幻影の戦い8
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これからも頑張ります
「うおおおおお」
男性の持っている武器は斧。ちょっとだけ金色の大きめの斧だ。それを振り下ろしてくる。勢いはあるみたいだけど真正面に振り下ろされるので、受けるのはたやすい。そのまま神杖で防ぐ。
「うぐぐっ」
さすがは村長が選ぶだけあってかなり強い。受けた攻撃がかなり重くて腕がしびれてしまった。でも、ここで怯むわけにはいかない。そのまま体を捻るようにして男の右側へと回る。そして体に向かって杖を振り下ろす。
「ぐっ」
一撃入る。そのまま勢いに身を任せて目の前を転がる。そこで範囲から出ないように気をつける。まあ結構範囲が大きいから問題ないのかもしれないけど念には念を入れておこう。
「お前、以外と動けるんだな」
「まあ、ね」
僕の動きを見て、男性は驚いたような声をあげる。最低限の戦いぐらいはできますよ。ただし戦闘系の能力者と戦ったときに何もできないで負けてしまうだけで。それにしてもさっきからずっと神杖が震えているんだけど。それほどあいつの攻撃は響いているってことなのか。
「へえ、俺の攻撃を耐えるとはその杖、かなりいい武器だな」
『あいつの能力は武器破壊よ……これが私の武器じゃなかったら壊されて終わっていたわよ』
あのクソ村長……、だから武器が破壊されたら負けとかいうルールを追加したのか。とことんくだらない奴じゃないか。こんな酷い奴には負けたくない。
一旦距離を取るか? だが、そう逡巡してしまったのが間違いだった。すぐに距離を詰められてしまう。なんとか対応できたけど……こいつ、僕じゃなくて武器破壊に重点を置いて戦っているな。まあそのおかげでなんとか対応できていると考えれば良いのかもしれないな。
「ほんと、固いな、お前の武器」
「お前の能力じゃ壊せないんだよ」
「へえ、俺の能力に気がついたのか」
「まあ……なんとなくね」
気がついたっていうよりは教えてもらったって方が近いのだけどな。にしてもこの杖もとい宝玉を馬鹿にされたのが本当に苛立っているんだな。でも、壊れないのはわかっているけど衝撃が大きくて手を離してしまいそうだ。
「これで……どうだ!」
「ぐっ」
トドメとばかりに勢いよく振り抜かれた一撃。衝撃がかなり大きくて僕は後ろに吹き飛ばされてしまった。範囲のギリギリで撃ち合っていたのが功を奏したのか範囲外まで飛ばされてしまうというようなことはなかった。
「今のも耐えるとは……ならどうして戦いを避けたんだ?」
「特殊ルールじゃなければ、勝てないんだよ」
神杖に体重をかけながら立ち上がる。僕が立ち上がるのを待ってくれているのはありがたい。今攻撃されてしまったら間違いなく僕の負けだ。
『さて、戦闘訓練はこれくらいにして、勝負をつけにいきなさい』
ユラムがそんなことを言ってくるが……そんなつもりなんてまったくなかったのだけど。まあちょっとだけ戦ってみたかったのは否定できないな。適度に体を動かしておかないといざという時に動けない。それでは、もしまた世良たちが襲ってきた時に太刀打できないなんてことになったら最悪だし。でも、相手がまともに戦う気がないみたいだし、いっか。
攻撃は最大の防御。だから防御は最大の攻撃たりうる。この限定的なルールならば、僕のこの能力は負けない。僕が、心折れない限り。
「『忠義』」
「!……結界、だと」
僕の周りに白い膜が発生する。そして杖を構えて男性に突っ込む。走り始めたら結界も僕の周りから離れることなくずっとある。やっぱりだけどある程度結界の操作ができるみたいだ。
「その程度、打ち砕いてやる!」
そう言って男性は僕にひるむことなく向かってくる。そして持っている斧で何度も何度も攻撃してくるが……結界は一切ひび割れることがない。
