幻影の戦い4
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「ここが村長の家か」
「そうだな。入ろうぜ」
しばらく歩いていると、他の家と比べると少し大きい家に到着した。まあ、大きいといってもカナデが住んでいたあの領主の家よりも小さいけど。神崎の声がけで僕たちはその村長の家に入ることにした。
「ようこそおいでくださいました……おや、人数が多いようですが」
「はい、昼過ぎに会う約束をしていたユキです。今回は神崎様たちのご厚意で同じ時間にこうしてお会いすることになりました」
「そ、そうですか」
家に入れば村長が出てきた。少し髪が散らかっているのが特徴的な年配の男性だ。そしてこちらの人数の多さに困惑しているのでユキが説明したのはいいのだけど、その回答を聞いてまたさらに困惑していた。もしかして神崎にさっさと渡してしまいたかったのかな。
「それで俺たちの目的と湊たちの目的は一致しています。あなたが所有しているという宝玉についてです」
「そ、そうですよね。すぐにお持ちします」
神崎が説明すると、奥に引っ込んでいった。なんだろう。ちょっとだけ挙動不審だ。ユラム、その理由わかる?
『うーん、汚い話になるわよ? お金がらみの』
……ユラムのその言葉でなんとなく読めた。王宮の使者に宝玉を渡す代わりに大量のお金をもらうようになっているとかそんな感じなのだろうな。村長はすぐに戻ってきた。その手には紫色の玉が乗っている。
「これが、我が村に伝わる『色欲』の宝玉です」
『違うわよ。「純潔」よ』
村長のいっている言葉とユラムの言っている言葉が違う。でも、ユラムの方が正しいことは間違いないだろうし、この宝玉は『純潔』の宝玉なのだろう。
「それで、この宝玉をお渡しにするにあたり、お願いしたものがあるはずですが」
「はい、この書類をお渡しするようにと言われています……あの、俺たちに渡していいのですか?」
村長は迷うことなく宝玉を神崎に渡す。そして神崎の言葉なのだけど、うん、それは僕も少し思った。この村長、一度もこちらに振り向かなかったのだけど。その言葉を聞いて、村長は思い出したように僕たちに振り向いた。
「そういえばあなたは侯爵様の娘だとか」
「あ、はい、それは私です」
「ふむ……」
ユキに確認する。そしてユキの言葉を聞いて、村長は考え込む。何を考えているのだろうか。
「わかりました。では、この宝玉なのですが」
「はい」
「どちらに渡すか、考えさせてもらいます」
「はい」
そして結局考えるということになった。いったい村長の中で何が変わったのだというのか。そして村長は僕たちに向けて話し始める。
「この宝玉は我が村の宝です。しかし、皆様が魔王討伐に必要とのことでこれを一時貸し出しということにしています。その結果、我が村は加護を失うことになるわけで、その補填を王宮にお願いしていました」
「それがこの書類なのですね」
なんだろう。村長の言葉がどこか胡散臭い。というか一時貸し出しってどういうことなんだ? あの宝玉って元々ユラムのものだろ?
