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吸血鬼の少女8

誤字報告ありがとうございます


「なにが起きたんだ!?」

「アカリ! カナデと合流しましょう。私たちよりも彼女の方が得られる情報量が多いはずよ」

「わかった。ルナ! 帰るよ」

「かしこまりました」


 突然の騒ぎに驚くがユキが冷静に次の指示を出してくれる。それはそうだな。すぐにルナに伝えて僕たちは宿へと帰る。幸い爆発音がした方向とは逆の方向に宿があったのであんまり人が向かっていない。すぐに僕たちは宿に戻ることができた。


「ヒヨリ、カナデ」

「あ、アカリさん」

「なにが起きているんだ?」


 僕たちが帰ってくると踏んでいたのだろう。二人とも宿の前にいて待っていてくれていた。そしてカナデの近くには数匹鳥たちが止まっている。


「たくさんの人が暴れているって」

「は?」

「暴れてる? この時期に暴動が?」


 その鳥たちから聞いたのだろう。今この都市で起きていることを簡単に伝えてくれる。にしても暴動ねぇ。ユキがこの時期であることに驚いているけど関係あるのだろうか。


「作物の徴収時期とか納税の時期になると人々が反乱を起こすことはよくあるわ」

「でも、この時期じゃないと」

「ええ、もう少し先だもの」

「そっか」


 なら、誰が、どんな目的でこんな暴動を起こしているのかが、気になるな。ふと、スイレンの村での小沼山たちのことが思い出される。まさかなんとなしにこの都市に来てしまったたけど実はこの都市に宝玉があるとかそんなことはないだろうな。


『うーん、近くには気配を感じられないわね』


 なるほどね。ならあいつらが宝玉を手に入れるために陽動の意味を込めて動いたとかそういうことではないわけか。


「それで、どうするの?」

「向かう」


 ユキに気かれたけど即答する。ここで行かないのは僕のやりたいことと反する。それに、動かないで後悔するよりかは動いた方が絶対にいいに決まっている。きっと、暴動を放置していればたくさんの人が死んでしまうに決まっている。


「ご主人様と何も関係あるようには思えないのですが」

「それでも、行くよ」

「なぜでしょうか。そこまで人を助けたいのですか?」


 ルナからの当然出てくる質問。それに対しても答えなんて決まっている。


「僕の『やりたいこと』のために行くんだ。人を助けるのはあくまで結果の話」


 僕が行動する理由なんて正直それだけだ。それ以上何か思うところなんてなにもない。あ。でも身近な人間が死んでほしくないっていうのも、結局人助なのかな? まあ、今は考えなくてもいいか。のくはカナデに質問する。


「カナデ、暴動が起きている場所を教えてくれないか?」

「わかりました……その暴動の場所を教えてくれますか?」


 カナデが鳥たちにお願いしている。そして同時にユキたちの方を見る。正直彼女たちの戦力を考えたらここでおとなしくしておいて欲しいのだけど、


「私も行くわ。ヒヨリいいわよね?」

「ユキが行くのなら私も当然行くわ」

「ルナはどうする?」

「私はご主人様の奴隷です。お好きにどうぞ」

「そっか。じゃあユキとカナデの警護をお願い」

「私はいいのかしら?」

「ヒヨリは一人でもまだ戦えるだろ」


 結局みんなくるみたいだ。まあもしものことがあった時にはヒヨリの能力はかなり助かるだろうし別にいいか。それに僕の能力でみんなを守ることだってできる。そんなことを話しているうちに、カナデの方も話がついたみたいだ。


「みなさん、この鳥さんが案内してくれるみたいです」

「そっか。ありがとう」


 カナデの肩に少し大きくて白い鳥が止まっていた。見たことのない鳥だけど目印としてはかなり助かるな。


「よし、向かうか」

「ええ、向かいましょう」

「鳥さん、お願いします」


 カナデの肩から飛び立つと、そのまま案内するように空中に漂っている。それを見ながら僕たちは走り始める。そしてしばらく鳥を目印に走っていると前方の方から騒音が聞こえてきた。


「どうやら到着したみたいね」

「これは……酷い」


 ユキが冷静に到着を告げるけれど僕はただ、呆然とするしかない。そこでは白いシーツのような物を着た集団が家を焼いたり、逃げ惑う人々を襲ったりとしていた。……白いシーツ?


