーん」
「アカリ?」
「あ、えっと……わからない」
「そんな……アカリ様は神の使いだから知っていると思っていたのに」
「わからないこともあるんだよ」
僕の言葉に絶望的な表情を浮かべるサラちゃん。いや、そんなことを言うのならばその変化? の能力を解除して本当の姿を晒せばいいんじゃないかな? それで万事解決すると思うのだけど。
「ご主人様」
「ん? ルナ?」
そんなことを思っている僕にたいしてルナがこそっと僕に声をかけてきた。どうかしたのだろうか。
「ご主人様は私の時も鈍感でしたからおそらく知らないのでしょうけどこの世界ではエルフというものは大変人気で奴隷商とかではかなり高値で取引されています」
「そ、そうなのか。ありがとう」
なんかさりげなくかなり失礼なことを言われた気がしたけれどそれでもかなりいい情報を教えてくれた。確かにエルフってそういう風に愛玩用に取引されているイメージとかあるよな。あとは迫害されていたりとか。この世界ではエルフじゃなくて吸血鬼がみたいだけど。あ、そういえば、
「ルナ、今日の分の血、飲んでおく?」
「もう少しあとで構いません」
「二人とも、何を話しているの?」
「いや、なんでもないよ」
ヒヨリに言われたので慌てて子供達との会話に参加する。論点としては彼らの主張が本当かどうかなのだけど……さっきルナに言われたから簡単に証明してくれって言っても難しいしね。
「みんなどうする? 私としては信じてもいいと思うのだけど」
「私も信じます……なんだか自然の気配を感じるみたいです」
「カナデが言うのなら、いいんじゃない?」
「そうですね。カナデ様なら信頼できます」
「みなさん……ありがとうございます」
あれ? なんか勝手に話が進んでいる? 僕だって彼らを疑うようなことはしたくないしこれで問題ないのかな。それで、彼らの話の続きを聞こうか。それからルナ、どうしてカナデなら信頼できるって言い切るんだよ。もう少し僕を信頼してくれてもいいだろうに。
「それじゃ、話を戻しましょう。それであなたたちがエルフだとして、どうしてこんなところにいるのよ。おまけに神の宝玉を持って」
「はい、実はですね……みなさんを信頼してお話ししますが、エルフの里では人間に対して敵意を抱いているエルフがたくさんいます」
「え?」
「エルフと人間って仲が悪いのか?」
「アカリ様は何も知らないのですか?」
「……ごめんなさい」
口を挟んだらサラちゃんからかなり冷たい目で見られた。なんだか彼女からの信頼度がかなり低い気がしてならない。でも、はい、これはあとでルナとかから話を聞けばいいよね。そんな僕を見てかユキが教えてくれた。
「数百年前に、魔王がこの世界に現れた時に、人間とエルフは生き残るために平和協定を結んだわ。簡単に言えば互いに不可侵の条約ね。人間はエルフの里を侵略しないしエルフ側もこちらを襲うことをしない。そんな条約よ」
「なるほどね……」
「はい、そしてしばらくはその条約を守っていました。しかし最近……私たちの里を嗅ぎ回っている人間がいるとの噂が流れてきました」
「え?」
「そしてついに、見回りに出ていた仲間が殺されてしまい、エルフの中で人間に対しての憎悪を持っていた者たちが一斉に声を上げだしたのです。人間は敵だ、と」
「そもそも、自然と共存しているエルフに対して、自然を破壊している人間は相性が悪いのです。当時は人間がかなり力を持っていたから結んだようなものです」
「そ、そうなんだ」
順に、ユキ、ルナ、サラちゃん。彼女たちは僕に向けて説明してくれる。そういった知識を教えてくれるのは非常にありがたい。うん、やっぱりあとでルナに全部聴こう。そしてあんまり使いたくはないけれど命令して僕に教えたことは黙っていてもらおう。
『そういえばルナって何歳? あんた聞いてる?』
え? いや、知らない。あーそっか。吸血鬼とかだと見た目の割に長生きとか多いもんな。でもそれはルナだけじゃなくてサラちゃんやシンくんも当てはまるけどね。ルナも見た目は僕と同じくらいの美少女だけど実際のところはわからないし。
「それで、エルフが人間に対して反乱……いや、戦争を吹っかけようとしているのはわかったのだけどまだ二人がここにいる理由はわかっていないわ」
「はい、それで人間と戦争しようとしているエルフたちはこの宝玉の力を利用しようとしていました……そしてこれを狙ってお爺様を襲いました」
「じっさまはそれに気がついて俺たちにこの宝玉を預けたんだ。そして誰でもいい、この戦争を止める存在を探してくれ、と」
「そして追っ手から逃げていたらこうしてアカリに助けられた、と」
「はい」
