吸血鬼の少女10
評価ありがとうございます。
これからも頑張ります
「ユキ、ヒヨリ、ルナ!」
僕は前方で奴隷たちを制圧している三人に呼びかける。どうやらここは他の場所と違って成人男性が多いみたいだ。そのせいかそうとう苦戦を強いられているのか? いや、これはさっきの場所と同じように兵士たちがいるから迂闊に能力を開示できないってところかな。ルナも明らかに隠したがっていたし。
「三人とも、伏せて!『純潔』」
三人に指示を出してそれと同時に奴隷たちに幻術をかける。僕の能力の範囲内にいた奴隷たちはみんな同じように動きを止める。どうやら上書きに成功したみたいだ。
「アカリ! 何をしたの?」
「こいつらの上から幻術をかけた」
「そう……ま、動きが止まったのならそれでいいわ」
ヒヨリはそう言って近くにいた奴隷にナイフを突き刺す。その奴隷は叫び声をあげて、そして生き絶える。いやいや、向こうには戦意がないから何も殺す必要がないんだって。
「でも襲っていたのは事実よ。ここで手加減したら……後々後悔するかもしれない」
「私もヒヨリさんに賛成です。それにどうせ私たちが殺さなくても反逆罪で殺される」
ルナが指を鳴らせば棒立ちしている奴隷の体が何かで切られた。両腕が吹き飛び、そして同時に首が切り離される。すると、向こうから一人の兵士がこちらに走ってくるのが見えた。
「君! さっき何をしたんだ?」
「奴隷たち幻術を上書きしただけです」
「上書き? ああ、だからこいつら叫び声を上げるだけで会話が成り立っていなかったのか」
「はい、おそらくこれで戦う意思が消滅したはずです」
「ああ、みたいだな。おーい。お前らを捕縛する。だからこっちに並べ!」
よかった。これでここも無駄な死がなくなった。兵士たちは奴隷を次々に捕らえていく。奴隷たちは自分たちがしていたことを覚えていないみたいだが、それぐらいはしょうがない。
「まあ、殺されなかっただけマシ、といったところでしょうね。それでも逃げれば殺されているみたいだけど」
「そこまで面倒みる気はないよ」
ヒヨリのドライな言葉を聞いて、僕も冷たく突き放す。僕の言葉を聞いてヒヨリは意外そうにした。
「どうしても死なせないって言うのかと思った」
「確かに死なせたくないって思う。でも、逃げる奴隷を殺すなって言ったとしてもきっと無駄だろう」
『ま、それに逃げた奴隷なんて結局山賊に落ちるのが関の山ね』
逃げた先でまた別の命を奪う。だから今ここで殺されてもいい……とは言えないけど、見逃す理由もない。そんなことを思っていたらヒヨリからちょっとジト目で見られた。
「ふーん、ユキは命懸けで助けようとしたのに」
「ユキは知り合いだからね」
知り合い以外には極端に冷たくなるのもこれまた日本人の特性だからね。僕としてはこれが限界、といったところかな。線引きはきちんとしておかないと、いずれ、僕は死ぬ。いや、死ぬのはいいのだけど信念を持って死にたいんだよね。
「なるほどね。まああんたが自分の信念に従って動いているのはわかったわ」
「もちろん捕まった奴隷たちが無罪……は難しいけれど死刑にならないことは望んでるかな」
「私だって人が死ぬのは嫌よ」
そんなことをヒヨリと言い合っていたら、気が付いたらこの場所にいるのは僕たちだけになってしまった。兵士たちはみんな奴隷たちを捕まえてここの領主のところにお伺いをたてに向かったし。
「今回は……おばちゃんを初めとしてお世話になった人が巻き込まれるかもしれないって思ったらつい、過激になってしまったわ」
「それはしょうがないよ。それに、人を殺す覚悟、もしているのだろう?」
「ええ、そうね。私の能力は……私の大切な人を生かす代わりに、誰かを殺すものだから」
「ルナも、大丈夫か? 僕の命令とはいえ、人を殺してしまったわけだけど」
「はい、慣れてますから」
「そ、そう」
二人とも強いな。過去に何があったのかわからないけど、こうしてみれば、ここが地球とは、日本とは異なる場所であるということを実感する。
「カナデ、これで全部かな?」
