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吸血鬼の少女3

本日二話目の投稿となります


「はい、これが部屋の鍵だよ」

「ありがとうございます」


 僕は宿屋のおばちゃんにお礼を言って鍵をもらう。僕たちはあの後今日の宿を探して昌栄の街を歩き回った。ただ、誤算だったのはどうやらルナが吸血鬼であったことがかなり広まってしまったらしく、僕たちが宿を取ろうとしたら拒否されてしまったことだ。最終的にヒヨリが昔お世話になったというこの宿屋に駆け込んだ。ここのおばちゃんはとても親切な人で、ヒヨリがいるならばと吸血鬼であるルナを受け入れてくれた。


「にしてもヒヨリちゃん、久しぶりだねぇ」

「はい、おばちゃんもお元気そうで」

「ま、老いぼれ一人が生きるのにそれほど金なんざいらないからね」

「そうですか」


 今回も毎回と同じように二部屋とっている。部屋分けとしては僕とルナで一部屋使い、残り三人でもう一部屋を使うという感じだ。最初ユキやカナデはかなり難色を示したが、僕がルナの主人であるので彼女のことを知るために同じ部屋がいいと主張すると渋々ながら納得してくれた。


「アカリ、一応言っておくけどルナが逆らえないことを良いことに、手出しちゃダメだからね」

「ねえ、なんで僕そこまで信用ないの!?」


 ヒヨリがこそっと僕に耳打ちしてくる。あのですね、僕そこまで性欲に溢れていると思われているのだろうか。そりゃあまあ確かに異世界に来てから発散するようなことは一切ないけどさ。だってユラムが絶対に見逃すはずがないし。


「ふうん、ま、今回は信じてあげるわよ」

「ねえ、小鳥さん。アカリさんの部屋を見張っていてくださいね」

「ルナ、もしアカリに変なことされたら私に言ってね」


 はい、三人の言葉を聞いて悲しくなりました。ここまで一緒に旅をしてきた仲間なのに。まあそう言っても一ヶ月もないか。なら仕方がないな。


「わかりました。何かあればユキ様に伝えます」

「うん、でもユキ、でいいからね」


 そしてルナが答える……のは良いのだけど、なんか少し硬いんだよな。今日が初対面であることを踏まえたら仕方がないのかな。それよりもルナ、僕よりもユキの方を主人としてみている気がするんだよね。まあユキが率先して話しかけていたからこれも当然なのかな。そんなことを思いながらルナと部屋に入る。


「さて、と。寝るにはまだ時間があるし話したいんだけどいいかな?」

「良いも何もご主人様の好きなようにしてください」

「そ、そう」


 こ、こんなにも心を閉ざしているのか。ねえ、ユラム、奴隷ってみんなこんな感じなのかな?


『まあ……そうなるわね。奴隷の立場を考えてみればわかるでしょう?』


 本音をいえば自分が奴隷になったわけじゃないからわからないけど、それでも考えないといけないことだっていうことはわかった。本とかを読んで得た知識だけじゃ絶対に不十分なのでルナに聞きながら整理するか。


「それで、いくつか質問があるんだけど……答えたくないなら答えなくて良いからできる限り答えてくれるかな?」

「命令ですか?」

「いや、お願い、かな。これから一緒に旅をする……ああ、そっか。僕たちの目的を話していなかったね。僕たちは今、世界を見るために旅をしているんだ。君には……敢えて簡潔に言うけど用心棒として一緒に動いて欲しいんだ」