「結界とは卑怯ではないか!?」
「ルールの範囲内だし、そもそもあんたの息子の能力もグレーだろうが」
村長が外野から何か言っているが、僕はすぐに反論する。これは宝玉の能力によって作り出した結界。だから当然使っても何も問題がない。
「くっ」
「そこだ!」
男が大きく体勢を崩した時に杖で突く。当たり前なのかもしれないが、この結界は僕の攻撃は通すみたいだ。僕の放った杖が男の腹にめり込んでいく。みぞうちあたりかな? 今の攻撃で男はひるんだのでさらに追撃を兼ねて男の肩を狙う。
「甘い」
「うわっ」
斧が下から振り抜かれる。そして杖が弾かれてしまった。今度は逆に僕の体勢が崩れてしまったけど……結界のおかげで男の追撃を防ぐことができた。
「なんて硬さだ……」
「負けるわけには、いかないからね」
警戒するように男が距離をとった。そして僕の挙動をじっと見つめている。かなり警戒されているし無策で突っ込んだとしてもあんまり意味がないな。さて、どうしようかな。まああの様子だと向こうもすぐには攻撃してこないだろう。
「おい! 長期戦を狙うんだ。あんな強固な結界、長い時間発動していられるはずがない」
村長が外から野次を飛ばしてくる。まあ、言っている内容は特に間違っていないんだよな。実際、この結界がどれくらいの時間続くのかわからない以上、僕もうかうかしていられないし。
『まあ大体5分、と思ってくれていいわ。もちろん前後することはあると思うけど』
適切な解説助かる。5分か。その間ほぼ無敵と考えればかなりいい能力だよな。同時に他の能力を使うことができる様になればもっと戦略が広がるだろうし。
『あ、もちろん能力の乱発はやめたほうがいいわよ? 神の力の一端なのは変わりないし』
忘れてた。世良と戦ったときも終わった後に倒れそうになっていたよ。つまり、どのみち長期戦は危険であるということだな。でも、焦って自滅だけは気をつけるようにしよう。僕は気を引き締めると、再度男に向かっていく。
「くそっ、逃げるか……」
「……」
しかし男は僕とまともに戦うことをしないで逃げ回る。男のほうが動きが早いせいかなかなか捕まえることができない。くそっ、捕まえることができれば……あ、ユラム。この結界って相手を閉じ込めることはできるのか?
『ええ、もちろんできるわよ』
「おっけー」
「どうしたんだ?」
男が聞き返してくるが、まあ、見せたほうが早いな。でも閉じ込めるためには相手が動きを止めないと意味がない。まあ、こういう時は……僕は走って追いかけるのを中断して立ち止まる。
「何を……」
「『忠義』」
「!、しまった」
僕が止まったのを見て男も警戒して立ち止まってくれた。やっぱり急に動きを変えたら警戒して止まってくれるよね。そこを突いて結界に閉じ込めることに成功した。
「ふう……」
少しだけ体に負荷がかかったのかふらついてしまう。やっぱり同時にいくつも能力を発動させるのはキツイな。でも、あとは突っ込んでいくのみ。
「向かってくるか……ならば正面から潰すのみ」
「くっ」
僕が突っ込んでくるのを見て、男が迎え撃つように斧を振り下ろしてくる。避けて回り込むような余裕は……僕にはない! そのまま僕も同じように杖を振りかざしてぶつける。斧と杖がぶつかって、純粋な力と力と勝負が始まる。
「うぐぐ……」
力と力のぶつかり合いでは僕が圧倒的に不利だ。でも、ここで勝負を決めないと体が持たないかもしれない。声を出せば力が出るんだっけ。それを思い出して僕は思いっきり叫ぶ。
「あああああああああ」
「くっ」
僕の持てる力をすべて振り絞って神杖を男に向けて叩きつける。でも、これ以上は無理だ。限界だと思った次の瞬間だった……。
「え?」
「あっ……」
男の持っていた斧に大きな亀裂が入り……そして、そのまま亀裂は全体へと広がっていき、最後には砕け散った。