なるほどね。大体の事情はわかった。僕としてもこうして宝玉が絡んでいる以上、見過ごすことなんてできない。それに例え僕が見逃してもきっとハヤテ……桜花たちに取られてしまう。ここで出会った以上、僕は彼らを助けたい。
「お願いします……私たちを、助けてください」
「構わないわ」
「本当ですか?」
「うん、ただ、頼みがある。戦争が回避されるまではこの宝玉を僕に使わせて欲しい」
「……わかりました。それで救えるのなら」
僕の言葉に少しだけ悩んだようだったけど、それでも納得してくれた。うん、だってこの宝玉がないと普通に戦闘力が落ちるからね。そんなことを思いながら一歩踏み出そうとした瞬間だった。
「あれ……?」
「ご主人様?」
「ごめん、ルナ、僕を支えて」
体がふらつく。もはやお約束だけど、力を使いすぎてしまった僕は、意識を失ってしまった。
「う、うん……」
ゆっくりと目を開ける、頭の下にすごく柔らかいものが敷かれているような……それにしても僕はどうしたんだろうか。確か気を失って、そしてルナにもたれかかった記憶があるのだけど、
「起きましたか、ご主人様」
「あ、こいつ起きたんだ」
「え? ユキ?」
となりからユキの絶対零度の声が聞こえて来る。そして、さっき僕のことをこいつって呼んでいなかったか? なんでそんな風に呼ばれないといけないんだろう。あれ? それにしても、どうしてルナの顔が僕の目の前にあるんだ?
「さっさと起きないの?」
「アカリ様って変態なのですか? 奴隷にあんなことをさせて」
「ちょ、なんの話……うぐっ」
体を起こそうとしたら激痛が走った。背中あたりがとても痛い。今もずっと背中が硬い。でも、今の痛みで意識がはっきりしたのか今の自分の現状を理解することができた。
「あはは、ルナ、ありがとう」
「いえ、これも奴隷の仕事ですので」
「でも僕を支えるだけでよかったのに」
「ご主人様が倒れたからです」
「それは……ごめんなさい」
謝罪しながら、僕は立ち上がる。そう、さっきまで僕はルナに膝枕をしてもらっていたのだ。だから頭の後ろが柔らかい感触だったし目の前にルナの顔が見えた。うん、そしてどうしてユキがかなり不機嫌なのだろうか。
「ど、どうしたの? ユキ」
「知らない。アカリが奴隷にそんなことさせるなんて思ってもみなかった」
「ちょっ、偶々だって」
「次は私にさせなさいね」
「え?」
「ユキ、論点がずれてる」
「え?」
うん、ヒヨリのツッコミは非常にありがたい。なんかさらにややこしくなりそうな気しかしないからね。それに、ユキ、そんなことは勘違いしてしまうからやめなさい。こちらは思春期真っ盛りの男子高校生ですので。
「ユキ様ってもしかして」
「うん、サラちゃんここは何も気がつかなかった振りをしておいてね」
「それをアカリ様が言うのですか?」
「アカリ、どうしたの?」
「あはは、なんでもないよ」
うっかり忘れそうになったけどうん、ユキの呪いを解いた条件がね。もしかして自覚したのだろうか。それともまだ無自覚なのかな。そこの判断がつかないのが難しいな。
「さてと、ごめん。みんな待たせちゃったね。もう大丈夫だから移動しようか」
「わかりました。ではアカリ様たちをエルフの里までご案内します」
「うん、頼んだ」
「ですが、今日はもう夕方ですので休みましょう。夜に山越えは危険です」
「山越え?」
僕が回復したことを伝えたらサキちゃんが里まで案内してくれることを教えてくれた。でも、今から出発するのかと思ったら休むみたいだ。山越えってことはまあ確かに厳しいけれどこのメンバーなら大丈夫だと思うのだけどね。
「はい。普通の山じゃないんです……霊山の一つ、グリンドル山です」
「……?」
やばい、わからない。でもみんなそれを聞いて「まじかよ」みたいな反応をしているのだけど。霊山ってことはあれか霊気がある山のことだよね。もしかしてその影響で何かしらの悪影響が起きてしまうのだろうか。
『まあ、だいたい合っているわ。あの山に入ったら能力が一部制限されるのよね。あんたには全く関係のない話だけど』
「みんな能力が制限されるのか?」
「ええ、てかやっぱりあんたは関係ないのね」
「神の使いだからですか? すごいですね」
「うん、そうだね」
お、これはいい感じで信頼度を稼ぐことができたかもしれない。まあ、実際に山に入ってからの僕の様子を見て判断するのだろうけどね。
「なら、休みましょうか」
「そうだね」
そして僕たちは明日に備えて休むことにした。そして僕たちはその日、サラちゃんとシンくんからエルフのことを教えてもらった。
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