吸血鬼の少女6
昼頃に用事があるのでこの時間に更新です
「みんなは今日どうするの?」
「なんかすみません……」
「カナデのせいじゃないわ。私は……この都市を散策するつもりよ」
「私はこの宿のお手伝いをするわ」
予定を聞いてみたところ、いろいろな意見が返ってきた。というかヒヨリはここの宿を手伝うんだね。そこまで恩義に感じるって……いや、今回の件を考えたらそれも当然かな。そしてカナデも同じく宿のお手伝いをするみたいだ。外に出たら危険の可能性もあるし、それも当然だろうな。
「それなら僕もユキと一緒に散策に出かけるよ……ルナもおいで」
「わかりました」
「ルナも?」
「うん、もう少し打ち解けたいからね」
「そう……それもそうね」
ん? ちょっとだけ反応に違和感を感じたけどそれ以上何も言ってこないので特に問題ないのだろう。そしてルナも……まあ僕の命令にはなかなか逆らえないので問題ないか。いや、大有りだけど。うーん、打ち解けるにはもっと時間がかかりそうだ。
「そういえば、ユキ、なんか奴隷をすべて買っている人がいるみたいなんだけどそんなことするやつに心当たりある?」
「え? 大人の男とか美女とか関係なしに?」
「うん、そうみたい」
なんで選択肢がそれなのか気になるけど……まあやっぱり労働力とかの面で求める人が多いのだろうな。僕がうなづいたのを見て、ユキは不思議そうにしている。
「うーん、全てっていうのは少し気になるけどまあ金持ちの道楽じゃないかしら?」
「そうなのかな」
金を持て余したから暇つぶしに奴隷を買う。倫理的にはどうかと思うが、まあそういうことが許されている世界である以上、いたしかたないのかもな。
「それよりもしっかりと観光を楽しみましょ! 私自分の故郷から出るのがこれが初めてだからいろいろと見たいわ」
「そっか」
僕も世界から出るのは初めてだからこの世界をしっかりと楽しみたいんだけどね。そういうわけで僕はユキとそれからルナとこの都市を散策することにする。まあ、自分を客観的に見たらこうして美少女と観光している時点で相当なのだけどね。ちなみに今、ユキは僕の横にいて、ルナは僕たちの少し後ろを歩いている。横を歩いてもいいのにって言ったら私は奴隷ですのでって断られたよ。
「ねえ、アカリ。観光って何するの?」
「え? あー適当に歩き回ってり特産品とかを探したり?」
「そうなのね。ルナ、この都市の特産品ってなにか知っている?」
「すみませんが、私は知りません」
「ルナはこの都市に昨日来たみたいだから知らないのかもね」
「ヒヨリを連れて来るべきだったわ」
僕に質問することなく、ユキはため息をつく。僕が知らないのは当たり前ってことね。最初にこれがこの都市の特産品だよって説明できたらよかったのだけどね。ユラム、わかる?
『え? うーん、奴隷の売買が盛んぐらいかなぁ』
何もあてにならない特徴ですね。そんなことルナの前では口が裂けてもいえないよ。ま、それなら適当に歩き回ってショッピングでもして過ごすことにするか。ただ、ユキが絡まれる可能性があるけどその時は僕が戦えばいいし。
『姫を守る騎士といったところかしらね。デートを頑張りなさいよ』
「で、デート」
「え? あ、そ、そんな」
「急に声を上げてどうされたのですか? それに、デートだと言うのならなぜ私を連れてきたのですか?」
「あはは、えっと……その内話すよ」
おい、ユラム! お前が辺なことを言うから意識してしまうだろうが。それにルナからもかなり変な目で見られてしまうし。
『あら? 今まで気がついていなかったのかしら。端から見たらあなたたちデート以外の何物でもないわよ』
そうなのか。って、そうなるのか! 美少女と一緒に動いているまでは想像できたけどどう見られているかなんて全く想像していなかった。そしてルナを連れているわけだ。うん、これは僕刺されても文句言えない?
