幻影の戦い9
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これからも頑張ります。
「斧が……砕けた」
「アカリの、勝ちね!」
神崎やユキが喜びの声を上げている。僕は……勝ったのか。もう負けたかと思っていたけど、それでも勝つことができたのか。
「君の結界を壊そうとしていたらいつの間にかこの武器の方が壊れてしまったよ……そして武器が壊れてしまったので俺の負けだ」
男が僕に向かって近づいてくる。負けを認めているようだけど僕に何かいうことでもあるのだろうか。少しだけ身構える僕に対して、男は僕に向かって手を差し出してきた。その行動の意味をすぐに理解できなくて困惑する。
「えっと……」
「負けたよ。予想はしていたけど宝玉を使う暇がなかったな……それはそうとその自分の信念を貫く様、見事だったよ」
「あ、ありがとう?」
これは僕のことを褒めてくれているのだよな? なら、素直に受け取るのが礼儀だろうな。そっかこれは戦いの後の握手というやつか。そんなことを思いながら僕は男の手を握る。これで一件落着、かな。そして男性は宝玉を僕に向けて差し出してきた。
「ほら、約束の物だ」
「ありがとうございます」
そして差し出された宝玉を受け取る。これで、名実ともにこの宝玉は僕の物となった。結界の他に幻術も使えるようになれば……まあ、ある程度は戦える様になったな。てか結界だけでも強すぎる。こうして大の大人一人と対等……かどうかは怪しいけどそれなりに戦えたのがその証拠だ。
「返せ! それは私のものだ!」
「元々神様の物だしそれにあなたの物じゃなくてこの村の物でしょうに」
「もういいだろ? こんな有利な勝負でも俺は負けた。これ以上は見苦しいぞ」
僕の反論を聞いてしまったという顔をする。でも、もう遅い。この宝玉を胸の内で私物化していたとなればあんまりよくないよな。現にあたりの村人からはかなり冷たい視線で見られている。さらに男性からの告白、自分たちが有利な戦いをしていたという言葉にさらにあたりはざわついた。
「あの、どういうことでしょうか? 有利な勝負とは」
「ああ、俺の能力は相手の武器を破壊するもの、だったんだ」
「それはどういうことですか!」
ユキが男性に確認すると男性は誤魔化すことなく答えた。そしてそれを聞いてユキは村長に詰め寄る。まさか自分の息子にも裏切られるとは思ってもいなかったようで慌てて弁明しようとしているが、かなり無理がある。
「皆さんにお聞きします。これを僕に譲っていただきますか? もちろん、対価が必要となればある程度ならば検討しますが」
だから僕はあたりにいる村人たちに聞いた。ここで村人たちが許してくれたら、もう、村長はどうしようもないからね。
「俺としては構わない。それに、こうして父さんが醜態を晒してしまっている以上他の人たちも承諾するだろう」
「ありがとうございます」
『勝者が正義、それは変わりないわ』
ユラム……僕のテンションが下がるようなことを言わないでくれよ。確かに僕が勝ったからここまで大きく出ているのは間違いないのだけどさ。すると、続けて男は言った。
「ただ、対価、というのなら、よければ君の君自身の能力について教えてもらえないだろうか」
「僕の能力、ですか。そうですね、この神杖の本来の力を使える、とだけ教えておきますね」
僕の能力について聞かれたので、少しだけぼかしながら説明する。嘘を言っているわけじゃないし、別にいいよね。それを聞いた男は納得したようにつぶやく。
「そうか。ならこの宝玉はやはり君が持っておくのが正解だろう。遠慮せずに使ってくれ」
「はい」
「くそっ、私の計画が……この村を大きくするという計画が……」
「今ので充分ですよ」
さて、と。まだ村長がまた最後になにか言っているけど村人たちに連れ去られていたよ。じゃあ、これで本当に終わったな。
『愚かな人間の最後よ。最初はこの村のことを思って動いていたのでしょうけどいつの間にか目的と手段が入れ替わっていたのね』
目的と手段が入れ替わる、か。それは気をつけないといけないな。僕の目的は自分のやりたいことをするため、そしてそのために力を求めている。でも、これは危険な考えであるともいえる。そんな風に自分の中で考えていたら、男性が質問してきた。
「そういえば、今日もこの村に泊まるのかい?」
「いえ、まだ日も暮れていませんし次の宝玉を探しに行こうと思います」
「そうか……頑張ってくれよ」
「ありがとうございます」
本音を言えば、この村にはもう滞在したくない。この男はいい人なのだろうけど村長がアレだからね。僕が勝手に決めた感じになっているけどユキもカナデも納得してくれたみたいだ。あれ? ヒヨリの姿が見えない。どこに行ったんだ?
