吸血鬼の少女4
「え、ちょ、死ぬってどういうこと!?」
「ひっ」
「あ、ご、ごめん」
思わずルナに詰め寄ってしまった。そして悲鳴を上げられたので慌てて謝る。さすがに無遠慮すぎた。僕が男性でルナが女性であることを忘れてはいけない。おまけに奴隷とその主人っていう関係だし、あんまり圧力をかけるようなことはしてはいけないな。
「そ、それでどういうことなのかな?」
すっかり怯えられたので気持ち優しめな口調で語りかける。もう僕が詰め寄ってこないと思ったのかもう怯えられることなく答えてくれた。
「ご主人様の血が甘かったからです」
「そ、そうなの?」
思わずさっき刺された指をみてしまう。僕の血って甘いのか。でも、子供の頃とか口の中を切った時とかの血の味って鉄の味がして正直おいしいとは思えなかった記憶があるんだけど。
「はい、今まで生きた中で一番の甘さでした」
「そうなんだ……それで、どんな時に甘いと感じるの?」
吸血鬼のパロとかを読んだ時には好きな人の血は甘く感じるとかったけどそんなことはありえないし、他には若い女性だとそうなんだっけ? いや、これは美味しいだけか。
「はい、まずは私が好きな人ですけど絶対に違……なんでもありません」
「怒らないからはっきり言ってくれると助かるな」
まあさっき自分の中で確認したからね。そんなことがありえないってわかっているし。そこまで怯えないでもいいのに。
「あとは今にも死にそうな人も甘くなるみたいです」
「そ、そう……」
そっちの答えは予想外だったな。でも、僕ってそんなにすぐに死ぬのかな。まだまだ若いし人生これからって感じなのだけどさ。ねえ、ユラム、何か知ってる?
『あー以前私があんたに憑依した時あるでしょ? その時の影響で吸血鬼にとって美味しい血になったのよ。それから死ぬ人の血が美味しいのは生命の輝きってやつね。最後の力みたいな』
なるほどね。まさかこんなところで影響が来るとは思ってもみなかった。てか今まで気にしていなかったけど僕の体大丈夫なのか? ユラムをこの身に降ろしているんだよな。
『まああんたの生命が削られたぐらいね。私の力が移ったとかはないから安心しなさい』
それはちょっと残念だ……ってまじかよ。生命が削られたから美味しくなったみたいなものじゃないか。そしてそんなこと考えていたら当然顔の表情がかなり変化してしまって、ルナに疑問を持たれてしまう。
「どうされました?」
「い、いや大丈夫。あとはそうだな……急いで聞く必要があるとすれば、ルナの能力は何かな」
「……」
「言いたくない、のかな」
「はい」
そこまで言い切られたらこちらとしても何も言えないな。でも戦闘系っていうのは間違いないしそのうちわかってくるだろうしその時でいいや。それに僕も黙っているしお互い様だ。
「質問は以上でしょうか」
「今思いつくのはこれくらいかな」
「わかりました。では私はもう休みます」
「お、おやすみなさい」
そしてルナはベッドではなく床にねっころがって……って、ちょっと何してるんだよ。慌てて僕は止めようとする。
「ご主人様がベッドをお使いになられるでしょうしならば私は床で寝るしかないでしょう」
「いやいやいや、さすがにそんな鬼畜なことできるか!」
「ではご主人様が床で寝られるのですか?」
「え? あー、まあそうなるな」
一瞬一緒にベッドに寝ないの? って思ったけどまあそんな小説なことが起きるなんてありえないよな。まさしく事実は小説よりも奇なりってやつだ。それに比べたら僕が床で寝るぐらいどうってことない。スイレンの村で教会の硬い床で寝た時に比べたらはるかに心地よい。そんな僕に対してルナは呆れたようなため息を吐いてくる。
「はぁ、奴隷の代わりに床で寝る主人なんて聞いたことがありませんよ」
「これが僕の故郷での常識だと思ってくれ。僕の故郷ではこういう時は男子が我慢するっていうのが当たり前なんだよ」
「そうですか」
訝しげな表情をしていたけどここは無理やり納得させるしかない。そして僕の言葉に半信半疑ながらも納得してくれたみたいだ。
「そんな文化聞いたことありませんけど……いえ、これ以上はやめておきます」
「ごめん、助かる」
「謝らないでください。では、今度こそ寝ますね」
「うん、あ、毛布を1つ頂戴。それに包まるから」
「わかりました」
ルナから手渡された毛布を床に敷いてサンドイッチの要領で挟まる。今はそこまで寒いというわけではないけど寝る時って体温が下がるって聞いたことがあるしこうして暖かいものを近くに用意しておくのも悪くはないだろうし。そんなことを思いながら僕は寝ることにした。あれ? 寝るのはいいのだけど吸血鬼って夜の方が動けたりするんじゃないの?
『まあ確かに夜の方が動けるわね。でも、単に今は長い奴隷生活で疲れているだけじゃないかしら』
そういう考え方もあるんだな。じゃあ別におかしくないか。そのまま僕はゆっくりと眠りに落ちていく。精神的にかなり疲れていたしすぐに寝ることができた。
そして次の日、
「おはようございます、ご主人様」
「ああ、おはよう」
朝が来て僕はルナの声で目覚めた。あくびをかみ殺しながらぼけっとしているとルナから声がかかる。
「それで、今日はどうされるつもりですか?」
「え? まあ今日はここを立つ予定だね。ここには宝玉がないと思うし」
そもそもここに来た目的は戦える仲間を集めるため、だからね。ルナがこうして仲間になった以上、ここに留まる理由なんてもう何もないし。
『あら、ついでに奴隷たちを解放、とかしないのかしら』
「それをする力をまだ持っていないよ」
「? どうしました?」
「なんでもない」
思わず声に出してしまったのをルナに聞かれてしまった。でも、実際に言葉の通りだ。僕はまだ力を全く手に入れていない。戦える力をちょっとだけ持っている程度だ。この状況で自分の感情に任せて動いたとしてもろくなことにならない。それだけはきっと間違いない。
『ふふっ、少しはわかっているのね。そうよ。実際にあなたには体験してもらいたかったけどそんな余力はなさそうだし私が教えてあげるわ』
そしてユラムが教えてくれた。この世界の奴隷とは僕たち日本人が想像するような奴隷=差別の対象という図式が必ずしも成り立っているわけではないと。この世界では奴隷に対して一定の人権が守られているらしく、また奴隷商人側もより良い値段で売るために奴隷に常識などを教える。だから必ずしも不幸というわけではない。なによりも衣食住が保証されているのが大きい。その分、価値がないと判断されれば捨てられてしまうが、それでも身一つで放り投げられるよりかはマシなのだろう。
てか、僕に実際に体験してもらうってそれって僕が実際に奴隷を解放するってこと? どうやったらそんな展開に進むんだよ。
『え? 奴隷商人に「純潔」をかけてその隙になんかするとか』
それ普通に犯罪でしょ!? そんなこと失敗したら僕間違いなく捕まってしまうよね。そんなリスクある行動をとることはできない。仮にするとしたらユキたちと別れてからだ。
『ふうん、一人だったらまだ動くのね』
ユラムの言葉にどう返そうかと思った瞬間、部屋にノックの音が響いた。そして同時にユキの声が聞こえてくる。
「アカリー? ルナ? 起きてる?」
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