「まって、これ暴れているの奴隷たちじゃない?」

「な、なんでそんなことが」


 嫌な予感の正体ってこのことなのだろうか。奴隷たちがこうして人々を襲っている。これって反乱の一種なのか? いや、奴隷たちがある特定の人物に買われたってことはその人が起こしている反乱ってことで間違っていないよな。


「とにかく止めないと」

「この都市の警備は何をしているんだ?」

「知らないわよ! カナデ、私と人々の避難を行うわよ」

「わかりました」

「三人で奴隷たちの鎮圧をお願い」


 そう言うとユキとカナデは走り出した。鎮圧をお願いって言われてもこいつらを勝手に攻撃したとして怒られたりしないのだろうか。


「ま、こんなに暴れていたら問題ないでしょうよ。さ、いきましょ」

「ご主人様が嫌なら私が終わらせます」

「いや、僕も行くよ」


 僕の希望でここにきているっていうのにいざ現場に到着したら尻込みするなんてさすがに酷すぎる。先に走り始めた二人に置いて行かれないように僕も走り出す。


「おい、やめろ!」

「……うおおおおおおお」


 近くにいた男の子に一応警告のつもりで止めるように言ったのだけど何も言わない。ただただ叫んでいるだけだ。そして僕の方向に向かってくる。


「ちっ」


 素早く杖を振り回して向かってくる男の子の足に打ち付ける。強打されたことでバランスを崩したのかそのまま倒れる。これで無力化できたらいいのだけど。


『まあ首の後ろに強い衝撃を与えれば気絶するかもだけど素人のあんたがやってもただただ首の骨が折れて死ぬだけね』


 まあ、だよね。首の手刀で気絶させることができるのなんてそれこそ武道の達人とかしかいないよね。でも、今一人を無力化したからって油断してはいけない。まだまだ暴れている人はいるんだ。


「きゃああああああ」

「!」


 僕の近くで悲鳴が上がる。見てみれば逃げ遅れたのか、崩れた家の前で女の人が襲われている。


「くそっ」


 慌てて駆けつけようとしたが少し距離があって間に合わない。そう思った瞬間に襲っていた奴隷たちの首にナイフが突き刺さる。


「え?」

「はあっ」


 僕が唖然とした瞬間にヒヨリが近づいて、そのままナイフを振り抜いた。首を切られたことが致命傷になったのか血を吹き出しながら倒れる。人が……死んでしまった。


『ちなみに今ヒヨリが殺さなかったら女の人が死んでいたわね』


 そっか……結局誰かが死んでいたのか。力を手に入れたとしても、まだまだ未熟、すべての人の死を回避することはできない。そんなことを思いながら僕は女の人に話しかける。


「大丈夫ですか?」

「こ、子供が!」

「子供?」


 女の人に声をかけたら今度は崩れた家をどかそうとしている。子供がこの下に埋もれてしまっているのだろうか。でも、残念ながら僕たちにそれを助けるだけの力はない。


「あなただけでも逃げてください」

「嫌よ! 子供を見捨てておけない」


 困ったな。ヒヨリは僕にここを任せて他の奴隷たちの鎮圧に向かった。そして別の奴隷を切っている。これは……結界で無理やり崩れた家を吹き飛ばした方がいいのだろうか。


『できなくはないけどそれをする価値はないわね』


 後のことを考えたら、ね。でも、ここで見捨てるのは僕のポリシーに合わない。だから杖を構えて結界を貼ろうとした瞬間だった。


「ご主人様は下がってください」


 その言葉が聞こえたと思ったら崩れ落ちていたのが全て吹き飛んだ。唖然とする僕と女性に駆け寄ってくる影が一つ。


「お母さん!」

「ああ、よかった……」

「今の、ルナの能力?」

「はやく他の奴隷を片付けましょう」

「あ、ああ。そうだな」


 確認のために聞こうとしたら冷たくあしらわれてしまう。ま、まあそうだよね。僕も気合を入れてまだ暴れているところへと向かう。


「はやく逃げてくださいね」

「あ、ありがとうございます」


 お礼を言って逃げていく親子を見ながら、僕は静かに、杖を振るった。

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