幻影の戦い5
たくさんのブクマ、ありがとうございます。
これからも頑張っていきたいと思います
「あ、私思いつきました」
僕たちがしばらくの間、議論が平行線を辿っている時に突然カナデが言葉を発した。思いついたって……一体何を?僕たちが一斉に視線を向けると、カナデは少し驚きながらも説明してくれた。
「アカリさん、神崎さん、それから村長さんの三人で何か競ってもらいましょう。それで解決です」
「なぜ私がしなければならぬ。宝玉は我が村」
「神様のものですよ」
「屁理屈を」
何度も何度も自分のものだと主張しているのでつい口を挟んでしまった。そしたら屁理屈とか言われたけど屁理屈を言っているのはどっちだ。それにしてもカナデの提案は割と理にかなっていると思うな。三人で何か勝負をして、僕が勝てば宝玉は僕のもの、神崎が勝てば神杖ごと神崎に渡す、そして村長が勝てば神杖を村長にあげる。その際、結局神崎の手に渡るけどお金とかを上乗せでもらえることになる。という感じで勝負をすればいいと、ユキがまとめてくれた。
「俺はそれで構わないよ」
「僕も問題無い」
「しかし、だな。神崎様が勝った場合は私どもの手に戻ってきますが、こやつの手に渡れば宝玉が帰ってこないのでしょう? さすがにそんな勝負には乗れませんな」
おい、何しれっと神崎が勝った時も回収するように言っているんだよ。これで戦って決めましょうとかになったら僕の勝ち目がないからな。
「どのみち、王宮からのお金は支払われます。それでは問題ありませんか?」
ユキが必死に提案している。だが、ここであんまり必死になるのもまずい。だって今の状況からみても、僕に渡りさえしなければ村長あ多額の利益を手に入れることができるのだから。でも、それを指摘したらこの取引自体がなくなる可能性があるんだよな。
「わかりました。では、勝負の内容ですが、私どもが決めてよろしいでしょうか?」
「あ、武力での戦うというのはダメです」
「なぜ?」
「僕の武器はこの神杖だからです。この宝玉の能力は当然使用禁止でしょうが、だからと言って神杖まで取り上げられてしまえばさすがに不平等が過ぎる」
納得した感じの村長が勝負内容の提案をしようとしたので慌てて条件をつける。戦いになれば幾ら何でも無理だ。僕の言葉を聞いてかなり不機嫌そうな顔をする。まあ、僕と神崎じゃあ明らかに神崎の方が強そうだもんな。
「……仕方ありませんな。では、この宝玉を使いましょう」
「どういうことですか?」
宝玉を使うって、それって能力を使うっていうこと? そういえば、この宝玉ってどんな能力を持っているんだ?
『簡単に言えば相手に幻術をかけることができるのよ』
「この能力は対象に幻術を仕掛けるもの。それを一番最初に打ち破ったものが勝者、というのはどうだろうか」
なるほどね。それならまあ、精神面が強い人が勝つことになるからまだ平等だろうな。僕も、当然神崎も特に異論があるわけでもなく、その案で決定した。そして勝負をするために、僕たちは外に出た。能力の影響を考えて外で行うらしい。
「悪いけど、全力でいくからな、湊」
「わかってるって」
神崎とそんなことを言い合う。まあ僕と神崎が代表になるのはわかりきっていたことだしね。……ん?代表になる? 自分の言葉に少し引っかかりを覚えていたら村長が女性を二人つれてこちらにやってきた。
「私はもう歳なのであなた方に近い人を用意させてもらいました。また、こちらは幻術をかける者です」
そう言って二人の紹介をする。なるほどね。まあ、確かに村長本人が僕たちと同じように幻術にかかる必要なんて全く無いもんな。それに、確かに年齢を鑑みてもおかしな点は無い。
『まあ、村長が選んだのは幻術に耐性のある能力の持ち主だけどね』
おかしな点、普通にあった。なるほどね。自分たちに有利になるようにこの勝負を決めたのか。これなら自分がかなり有利と。ちょっとまずいな。あれ、僕以外が使うと本来の能力を発揮し無いんだよね?