「ヒヨリは宿屋に荷物を取りに行ったわ」
「そ、そうか」
僕があたりをキョロキョロしているとユキが教えてくれた。こういう細かな気遣いができるヒヨリは本当にすごいよな。そんな風にユキたちと話しながらヒヨリを待っていると、神崎と栞が近づいてきた。
「なあ、湊、ちょっといいか?」
「え? ああ、てか宝玉の件はなんか悪いな」
「気にすんなって。お前の能力とこの宝玉の成り立ちを思えば自然だしな」
なんだかんだで神崎たちにも頭が上がらないんだよな。僕が宝玉をもらったということは逆に言えば神崎たちは手に入れることができなかったわけだし。王宮では持ち帰ることを期待されていただろうに……しかもこの村にお金を払うことも決まっているし。でも、それらを一切感じさせない笑顔で僕に話しかけてくる。
「それよりも、話なんだが」
「あ、ああ」
「やっぱり私も、湊くんと一緒に旅したい」
「え?」
栞がとんでもないことを言い出した。そういえば王都を出るときも同じような言葉を言っていたな。まさかまた同じ言葉を聞くことになるなんて思ってもみなかった。
「ダメかな?」
「ダメっていうか……」
正直言えば欲しい。栞の能力を考えたら回復系が一人いるのは非常にありがたい。それに人数が5人になれば女子たちを二人ずつ部屋に入れてっていう風に計算することもできる。そういう意味でも非常にありがたいのだが……
「ごめん」
僕は断る。やっぱりまだ、僕は自分のことを神崎たちと同列になったとは思えない。目的と手段の話で心が揺らいだのがその証拠だ。だから、栞と一緒に旅をするのはまだ早いと思う。だから、僕は断る。
「もう少しだけ、待っていてくれ。もう少しで追いつくから」
「うん、わかってる」
「そっか、湊が決めたのなら何も言わないけど……頼むから早く迎えに来てくれ」
後半は僕にだけ聞こえるように神崎は言っているけど、栞が僕と旅をするっていうことはつまり妹がどこかに行くってことだぞ? ……あーまあ確かにこういう時に家族が一緒だと窮屈なのか? 見た感じ仲良しだけど……。
「荷物持ってきたわよ」
「ああ、ありがとう、ヒヨリ」
丁度いいタイミングでヒヨリが戻ってきた。そして僕は彼女から荷物を渡してもらった。
「次の目的地に移動しましょ」
「ああ、そうだな。それじゃあ、またな、神崎、栞……ん?」
神崎たちの方を向いて別れの言葉をかけようとしたら、栞が僕の方をじっと見つめているのが見えた。どうしたのだろうかと思っていたら……
「やっぱり、虫除けはしておこっと」
「え? ……あっ!」
そして僕との距離を一気に詰めると……僕の頬にキスをした。突然のことで頭が真っ白になってしまう。
「あーーーーー」
「ふふっ、負けないからね」
ユキや、カナデ、神崎や市ヶ谷さんが騒いでいるのを聞きながらぼんやりと思い出していた。そういえばユキに言われていたよな……栞とキスするって。
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