吸血鬼の少女
今回より新章開始です
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「着いたわよ! ここが昌栄の街ね」
「そうだね……」
ユキが元気よくそう言っているが僕は生返事しかできない。僕たちがきたのはユキの故郷、栄華と同じくらいの大都市、昌栄。僕たちは宝玉を探しているのだが、この街にはない。だが、どうして来たのかといえば話は簡単だ。
「もう……そんなに奴隷が嫌なの?」
「うん」
そう、昌栄では近々大規模な奴隷のオークションが行われる。そしてそこで奴隷を……戦闘系の能力を持った奴隷を仲間にするために僕たちはここにきた。
「そんなにおかしいかしら? アカリ以外にまともな戦闘能力がないのはわかりきっているじゃない」
「私も戦えなくはないけど、ユキやカナデを守りながらとなると無理ね」
「だからと言って……」
そう、この世界では当たり前のことなのだ。旅をするのに人が足りない時、家の使用人を雇う時、奴隷から選ぶことはごくごく自然なことだ。男性のなかには夜伽のために奴隷を購入することがあると聞いている。でも、それでも僕は奴隷というものが嫌いだ。
「アカリの故郷ではこれが普通じゃないのも知っているけど、しょうがないことよ」
「そうなんだけどさ……」
確かに僕が奴隷を嫌がる理由として日本人として培われた倫理観というものがある。でも、それ以上に僕は、あの時の少女のことが頭をよぎるのだ。奴隷を買ったとして、一緒に旅をしていたとして、もし、窮地に陥った時僕たちはきっと奴隷を見捨てるだろう。そういう時にみんなを逃がすために犠牲になる存在になるのが奴隷というものだ。でも、それは、僕がこの世界でやりたいことじゃない。だからこうしてかなり渋っている。
「でも、戦力が足りていないのも事実でしょ? その杖の能力だって乱発はできないみたいだし」
「そうなんだよね……」
それでもユキたちが奴隷を求めた理由、それは杖の能力使用がかなり厄介だったからだ。ここに来る途中に山賊に襲われたがその時も僕とヒヨリが対処してかなりギリギリだった。おまけに杖の能力を使用して、だ。もし邪神教の……クラスメートと本格的に戦う時にこれではかなり心もとい。僕一人が強くなっても、もう一人いなければユキたちを守ることができない。
「ま、アカリが何をそこまで忌避しているのか知らないけど見て回りましょうよ」
「そうね。まあ、ユキを守るって考えたら女性の方がいいかしら? ね?アカリ」
「なんでそこで僕に振るんだよ。てか男性だろうと女性だろうと嫌なものは嫌だよ」
どうして「女性」って言った瞬間に僕の方を向いてくるのですかね。まさかヒヨリも僕が奴隷というものを性奴隷とかと勘違いているとでも思っているのだろうか。
『あら? 女性の奴隷を求めないの?』
お前までなんてことを言っているんだよ。そんなわけないだろ……って言っていたらなんかフラグになりそうで怖いのだけど。とにかく、僕が最初に出会った奴隷のことを考えたらそんな気分になれないことぐらいわかるだろうが。
そんなことをユラムに思いながらユキたちの後をついていく。ちなみにこの都市で奴隷の売買が行われているという情報を教えてくれたのはヒヨリだ。ユキに出会う前にこの都市に来たことがあるらしく、それで知っていたみたいだ。
「ほら、あそこでオークションが行われているみたいよ」
「あ、ああ」
ユキが指差す先を見てみればそこはちょっとした台があってそこに一人の男性がいた。恐らくだけどあれが奴隷商人なのだろう。そしてあたりにはそこそこの人が集まってきている。みんな特に忌避感を感じていないみたいだ。なんでそんなに平気なのだろうか。
『だってそういう文化だって何度言えばいいのよ』
まあ僕が納得していないからそんな風に何度も確認してしまうのだろうな。そして男性はあたりが静まったのを確認すると大仰にお辞儀をすると僕たちに向けて声を上げる。
「お集まりの皆様、お待たせいたしました。これより、オークションを開始したいと思います」
「いい奴隷が見つかるといいわね」
ユキがそんなことを言っているけどどうなのだろうか。壇上の男性が宣言した瞬間に奴隷と思われる人たちが上がってきた。先頭を歩いているのは珍しい銀色の髪の毛の少女だ。遠くから見てもわかるぐらい輝いている。顔は伏せてしまっているのかわからない。僕とあんまり年が離れていなさそうなあんな少女まで奴隷として売られるなんてな……。
『あら、珍しいわね。吸血鬼じゃない』
「え? あの子吸血鬼なのか!?」
僕がその子を見ているとわかったのかユラムが教えてくれた。吸血鬼、誰もが聞いたことのある種族だ。人間の血を吸う不老不死の種族。古くからその伝承が多く伝わっており僕も有名どころはいくつか知っている。そしてそんなファンタジーでしか見たことのない生き物が目の前に現れたので、つい、声に出してしまった。それが、ユラムの罠だと気付かずに。
「え? あの子、吸血鬼なんだ」
僕の言葉を聞いたユキが驚いたように言った。そしてその言葉を聞いた周りの人たちが次々に騒ぎ出した。
「おい、あれ、吸血鬼だってよ」
「いやだわ。あんな不潔な生き物」
「どうしてそんな奴がこんなところにいるのよ」
そのざわめきはオークションに来ていたすべての人に広がっていきそれは大ブーイングとなって奴隷商人を襲った。え、あの、どうしてそこまで騒ぐことがあるんですか?
「ちょっ、アカリ、どうしてそんなことをバラしたのよ」
「いや、わかんないのだけど」
「どうしてよ!」
ヒヨリが僕に向かって詰め寄ってくる。かなりキツめな口調だ。つい、反射的にわからないと言ってしまったけど、周りの人の反応からして吸血鬼という生き物が相当嫌われているということがわかった。それでも、ユキが優しく説明してくれる。
「アカリ……もしかして知らないの? 吸血鬼はこの世界で魔王と同じくらい憎い生き物なのよ」
「そ、そうなのか」
「まあ私も話を聞いているだけで本当の吸血鬼を見たのは初めてなんだけどね」
そんなことを説明されている間、気が付いたらあたりにいた人たちが帰って行っている。あの、まだオークションが始まってもいないのですけど。それに普通僕やユキの言葉を信じるか?
「あの銀髪怪しいと思っていたらやはり吸血鬼だったか」
「なんとなく嫌な気がしたのですよね」
「まったくとんでもない商人だ」
人々はそんなことを口にしながら帰っていく。そして気が付いたらここに残っていたのは僕たちだけになってしまった。え? いや、これ本当にみんな帰っちゃったの?
『あら? ということはあんたが全員を格安で買って開放とかそんな偽善をしてみる』
偽善、ね。確かにこの状況ならば奴隷を買って、そしてすぐに開放というのをすれば確かに奴隷たちを救うことができるのだろうな……いや、客が一人でオークションなんてするものなのだろうか。……あ、奴隷商人がこちらにむかって歩いてきている。そして、僕の目の前に立つと。僕に向かって一言、呟いた。
「さて、私の商売を邪魔した責任を取ってもらいますしょうか?」
ものスゴく起こっている声色で言ってくる。あー確かに、そういう見方ができますね……。その、本当にすみません。




