幻影の戦い3
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「ふう」
すぐにユキが外に出て行ったので今この部屋にいるのは僕一人。ちょうどいいしさっきユキに言われたことでも振り返ってみるか……特になにもなかったな。
『なに期待してるのよ』
期待っていうかさ、どういう状況なのか考えてみてるんだよ。例えば栞が溺れて人工呼吸をすることになったとかさ。もしユキの能力は意識のある未来だけなら栞の方で視れなかったのだとしてもおかしくないだろ?
『まあ、それもそうね』
あ、お前未来もわかっているんだったな。ちっ、この話はこれくらいでやめておこう。一人で悶々としたとしても結局ユラムに揶揄われておしまいだろうし。
そして僕は下に降りる。そこには市ヶ谷さんとヒヨリがいた。他の人はどこに行ったのだろう。そんな疑問が顔に浮かんでいたのか市ヶ谷さんが笑いながら答えてくれる。
「神崎くんと久留米くんは自室に戻ったよ。多分寝てるんじゃないかな。昨日ここについたの遅かったし」
「そういえば昨日出会わなかったね」
そこで入れ違ったのか。僕たちは確かに日が暮れていたけどそこまで遅い時間というわけでもなかったし。昨日出会ってドタバタするよりは良かったと思うしかないな。てか、それで二度寝か。まあ市ヶ谷さんがいるからそこら辺のことはしっかりしてそうだしさ。それを正直に市ヶ谷さんに伝えてみた。
「褒めてもなにも出ないよ?」
「褒めたっていうか……」
しっかりしているってそれ褒め言葉なのか? その言葉を嫌がる人もいるって聞いたけどね。僕らみたいな年頃の子供は特に。
「それで、気になっていたことがあるんだけどいいかな?」
「なんだ?」
市ヶ谷さんが気になっていること? でも、そんなことってあるかな? ああ、そっか、ユキたちか。彼女たちのことは……どうやって説明したらいいかな。
「ヒヨリちゃんもそうだけど……この子達って湊くんの彼女?」
「違うよ!?」
どこからそんなことを思ったんだ? てかそんな空気一切出した覚えないし、そもそも付き合っているとかそんなことは決してない。動揺する僕に対してヒヨリは冷静に市ヶ谷さんに話す。
「まあ、成り行きで一緒に行動してるだけよ」
「成り行き?」
「そう、ユキがね世界を旅したいって言うからそれに付いているだけの話よ」
「僕も同じようなことを言っているからね」
ヒヨリの言葉に乗っかるように僕も市ヶ谷さんに説明する。同じ目的を持った人がいたから共に行動する。特に僕たちは戦闘能力が皆無だ。だから一緒に行動したほうが都合がいい。そんな説明を市ヶ谷さんにする。
「ふうん、てっきり彼女かと思った」
「そう見えるのもわかるけど違うよ」
「同じ部屋に泊まってもなにもしてこないヘタレだからそんな心配はないよ」
「ヒヨリ!?」
まさか一緒に市ヶ谷さんに弄られる仲間かと思っていたらそんなことはなかった。むしろ、市ヶ谷さんの仲間だ。一緒になって僕を弄ってくるなんて。そしてサラッと同じ部屋にいたことを話さないでくれますかね。ほら、市ヶ谷さんが獲物を見つけたように目が爛々としている。
「へえ、湊くんもうそこまで進んだんだ」
「湊くんがどうしたの?」
「栞ちゃん」
市ヶ谷さんが話していた時にタイミングよく……いや、悪く、栞が降りてきた。微妙に聞き取ることができなかったのか市ヶ谷さんに聞き返しているけど、聞き返すような内容は全くないです。
「べ、別にどうでもいい内容だよ」
「湊くんの貞操事情だもんね」
「悪意ある言い方しないでもらえるかな!」
100%間違っているとは言い切れない言い回しなのがずるい。だってここででも本当のことでしょ? みたいなことを言われたら肯定せざるを得ないもんね。しかし、栞の受け取り方は僕の予想を超えていた。
