邪神サイド2
今回は視点が変わっています
ご注意ください
「ここがサガハタ村か」
「ええ、『色欲』の宝玉があるはずだけど」
俺は今、日暮と一緒にサガハタ村にやってきていた。世界にある宝玉の数は全部で7つ。まあ七つの大罪になぞらえた能力みたいだけどな。それよりも気になることがある。
「どうして俺たちが行かなきゃいけないんだよ」
「仕方ないでしょ? もし相手が宝玉の能力を使いこなしていた時に戦えるのが私たちぐらいなんだから」
俺たちが、俺と日暮がこうして派遣されたのは上が幻術の能力を危険視したからにすぎない。確かに宝玉の能力は強力だ。だからと言って俺たちにまで回ってこなくてもいいと思うのだがな。そんなことを思いながら日暮と一緒についていく。
「そんな顔しないの。まあ私も考えすぎだとは思うけどね。使ってきたとしてもせいぜいちょっと幻覚を見るくらいよ」
「その程度なら問題ないだろ」
考えを読まれてしまう。こいつこの世界に来てから他人の機微にかなり鋭くなったよな。俺も変わったが、おそらくだけどこの世界に来てから一番変わったのがこいつじゃないだろうか。
「ま、簡単なところは私たちでさっさと回収して欲しいんじゃないの? エルフの里とかいうどこにあるかわからないものを探す人手も確保したいだろうし」
「はいはい」
日暮の説明に対して俺は適当に返す。エルフ、ファンタジー小説でよく見る種族。この世界にもどうやら存在するらしく、そして何より厄介なことに、そいつらが宝玉を一つ所持しているらしい。しかもエルフたちが住んでいるエルフの里はいわゆる隠れ里。普通に探したとしても見つけることがかなり困難だ。だからその捜索にかなりの人数が回っている。だから居場所がわかっている今回の村とかに俺たちが派遣されたわけだ。
「それで、殺していいのか?」
「さあ? でも、別に殺すなって言われてないし好きにしていいんじゃないかしら」
「ならいいか」
別に好きで殺したいわけじゃないが、今はちょっと虫の居所が悪い。だからこういう時は殺したほうがスッキリするはずだ。そんな俺に対して特に咎めることなく、日暮は淡々と話してくる。
「ついたわよ」
「ああ、みたいだな」
そしてその件の村に到着する。宝玉があるとは言ってもかなり寂れた村みたいだ。さて、どこに宝玉があるか聞き込みでも始めようか。
「日暮、偽装を頼む」
「ええ、任せておいて。それから今の私はツクヨミよ」
「はいはい」
そして日暮の能力によって俺たちは姿を変える。これで万一村人殺したとして、そして生き残りを出したとしても俺たちを見つけることは絶対にない。これで心置きなく行動できる。そして俺たちの姿なんだが日暮の趣味かわからないがかなりのイケメンになっている。まあおかげで話しかけた時に警戒心を抱かせにくいからかなり助かっているのだがな。
「とりあえず一旦別れて行動しましょうか?」
「ああ、そうだな」
そして俺は日暮と別れて村の長がいるところを探す。しばらく歩いていると向こうに村人がいるのが見えた。あいつから聞くとするか。
「すみません」
「はい、なんでしょう」
「村長の家がどこにあるか知りませんか?」
「村長ですか……」
「どうかしたのですか?」
俺が村長について聞いたらその村人はかなり苦々しい顔をしていた。どうしたっていうんだ?
「実はですね、王宮の使者にかなり失礼な態度を見せてしまったのですよ。優しそうな使者様だから大丈夫だとは思いますが、もしこれが知れ渡ってしまったら」
「なるほど、それは大変ですね」
確かここの村長はかなり金にがめついというか、もしかしたら宝玉も買収できるかもしれないという話だったな。ちっ、これはかなり厄介なことになりやがった。王宮の使者ってことは王宮も感づいているっていうことか。いや、もしかしたらもうすでに手に入れた後なのか?
「ええ、ちなみにあなたは何をしにここへ?」
目的を聞かれたか……ごまかしてもいいが、いや、ここは逆に正直に伝えるとしよう。そうすればさりげなく王宮に宝玉があるのか否かがわかる。
「実はこの村に珍しい宝玉があると聞いてぜひ、拝見したいなと思っていまして」
「ああ、村の宝の……だが、残念ね。もうここにはないの」
「……」
やはり、か。まあ予想していたが、どうやら先を越されてしまったみたいだな。と、なれば王宮に襲撃をかけるべきだろうか。ひとまずは持ち帰って上に判断を委ねるしかないな。
「わかりました。では王宮に行くしかないみたいですね」
「ああ、違うわよ。今持っているのは王宮じゃなくて旅の人」
「……え?」
旅の人、まさか湊のやつじゃないだろうな。一度ならず二度までも先を越されてしまったのか。あいつはどうやら仲間がいるみたいだし、それに宝玉の本体である神杖を持っている。俺たちよりも捜索の能力が高いのか?