「わかりました。ご主人様の望みならば」

「う、うん」


 やっぱり硬いな。でも、ちゃんとこれから信頼関係を築いていこう。それから……そうだ。きちんと確認しておかないといけないことがあるし、それを済ませておこう。


「ルナは……ルナって呼んでも良いかな?」

「お好きになさってください。私はご主人様の奴隷ですので」

「じゃあ呼ぶね。基本的にはルナの意見も聞きたいと思っているんだ。正直に言えば僕は奴隷制度をあんまりよく思っていないからね」

「それならどうして私を買ったのですか」

「半ば成り行きなのは言い訳していいかな」


 それでも僕が「買った」ということはまぎれもない事実だ。あそこで奴隷商人に対して『純潔』の力でも使えばいくらでも逃げることができた。それをしなかった落ち度は僕にある。それよりも今は質問の方が大事だ。吸血鬼といえばおなじみの質問をしよう。


「ルナは人間の血ってどれくらい飲む必要があるの?」

「……人間、とは誰の血ですか?」

「え? そりゃあ僕、になるのかな。さすがにユキたちに頼むわけにはいかないし」


 絶対にないとは思うけど、僕の場合もしも血を失いすぎるということになりかけたら結界でも貼って無理やり止めることができるからね。それにしても不思議だな。人間に血を飲むの? という言葉を聞いて最初はかなり嫌そうにしていたのに後の言葉を聞いて意外そうな顔をするなんて。


「それで、どうなのかな?」

「私が嘘を言うとは考えないのですか?」

「それは大丈夫」


 明らかに怪しいと思ったら全部ユラムに聞くから。この世界で最も嘘を見抜くことができる存在がいるから大丈夫です。


『教えるかは気分次第だけど、まあ、それもそうね。私にかかればユキたちのスリーサイズや身長体重などを』


 そんな情報なんて求めていません。なんですぐそっちの方向に持っていこうとするのかな。まあ、それでルナは正しく僕に教えてくれるのだろうか。


「1日1回程度少量ですが飲む必要があります」

『まあ、実際のところしばらくは飲まなくても大丈夫だけど一週間以上は危険ね』

「そっか。わかったよ……じゃあとりあえず今日の分を飲むか?」

「え? あ、はい」


 そして僕は……ねえ、血を吸うってどんな風に吸うんだ?よく見るのでは首のあたりから飲んでいるのだけど、ルナもそうするのかな。そんなことを考えていたらルナから訝しげな視線が飛んできた。


「ご主人様、早く指を出してください」

「指? あ、ああ指ね」


 どうやら首からではなかったみたいだ。いや、首からだとかなり大量の血を吸うことになるのかな。僕はルナに向けて自分の手を差し出す。するとルナは人差し指を手にとって、そして口に含んだ。生暖かい感触に包まれたと思ったら、少しだけ痛みが走る。


「いっ」

『そりゃ皮膚を破られるからね』


 失念していました。これは首じゃなくてよかったな。ルナは僕の指から流れ出る血を舐めて飲んでいる。……飲むためには彼女は僕の真正面に来るわけで、僕は彼女を真正面から見ることになる。遠くからではよく見えていなかったけど、彼女は真っ赤な眼をしていた。そして、わかりきっていたけどとても整った顔立ちをしている。


「これで大丈夫です」

「あ、終わった?」


 すぐにルナは僕の指から口を離す。見てみれば特に傷らしい傷はない。吸血鬼の唾液とかで塞がったのだろうか。


「どうしたの?」


 手を離した後、ルナがジッとこちらを見つめていたので聞いてみた。もしかして僕の血が不味かったのだというのか。いや、よく言われることだけど処女のことを穢れなき生娘っていうし、きっとそれが男に……って何を言わせてんだよ。


『あなたが勝手に自爆してるだけよ。まあ聞いたのが私だけだから構わないのだろうけど』


 そうだとしても恥ずかしい。まあ大人になっても未経験っていう人の割合は今増えているからね。


『なんの言い訳よ……』

「ご主人様はもうすぐ死ぬのですか?」

「え?」


 ユラムに突っ込まれたけど、それよりも衝撃的な言葉がルナから飛び出してきた。あの、僕もうすぐ死ぬのですか? 逆にこちらが聞きたいくらいです。

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