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吸血鬼の少女12


「ご主人様、おはようございます」

「あ、ルナ?」


 目が覚めたら目の前にルナの姿があった。寝起きに美少女を見ることができるってかなり役得だよねって、ちょっと待って。


「ルナ! 今の時間は」

「落ち着いてください。ご主人様は丸一日眠っていました」

「そ、そうか」


 ルナに今の時間を聞いたら落ち着いて教えてくれた。なるほどね。僕は桜花たちが去ってからすぐに倒れてしまった記憶がある。それからずっと眠っていたのだろう。ユラムの能力を使ったからその影響……と考えれば納得できる。


「しかしずっと眠っていたのは能力の反動でしょうか?」

「そうだね」


 聞かれたから僕は答える。それにふと、首を横にしてみれば水が入ってそうな容器が置かれてある。


「もしかして、ずっと看病していてくれたのか?」

「奴隷ですので」

「あ、うん」


 ちょっとだけラブコメ的展開を期待した僕が馬鹿でした! でも、これは楽だな。奴隷を買って初めて良かったと思ったかもしれない。ルナを仲間にして良かったとは桜花たちと戦った時に思ったけど、なんかこう、看病してもらえる相手がいるってかなり気持ち的に楽になるな。


「ありがとう」

「礼を言われるほどのことではありません」

「僕がお礼を言いたくなっただけだ。素直に受け取ってよ」

「ご主人様がそこまで言うのでしたら……」


 そしてこういう自己満足のお礼も受け取ってもらえる。うん、確かに奴隷を買い求める人が多いわけだ……そうだ、奴隷といえば。


「あれから、暴動が起きて、どうなったんだ?」

「それにつきまして、いいお知らせとご主人様にとって悪いお知らせがあります。どちらから聴きますか?」

「僕にとって? どういうことだ?」


 お約束の展開だけど、枕詞が不安になるんだけど。なんなの、僕にとって悪いお知らせって。まあ、こういう時は悪いニュースから聞くのが定石だから問題ないのだけどさ。


「捕まえられた奴隷たちですが、全て処刑されました」

「え?」

「カナデさんが聞いたそうです……あの人の能力は、動物との会話、でしょうか」

「そ、そうだけど……あ、もちろんこれ他言禁止ね」

「心得ております」


 なんとかギリギリで会話をしているけど僕の心中は決して穏やかとはいえない。全て処刑された。それはつまり、殺されないように動いたというのにそれが全くの無駄だったということ。そんな僕の表情をみてか、ルナは言葉を続ける。


「ここの住民に対して何かしらの行動を起こす必要があったのでしょう。事実、暴動で死んでしまった市民もいます。彼らの恨みを思えば、この決断に至るのも仕方のないことかと」

「そ、それはそうだけど……」


 僕の胸にあるのはなんだ。いや、わかっている。無力感だ。僕が何かしたところで、あの奴隷たちの命は決まっていた。僕が幻術をかけて捕らえようが結局、こうして処刑されて死んでしまうのか。


『だからあいつらも有能な奴隷たちを投入していなかったのね』


 明らかに女子供が多かったからね。つまりあいつらも元々捨て駒として使っていたということか。……いつもいつも、僕は助けることができないのか。今回は動けたというのに。


『あなたが動いたことで救われた命は確かに存在するわ』


 ユラムが慰めるように言ってくれる。わかっている。僕とヒヨリ、それからルナが助けたあの女性とその子供。あの人たちは僕たちがいなければ間違いなく死んでいた。僕たちが動いていなければもっと被害が大きかったかもしれない。そんなことはわかっている。


『ま、あなたの今の「力」だとこれが限界ってことね。確かにあなたは強くなった。でも、だからと言って全てが思うようにいくとは思わないで』

「わかってるよ!」

「ご主人様?」


 あ、思わず叫んでしまった。そしてルナがこちらを怯えたように見つめてきている。ははっ、ダメじゃないか。こうしてまあ奴隷だからっていうのもあるだろうけど僕の身を案じてくれている人を怖がらせてしまった。


「ごめん……ルナ、僕の能力を教えるよ」

「よ、よろしいのですか?」

「うん、ルナとはこれからも一緒にいたい……だから教えておいたほうがいいと思ったんだ。今みたいに僕は急に叫ぶことがあるかもしれない。でもそれは僕の能力によるものだと知っておいて欲しいんだ」