「不思議な人たちだったわね。杖を持っていた男の子とそれから女の子が三人。どうやら使者様達と知り合いみたいだったし」
「そうなのですね。では、その者達はどこに行ったかわかりますか?」
「いえ、どこに向かうとかは特に何も言っていませんでした」
「そうですか」
お礼を言ってその村人から別れた。一応とばかりに村長の家を教えてもらったので……まあ、俺の八つ当たりでも受けてもらおうか。
歩いていると日暮が誰かと話しているのを見かけた。珍しいなと思いながら近寄ってみると、それは見知った人たちだった。だから思わず日暮に声をかけてしまった。えっと、日暮じゃなくて、
「ツクヨミ!」
「あら、アマツどうしたの?」
「それはこっちの言葉だ」
「アマツというのだな。俺は神崎。よろしくな」
「あ、ああ」
アマツという呼び方に戸惑ったが、それはきっと俺の名前だろう。まったくアマテラスにツクヨミねぇ。ま、今は日暮のネーミングセンスをとやかく言う気はない。そこにいたのは神崎達。なるほどね。湊が知り合いという時点で考慮するべきだったな。というかあの村人の言葉からして湊は王宮の人間じゃないのか? またあいつについてよくわからない情報が増えたな。
「それで二人はどうしてこの村に?」
「ああ、この村にあるという宝玉を求めてきたのですが……」
残念そうな声色を出す。日暮の能力では感情は誤魔化すことができないんだよな。まあ慣れたからこういう演技もできるようになったけど。そして神崎も俺の演技に騙されてくれたみたいだ。残念そうにあいつは言う。
「ああ、湊が今持っているから」
「ですよね。しかし、村長にはお会いしたいと思っていまして」
「ああ、でしたら向こうの家ですよ」
「ありがとうございます」
神崎にお礼を言って……正直こいつに敬語を使うのはかなり苛立ちが募るがこれくらいは我慢しないとな。そして日暮が何かに気がついたような視線を向けてきているが……これくらいは許してくれ。
そして俺は一人、村長の家に到着する。そして中に入る。今から殺しに入るっていうのに挨拶する方がおかしいし。
「な、なんだ貴様は! 何が目的だ」
「目的ねぇ……宝玉って言えばわかるかな?」
「今はない」
そして中に入ったら一人の老人がいた。こいつが村長で間違いないだろうな。だが、やけにやつれているようにも見える。ま、相手のことなんざ関係ないがな。
「ああ、わかってるよ」
「もしや、貴様も狙っているのか!」
「まあ……そうだな」
「ふん、力づくで奪うつもりだったのか」
「いや、金で解決できるのならそれでいいって言われている」
「ほお?」
俺が金という単語を出した瞬間に老人の目の色が変わった。こいつが金にがめついてという情報は間違っていないみたいだ。
「なるほどな。なら私と取引しないか?」
「取引?」
「ああお前の上層部に伝えて欲しい。私は今王宮から宝玉を渡したことによりお金を受け取ることになっておる。その2……3割を貴様に渡すから宝玉を取り返して欲しい」
「なるほどな」
「ああ、どうだろ、うっ」
「悪いが、それをする気はない。それに今の目的はお前の命だからな」
「な、なにを……」
俺は老人が話している途中で腕を老人の体に突き刺していた。ちょうど心臓の位置辺りを貫いている。
「わ、わたしを……」
「湊に負けたお前と組む気はない」
「な、なにを」
ふとここに湊が来ていたことを思い出して、こいつがやつれていること、その二つが俺の頭の中で繋がった。そんな役立たずと組んでも価値はない。そのまま俺は心臓を引き抜いた。すぐに老人の体は地に堕ちる。そして溢れ出す血。それが少し俺にかかっても俺は何も感じない……もう、人を殺し過ぎてしまったからな。
「無能なクズはここで死んでおけ」
一言だけ吐き捨てると、俺はもう振り返ることなく、村長の家を出た。
「次は湊、お前だ」