「え? あ、そうみたいです。今、鳥さんたちに聞いていますけど他の場所も鎮圧されたみたいです」
「了解」
それじゃあ僕たちも帰ろうか。ここにずっといたとしても仕方がないし。そう思ってカナデたちに声をかけようとした瞬間だった。
「よし、それじゃあ僕たちもかえ」
「君が邪魔したんだね、湊」
「!!」
その言葉を聞いて、僕は辺りを警戒する。同様にヒヨリも辺りを見渡し始める。
「どうされたのですか?」
「湊というのはアカリの名前、よ」
「そうなのですか」
そしてそれを知っているのは基本的に僕の同郷の人間。ただしこの世界の人は僕のことをアカリと呼ぶので湊って呼んでくるのはだいたいクラスメートに限定される。
「どうして僕たちの邪魔をするんだ?」
「……桜花、それに麻木も」
向こうから歩いてくる、二人の少年。それはかつてのクラスメート、桜花桃ノ助と麻木努。彼らは僕と一緒に王宮に召喚されたクラスメートではない。つまり、それが意味するところは……小沼山と同じく魔王候補として召喚されたということか。
「あなたたちは」
「? 君とは初対面ですよ」
「ユキ、知っているのか?」
しかし彼らの登場に驚いたのは僕だけではなかった。ユキもまた彼らの姿をみて、思いた当たることがあったのか彼らを睨みつけている。
「ええ、間違いないわ。カナデを殺したのはこの二人よ」
「……!」
「カナデ? そんなやつ知らないが」
「ええ、そうでしょうね」
だって実際には殺していないからね。そんな未遂の殺人のことを言われたところでまったくわかるはずもない。だが、僕たちにとっては、彼らが殺したかもしれないという事実だけで十分だ。
「それで、お前たちが奴隷を買ったのか? そして洗脳を」
「まあ、そうだね。俺たちの計画を邪魔してくれて」
「計画?」
「ああ、そうだよ……お前に話したところで意味ないけどな」
「無関係の人が死んでも良かったのか」
「別に? だってそのために死んでも構わない奴隷をわざわざ買ってやったんだ」
「くっ」
こいつ、桜花の言っていることは、きっと正しいのだろう。だが、日本人の感覚として、それはおかしいと思わなかったのだろうか。そんな風に思っていたのが伝わったのだろう。ため息を吐きながら教えてくれた。
「ま、一度失敗しているからな。だから俺ももう奴隷に対して容赦をしないときめたんだ」
「奴隷の存在を認めるのか?」
「認めるも認めないも、ここはこういう世界だろうが。お前と違ってお気楽に生きていないんだよ」
僕のどこがお気楽に生きているように見えるのか問い詰めてやりたいが
『まあ今のあなたのハーレム的な感じを見て言ったんじゃない?』
……まあ、確かに客観的にみればそうなるのか。でも、見た目だけで判断するとかさすがにひどいと思うけどね。学校でも習っただろうが。人を見た目だけで判断してはいけないって。
「ひとつ聞くけど、神崎さんは何をしているんだ?」
「え? 栞? 栞なら神崎たちと」
どうして栞のことを聞いてくるのかわからなかったけど、僕の返答を最後まで待たずして桜花が怒ってしまったのを感じた。
「今回は神崎さんに免じてその杖と『色欲』と『傲慢』の宝玉だけで終わらせてやろうと思っていたが、気が変わった。神崎さんを呼び捨てとか……殺す」
「ちょっ、僕はお前たちと戦う理由がない」
「お前になくても俺にはあるんだよ……それにもう一度言うが、この奴隷騒動を起こしたのは俺たちだぜ?」
「くっ」
確かにそうだ。僕はこの騒動を抑えるために行動している。だから、その元凶である彼らと戦う理由がきちんと存在している。
「小沼山と戦う覚悟を決めたはずだろ……人が変わっただけだ」
「ま、それに湊の近くに美少女がたくさんいるのも気に食わないですね。わかりました。桜花、彼の殺害を僕も肯定します」
「ありがたいぜ、麻木」
「麻木……!」
二人の言葉を聞いて僕は杖を構える……。こうなったら戦うしかない。でも、彼らを殺さないようにしなきゃ。さすがに、彼らを見捨てるほど、僕は冷酷にはなれない。でも、彼らを殺さなかったら僕たちの誰かが死んでしまうのだろうか。