「以前もおっしゃっていましたね。もしかしてカナデ様と似た能力なのですか?」

「まあ、本人が聞いたら怒るけど、そんなところ。ルナ。僕の能力はね、この世界の神様と会話できるものなんだ」

「……」


 ルナからかなり懐疑的な目で見られている。まあこれが自然な反応だよな。このまま押し切ってもいいのだけど、それだといけないよな。どうすれば信じてもらえるだろうか。


「やっぱり信じれない?」

「さすがにそんな能力は聞いたことがないです」

「まあ、だよね」


 それにこの能力の厄介なところは証明することがかなり難しいということでもある。神様が存在するのかさえ怪しいのにそんな存在と話せるだなんて頭のおかしい人にしか思えない。すると、ルナは思い出したようにつぶやいた。


「そういえば……ご主人様の使っているあの杖」

「ああ、これ?」

「はい……その宝玉を見たことがあります。かつて、この世界の神が使っていた能力の一端だと。ですが、それを使えるからといって……」

「なら、どうすれば信じてもらえるかな?」

「私の能力名を当ててください。そうすれば……少しは信じることができます」


 能力名? 能力と何が違うのだろうか。ユラム、どういうこと?


『カナデの時に言ったでしょ? 彼女の能力は「自然の導き手」だと。それと同じよ。全ての能力には名前があるの。普遍的なものも多いのだけどオリジナルになればかなり特殊になるわ』


 確かにそれだとカナデの能力も特殊な言われ方をしているな。あ、ということは僕の能力も? なあ、僕の能力ってなんなんだ?


『その内教えるわ。さて、さすがにここは信じてもらったほうがいいから教えてあげるわ。ルナの能力は「女王の号令」よ』

「『女王の号令』」

「!、どうしてその名前を」

「ユ……神様が教えてくれた」


 危ない。ついユラムの名前を出しそうになってしまった。気をつけておかないと。でも、僕がこの言葉を出した瞬間にルナはかなり驚いた表情をしていたのでまさか当てられるとは思ってもいなかったみたいだ。


『ちなみに効果は彼女がそこにいるかぎり、自然の全ては彼女に傅くわ。言ってしまえば私の能力の一部、とでも思ってくれていいわ』

「とんでもない能力なんだね」

「その様子だと私の能力の効果まで知ってしまったようですね」

「まあ、ね」

「……わかりました。今はご主人様の言葉を信じましょう」

「ありがとう。でも、これも他言禁止でお願い」

「わかっています。ですが、言っても信じてもらえないと思います」


 まあすぐに信じてくれたユキたちが異常、なんだけどね。ヒヨリはまあ彼女の能力が効かないという点で信じやすかったのかもしれないけど。さて、ところですっかりと忘れてしまっていたけどいいお知らせってなんなのだろうか。


「それで、いいお知らせって?」

「ご主人様に褒賞の話が出ています」

「え?」


 ルナに話を聞いたところ、昨日の暴動に関して僕を始め数人の民間や冒険者の協力者がいたらしい。そしてその人たちにここの領主が褒美を与えるとかという知らせをギルドのほうにだしたみたいだ。僕はギルドに登録はしていないけれど、それでも暴動を止めようとしたのは間違いないので(兵士たちが僕がしたことを見ている)名乗り出れば褒賞が与えられるみたいだ。


「それで、ご主人様ももらいに行ってはどうでしょうか」

「いや……いいよ」

「よろしいのですか?」

「うん……もう遅いからね」


 僕になんて褒賞を与えるぐらいなら奴隷たちの生活を応援して欲しかったけどそれはもう叶わないみたいだしお金も……確かに欲しいのだけどわざわざ受け取りになんて行きたくないっていうのが本音だ。


『それでいいの? せっかく上の人間と知り合いになれるっていうのに。一時の感情でチャンスを逃すの?』


 ユラムの言っていることも間違いない。ここで権力を持った人間と仲良くしておくことはきっと、後々役に立つだろう。力が必要な僕にとってこういう関わり合いは大事だ。


 でも、僕は正直行きたくない。子供っぽいと言われるかもしれないが奴隷たちをことごとく殺した命令を出した人に会いたくない。


『ま、アカリが会いたくないっていうのなら構わないわよ。アカリの生き方だもの。好きにしたらいいわ』

「そうだね。そういえば、ユキたちは?」


 ユラムの言葉は突き放しているように見えて僕のことを案じてくれているのがわかった。そう、好きにすればいいんだ。


『あら、もう喚かないのね。詰まらないわ。ま、でもそれでいいのよ。アカリが動いたことで救われた命、動かなかったことで失った命、それは変わらない、同じ命』


 どちらにしても、変わらない。僕が考えるだけの話だ。それに、結局のところ、確実にするためにはもっと強くならないといけないことは間違いない。そんなことを考えながら、僕はルナにユキたちのことを聞く。