「貞操ってまさか湊くん……」
「違うからね? 市ヶ谷さんがおかしな言い回しをしているだけで僕はヒヨリとはなにも」
「ヒヨリ?」
「ばか……」
『ばか』
なんかものすごい目でこちらを睨んできたから焦ってしまい余計なことを言ってしまった。案の定ヒヨリとそれから……なぜかユラムに同じようにばかって言われてしまった。それよりも、ヒヨリの名前を聞いた栞がかなり怖いのですけど。
「湊くん……世界を見たいって言ってたの、女の子を引っ掛けるためなの?」
「それは断じて違う!」
栞の言葉に強く反発する。僕が世界を見たかったのは色々な景色を、もっと自分の力の使い道を知りたかったからにすぎない。まだまだ自分の力のなさを恨むことは多いけど、それでも少しずつ神崎たちに追いついてきていると思う。
「はあ、時間もあれだしフォローするけど私とこいつは本当になにもないからな」
「そ、そうそう」
すると、ヒヨリが僕たちの状況を見かねたのか助け舟を出してくれた。どうしてここまで栞が反応するのかわからないけど、ヒヨリの言葉を聞いて少し落ち着いたようだった。
「まあ、そうだと思うけど」
「ちょっと揶揄いすぎちゃった。ごめんね。湊くん」
「はあ……もういいよ」
「じゃ、私は神崎くんたちを起こしてくるね」
「あ、じゃあ僕も荷物を取ってくるよ」
さすがに反省してくれたのか市ヶ谷さんは僕に対して謝罪をしてくる。もう怒っても仕方がないし、それにさっきのヒヨリの言葉で思い出したけど時間が迫ってきていたからね。僕は自分の部屋に神杖を取りに行く。今度はもっと攻撃的な能力を手に入れることができればいいんだけど……まあ、攻撃は最大の防御、言い換えれば防御は最大の攻撃となりうるということだから問題ないのだけどね。そういえばあの結界、世良の攻撃で砕けなかったのだけどどれくらいまでなら耐えることができるのだろうか。
『まあ、ある程度なら大丈夫とだけ言っておくわね』
まあ、それがわかれば大丈夫だ。ひとまずは信頼することができるということだね。それじゃあ、下に戻るとするか。僕が降りた時にはもう神崎を始め、全員が揃っていた。どうやら僕が一番遅かったらしい。
「ごめん、遅くなった」
「別に構わないぜ」
思わず謝罪してしまったら神崎がすぐにフォローしてくれた。そういう風に気さくに振る舞えるのが男女関係なしに人気の所以なんだよな。さて、と遅れてきて言うのもあれだけど、揃ったので村長のところに向かうとしますか。……あ、それよりも、
「そういえば誰か村長の家知っているか?」
「私が知ってるわ」
「ありがと」
さすがユキ。ちゃんと下調べをしてくれているとはね。てかユキがいなかったら村長と会うことができなかったからね。そんなことを思いながら僕はみんなについていく。……、そう、気が付いたら僕は最後尾になっていた。まあ、神崎も久留米もみんないわゆる人気者みたいな奴らだし僕みたいなのが後ろに追いやられるのも自然だよね。
「はぁ」
「どうしたの? アカリ」
「いや、なんでもないよ」
思わずため息をついてしまったらそれをユキに見つかってしまった。まあ、特になにかあるわけじゃないんだけどね。
「大丈夫。宝玉はアカリが手に入れる」
「え?」
僕の感情を読み取ったのかそんなことを言い始めた。思わず聞き返した僕に対して、ユキは優しく微笑む。
「これは私が視た未来じゃないけどなんとなく、そんな気がするの」
「……そっか。ユキ」
「ん?」
「ありがと」
きっと、少し落ち込んでいるように見えた僕を励ますために言ったのだろう。でも、その言葉で僕は救われた。
「……うん、どういたしまして」
そしてお礼を言った僕に対してのユキの笑顔は、今までで一番綺麗な笑顔だった。
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