「僕の能力なんだ……そのせいで時々こうして独り言を言ってしまうことがあるけど気にしないでね」
「はい、わかりました」
不思議そうにしていた……訂正、こちらに冷たい目を向けていたルナの誤解を解くために簡単に説明する。ユキの方も僕がユラムになにか言われたということに気がついたらしく少しだけ笑っている。わかっているなら少しぐらい助けてくれてもいいじゃないか。
「ふふっ、アカリをからかうのはこれくらいにして……ってあら?」
「どうかしたのか?」
「あー別の道に行きましょう」
突然そんなことを言い出した。不思議に思ってユキが見ている方を見てみるが特に変わったような気はしない。強いて言うのならほとんど店仕舞いしているぐらいだ。行っても意味ないから別の道を提案したのかな。
『向こうは奴隷の売買が行われている地域ね。公爵家の人間だし見たことのある顔でもいのたのでしょう』
なるほどね。それなら納得……しようとして、僕は違和感に気がついた。奴隷商はほぼほぼ店仕舞いをしている。そのこと自体は特に不思議なことではないのだが、今朝のことを思い出すと少しだけ引っかかる。
「いや、進もう。ルナ、嫌な気持ちになったら教えてくれ」
「ご主人様が気にされることではありません」
「アカリ!」
「少し、話を聞く……ちょっと違和感を感じる」
なぜだかわからないけど、ここで話を聞いておいた方がいい気がする。なぜ、と言われても説明できないけれど、とにかく、そう感じたのだ。僕の言葉を聞いたユキもしぶしぶながらついてきてくれる。
「あの、すみません」
「はいはい……あー奴隷のお買い求めでしょうか? ですが、すでに売り切れていますので申し訳ありませんが、また入荷される時をお待ちください」
奴隷商の人に声をかけてみたら案の定の答えが返ってきた。
「もしかして僕と同じような人が買って行ったのですか?」
「申し訳ありません、お客様の個人情報に関することはお話しできないです」
「そ、そうですか」
「あと、これは話しても問題ないのでお話ししますが、その人は近場の奴隷商にも行っていたようですししばらくは奴隷購入は難しいと思います」
「わかりました。ありがとうございます」
まさか全部の奴隷商を回られているというのはちょっと予想外だったな。でも、ここまでするなんて相手は……まさか、
「その人が気になっているの? アカリ」
「うん」
奴隷商から別れて少しして、ユキにそう尋ねられた。その質問に僕は素直にうなづく。ここで嘘をつく必要性も全くないからね。
「そもそも奴隷を全て購入するって思考を見ると、思い当たることがあるんだ」
「もしかして……奴隷解放?」
「うん」
驚きながらもユキは僕が考えていることと同じことを口にする。奴隷をたくさん買ってそしてそれを自分の元である程度育てて自立できるようになったら解放する。単純に武力が欲しかったのかもしれないが、さすがに複数の奴隷商の奴隷が全て買われるなんて異常だと思うしかない。
「それに……この世界には僕たちがいる」
「日本人?」
「あ、えっと、僕の故郷では奴隷制度が廃止されているんだ」
だからこそ、この世界における奴隷制度に対して忌避感を感じている可能性が高い。そしてそんなことをする奴らは……きっと、小沼山たちの可能性が高い。神崎の可能性もあるけどそれだとどうしても「王宮の使者」として動くことになる。そんな感じはしないので多分小沼山たちと見て間違いないだろう。
「それで、アカリの同郷の人であると見てるわけね」
「ああ、もしそうならあいつらと、きちんと話がしたい」
「はぁ……わかったわ。でも本当に奴隷解放なんてことするのかしらね」
「あの」
「ん?」
ユキと話していた時に、おずおずといった感じでルナが話しかけてきた。そして僕たちに向けて告げる。
「しばらく前の話ですけどとある地域の奴隷たちが一斉に解放されたと聞きました」