「ユキ様ですか? 部屋の外で待っていると思われます。すぐにお呼びしますね」


 ルナはそう言って、部屋の外に出て行く。そしてすぐにユキたちと一緒に戻ってきた。


「アカリ……その、今回は」

「うん、わかってる。でも、気にしてはいられない……僕に、もっと力があれば、そう思うよ」

「そんなことは……」


 ユキが何かを言おうとしたけど、結局何も言わなかった。うん、その方が非常にありがたい。これは結局のところ、僕の問題だからね。助けたいと願ったけど助けることができなかった僕の力のなさ、それだけのことだ。


「アカリさん体調の方は大丈夫でしょうか」

「あ、うん。大丈夫。休んだらなんとかなったよ」

「よかったです」


 カナデに体調の心配をされる。まあカナデたちのことだしきっと医者というか治療系の人を呼んでくれたのだろうが倒れてしまった原因が神の力の反動だからどうしようもなかったんだよね。


「でも、なんであんたに治療が効かなかったの? いや、正確にはあんまり効果がなかったんだけど」

「ああ、それは原因がこれだからね」

「神様の力、だからか。あのシオリって人と同じレベルの能力じゃないと無理ってことね」

「まあ、そうなるね」


 そして僕たちの間に沈黙が舞い降りる。かなり重たい空気になってしまった。そんなに気を使われても困るのだけど……まあ、仕方がないのかもね。


「それでも」

「うん?」

「それでも、僕は旅を続けるよ」

「アカリ!」


 ユキが悲痛な声で僕の名前を呼ぶ。きっと、僕だけじゃない。彼女たちも苦しい思いをしたのだろうか。奴隷が殺されたことはそこまで思わなかったかもしれないが、僕が戦った意味を知っているから、そう思って心を痛めてくれていたのかもしえない。それなら……とても嬉しいことだな。


「今回、僕が動いて……理想とする結果にはならなかった。だからと言って止まるわけにはいかない。いつか、僕の望む結果、誰も死なない結果になるように、僕はまだあがくよ」


 それに、以前とは違う。見殺しにして後悔した時とはまったく違う。動いて、それでも足りなかったから、まだ希望はある。それに、僕の能力はこれ以上なにかできるという確証はないけれど、他の宝玉を集めたら……あいつらの策に乗るのは少し嫌だけど、きっとまた開ける。そんな気がするんだ。


「わかったわ。アカリがそこまで言うのなら……もう少しだけ、付き合ってあげるわよ」

「ユキ……」

「ま、私はユキについてきてるだけだからね」

「はい! 私もついていきます」

「私はご主人様の奴隷ですので、ついていきます」


 そんなことをユキたちに話したら、そんな言葉が返ってきた。


「無理しなくても、いいよ?」

「無理してないわ」

「……!」


 つい、気弱なことを言ってしまったけど、それを受けてもユキたちは力づよく言い返してくる。その言葉に本当に励まされる。


『これも、一つの力、よ。信頼。あなたが向かう先についてきてくれる仲間がいる』


 そしてユラムの言葉で考えさせられる。そっか。僕は今まで力とは、単なる武力や権力だけだと思っていた。でも、人に慕われる力というのも、きっと、あるのだろう。それは僕が地球にいた時に、神崎に憧れた能力の一つだった。コミュニケーション能力とでも、リーダーシップとでも言うべきだろうか、そんな力。僕も、こうして進んでいけば自然と、身についていたのかもしれない。僕が進んだから、こうして仲間をえられたのかもしれない。


「ありがとう」

「どういたしまして」

「いいえ」

「気にしないでよ」

「お礼を言われるようなことではありません」

「僕が言いたいだけだよ」


 ふふっ、そうだよね。また、気持ちを新たに、頑張っていこう。いつか、僕の理想に届くために。

今回で吸血鬼編は終わりです。

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