『そうよ。だからアカリ、あんたが持ち主だって主張してもいいわよ?』
それは……最後の手段ってことで。そして村長は続けていう。
「はい、ですのでこの宝玉は条件のいい方にお譲りしたいと思います。我が村の宝を差し出す以上、これは譲れません」
『ま、要は金を多く出した方に渡すってことよ』
なるほどね。それにしてもさっきからやけに刺々しいな。
『こんな物言い、さすがに頭にくるわ。彼女をこんな風に交渉の道具にするなんて許せない』
彼女? その言葉は少し気になるけど……今は目の前の話に集中しよう。神崎が何か言っているし。
「な、なるほど。それで、この書類を開けても?」
「ええ、内容としましては『この村の税を魔王が討伐されるまで免除、それから毎月金貨100枚を渡す』ということになっております」
そして村長は僕たちの方を向く。その少し上からの目線は何を言おうとしているのかわかる。僕たちはこれ以上の好条件を出すことができますかっていう視線だ。はっきり言えば、無理です。その言葉を聞いて、ユキも困ったような顔をしている。
「うーん、さすがに厳しいわね」
「まあ、無理か」
「なんか……湊、悪いな」
「気にすんなよ」
ユキの言葉を聞いて、神崎がかなり申し訳なさそうな顔をしている。でも、それは杞憂だよ。神崎が王宮の使者であることは間違いないのだし、それならバックアップを利用することは何も間違っていない。何を迷う必要があるのかっていう話だ。でも、それだとかなり困ったことになったな。
『何か言い返しなさいよ』
無理だよ。それに、この宝玉はユラムのだって主張したとしても、それを証明する手立てがない。お前が僕に憑依すれば話は違うのだろうけど、それはできればしたくない。
「そうですか。残念です。では、この宝玉は神崎様に渡すことにしましょう」
僕たちの言葉を聞いて、村長は宝玉を神崎に渡す。残念だという言葉はきっと本心なのだろう。だってこれでお金を釣り上げることができなくなったもんな。ギリギリまで稼ごうとしていた魂胆が見え見えだっていうの。
「はい、受け取ります」
そして神崎が受け取ろうとした瞬間、宝玉が急に輝きだした。
「え?」
「これは……」
『あら、珍しい』
おい、ユラム、これはどういうことだ?輝いた宝玉は神崎の手を離れて、僕の元に、正確には僕の持っている神杖の元に近づいていく。そして、開いている穴の一つにぴったりとはまった。
「えっと……」
「これは……」
あまりに突然のことに、僕も神崎も、そして村長も、全員が呆然としてしまう。えっと、これ、もらってもいいのだろうか。
「み、湊、その杖って」
「え? ああ、この世界の神様が使っていた杖。この宝玉は元々この神杖に入っていたものなんだ」
「な、なるほど」
「そ、そんな馬鹿な。これは我が村の宝」
そんなことを村長が言っているけど、何度もいうが、これはユラムのものだからね。それを言えたらどんなに気持ちいいのかと思うけど、それを言えないもどかしさがある。
「わかりました。では、これは湊が持つべきもののようですね」
「ふ、ふざけるな。それでは我が村はどうなる!」
「そんなことを言われても……」
神崎が諦めたように、僕に譲るという言葉を言う。それを受けて、村長が慌てたように発言する。いや、それを言われもなんですけど。取り外そうにも……あれ、取り外せない。
「ははは、外せないみたいです」
「外せないって……それでいいと思っているのか! なら王宮の使者たちに杖ごと譲りなさい」
「それは嫌です」
杖を渡せとか、それは絶対にしたくない。愛着があるほど、使っているわけじゃないけど、これはやっと僕が手に入れた「力」なんだ。それを失うなんてしたくない。
「なら、君たちに譲るということでいいのか! 王宮の条件よりもいい条件を出さないと渡さないぞ」
「一応聞きますけど、その場合、どうされるのですか?」
「決まってる! その杖ごと置いて行ってもらう」
「なら、王宮の条件と同じだけを要求してもよろしいでしょうか? この神杖にはすでにこの宝玉と同じものが一つ入っていますので」
村長の言葉に対してユキが強気に言ってくれる。いや、頼もしい限りなのだけど。
「では、王宮がもらったことにして、それを湊に渡したということでいいでしょうか」
「それは……」
神崎が別の提案をする。なるほどね。王宮がお金を支払うとならば村長は何も言わないだろうし神崎たちが納得できるのならばそれでいい。少し頼り過ぎな気もするけど。
「では、わかりました。全てが終わった後に返していただけるということで」
『絶対にダメ』
「それはお断りします。返すとしても元の宝玉のみです」
返すということは全部の宝玉が揃っている可能性があるわけだからね。それを渡すとか信じられない。てか、やっぱり苦しいな。どうすればいいのだろうか。
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