『ええ、普通ならあの子だけは能力にかから無いけど……さすがに私も怒りをぶつけたいからちょっとだけ術者に手を貸してあげるわ。これであなたたち全員に能力が作用するわ。あとは頑張りなさい』
了解。幻術にかかるという点で平等にしてくれたのなら、それでいいよ。そして女性の準備が整ったのか僕と、神崎、それから村長が用意した人が並んで、その前に杖を持った女性が立つ。
「それでは、勝負を開始したいと思います」
「アカリさん、頑張ってください! アカリさんなら、大丈夫です」
カナデからの声援が飛んでくる。僕が勝つと信じて疑わない声だ。そして、女性は僕たちに開始を宣言するとともに、女性は目を瞑り、神杖をしっかりと抱える。この村におかれていた紫色の宝玉がまた輝きだして……その光を見ていたら頭がボーっとしてきた。そしてしばらくして……
「ここは?」
ふと気がついたら、真っ白な空間に僕は立っていた。さっきまでいた村はどこに行ったのだろうか。いや、さっきまでいた村ってなんだ? そもそも僕はいつからここにいるんだ?
「……」
何もわからないのでなんともなしに自分の腕を抓ってみたら痛みがある。まあそれも当然か。これが現実だし。現実だから抓ったら痛いのも道理だ。
「湊くん」
「え?」
「湊くん!」
ずっと同じ場所に突っ立っていてもどうしようもないので歩こうとしたら、僕を呼ぶ声が聞こえた。でも、気のせいでなければ聞いたことある声なんだよな。
「湊くん!」
「し、栞!?」
やっぱりだ。もう一度呼ぶ声が聞こえたのでそっちの方向に向いたら栞がこちらに向かって走ってきているのが見えた。えっと、どうして栞がここにいるんだ? そんな疑問が出てくる。
「もう、どうして先に行くの?」
「先に行く?」
「うん、毎日一緒に学校に行こうって約束したでしょ?」
学校に行く? いや、学校はこの世界にはない……この世界? どの世界のことだろう。気がついたら僕は見慣れた風景のところに立っていた。ああ、そうか。学校に行く途中だったのだな。それでちょっとボケっとしてしまったのか。でも、それならどうして栞が一緒にいるんだ?
「確か栞って家逆じゃなかった?」
「え?」
そう伝えると、栞はちょっと怒ったような顔をする。美少女ってそんな顔をしても可愛いから得だよなってそんな話ではなく、
「毎日起こしに来てっていったの湊くんでしょ?」
「ぼ、僕がそんなことを!?」
え? ちょっと待って。最低な人間であることは正直告白するとして、僕自信がそんなことを言った記憶がない。でも、こうして栞が言っている以上、言ったのは間違いないのだろう。
「忘れちゃった?」
「い、いや忘れてないよ」
栞はこちらに向けて首をかしげる。その仕草がとても可愛くてついつい肯定してしまった。それを聞いた栞はにっこりと笑う。
「そうかな? あ、まさかとは思うけど、付き合っていることも忘れてないよね?」
「誰と誰が?」
「……」
え? 栞は笑顔から一転して、悲しそうな表情を浮かべている。あ、いや……まさか文脈からして僕と栞が付き合っているっていうこと!? え、ちょ、どういうこと?
「あ、いや……栞」
「酷い……私、湊くんのこと好きなのに……」
「あ、その、えと……」
そして栞は泣き始める。こういう時どうしたらいいんだ……経験がないからわからないよ。女子と付き合ったことないし……いや、栞とのはさすがに記憶がないからノーカウントでいいでしょ? と、とにかく、泣き止んで貰うしかない。こうなったら最低な人間であることは理解して、
「し、栞、僕もす……好きだよ」
「ほんと!」
告白する。僕の好きな人って誰だろう。よくわからないな。でも、一番きれいだと思った人は……あれ? 誰だっけ。思い出せない。
「……して」
「ん?」
栞が何か言っている。でも、前半部分は聞き取れなかった。だから聞き返すと……栞は頬を赤らめて、
「じゃあ、私にキスして」
……えっと、展開が急すぎる!? 僕たちまだ高校生ですよ?




